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83.いざ、戦地へ

「──っ!」


 言葉にならない叫びを上げているのは──冒険者ジーク。近くに居るアーサーやティアマト、ファフやニールは冒険者ほど驚いてはいないものの、しかし全員この状況を想定していた訳では無かった。


 ……それもそのはず。今冒険者の一行が置かれているのは、あまりにも荒唐無稽な光景。──“天高く”跳び上がったリヴァイアサンが……“魔物”の本拠地へ突っ込んでいる最中だ。


「……ここまでとは」

「……あら、ビビってるのかしら? 騎士団長さん?」

「……まさか。ジークさんのようにですか?」


 ティアマトはアーサーとそんな言葉を交わしている。ティアマトは“竜の姉妹(ドラゴン・シスター)”の次女であるから当然としても……アーサーの持つ異常な身体能力は何なのだろうか。


「……お前ら、なぁ、こんな状況で、よく──」


 揺れと酔いで内蔵がぐちゃぐちゃになっているジークは……それでも“リーヴァ”の鱗に掴まって何とか振り落とされずに済んでいた。とはいえ……余裕があるわけではないが。


 ──と。冒険者達がそんなやり取りをしていると──。


「──」

「突入しますわよっ!」


 リヴァイアサンが、ついに“魔島(まとう)”にそびえる山へと突っ込んだ。蛇のように長い巨体は、山脈全体に横たわるようにしてその身体をうねらせ──その山をぶち抜いた。


「お、おいおい──って」


 いつもならそうジークが突っ込みを続けるのだが……リヴァイアサンは勢いを落とすこと無く、そのまま──。


「──あ、ありゃ何だ!」


 驚く冒険者の声と、訝しげに“それ”を見るジークと竜の姉妹(ドラゴン・シスター)達。

 くりぬかれた山の先にあったのは──空に浮かぶ“宮殿”。まるで何かの祭壇のような場所が、そこにはあった。


「リーヴァ! そのまま突っ込んで!」

「突っ込んで……ください」


 ニールがそう言うと、“片割れ”の言葉に続くようにしてファフも同じ言葉を繰り返した。

 その巨竜が頭を縦に振ったのかは定かではない。だが……リヴァイアサンは、その“姉妹”の言葉通りに……その祭壇を模した宮殿へ突っ込んでいく。


 だが──その巨体が天空に浮かぶ“それ”に激突する瞬間……半透明の謎の“壁”が目前に現れ……リーヴァは強く頭を打つ。


「……」


 様子見しながら“宮殿”の周りを囲むようにして回り続けるリヴァイアサン。山に接する尻尾のような部分だけで立っているのだからたいしたものだ……と。


「なるほど」


 口を開いた騎士団長──アーサーは、そう言ってリヴァイアサンの頭に近い背から“宮殿”へと飛び乗った。


 その男の身体は“壁”に弾き飛ばされる……ことなく、宮殿の地面へと着地した。


 宮殿、といっても、それほど厳かな見た目をしているわけではない。むしろ……“宮殿だった”と言った方がただしいだろう。

 苔の生い茂る地面は割れ、宮殿を装飾していたであろう柱はその多くが崩れているか、崩れかけている。


 いわば廃墟も同然。とはいえ……“魔物が根城にしている”と言われれば、不思議はない見た目ではあるのだが……と。


「……よっ、と」


 アーサーに続いて、ジークやティアマト、ファフニールらも宮殿へと降り立った。ティアは剣の柄に手を掛けるが……彼女の感覚では……周囲に魔物の気配は感じていないようだ。


「……あの魔物達はリーヴァに任せましょう」

「うん。頑張って、リヴァイアサン」

「……頑張って」


 竜の姉妹達がリヴァイアサンと話している一方で……ジークとアーサーは周囲を見渡していた。


「やけに古いですね。まるで……遺跡だ。こんなところに……“彼ら”が?」

「……こんなところだからこそ、だろ。まぁ、いかにもすぎるってのには同意だがな──」


 ──そんなことを言いながら倒れた柱を触ろうとするジークを──走ってきたファフが突き飛ばす。


「お、おいっ!」


 当然、突き飛ばされた側であるジークは声を荒げるが──先ほどまで自分が居た場所を見て……言葉を失った。


 “黒い槍”。崩れた柱の“影”から生まれた巨大なそれは……先ほどまで冒険者が立っていた場所を見事に貫いていた。

 ファフの判断が遅れていれば──今頃冒険者は──。


「──あーあぁ。小さいくせに鋭いのねぇ」


 “宮殿”の中心。ジーク達が降り立ったその場所に真ん中に集まる“影”と……聞き覚えのある声。


「……アリアか」


 ジークは倒れたファフに手を貸し……“影”の方を見る。次第にその“影”はヒトの形を成していき……色が付いて“具現化”した。


「えぇ。お見事。まさか、あの“冒険者”風情がここまで来るとはねぇ。驚嘆ものだわ」

「……褒め言葉として受け取っとくぜ──っ


 瞬間……強がるジークの元へ飛んでくる──赤色の“刃”。冒険者は、すんでのところで“それ”を打ち払い……アリアの方へ剣を構える。


「……やっぱり、ここがお前らの居城で間違いないようだな」

「……ふーん。だとしたら、どうするつもり?」


 アリアの“影”から出てくる……小柄な少女。手首から血をだらんと流し……それを“武器”に変える“血の力”。


「アリアにリュート。となれば、居るのでしょう? ──アルディート」


 ティアマトも剣を抜き──“魔物”の方へと構える。すると……崩れかけの廃墟から……ガシャガシャと鎧の擦れる音が聞こえてきた。


「──フン。まぁ今更隠す意味もあるまい。貴様らが何を求め、何を欲してここへ来たのか──知っているぞ」

「……」


 そのアルディートの言葉に……ジークは眉をひそめたまま、沈黙で答える。冒険者達を一瞥したその“甲冑の魔物”は──禍々しい剣を抜いた。


「──我らの首、そう簡単に取れると思うな」

「……ッ!」


 アルディートは──圧倒的な“圧”をジーク達へ浴びせた。そしてそれは、開戦の合図となり──。


「──勝たせてもらうぜ、魔物どもっ!」


 血と剣閃(けんせん)飛び交う決戦が──ついに始まりを迎えた。

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