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十三『これって岩ですか?』

イーラを離れて三日、レドとサジの二人は野宿を繰り返しながら加工業を生業とする者の終着地、ピークに来ていた。

元は小さな家で点々とし、鉱石が取れることを知った鍛冶師が工房を構えだした時からその名は知られ始める。

最初に居ついた鍛冶師が無名ながらも優秀であったらしく、その地と彼の名が同時に広まったことがきっかけで彼の名を冠する町が出来上がった。

ボルト・ピークという男はたいそう寡黙であり、特にそうして欲しいなどと言ったことはないのだが、貧しい寄りあいからこれまでの発展を遂げたことへの感謝から町人は誇らしげにその名を用いたという。

ピーク工房以外にも数々の職人が移り住んでは、同様に工房を構えた。

ふと、例のごとく案内板の前で立つ二人の目に、特別目を引く紙が貼られている。

『これって岩ですか?』

知ったことか、という感じだ。内容を見ると、どうやら鉱山地帯に見慣れぬ小山が生えてきたとのこと。皆は総じて、言われても前の姿など覚えてない、と返されるらしい。

そこに生えている岩を叩いてみても傷と呼べる傷は付かず、詳細不明らしい。

「気になりますぅ?」

振り返ると、ぐるぐる眼鏡を付けた小柄な青年が立っていた。

「お前か?」

レドが問うと、青年は胸を張る。

「ええ、ええ、それは今朝ボクが貼りましたとも!」

レドは彼の顔を見たままで背後の依頼書とよべるか分からない紙を取った。

「ひどい!」

「ああ、いやすまん。受けるって意味だ」

その言葉に青年の顔はぱっと明るくなり、二人と固い握手をした。

「であればボクも付いて行きます!ボクはこれでも地層学者の端くれ、というか勝手に名乗っているだけなのですが。だってこのご時世ですもん、研究所も無ければ文献もまばら、教育の土台がないから、だったら名乗って成るしかない!っと、まぁそんなことは良いでしょう!地層学者としてボクはこの摩訶不思議を解き明かさなくてはならないんです!なのでボクの同行が条件です!いやぁ良かった良かったですよ。この辺りは職人が多いのと、商い人が多いせいでこういったことには興味がない人が多いったら多い。つまり加工前か加工後、これだけなんですねぇ。そんな中で『これ山かな?』なんて依頼に目を向けてくれる人なんていなかったものですから、はてさてどうしたものかと腰を下ろしていた所にあれまぁ!見かけぬ旅の御仁らがいるじゃないですか!もしやと様子を伺っていたところどうやら見ていらっしゃるとの事で声を掛けさせて頂きました、さぁ行きましょう」

レドはどうしたものかと悩んだ。

簡単な話、それはドラゴン種の一体であるグランドラゴンだ。そう言えば話は早いのだが、どうやら彼は謎を解きたいことが目的にあるという、ならその一言はある種の暴力に等しいかもしれない。

「なんかすごいなこいつ」

サジが彼に毒されたのか、何にも考えていないような言葉をこぼす。

「そうだな、ふむ・・・申し訳ないのだが俺たちは一般人の同行というのはいささか不安が残る。護衛任務はそれしか残されていない者たちが請け負う、いわば命を懸ける仕事だ。しかし君は謎を解きたいと言う、この二律背反を打開すべき手を渡そう」

青年の手に女神の彫像が渡される。

「これは?」

「これを使えば、もう一つを持つ俺のところに瞬時に飛ぶことが出来る。俺たちが安全を確保した時に呼ぶからそれまで待っていてくれないか?」

「わ、分からないですが、あなたの言うことが本当なら素晴らしい提案です!ボクは自室で待っていましょう!」

そう言い残し、青年は女神像を握りしめてどこかへ走ってしまった。

「サジ、手筈を整えよう」

町から半日が経った場所にある鉱山地帯。二人は目を凝らして見回していた。

「うーん、分からん」

サジがため息をつく。

レドが笑みをこぼす。

「こういうのは慣れときっかけだ。漏れ出るほどの濃度であれば話は別だが、何もしてないモノからは視認出来るほど濃い魔力の漏れないものだからな。ちなみにあっちだ、行こう」

