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十四『幕間』

カン・・・カン・・と、金槌を叩く音が工房内を響かせる。炉にくべられた炭が赤く光り、レドの顔を照らした。

「あいつ、急にどうしたんだ?」

サジが腕を組み、中の様子を伺う。

事の発端はピークに来てから数日過ごしていた時だった。レドは袋に何か重たそうなものを入れて運んできたのだ。

これは?とサジに問われると中を広げて見せる。

「先日のミスラ鉱と、合わせて道中に手に入れたイル鉱も入っている」

「ミスリルの材料じゃないか。武器でも作ろうって話か?まぁ確かに鎌じゃな」

「ふむ、まぁ当たらずも遠からずって具合ではあるんだが・・・まぁ見ていてくれ」

そう言うと、あれよあれよと職人と話を進め、工房を貸してもらえる手筈を整えた。

「あの人、使い慣れてるみたいですね」

そう話すのは工房の所有者であり、最近代替わりをしたことで頭領となった若き鍛冶師であった。彼は目を離すことなくレドの手際を観察していた。

「うーん、まぁ俺もレドの事は詳しく知らないんだけどな。鍛冶に覚えがあるとは」

作り手と使い手というのは、たいていの場合は共存しないものだ。どれだけ鍛冶の腕が良かろうと、その作った武具を正しく扱えるという話にはならないものだ。

「ええ、ただ不思議な話をすると、彼の体っていうのはどちらかと言えばこちら側のように思えるんですよね」

「そんなに違うものなのか?」

「ある程度は感覚的な話です。だからこそ不思議なんですよね。そんな彼なのにグランドレイクの討伐を、つまり材料を自分で仕入れてしまうなんて。聞いたことがないです」

そもそも、当たり前のように行っていたが、イル鉱石を掘り出すこともただの旅人には簡単なことではない。知識がないのだ。

「あれは何を作ってる感じ?」

「あれは・・・金槌・・・でしょうか」

そうして話していると、時間はあっという間に過ぎていた。見るのに飽きていたサジの前にレドが帰ってくる。

「お、終わったのか?」

「まぁ、第一段階はってところだな」

そう言って机の上に乗せたものは、鍛冶師の青年の言う通り金槌であった。緑掛かった鉱石は、熱して叩くと一般的な鉄製品のような色になる。

「へー、上手くやるもんだなぁ」

レドが握り、力を込めると金槌は淡い緑色の光を放つ。

「芯にはミスラを、それを覆うようにイル鉱を用いている。この二つは熱して混ぜ合わせると変化を表し、元の鉱石にあった僅かな脆弱性をも飲み込む強さを生み出す」

「それを使って新しい武器やら防具やらを作るって話か。なぁ、俺の銃もすげーやつ作ってくれよ!」

「銃みたいな精密な物は作れる場所や技術者が限られるものだ。現実的に考えれば弾丸だろうが・・・まぁ割に合わんだろうな」

拗ねるサジを後目に、レドは再び工房内へと向かっていった。

そうして何日かが過ぎた頃、昼を終えたサジがお弁当を持って工房へと赴いた。

鍛冶師の青年に挨拶を済ませ、工房内へと入ると、そこには美しく輝きを放つ長剣を持つレドが座っていた。

細かく刻まれた意匠は柄までいきわたり、顔がくっきり映るほど磨かれた刀身にはため息すらこぼれるほどだった。

「よっ」

声を掛け、紙袋に入った昼食を見せると、レドは手を上げて挨拶を返す。

「出来たのか?」

「ああ、この世に二つとない出来だ」

「名前は決めてあんのか?」

「名か・・・ふむ、これには名を与えてはならないんだ。使い手がそう在るようにな」

サジは不思議そうに顔を覗く。

「それはレドの事か?それとも他の?」

「まぁ、どうだろうか。誰かと聞かれると難しいんだが、そうだな・・・これは歴史に名を残さぬ者へ送られるものと言える」

レドは剣を眺める。映る姿は自身の顔だが、どこか別の誰かを見ているような、どうとも言えない表情で見つめていた。

「鞘も拵えてある。あの青年には礼を言わないとな。見ず知らずの人間には普通大切な工房など貸してはくれないのだ。それに」

「それに?」

「この昼食をくれた仲間にもな」

「もちろん!」

二人は笑みをこぼした。

