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80.新たな仲間、新たな決意

「……」


 魔物の姿が消えた帝都。建物が破壊し尽くされ、かつての強き国の面影すら消えてしまった都を見て……涙を流す兵士も居れば、その場にうずくまってしまう兵士も居た。


 そんな町中に建てられた……仮設の休憩所。ただ、“休憩”というよりかは、傷病者が横になる為の施設……つまるところ病院のようなものだ。


「……おや、ジークさん」


 その“休憩所”の近くで……壁にもたれかかる“冒険者”へ話しかける……元騎士団長、アーサー。

 ジークの様子はと言うと、明らかに以前よりも気力を失っているようで、それも無理の無い話だろう。


 いつも彼の傍らに居た、“少女”の姿は今は無い。


「……アーサーか」

「えぇ。お久しぶりです……と言うほど、日にちは空いていませんが」


 冒険者に声を掛けたアーサーの手には……かなり古ぼけた装丁の本があった。


「彼女達は、どうしていますか?」

「……全員同じさ。悔やんでるよ。バハムートが攫われた時……気絶していたことを」

「そうですか──」


 ……と。どうやらジークはアーサーの手の中にある“本”に気づいたようで……まるで古文書のようなボロボロのそれを見て、物珍しそうに見ながら口を開く。


「……それは?」

「あぁ、これですか」


 そう言って、アーサーは手の中にある本を開き、ページをぺらぺらとめくりだした。慣れた手つきで手を動かすアーサーだったが……あるページでその指が止まった。


「……敵を知ること……戦に勝つためには必須の条件です」


 騎士は、開いた本の丈夫を掴んで、そのページを冒険者へ示した。


「……これは……竜か?」


 ジークの目に映されたのは、図形のような文字でびっしりと埋められたページの隅に描かれた……竜のモチーフ。

 そしてその“モチーフ”を……冒険者は見たことがあった。


「……エリュシオンの……顔に描いてたやつか」


 ジークは、例の“黒装束”を身に纏った謎の人物を思い浮かべる。

 常に顔をベールで覆っているエリュシオンの素顔をジークが覚えていたわけでは無い。その“ベール”に描かれていたのが──。


「じゃあ、まさかこの本は──」


 記憶の世界から戻ったジークが、はっ、と何かに気づいたような顔をして、アーサーの顔を見た。 対して、その騎士も頭を縦に振り……続ける。


「えぇ。ようやく見つけました。かの者達──“謎”というベールに包まれた……“教団”について記載された書物をね」


 アーサーは、再びその“書物”を自らの前に戻し、ページをめくっていく。


「“教団”は──“竜”を信じる者の集まり。いわゆる“竜信仰”の母体が……“黒装束”」

「……“竜信仰”だって?」


 ジークにとっては聞き覚えのある言葉。かつて──ヴァリア大陸の古代村……そこの村長であるマーリンの発した……“竜信仰”というワード。


「……まさか」


 冒険者は頭の中である出来事を思い出した。メタル大陸……オニキスから脱出する際に、“黒装束”が自分たちを見逃した不可解な出来事を。

 それがもし、“竜”に危害を加えないためのものだとしたら……。


 そこまで考えて、ジークは再度口を開いた。


「……だが、だとしたら疑問が残るな」


 その疑問に同調するように、アーサーも答える。

「えぇ。問題は──なぜそのような組織がヴァリア王国を狙ったのか。なぜ国家という強大な力を掌握しようとしているのかですが──」


 ……と。その続きを言いかけたアーサーだったが……その言葉を遮る者が現れた。

 休憩所を通り、冒険者と騎士の元へと歩いてくる……“少女”の声。


 その“少女”の見た目はかの竜娘にとても似通っており、背丈もほとんど同じだ。違うの髪型と髪色、瞳の色ぐらいだろうか。


 バハムートが炎のように赤い髪色を持っているのに対し……その“少女”は反対に海のように深く青い髪色を持っていた。


「──やっと見つけたぜ、お前ら」


 ……二人の前へとやってきた“少女”の口から飛び出したのは……あまりに男勝りすぎる……いや、ともすれば男よりも男のような言葉だった。


「……ティア姐さんが呼んでる。準備は出来てるのか?」


 少女は、長い青髪を垂らしながら腕を組む。対してジークとアーサーは顔を見合わせ……再度少女の方へ向いて顔を縦に振った。


「あぁ──リヴァイアサン」


 冒険者は……先ほどとは異なる表情を見せ、少し口角を上げながら……青髪の少女──“リヴァイアサン”へ告げる。


 それを聞いた少女は、満面の笑みを浮かべたかと思うと、すぐに言葉を紡ぎ始める。


「──ならいい。そんじゃあ、向かおうぜ──」


 “少女”は自分が来た方向へ振り返り……続けて首だけを横へ傾け、後ろに居るジーク達の顔を一瞥した。

「姐さん──バハ(ねえ)が囚われている──魔物(やつら)の本拠地に」


 最も遅く、ジーク達に救われた竜の姉妹(ドラゴン・シスター)であるリヴァイアサン。

 小さな体躯に宿るその“闘志の炎”が、他の姉妹竜に負けていないということを……蒼く滾るその瞳が示しだしていた。

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