レドがゆび指す方向へと向かう。

特段景色の変化は見受けられない。夕方に差し掛かろうかという時刻も相まってか、どこをとってみてもただの山にしか見えなかった。

ふむ、と何やら考えながらあたりをうろつくレド。そして不意に地面へと膝を付き、地面を指した。

「ここか?」

サジが樽の位置を調整する。

「そう、そこだ」

そして二人はその場から距離を取る。

サジは銃を構え、樽に目掛ける。

すーっとレドが息を吸い込む。鎌を握る手の握力を次第に高め、姿勢を落とす。

「レーヴ流刀術―」

魔力が鎌と足に注がれていく。空気の揺らぎが、その濃度の高さを示す。

サジは一瞥し、「行くぞ」ダン、と響き渡るや否や、それをかき消すような音と爆炎が立ち上る。

「ゴアアアアアアア」

爆炎の中から背中に岩を携えた巨竜が起き上がる。翼は退化し、肥え太った巨体は歩くことすら拒む。

レドが地面に置いていた女神像から青年が突如現れる。

「えっ、えええええ!」

驚いている暇などない。

炎が収まり、黒い煙がまだグランドラゴンを包み込んでいる中、レドは懐に忍び込む。

「岩断ち-ドレ・グ・レーブ-」

左から右に、黒の刃がドラゴンの腹付近を通過する。

倒れる風圧で煙が晴れていく中、レドは押しつぶされないように素早く退散した。

視界が開けていく中、レドは巨竜を見る。

「やはりここまでか」

見ると、腹側は綺麗に割れているが、背中は皮一枚繋がったようにくっついていた。

「こ、これは」

青年は呆気に取られる。

「ふむ、驚いて言葉に出来ん。これを何とする?」

青年は駆け寄り、岩とドラゴンを交互に見つめる。

「山はドラゴンだったんですよ!」

サジもやれやれと青年に近づく。

「にしても本当にすげぇな。レドの一太刀でも斬れないほど強靭ときた」

「ああ、実力不足だな」

背中に向かっていくにつれ、弾性と硬度の比率が逆転していく。

何がそうさせたのか、背中一面のが硬質化したことで腰回りの可動が絶望的になり、次第に動くことそのものを諦めたような生態だった。

青年は理解し得る情報を事細かに書き止め、ひとしきり満足すると一息ついた。

「・・・・・・ああ、だな」

レドの妙な間が気になりつつも、三人は安全になった帰り道を歩いた。

翌日の朝、二人は飯屋で朝食を取っていた。

「そういえば、サジはあまり驚かなかったな」

「ああ、前に聞いたことがあるんだよ。ミスラ鉱石の話を」

「今はそれを知る職人も多くはない。教えてくれたのは相当年季の入った人物なんだろう」

たしかに彼はかつての栄光を知る生き字引のような存在だ。

そうこう話していると、遠くから昨夜の青年が走ってきた。

何やら言いたげな表情でこちらから頑として目を離さない。

急激な加速に体が付いていかず、無残にも地面へと転がり落ちるのを二人で眺めた。

「お二方!」

「どした?」

サジが声を掛ける。レドは目をそらし、どこか遠くを見ている。

「?」

そんな様子を訝しんでいると、青年は続けた。

「職人たちに話したら、グランドラゴンのことかって、当たり前みたいに返されましたよ!新発見じゃないです!」

サジの肩をがっしり掴んで訴えかける。

「そ、そっか・・・まぁそういうこともあるわな」

ぐぬぬぬ、と顔を険しくする。

「そんなことより!」

今度はレドの肩を掴み、こちらを向くように体を回転させる。

「・・・な、なんだ」

「あの女神像です!返しましたけどあれのことが昨夜から頭にこびりついて離れないんです!決めました、ボクはこれから地層学者ではなく魔法学者になります!そもそも魔力というのは動植物や果ては空気中まで漂っていますが、それぞれの色や情報を記録していると言われています。そしてそれは離れ―」


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