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71.巨竜、リヴァイアサン

「……操られている……と言ったな?」


 バハムートは……遠方に見える巨大な“竜”──リヴァイアサンの姿を見ながら、そう呟いた。

 彼女の後ろに居る男……アーサーは、少女の言葉に首を縦に振る。


 リヴァイアサンは……帝都の首都の周辺から動く気配は無いが……山より巨大なその“巨体”は……何よりも厄介な“武器”だろう。

 おまけに──その竜の姿はときおり動いている。だがそれは──リヴァイアサンが敵に操られている証拠であると同時に……かの竜が生きている証でもある。


 バハムートは、リヴァイアサンの巨体が動く姿を見て……心配半分、安堵半分といった様子。

 ──と。冒険者……ジークがアーサーへ疑問を投げかける。


「……それで、あんた達は……どうするつもりなんだ」

「……決まっているでしょう? この剣は──」


 アーサーは──腰から剣を抜いて……その鋒を帝国の都の方角へ向ける。


「──魔物を倒すためにあるのです」


 代々騎士団長を継ぐ者に渡される──“聖剣”。優れた切れ味にくわえ、魔法の力まで込められたその剣の持つ破壊力は……並のものではない。


 そんな──ある意味で危険な剣をアーサーは収め、“野営地”の方向へと向き直る。今彼らが居る場所は……野営地の中ではあるが、宿や店がある場所からは離れていた。


「では、戻りましょうか。ちょうど──“彼”も帰ってきたようです」


 その“元”騎士団長の言葉を聞いたジークとバハムートは……互いに顔を見合わせて……頭に疑問符を浮かべた。


「……彼だと?」

「誰じゃそれ──って」


 そしてすぐに──その“彼”が誰を指しているのかを知る。アーサーの歩く方向に居る……中性的な騎士団長へ跪く……男の姿。


 その男が身に纏う、ボロボロの外套の隙間からは……ヴァリア王国の紋章の一部が見えていた。 すなわち……アーサーに関係する人物だ、ということだ。


 地面に跪くその男は……自ら顔を隠しているフードを取る。露わになったのは……いかにもな“騎士”の端麗な顔。


「……“円卓の騎士”、ただいま参りました」


 “円卓の騎士”を名乗る男は──低い声でそう言った。見た目は似ているが……アーサーとは全く異なる見てくれだ。


「そこまで畏まらなくていいよ──ランスロット」


 ──アーサーの言葉を聞いた冒険者は……はっとした顔でその“男”を見る。ランスロットという名は……ジークですら聞き覚えのあるほど……有名で高名な名前だったのだ。


 ヴァリア大陸を守護する──していた──ヴァリア騎士団……その副長。団長であるアーサーの右腕とまで言われた男が……彼らの前に居る“ランスロット”だ。


 表に姿を出すのはアーサーの方が多いが──しかしそれでも、ジークはランスロットの顔を知っている。それほどまでに……有名な存在。

 おまけに、ヴァリア騎士団の団長と副長というトップ達だ。並外れた力量を持つ彼らの姿に……ジークは思わずたじろいだ。


 それはバハムートも同様だったようで……跪きながらも威圧感を放つランスロットの姿に……少し後ずさりした。

 しかし、だ。“円卓の騎士”と呼ばれるその男は、冒険者や少女の姿に意識を向けることすらなく、アーサーに淡々と言葉を向ける。


「敵の数は未だ増加傾向。“魔都ミカド”を守る例の“竜”も依然健在。状況は変わらず、だ」

「……そうかい。ありがとう」


 腕を組んで眉をひそめるアーサー。先ほどジーク達が見たように……“都”であるミカドは魔物に占領され、そのうえ操られているリヴァイアサンが守っている。

 少なくとも──簡単に人間が突破できる護りではないだろう。


「それで……その二人が、前話していた?」

「あぁ。アーサーと──」


 そこまで言って──ランスロットはその姿を“消す”。一瞬にして影はバハムートの元へと移動して──懐から取り出した短剣を……首元に突き立てた。


「──なっ」


 何とか声を出すバハムートだったが──少しでも動けば、刃が首に食い込む状態。迂闊に動くことが出来ず……動きが止まる。


「……何のつもりだよ」


 ジークはいつもの調子を何とか装ってアーサー達へ問いかけるが──しかしその手は剣の柄を握り、表情は険しくなっている。

 アーサーは……いつもの表情で……ジークに応える。


「申し訳ありません、ジークさん。ですが我々も──手段を選べない状況ですので」

「……よく言う」


 ランスロットはバハムートを歩かせて──アーサーの横へ来た。


「協力して欲しいだけですよ。竜の姉妹(ドラゴン・シスター)であるなら……“姉妹”であるあの“竜”を無効化できる。そうでしょう?」

「……やけに詳しいヤツじゃ、優男め」


 そう言われても口角を上げたままのアーサー。だが──確かに彼らのやっていることは合理的だ。 人間で到底敵うはずの無い“竜”を無効化するのに必要なのは……同じ竜の力。とりわけ、つながりの強い竜の姉妹(ドラゴン・シスター)であるなら特別そうだろう。


 問題は……アーサーが、“誰”からその話を聞いたか、だ。


「これでも騎士団をまとめてましたから。人脈は広い方だと思います」

「……こいつ嫌いじゃ」


 喋る度に刃を押しつけられるバハムートだが……それでも器用に声帯から音を出している。ランスロットはため息をついて……アーサーはやれやれと言ってみせた。


「どうです──我々に手を“貸す”というのは」「……ひとつ、質問させてくれ」

「……何です?」


 アーサーは首を傾げて……ジークの顔を見た。冒険者は……力を振り絞って、その“名前”を口に出す。


「リュートやアリアも……ここに居るのか」


 その魔軍の長達の名を聞いたアーサーとランスロットは──互いに眉をひそめた。そして……騎士団長の方がうなづく。


「それらに加え──“アルディート”が居ます。最後の魔軍の長にして……最も強き、魔物を統べる指揮官」


 アーサーは再び──遠方の山々の向こうにある“魔都”の姿を見た。ランスロットも、“協力する”という意思をくみ取ったのか……刃を収めてバハムートを解放する。


 ヴァリア最強の戦力と──現代に蘇った竜という存在。それに対峙するは──“軍勢”を織りなす魔物達。


 アーサーの視線の先にあるものは──竜と魔物の決着を予期させるものだった──。

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