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34.アイアンの真実

「単刀直入に聞く。お主──何か隠しておらぬか?」


 アイアンにある宿屋。その主人であるマーズへ、ドラゴン少女──バハムートが問いかける。しかし、以前出会ったときとは異なり……警戒心を抱きながら。

 それに対して、宿屋の主人は怒るわけでもなく、ただ笑みを浮かべながら椅子に腰掛ける。


 宿屋には、今は誰も訪れていない。マーズの座るフロントの椅子も、誰が座る様子もなさそうだ。

 バハムートの周囲には誰も居ない。少女は、ジークにもティアマトにも告げず……単身彼女の元を訪れていた。


「……隠すって、アタシがかい?」

「うむ。まぁ、隠すとは言い過ぎじゃな。何か言わなかったことがあるのではないか?」


 マーズは、冗談半分でそれを受け止めている様子だ。だが──すぐにその顔は、余裕のある表情から強ばったものへと変わる。


「ドワーフの武器。わらわの目から見ても逸品じゃ。世界中に行き渡るのも分かる。それを欲しがるものが大勢居るのも、のう」

「“単刀直入”に、じゃなかったの? 言いたいことを我慢するのは身体に悪いわよ」


 ドワーフの武器というのは、メタル大陸だけでなく、このドラゴニア中に流通するもので、おまけにその評価は軒並み高い。

 バハムートの表現通り、まさに“逸品”だ。通常の武具から逸脱した品質を誇る武器達。



 冒険者から騎士まで──ジークのような特殊な例を除いて──殆どの者がいつかは手にしてみたいと思う存在。

 それはきっと──魔物も例外では無く。


「では言おう。おぬしら──魔物に武器を売っておるじゃろう?」

「……根拠の無い言いがかりねぇ」


 笑いながらそう言うマーズ。しかしその目は真剣だ。まっすぐにバハムートを見ている。大してドラゴン少女も対抗しているわけでは無いのだが……それまでの面持ちとは異なる冷静な表情になった。


 少女は、そのまま言葉を紡ぐ。


「うむ。わらわの勘であることは否定しまい。じゃが……直感だからこそ、“おかしい”とは思わぬのか?」

「……」


 黙るマーズ。バハムートの出した結論は、ジークやティアマト達と同様……“失踪”ではなく“誘拐”であるというもの。

 だが、竜娘はティアマトのように現場を見たわけでもない。ならばなぜ……そう結論づけることができたのか。


 少女は、宿の受付の近くにある椅子に腰掛けて、息を吐いた。


「ここはドワーフの街じゃ。であるにも関わらず、町民が失踪しているというのに誰も気にも掛けていない。同族をな」

「皆……厄介事に巻き込まれたくないだけさ。よくある話だろう? この世の中じゃ」

「そうじゃのう。同族が襲われて、次は自分が襲われるかもしれぬ。普通はこう考えるものじゃ。しかし、この町のドワーフたちは違う」


 そう。バハムートがジーク達と同じ結論に至ったのは……この町を包む違和感を直感的に感じ取ったためだ。


 同じ街に住む人間が魔物に襲われ、姿を消した。本来ならば、ギルドに依頼を出して解決を願うほどの事象だ。

 しかし、アイアンのドワーフたちは騒ぐどころか静観を貫いている。まさに……異常。なぜ彼らがそんな態度を取れるのか……と考えると一つの答えが導き出される。


 つまり……はなから“襲われる可能性”など存在しないということ。ドラゴニアに魔物が蔓延るようになり長い時が経つ。“アイアン”にのみ魔物の手が伸びていないというのはおかしな話だろう。


 そして、なぜ彼らが襲われないのかというと──。


「武器を売った。それが魔物との“契約”じゃろう? その対価として、ぬしらはヤツらには襲われぬようになった」

「……それは」


 ……図星、とでも言うべきか、マーズの顔つきを見れば、バハムートの仮説が正しいことは明らかだった。


「……いつ、気づいたの?」

「うむ……そうじゃのう。この町に来たときから、なんとなくはの」


 少女は腕を組み、そう答える。


「考えてもみい。夜中にあれだけの明かりを点けておきながら魔物に襲われる様子は無い。わらわ達が近くでヤツらに遭遇したのにも関わらず」

「……勘の良い()ね。……そうよ。あなたの言ったことは……正しい。私たちは……アイアンは、決して許されないことをした──」


 その口から続けて語られるのは──アイアンの置かれた状況。マーズによれば、メタル大陸でも優れた鍛冶技術を持つこの町は、以前から魔物につけ狙われていたという。

 だが、本格的に魔物に襲われることは無かった。平和だった。この町は。──ある時点までは。


「ある日……ここに“魔物”が来た。人みたいな姿をした……変なヤツだった」

「……!」


 バハムートの身体がぴくんと反応する。人型の魔物というワード。おそらく──アリアと同様の高位の魔物だろう。

 そして、その魔物は告げた。──“取引をしよう”と。


 アイアンにこれといった戦力は無い。人型の魔物が引き連れていた魔物は数百匹にのぼるという。それだけの数に対して、武装したドワーフの数は数人だ。

 とても敵うような戦力では無い。アイアンの住民達は、この条件を飲む以外……他の選択肢は無かった。


「それで……武器の取引が始まったのか」

「えぇ……。許されないことだとは知りながら……みな、手を貸した。この町が襲われない為だけに……」


 マーズは、どこか暗い目でそう言う。後悔……懺悔。様々な感情が合わさった暗い感情が、彼女にそんな表情をさせる。


「失踪したドワーフは……それを拒んだ。やめようと……声を上げた。でも……分かるでしょう?」

「街を護るため、魔物に突き出されたか、あるいは魔物側が来たか。いずれにせよ……攫われたということになるのう」


 ……と。居なくなったドワーフの話をしたマーズの瞳から……一滴の涙が零れた。それはカウンターに落ち、弾ける。


「……これは私たちの罪なんだ。だから──頼む。消えたドワーフを……魔物から取り戻してほ──」


 宿屋の店主が続く言葉を発そうとした瞬間のこと──外から鈍い衝撃音のようなものが飛び込んでくる。

 

「……き、来た……やつら……が」

「……ほう」


 マーズは腰を抜かしてその場にしゃがみ込む。話の流れからして、やつらというのは──“魔物”以外に他に無い。

 人型の、アリアのような魔物。竜ですら敵わない相手が……アイアンを手中に収めている。


 その状況はどうにも──竜娘にとっては不愉快だったようで──。


「ここで待っておれ。すぐに戻る」

「い、いくらあなたでも、魔物には──」


 瞬間。マーズの瞳に映るのは──竜娘の背中から生える、炎のような真っ赤な翼。強く握られた拳と、正義に燃える瞳。


「おぬしらを縛る魔物を、一発殴ってこよう」


 バハムートはゆく。その場を駆け、ドアを吹き飛ばし──魔物佇むアイアンの中心へと。そしてそこには、もちろん──ジーク達も向かっていた。

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