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26.起死回生の一手

 ──けたたましく鳴り響く轟音。巨大な物質同士がぶつかり合い生まれる衝撃。その波が、リーベ周辺の草木を揺らす。

 街を守るようにして立ちはだかる……黒色の肌を持つドラゴン──ティアマト。その前に立つのは──。


「……」


 言葉どころか息一つしていない、“影”の竜。ティアマトの姿とはまた異なる……“なり損ない”のドラゴン。

 それを生み出したのは、魔軍を率いる長、アリア。竜と対立する彼らの行為として見るのならば……ある意味で、挑発するような意図もあるだろう。


 互いにぶつかる“竜”。それを見る……人間。


「……おいおい」


 この冒険者──ジークも、目の前の光景に驚く者の一人だった。竜と竜との戦い。まさに伝説、神話というやつだ。

 今まで彼は、竜の存在を目の当たりにしながらも、どこか心では“そんな者は存在しない”と思い続けていた。


 だが──目の前に現れた、“竜”の存在を証明する確定的な証拠に……彼はどう反応して良いのか分からなくなっている。

 その横でティアマトを見るバハムートも、ジークと同じで、騒ぐわけでもなく、ただ静かに戦いの様相を見守っていた。


「……まずいのう」


 と。ふと、ドラゴン少女がぽつりとそんなことを呟いた。“竜の姉妹ドラゴン・シスター”である彼女に、“まずい”と言ってみせる状況。


「どれに対して言ってるんだ」

「……ティアじゃ。あやつ……」


 そう言う少女は目を細める。飛行しながら“影の竜”へと攻撃を試みるティアマト。だが……その爪が“影”へ視覚的なダメージを与えているのかは分からない。

 傷の付いた箇所を、影は即座に修復していく。その様はまるで……無敵と表現して良いぐらいだ。


 他方、ティアマトの方はというと、アリアの影と比べると、非常に厳しい状態にあった。“影”からの攻撃は、竜の鱗を貫き、その体躯に少しずつ傷を付けてゆく。

 一つ一つの傷は小さい。だが……それが何十何百にも上ると、無視はできない。


 血が流れる。竜の流す真っ赤な血。ティアマトの黒い鱗を伝って、リーベの草原へとそれは流れてくる。さながら、滝のように。


「……まだ、力が戻っておらんかったのか……!

「その……お前も、あいつみたいに……竜にはなれないのか?」

「……妾は未だ、眠りから覚めたばかり。かつての姿を取り戻せるほど……この身に力が無い」


 少女は、拳を握りしめた。はがゆい思いと、悔しさを胸に。“姉妹”が傷つきながらも戦う様子を……ただ見ていることしかできない自分を、責めるかのように。


 ──瞬間。“影の竜”の爪が、ティアマトの腹部を直撃した。そして──黒色の竜の、悲痛な叫び。

 強烈な一撃を貰ったティアマトは、そのまま吹き飛ばされてリーベの城壁に激突した。壁にクレーターのような巨大な穴が空く。


 互角……ではない。ティアマトが押されている。アリアの圧倒的な力の前に。


「……これほどまでに……」


 バハムートは、倒れるティアマトを見て、呟く。


「これほどまでに……魔物は……強くなっとるのか」


 竜を一撃で吹き飛ばした影。それはアリアの能力によるものだ。つまり、アリアの力ということ。

 バハムートもティアマトも、“魔物”なんて一撃で葬り去れる……そう考えていた。


 事実、雑兵レベルの魔物はそうだった。だが──人型の存在は“格”が違う。ともすれば──“竜”以上に──。


「……っ!」


 ジークは──走り出していた。どこへと問われれば、それは城壁の前に倒れる竜の元へと、だ。

 彼自身にも分からない。けれど、考えるよりも前に、その足は動いていた。


「ティアマトッ!」


 呆然と立ち尽くすバハムート。ティアマトに、影の竜の“爪”が迫る。今までは鱗でなんとか防いでいたが……それもこれまで。

 次はおそらく──貫かれる。既に傷まみれのティアマトの体に、これ以上傷が増えれば、致命傷ではすまないだろう。


「……クソッ! クソックソックソッ!」


 冒険者は、全身に力を巡らせてひたすらに走る。風を切る。ただの人間に、一体何ができるのか? 竜と竜の戦いなんていう、まるでおとぎ話のような戦いに、人間が関与できるのか?


 だが──悩んでいる暇もない。面倒くさがりなお人好し。そんな冒険者が、友人……の友人の危機にどう対処するのか。そんなことは、既に決まっている。


「──ッ!」


 ティアマトに迫る“爪”の前に、男は立ちはだかった。震える体で、震える手で剣を構えながら……ジークは“影の竜”と対峙する。

 頼れるのは、一つ。彼が古代村で耳にした──自らに宿る“竜の力”。


「うおおおォーッ!」


 闇雲に、ただがむしゃらに、男は“影”へ剣を振りかざす。その刃は──。


「──ぐあァッ!」


 ジークの剣は──“炎”を帯びて、全ての影を照らした。そして露わになったアリアを──その刃が斬る。

 魔物の角は折れ、全身から血が吹き出る。しかしそれでも──膝をつかない。


「……あらあら。……く……ァ……。なかなか──やるッ!」

「なっ──」


 ジークの一撃は、ティアマトを救った。だが、アリアを殺しきることはできなかった。魔物は再び──“影”を生み出して……“竜”を生む。


「……完膚なきまでに……潰してあげるわ、人間」

「……くそっ!」


 ジークは再び剣を構えるが……先ほどのような“力”が発現することは無かった。そんな男へ、再び“できそこないの竜”の爪が迫る。


「──おや」


 そんなジークの目前に現れた……一つの影。その姿は……ジークも知っている人物だった。


「……ジークさん。ここは僕が引き受けますよ」

「……あ、アーサー……」

「ティアマトさん。お二人を連れて逃げてください。事情はまた……いずれ」


 ティアマトは首を縦に振り──その巨体に似合わない素早さでジークを掴んだ。男がリアクションをする前に、バハムートも回収して海の方へと飛んでいく。

 それを、“できそこないの竜”が追おうとするが……。


「お待ちください」


 アーサーが……“剣”を抜いた。今までジーク達が、一度も見たことの無かった、アーサーの剣。

 刃には、何かの文字の意匠が彫り込まれており、それは青色に発光している。


「あなたの相手は、僕ですよ……“アリア”」


 瞬間──リーベに一筋の光が昇る。天にまで届きそうな光は……アーサーから発せられたものだ。


「──ッ!」


 “騎士団長”。光を纏う姿で“アリア”と戦うアーサー。そして──その遙か遠方。


 満身創痍の体で海上を飛ぶ、巨大な竜の体躯。ジークは、アリアに一矢報いた。だが……それでも、魔物を倒しきることは適わなかった。

 三人は“アリア”から逃避してゆく。ただ命をつなぐために──新たな大陸“メタル”へと。

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