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十一『西方魔窟戦線一』

二人がイーラを離れて数週間ほど、ランは西方四部族の集落を回っていた。しかし、そのどこでも跳ね除けられ、時には戦いに発展しかけたこともある。

疲れ切って集落に戻ると、背後から魔力のゆがみを感じた。

振り返ると西部中央に空間をねじれが発生している。森も、大地も、空気も、すべてが湾曲し、ゆらゆらと形を変えながら不気味に揺らめいていた。

「なに・・・あれ」

突如、吐き気を催すほどの魔力の圧力を感じたと思えば、すべてが収束したように視界の異変は終わり、何事も無かったかのように元に戻った。

その翌日から、各部族内で失踪者が次々現れるようになると、事態の深刻さに気付き始める。

「長」

村長宅の談話室にて村の大人とランの数人が村長を取り囲むように集まっていた。

始めに口を開いたランは続ける。

「現状の行方不明者はカイデン家の長男であるイパとシライさんの二名です。狩りに出ていた時にサラギとケーズ、クラの若い狩人と会って話を聞きましたが、あちらでも行方不明者が現れています。共通点は西部中央方向に向かっていたこと、これは先日の異様な魔力のゆらぎと関係があると見ています。早期に手を打たねば取返しの付かないことになる」

「ああ、体感だが魔獣も以前より多く感じている。調査隊を組むべきだ」

それからも出される意見に村長は耳を傾ける。

「分かった。ラン、お主を中心に狩りに慣れた者を数名率いて中央に向かってくれ。期日は五日とし、報告に戻ってきてくれ」

村を出て一日半、森を抜けた先には不自然に地面に穴が開いていた。あたりはひび割れており、そこから白い煙が漏れ出ている。

穴を観察すると階段のように地面が段々となっており、そこから先は暗闇で観察には限界がある。

中から微かに獣の鳴き声やうなり声が聞こえている。

「ラン」

隊員の一人が声を掛ける。指さす方を見ると、獣の足跡が穴から森に向けて走っているのが分かった。

「道中に見た木の表面に付けられた爪痕も含めて考えると、この穴から魔物が現れて人を襲ったと考えるのが自然ね」

ここに来るまでに獣の足跡や点々と続く血の跡を見た。いなくなった者たちのことを思うと身の毛もよだつ話だが、彼らは無残にも魔物どもに殺され、食われたと考えるのが自然のようだった。

「足跡は各地にも広がっている。おそらく他族の者たちも俺たちと同じように殺されたのだろう」

この場で風の探知を使えば奴らを刺激しかねない。数を知りたいが体制が整うまでは危険を冒すべきではないわね。

ランは立ち上がり、隊員の一人に調査報告書をまとめさせた。

「今回は一時撤退する。行きと同様、私が探知を掛けるから可能な限り村に近い魔獣は間引く」

村長のもとへと調査隊が戻る。

「他の種族の情報が不明瞭且つ内部の頭数も不明。あの場所が魔物の発生地帯になっているのか、一時的に生まれたもので限界があるのかが分からない以上調査隊で対応に当たるのは不可能と判断し帰還しました。帰りの道中に二体の魔獣を発見し、殺すことに成功しましたが、安全とは言い難いでしょう」

「二人はどうだった」

「彼らは・・・」ランが唇を噛む。「発見出来なかった為、確実ではありませんが、道中で血痕を見つけました。行動範囲を鑑みると魔獣の餌食になったと考えるのが妥当でしょう」

