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33.消えたドワーフの謎を追え

「オメェ、ここに何の用だ?」

「……おいおい」


 ジークは小さな声で、今自分が置かれている状況を嘆く。端的に言ってしまえば、最悪な状況そのもの。

 アイアンを探索しながら、"消えたドワーフ"について情報を集めていた冒険者だったのだが……。


 いつの間にか、彼の周囲を武装したドワーフたちが囲んでいた。身を包む鎧や、持っている武器からして、この街の衛兵のような存在なのだろう。

 もちろん、それらの武具はドワーフが打ったもの。数も不利。武器も不利。というより、そもそもジークの剣は未だコウテツの手の中にある。


「ただの冒険者だ。よくある話だろ? ちょっと依頼を受けちまってな」


 ジークはそう言うが……ドワーフたちの顔色は変わらない。いや、変わらないどころか……むしろ悪化している。


「依頼かどうかはどうでもいい。あまりアイアンを掻き乱すな」

「……ずいぶんだな。まさかとは思うが……探られたくないものがある、なんてな」


 冗談交じりで言った冒険者だったが……ドワーフたちはそうは思わなかったようで──彼らはジークへ更に詰め寄る。

 斧……ハンマー、それぞれの武器の柄に手を掛けながら。


「……ちっ」


 ジークは思わず腰に手をやるが、そこには何の感触も無い。一触即発の空気。万が一冒険者が殺されても、この街のドワーフ達は気にもとめないかもしれない。

 男に、退路は無い。周囲を囲まれ、四面楚歌。いくら"竜の力"なるものが身に宿っているとはいえ──斬られれば死ぬ。


 バハムートが居れば違ったのだろうが、あいにく少女も探索に行っている。どうするべきか、一か八かで逃げ出すか──そう男が考えていた時だった。


「──あら」


 ドワーフたちの背後から聞こえる、ガシャン、という音。何か巨大なものが地面にぶつかった衝撃による音。

 そして聞こえる女性の声。一部のドワーフは、その姿が目に入ったようで……どうやらたじろいでいるようだ。


「……お前」


 ジークは見た。顔見知りの姿を。──ティアマト。竜の姉妹(ドラゴン・シスター)にして、バハムートの妹である彼女が、ジークの危機にその姿を現した。


「その人間から離れて下さらない? あなたたち」

「……誰だよ、オメェは。俺たちゃよそ者の指図なんて受けな──」


 ──瞬間。ちょうどドワーフたちの顔面をかすめるように──炎の壁が現れた。以前ティアマトが用いた技だ。

 ドワーフたちに直接当てられたわけではなく……そのすれすれにその"炎"は生まれた。


「もう一回言うわよ? その男から離れなさい」

「……グッ! ずらかるぞ!」


 リーダーらしきドワーフの一声で、彼らは退散していく。それをティアが追うことは無かった。

 ジークは、てっきり彼女が荒事をもって解決するのかと考えていたのだが、その予想は当たらなかった。


「ありがとう。助かった」

「……用心することですわね。わたくしが来ていなければどうなっていたことやら」


 ティアマトは剣を納め、それと同時に彼女が放った炎は消えた。昼間で陽が出ていたことが幸いしたのか……その火は目立たなかったようで、他のドワーフが駆けつけてくることもなかった。


 ティアはそのまま離れようとするが、途中で立ち止まった。不思議がるジークに、彼女は告げる。


「姉様は? 一緒ではありませんの?」

「途中まで、な。一人で探してみたいって言うから別れたんだ」

「なっ……! 姉様をほったらかしにしておくなど……!」


 握り拳を震わせる竜。ジークはため息をつき、彼女の次の発言を予測してみせる。


「探しに行く、って言うんだろ?」

「えぇ。当然でしょう? 姉様が……姉様が不埒な輩に襲われるかもしれませんのよっ──!」


 冗談のようなことを言っているが、ティアマトの顔は真剣そのもの。いや、そもそもバハムートもおよそ人間の域を超えた力を持っているのだから、心配することは無いのだろうが……。


 それでも彼女の身を案ずるというは、案外"竜の姉妹(ドラゴン・シスター)"としての姉妹愛や絆の類いから来るものかもしれない。


「そうかい。頑張れよ──っておい───っ」


 他人事のように、竜を応援してその場を去ろうとするジークだったが……そうはいくかと言わんばかりに、強引にティアに腕を掴まれて連れて行かれた。

 子供が人形遊びをするように、ジークの身体はもはや自由がきかず、ティアマトの行く先へと連れて行かれる玩具に。


「す、少しは説明しろ──っ!」


 途切れ途切れになりつつも、そんな悲鳴がアイアン中にこだました。武器を打つ最中のドワーフが、何事かと外を二度見するほどに。



「おいおい、本当か?」

「えぇ。わたくしの予想では」


 ……ジークとティアマトは、先ほどの様子が嘘のように……並んで歩いている。というのも、ティアマトが自分の得た情報を共有するために、彼を下ろしたと表す方が正しいだろう。


つまり……その必要が無ければ、ジークは永遠に彼女に物理的に振り回されていた……のかもしれない。


「連れ去られた……か」


 ジークは、ティアマトのもたらした情報をインプットし、頭の中で自分なりに整理している。例の場所で、魔物が傷を負った痕跡はあるものの、ドワーフの血がなかったこと。

 根拠としては弱いかもしれないが、物的証拠によって、ティアはドワーフが連れ去られたのだと判断した。


「例えば、彼らの持つ鍛冶技術。魔物も武器を扱う以上、手に入れたいでしょう」

「だが……街の中だぞ? そんな場所で堂々と誘拐とは……」


 そう。ティアマトが調べた場所……つまり、件のドワーフが襲われた場所というのはアイアンの中なのだ。

 それに争った形跡があるということは、ある程度騒ぎになったはず。


 だが……街のドワーフは何も知らないという。あまりに不可解である。このちぐはぐな"ねじれ"には、ジークもティアマトも違和感を感じていた。

 

 それはもちろん──。



「──ほう。これは……興味深いのう」


 バハムートも直感でそれを感じ、だからこそ、一人で“あること”を調べていた。

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