表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/108

46.ルビーに迫る黒い影

「──っ!」


 ──竜の姉妹(ドラゴン・シスター)の長女……バハムートは息を呑む。

 天高く日昇るメタル大陸の街──“ルビー”。宝石の街と呼ばれるこの都市に……忍び寄る“魔の手”。


 ルビーの入り口へと辿り着くやいなや、そのせわしなく動かしていた足を一瞬で止め、地面と摩擦を起こしながら慣性で動く。


 そのまま──少女は拳を構える。炎によって赤く燃える拳は──その先に立つ“黒い影”へ向かって放たれた。


「──ッ!」


 ルビーの入り口に立つ魔物達は──自らの身に何が起こったのかを理解する時間も無いままに──その身体を“灰”へと変貌させる。


 少女の攻撃から間一髪逃れた魔物達が──竜娘の方へ叫ぶ。

 だが……それも遅い。バハムートの攻撃に隠れながら接近していたティアマトに……魔物達は文字通り“一刀両断”される。


 つまり……彼女達の攻撃がストレートに魔物に届く……ということは、この場に限っては“リュート”が居ないということを意味している。

 幸いと言うべきか……ルビーを襲おうとしていた魔物達は、竜娘によって未然に防がれた。


「おーい! 竜娘っ!」


 ……と。ティアマトが“姉”を褒め称える声にかぶせるようにして、彼女たちの耳に男の声が入ってきた。

 冒険者ジークとコウテツの姿だ。流石に“ドラゴン”の動きには追いつけなかったのだろう、彼らは少し遅れての到着となった。


 息を切らしながら前屈みになるジーク。対して、コウテツは以外にも息すら上がっていない。

 ……そんな冒険者へと駆け寄っていく少女。ティアもしぶしぶといった様子でバハムートの後ろへとついていく。


「……ったく。突っ走りやがって」

「じゃが、勝ったであろう? ふふん?」


 腰に手を当てて鼻を伸ばす少女に、心配していた自分が馬鹿馬鹿しくなる冒険者。

 相変わらず自信家なバハムートに、ある意味でジークは安堵すら感じていた。


「……手応えがありませんわね」

「そりゃ、嬢ちゃんのデッカい剣で斬っちゃあなぁ」

「……汚い言葉遣いはやめてくださる?」


 ティアマトとコウテツも……何だかんだ言いながらも仲良くやっている。

 確かに……“ルビー”という大きな都市を攻めるにしては、あまりに戦力が心許ない。


 以前リュートがアイアンを攻めた際とは、比較にならないほど敵も弱く……数も少ない。

 ティアマトの脳内には、どうにもそれが引っかかるようだ。


「……まさか陽動? ……ですが、魔物にそのような知能は……いえ……でも」

「……? どうした、ティアマト」


 ぶつぶつと独り言を呟くティアマトの姿が目に入り、何事かと心配したジークは声を掛ける。

 だが、ティアマトは思考の渦に呑み込まれているようで……冒険者が声を掛けても反応が返ってくることは無い。


 こうなったティアマトに話しかけても意味は無いだろう……そう考えたジークは周囲を見る。

 一応、人影は無いようで、魔物の痕跡も“バハムートの炎”が全てかき消したため……何が残っているわけでもない。


 ……そんな時だった。“人一人居ない”というのは確か。だが……それはジークの目線からみたから。


「……」


 ふと……冒険者は気配を感じて下を見る。わけあいあいと談笑している後ろの竜やドワーフ達と異なり……どこか不穏な雰囲気をはなつ影が、そこにはあった。


 身長や背丈から考えて、その人影はドワーフだった。だが、何やら怪しげな服装に身を包んでおり、フードと外套で、その姿はよく見えない。

 だが……その謎のドワーフは、そんな冒険者から見てもわかるほどに……肩をふるわせている。


「……お主ら……」


 ぽつりと呟くドワーフ。そこで一斉に──バハムート達もジークの方を向いて……その人影を見た。


「……お主らのせいで……この街は……終わりじゃ──」


 ──瞬間。目にも見えないような早さで、ジーク一行へ“魔法”が飛んできた。

 光で作られたロープのようなそれは、警戒するジーク達を……一瞬にして縛り上げる。


 バハムートとティアマトは怒りの言葉をあげ、ジークとコウテツは突然変わった状況に困惑している。

 それぞれ、腕を後ろに回した状態で……“縄”に縛られたような格好。


 ティアも竜娘も、腕に最大限の力を込めて、自分に駆けられた“束縛”をほどこうとするが……むしろ、力を込めれば込めるほどキツく締め付けるように出来ており……抵抗することが難しくなっていた。


 それでも力を入れ続る少女の腕には……その白い肌に“魔法”の拘束具が食い込んでゆく。


「……っ!」

「ね、姉様! おやめください!」


 ティアマトの切実な叫び。実際、バハムートの腕は、縄の当たっている場所だけ赤みを帯び始めている。

 そんなパニック状態の彼らへ……。


「──そいつの言う通り、抵抗しない方が身のためだ」


 低い声。おそらく……ドワーフの声だろうか。ふと、ジークが先ほどのローブを被ったドワーフを見ると……“魔法”が飛んできた咆哮へ身体を丸めて“土下座”している。


「……はっ。気に入らぬしゃべり方じゃ」

「同意見ですわ、姉様」

「お前ら……」


 こんな状況に合ってもいつものやり取りをする三人。

 それを見た“ドワーフ”は……笑った。


「……ガハハハ! 面白いヤツらだ。ずいぶんと子供っぽくもあるがな」

「……そもそもアンタは誰──」


 ジークは──声の主へ問いかけると──自分たちの足下に──魔方陣が生まれたのが見えた。


「なっ……・!」


 四人は、思わず身を寄せ合う。魔方陣は次第に光を帯びていき……その隅に“黒い装束”を着た黒い人影が現れた。


 そして……魔方陣の中に入ってくるドワーフが一人。コウテツはその姿を見て……息を呑む。


「オレゃ、──オニキス防衛隊の隊長、“クロガネ”だ。一緒に来てもらうぜ──不穏分子どもが」

「……くそっ!」


 ジーク達は身動きが取れない。光を帯びる魔方陣に──視界を奪われていく。まばゆい光に包まれて──ジーク達の姿は光の中へと消えていく。


 ……その中にあっても、バハムートは……“竜”達は……そのクロガネと名乗ったドワーフでは無く……魔法を制御している“黒装束”の人間達を……鋭い眼光で睨んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