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101.竜戦争──決戦

「うおおぉぉぉ──っ!」


 冒険者は走る。目にもとまらぬ速さで……右足、左足、右足……と、大地を踏みしめながらヴァリアを駆ける。

 ジークだけではない。彼の周囲に居る“軍勢”もまた、素早い足取りで……“竜”の元へと向かう。


 大気が震え……大地が揺れる。人類と、竜との戦い。だが──その“竜”の頭目であるエリュシオンも、ただ黙って戦況を眺めているわけではない。


「──顕現せよ、“運命に連なる竜”達よッ!」


 エリュシオンがそう叫ぶと──先ほどまで何も無かった空間から……翼の無い真っ白な竜が生まれ落ちた。

 その竜は“白色の竜”とは違い……巨大な体を有しており、翼の無い姿も相まって……まるで獣のような容姿をしていた。


 だが──先ほどとは違い、進軍の勢いが止まることは無い。最前列を走るアーサーは、聖剣をその手に掲げながら──エリュシオンの元を目指している。


「ティアマト、頼むっ!」

「……約束なさい。姉様を必ず連れ帰る、と」

「あぁ。分かってる」


 ジークと言葉を交わしたティアマトは──その場に立ち止まった。前に進んでいく冒険者達を見て……竜の姉妹(ドラゴン・シスター)の次女は深呼吸をする。


「……姉様」


 ティアは拳を握りしめて……ただ真っ直ぐに、“姉”が居るであろう場所を見る。アジ・ダハーカの胸部。そこにある……かつての空中宮殿を。


「あなたの“勇気”を……少しだけ、わたくしに──」


 ──閃光。まばゆい光が辺りを支配する。エリュシオンに生み出された“獣のような竜”は思わずその目をつぶった。

 瞬間、ジーク達の後方に生まれた“光”の中から──長く鋭い“尾”が翼の無い竜を襲った。


「ったく。ティア姉、派手にやりやがるな」

「でも、それでこそ姐さんらしい」


 鈍い爆発音のような音が響いたかと思うと──その“竜”の白い鱗から真っ赤な鮮血が流れ出ている。ティアマトの尾は“獣竜”の頭に直撃したようで……その真っ白な巨体は右へ左へと不安定に揺れ動いていた。


「全軍止まれッ! ここで有翼型の竜を迎え撃つッ!」


 アーサーの言葉が響くと、兵士達は一斉に黒色の空を見上げる。ドワーフであろうが、帝国兵であろうが、騎士であろうが、そこに見える光景に変わりは無い。


 黒色の背景にとびきり目立つ白色の鱗。小さな体だが……確かに“竜”であるその“群れ”は──自らを迎え撃とうとしている人間の塊へ向かっている。


 戦いを目前にして、流石に兵士達も不安だ。ごくり、と息を呑む音がそこら中から聞こえてくる。どれだけ士気が高くても……本能である“恐れ”を消すことは容易ではない。

 ……そんな中。一つの人影が、兵士達の塊の上へ飛び乗った(・・・・・)。ざわめく兵士をよそに……その影──魔物少女リュートは、甲冑で作られた“道”の上を走る。


「──おーい。一番前のキミ。盾を頭の上に構えてね」

「……え、え?」


 突然の指示に、半分パニックのような状態になっている兵士。だが、リュートは止まろうとすらしない。


「──貸してくれ! 僕が代わりに!」

「おー。頼むよ? 騎士団長クン?」

「……人使いが荒いですね、本当に」


 ぼやきながらも、アーサーは最も前の列で盾を“上に向けて”構えた。その姿を見た兵士達も、頭の上を走る“少女”の思惑に気づいたようで──リュートの足場を作ろうと、団子状に固まり出す。


「どう、も──っと!」


 アーサーは、自分の盾にリュートが乗った瞬間、思い切り力を込めて“少女”を打ち上げた。

 リュートは飛ぶ……というより跳んだ。その華奢な体が向かう先はもちろん──。


「──っ」


 空中に投げ出されるような姿勢を取りながら──リュートは手首の傷から“血の刃”を生み出して──“白色の竜”達を一気になぎ払った。

 一回転、二回転、三回転……小柄な体は空中で旋回し……そのたびに、振り回される刃は竜を斬り裂く。


「──アリア、出番だよ」

「……ムチャクチャするわねぇ、あなたも」


 放物線を描くリュートは──アリアの声がする“影”に吸い込まれるようにして落ちた。少女の体を追っていた“白色の竜”は、減速できずに地面に激突し……数体はその衝撃で死んだようだ。


「──ファフニール、行くぞ!」

「わ、分かりました!」

「待ってたよ、ジーク」


 冒険者の言葉を合図にして……ニールが“片割れ”とジークの手を取った。そのまま……ファフニールの片割れは、瞳を閉じて俯く。


「──ファフ、飛ぶよ」

「い、いいよ。ニール。準備は……できてるから」


 ──再び、まばゆい光がほとばしる。先ほどまで地上にあったジークの体は──すでに空中にあった。


 稲妻、と言うべきなのだろう。光のような速さで──一匹の竜が飛び出していく。“獣竜”と戦う黒竜ティアマトの間を縫うようにして──“ファフニール”は飛ぶ。


「……頼む……このまま上手くいってくれ」


 電撃のような速さでファフニールは進む。アジ・ダハーカの体が、すぐ目の前まで迫る。


「──見えたっ!」


 ジークは目を見開いた。ついに彼は……視界に捉えた。髪の色は違うが……それ以外は冒険者の記憶の中にある姿とそっくりそのまま。


「バハムートっ!」


 冒険者は手を伸ばす。そう──これがジークの考えた作戦だった。ファフニールの素早いスピードで……一気に“竜娘”を取り返す。

 ファフニールは、小柄なティアマトと比べても小さな竜の姿だ。だからこそ──アジ・ダハーカの懐に潜り込める。


「──な」


 駆ける。冒険者の体は、この瞬間は稲妻と一体となる。駆ける。エリュシオンが反応するよりも前に。アジ・ダハーカが反応するよりも前に。

 ヴァリアを飛び立ってから、わずか二秒ほど。ファフニールの全力を持ってして──ジークは叫ぶ。


「今度は俺が──助けてみせるっ!」


 “稲妻”と化したその影は、エリュシオンの横を通り過ぎ──ジークの手が、ついにバハムートへ届いたと思われたとき──。


「──え」


 今まで瞼が閉じていた少女の瞳が開き……これ以上無い力を持ってして──冒険者を自らの元へたぐり寄せた。


「……ーク……!」


 微かなファフニールの声が聴覚に届くなか……冒険者の意識は……アジ・ダハーカの中へと──。

 “滅びの竜”の中へと──落ちていく。 

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