村長はうつむき、拳を握り固めた。彼は若いころに名を馳せた狩人であったが、今はとても無理が出来る年齢ではない。

自身の無力さを悔やむばかりだった。

「ランよ、意見を聞こう」

「再び三部族を回って協力体制を仰ぐべきでしょう。もはやこれは各々の問題では済まない、我々の中心に位置するねぐらは等しく四部族の障害となるでしょう」

故に、とランは続ける。

「族長の権限を頂きたい。きっと彼らとの交渉に役立つ」

しばらく村長は考え、そして書状をしたため、族長の印を押す。

「これを持っていけ。その言葉、行動はイーラ族の総意とするが良い」

ランは頭を下げ、書状を受け取った。

休む間も無く、ランは馬を駆けた。

時はしばらくして、サラギの移動集落。ランと向かい合うは現族長のカジン。

とても人とは思えない巨躯に、伸びた髪を無造作に後に下げた蛮族を体現したような男だった。

燃えるような赤髪と瞳は、魔獣をもひるませるようだ。

「娘、名は」

「イーラの守り人、ランと申します」

以前は突っぱねられたが、今回は族長の書状を手にしている。これはサラギもおいそれと扱うことは出来ない。

「して何用か」

「まずはこれを」

カジンは紙を手に取る。ランがその足で調査した穴の報告をまとめたものだった。

カジンは慎重に内容を読み込む。その猛獣が如き視線にランは固唾を飲む。

「現状の俺たちの集落位置から離れている故ここまでの調査は行えなかった。よくまとめられているものだ。情報の提供には感謝しよう」

には、か。

「それが我らの協定と何が結びつくのだ。これまでにも魔物は発生していたし、危うければ集落の場を変えれば済む話。これはイーラのように居を構えた場合のみ抱える問題。それに巻き込む都合の良い方便と聞こえるがいかに」

小型の魔獣の存在は世界各地で見られるものだ。その対処はその地に住まう者たちがあたるのが常識、しかしそれは常であればの事だ。

「私はあの地の発生を目撃しています。一時ではありましたが相当量の魔力を見受けました。あれは雑魚が頭数をどれだけこさえても分け切れるものではありません。考えうるとするばそれは」

「特殊個体、か」

特殊個体。この地には一般的に数が見られる通常種、そして先天的か後天的かの要因で姿を似ながらも異なる能力や知性を持った変異種、そしてその存在のみを種のすべてとする特殊個体がある。

全く生態系から外れるものもいれば、近しい種族を持つものもいる。

変異種と特殊個体に上下の差を表す意味はないが、一般的には特殊個体の方が強い傾向にあると言う。

「確証はありません。しかし可能性は十分にあります」

「勝てると?」

「勝たねばなりません」

「部族の安全を思えばそんな博打に付き合う通りはない」

「今か後かの違いです」

「ふむ・・・」

ランは深く息を吸った。覚悟を決めねば。

「・・・臆したのですか」

「なんと?」

ランは震える唇でにやりと笑う。

「ビビッておられるのですか、と」

「・・・」

ランは決して目をそらさない。

カジンはすーと息を吸うと、集落中に聞こえるほど大きな声で笑った。

「ダハハハハ!小娘!伝令の分際でよくも抜かしたものよ!」

「これは部族の総意です」

ランは書状を見せる。

カジンはそれを見て、悪魔のように笑う。

「であるらしいな!エンジ、来い!」

すると、移動住居の一つからふらふらと気弱そうな男の子が歩いてきた。

髪は同じ赤だが、消え入りそうな火のような少年だ。

「息子だ、これを連れていけ。話が早く済むだろう」

「では!」

「ああ、協力してやろうとも。そしてこいつは俺の後継だ。有象無象が多ければ被害も増えるだけのこと。今回の件は各部族から等数出した者たちで成すが良い」

嘘でしょう・・・。

どこかで見た光景だが、今回の相棒はどうにも頼りない。

ランはエンジを一瞥する。すると彼はカジンの後に隠れてしまった。

ランは深いため息をこぼす。

「娶るか?」

「な、何を!?」

「ち、父上ひどいよ・・・」

「ちょっと、どういう意味よ!」

ランが睨みつける。

「あなたがとかって意味じゃ・・・」

「ガッハッハ!冗談、冗談だ」

幸先の思いやられる展開に肩を落とす。

残りの二部族を回る旅が待っていた。


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