談笑をしていると、レドの荷袋が魔力の揺れを微量繰り返す。

遠く離れた極寒の地、イルトバーレ。

ザクリ、ザクリと足を踏み入れる男。その見つめる先には街全体が一つの居城のように包まれた建造物がそびえ立つ。

コンコン、ノックをすると、目の高さにスライドする扉があり、兵士は男を見た。

「旅人か」

「ああ、ここを抜けて用がある。長居するつもりはない、吹雪が落ち着くまでで構わない。暖を取らせてもらえないだろうか」

兵士はしばらく男を見た。ローブを纏っているが、ここではそう珍しいものでもない。

「武器はあるか?」

男はローブを開き、腰に付けた鎌を取り出した。

「採取用だ。必要とあらば渡すが」

「構わん。入れ」

轟音と共に扉がゆっくりと開く。男は素早く中に入ると、同時に扉は締まり始めた。

「名はなんと言う」

防寒対策の施された兵装を纏った兵士は槍を携えて毅然と立っていた。

男は吹雪を払いながら返す。

「レドリック、エルゴ・レドリックだ」

「レドリック、貴様に許された滞在期間は三日間だ。今日はもう遅い、明日より丸三日後、四日後の明朝には強制的に出ていって貰う。これを受け取れ、ここに記載された日付までは滞在が許可された証明になる」

「ああ、助かる」

レドリックは日付の書かれた木の板を受け取り、ポケットにしまった。

あたりを見回すと、兵士やその家族が多く歩いていた。そしてお抱えの商人や料理人などが店を並べている。

しかし今まで和気あいあいとしていた雰囲気が姿を消し、レドリックに視線が集まる。時間して数舜ともいえるものだったが、明らかにここの異質性を理解するには十分な時間だった。

「気にするな、いつものことだ」

後の兵士が声を掛ける。

「まぁ、よっぽどこの方が正しいんだろう」

レドリックはそう言うと、料理屋の前へと向かいテーブルに腰かける。

店員の一人が近づく。

「こんばんは、旅のお方ですか?」

そう言いながら水を渡す。

「そんなところだ。暖かい食べ物を頂きたい。スープとか」

「でしたら根菜と肉のスープがございますので、パンとご一緒にいかがでしょうか」

「ではそれを一つ」

店員はお辞儀をすると、店主にオーダーを通しに向かった。

しばらくすると、黄金色の透き通ったスープとパンが二つ用意される。

肉の腸詰と様々な根菜類がゴロゴロと、程よい大きさに切られていた。パンは柔らかくはないが、スープと合わせて食べるものなのだろう、腹を満たしてくれるだけありがたい晩餐であった。

吹雪を越え、冷えた体に染み渡る味わいだった。

満足して会計を済ませようとすると、店員はこちらに来て、告げた。

「お代は頂かなくてかまいません。このご時世ですから、助け合いですよ」

見ず知らずの旅人に?

レドリックは不可解に思ったが、ここは商業を生業とする場所ではない。自給自足や少ない物資でも成り立つのであれば、まぁそんなこともあるかと理解をした。

少し歩いていくと、兵士の一人が声を掛けてきた。

「旅の方、宿屋をお探しでしょうか」

「ああ、どこか良い場所に心当たりが?」

「申し訳ありません。ここには営利目的の宿泊施設は無く、かわりに客人にはこちらで用意した施設にてご宿泊願います」

そう言うと、兵士はこの街で最も大きな軍事施設の横にある建物を指さした。

「木札をお持ちですね?そちらを提示頂ければ管理者が空き部屋に案内いたします」

「了解した。そちらに向かおう」

何から何までが至れり尽くせりだ、しかしどこか湧き出る不安を拭いきれない。

周囲を見渡すと、楽しそうに暮らす人々の姿が見える。

旅人の姿が見えない。

特段無い話ではない。しかし、そもそもそういった人間に向けられた施設が一つたりともないのだ。

レドリックは辺りを見回りながら、兵士の言う施設へと足を踏み入れた。

受付には老齢の男が一人、どこか生気のない顔立ちでルームキーを手渡した。

自分以外に外の人間はいなかった。

その翌日、施設にはレドリックの姿は無かった。


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