表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/108

102.竜のまどろみ

「……」


 ジークは、困惑していた。冒険者の脳内は……自身の置かれた状況を理解しようとするが……しかし、あまりに非現実的な光景を目にして……頭の回転が鈍る。


 アジ・ダハーカ。“滅びの竜”が宿る“竜の巫女”に抱擁されたジークは……いつの間にか、知らない場所に居る。

 いや──ここを場所と呼べるかどうか──それすら定かではなかった。


 今ジークの居る場所は……真っ暗な空間。その空間に……冒険者の体はふわふわと浮いている。 だがそれ以上に重要なのは、ジークの目の前にある“モノ”だ。


「……こりゃまた……」


 真っ暗闇の夜のような中で、ジークの視界に“それ”がはっきりと映ることはない。しかし──彼はその物体が何であるかを察していた。

 それは単純に──見慣れた“竜”の頭のような部分が、ちょうどジークの目前にあったからだ。


「……?」


 冒険者は、水中を泳ぐような感覚の中で前に進もうとするが……しかし、その“頭”との距離が縮まる様子は無い。かといって、離れている様子も見受けられない。


「……何なんだ、ここは──って」


 そこまで言って──ジークは思い出す。この不可解な場所に来るまでに──何があったのかを。 ジークの手には……まだ、“少女”の手を掴んだ感触が残っていた。彼は自らの手を握っては離し、握っては離し……その“感覚”が確かなモノであることを確かめる。


「……クソッ。ここから出て……アイツを──バハムートを助けないと──」


 そんな決意を胸に、再度ジークが動き出そうとした瞬間のこと。冒険者の目の前にある頭が……微かに動き始めた。

 竜の瞼が開き、ひときわ目立つ鮮やかな赤色の瞳が……ジークを見ている。暗闇の中にあっては……よけい目立つ見た目だ。


『──懐かしき、名前だ』

「……あんた、喋れるのか……って」


 竜は体をぎこちなく動かす。その過程で……竜の体表が露わになり、その表面は傷だらけだった。ともすれば……朽ちていそうな程に。


 ジークの目の前に居る“謎の竜”は、ティアマトらの竜の姉妹(ドラゴン・シスター)の姿とも、アジ・ダハーカの姿とも異なっている。

 言うなれば……埃を被ったアンティーク(骨董品)のような……ボロボロの体だ。


「……大丈夫なのか? ……それ」

『面白い。余の声を理解できるのか』

「……質問に答えろよな」


 朽ちかけの体を指指すジークは……思わぬ竜の返しにばつの悪そうな表情をする。


「……ここはどこなんだ?」

『冷静なものだ。取り乱しはしないのか』

「……こちとら、案外慣れたみたいでね。心外だけどな」


 竜の声は……老人の声のように穏やかで、ジークを拒絶する様子も無さそうだった。対して冒険者も……いくばくかの警戒を解いて、“先客”である竜へ話しかける。


「なんというか、マトモな場所じゃ無さそうだが」

『正しいな。ここは“竜の墓標”だ。余のように──死にかけの竜が生きる世界よ』

「……死にかけって……じゃあ、あんたは……」


 竜の動きが止まる。その竜は、ちょうどジークの正面に体を動かし……上からその頭をもってして……人間を覗く。


『余は──バハムート。かつて滅びた竜族の……希望“だった”存在よ』

「……で、あればだな。聞きたいことが山ほど生まれてきた」


 ジークはその場で腕を組んで……首を上に傾けながら、その竜──“バハムート”へ語りかけ始める。


「巫女……まぁ、俺からすれば“あっち”がバハムートなんだが……。あいつとは……どういう関係なんだ」

『……後には戻れぬぞ。これから余が語るのは竜の秘密。人間ひとりに耐えられるものではない』「……耐えられるさ。あんたも──そう感じたから、俺を呼んだんだろう」


 冒険者の言葉に……バハムートは反射的に目を細めた。縦長の楕円形の瞳が……鋭くジークを見つめる。


『気づいておったか』

「ここがもし、アジ・ダハーカとやらが生み出した場所なら……とっくに俺は殺されている。多分……あんたも」

『なるほど。だが余が……あやつに協力していたらどうする? そうなれば、汝の前提が成り立たぬであろう?』


 ジークは……どこか“巫女”の屁理屈の並べ方と似ている竜の言葉を聞いて……ため息をつきながら笑うという高等な芸当を見せた。


「かもな。だがそれでも……あんたが悪い竜には見えない。なんとなくだが」

『……楽観的だな』

「これまでさんざん竜とやらを信じてきたんだ。うだつのあがらない冒険者でも、たまには勘に頼るさ」


 竜は……バハムートは、そんなジークの様子を見て……口角を上げた。


『……似ているな』

「……? 誰にだよ──って」


 瞬間──バハムートは目にもとまらぬ速さでジークの体をすくい上げた。そのまま竜は自らの背へ人間を投げる。

 ジークはというと……もはや受け身を取ることが出来ずに……背中で転がっていた。


「いきなり何を──」

『聞いて、そして目に焼き付けよ』


 竜の翼が開く。朽ちた体が動き……その体に生えた苔やら何やらが落ちていく。


「かの巫女を──救う方法を」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