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78.竜を知り、竜に還らん

「なんだよこれは──っ!」


 走るジークを呑み込む──“魔物”の濁流。塊となった魔物が冒険者へ襲いかかるが……もはや個々の攻撃はジークへ届いていない。

 それどころか……“塊”の中にある魔物同士が互いに傷を付け合っている状態。


「ジークさん!」


 そんな冒険者へ──手を伸ばす影がひとつ。金髪の髪を持つ、中性的な姿の……“騎士団長”。

 アーサーはジークの手を掴み……自分たちの方へと引っ張る。


「ランスロット! 頼みます!」

「……承知」


 低い声で、一言だけ呟いたその“円卓の騎士”は──アーサーやジークが剣を振るう前に出て……自らの剣を体の前で構える。


 まるで祈りのようにも見えるその動作。騎士の構える剣は徐々に光を帯びていき──。


「──“王の盾”ランスロット──参るッ!」


 高々とそう叫んだランスロットは──胸の前に構えていた、光を帯びた剣を──おもむろに地面へと刺す。


 “王の盾”は、地面へと突き刺さった剣の柄を両手で握り……それを押し込む。剣によってひび割れた大地から光が漏れて──その“騎士”の姿を照らし出した。


 魔物はこの隙を逃さなかった。だが──それ以上に──ランスロットの動きの方が早かったのだ。 まるで雪崩のようにして……冒険者達の元へ“流れ込む”魔物の塊。


 しかし、その濁流は──突如現れた“光の壁”に押し返されたのだ。いや……壁というより、その形は盾そのもの。

 ヴァリア騎士団の意匠が施された美しい盾が……雪崩と化した魔物をはじき返す。


「流石です、ランスロット」

「……あなたの、命とあらば」


 ジークは、ランスロットの生み出した盾を見て……思わず言葉を失った。“それ”は……魔物をはじき返すだけでなく、むしろ……盾に接触した魔物を消滅させているようだった。


 その証拠に……魔物の濁流の勢いは次第に弱まり……それを成している魔物の数も減少していたのだ。


「……すごい力だな」

「えぇ。彼は“王の盾”。“何か”を守ることに関しては、右に出る者は居ませんよ」


 まるで自分のことのように自信ありげに言うアーサー。その珍しい態度にジークは思わず頭の上に疑問符を浮かべてしまうが……あるいは、それだけ“団長”がランスロットを信頼しているのだろう。


 そうして“魔物”の塊が少しずつ、けれど確実に消滅していくことで……先行して突撃した竜達の様子を、ジークは垣間見た。


「──バハムートっ!」


 ジークの叫びがこだまする。冒険者の脚が──思考よりも先んじて動く。右へ、左へ、地面を蹴り、土埃を巻き上げながら──風のような速度で、ジークは“竜娘”の元へ走る──。


「──ッ!」


 今にも竜娘の体を貫こうとしていた──アルディートの剣を──何とかジークは止める。


「……浅はかな竜共だ。そうは思わぬか? 人間よ」

「……はっ。さてな……っ!」


 ジークは、自分を押さえつけるアルディートの剣を何とか振り払い……竜娘の前に立つ。

 冒険者は彼女の顔をちらりと見るが……瞼は閉じており……意識が内容に見える。幸いにも……呼吸はしているようだが。


 ふと、ジークが周囲を見てみると……ティアマトもニールも同様に……地面に伏せて意識を失っていた。


「……これが“お前”の力、ってわけか」


 ジークは……眉をひそめながら、飛び退いたアルディートへそう問いかける。見れば、倒れる竜達の体には、外傷一つない。


 そんな様子のジークを見て……アルディートは剣を持ちながら口を開いた。


「そうだ──アリアが影、リュートが血ならば……我の力は“絶対的な力”。人間よ──我と剣を交えるつもりならば覚悟しろ──」


 アルディートはそう言って──剣を腰の後ろに回し……前傾姿勢をとり──。


「“人間”に加減が出来るほど、我は器用ではないのでな」


 剣が放たれ──斬撃(ざんげき)が飛ぶ。冒険者が瞬きをする僅かな間に放たれそれは──一目散にジークへ襲いかかるが──。


「──喰らいやがれッ!」


 珍しく叫ぶ冒険者は……そのかけ声と共にアルディートの放った“斬撃”を消し飛ばした。


 本来なら、その斬撃の威力は、地面に穴を開けるほど強力で……本来ならば、人が受ければただではすまないだろう。


 だが──ジークとて、これまでの旅の中で少しずつ成長してきた。竜達の戦い方を見て……魔物との戦い方を学んできた彼は、今や竜の血や竜の武器を得た、いっぱしの戦士となったのだ。


「……やりますね、ジークさん」


 そんなジークの隣へ──アーサーが走ってやってきた。息を切らしながら……その剣に大量の“血”を付けて。


「お前……いつから」

「今、ですよ。少々……“魔物”の処理に手間取りましてね。ですが──かのリュートとやらは既に倒れた。アリアも、ランスロットが相手をしています」


 ジークは、アーサーの鎧に付着している血を見て……彼の言葉が正しいことを察する。


「……残る脅威は、あいつだけ、ってことか」

「……えぇ」


 それまで向き合っていたジークとアーサーは──ほぼ同じタイミングでアルディートの方へ向き直った。その“真っ黒な甲冑”に身を包んだ魔物は、変わらず“魔都”の大地の上に佇んでいる。


「ジークさん、あなたは……いえ、あなたのお仲間は、本当に正しい心をお持ちだったようだ」

「……はっ、分かってたなら最初から疑うなよ」

「……すみません。謝罪の言葉は──」


 同時に剣を構える冒険者と騎士団長。アルディートも──血のように赤い剣を抜いた。


「これが終わった後に、いくらでも」

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