第一話 目撃
お母さんが食べていたお肉は人肉でした。
それを知ったのは私が小学二年生の夏の夜です。寝る前に沢山スイカを食べたので、強い尿意を感じ珍しく深夜に目を覚ましました。ふと隣を見るとお母さんいません。よくお母さんは彼氏に会いに行っていて夜いないのでこの日もそうなのかもしれないと思いました。一人じゃトイレに行くのも怖いなあ、かといってこのままじゃあおもらしちゃうぞ、と思って寝室を出ました。時計は二時を指していました
一人で歩く深夜の廊下は怖いです。なんたって深夜二時の廊下です。何が出てきてもおかしくありませんから、そうっとトイレへと向かいます。寝室からトイレはすぐそこなのですが、ゆっくり静かに歩いたので時間がかかりました。静かにドアを開けます。
カン! カン! カン!
カン! カン! カン!
用を足していると、何かを叩くような大きな音が聞こえてきました。もしかしてお化けかな。ついにうちにもお化けが来たのかもな、とテレビで見たアニメを思い出して怖くなりました。
その音は大きくなったり小さくなったりします。少し遠くで鳴っているようでした。台所の方でしょうか。
怖がりながらもしばらく考えて、寝室に戻ろうと考えました。この時眠気も戻ってきて、どうしたって朝までトイレで過ごすには不自由でした。でも私がトイレに来ていることがお化けにバレては困るので、水は流さないでおきました。手も洗いません。
トイレをそうっと出ると、くしゃん! とくしゃみをする声が聞こえました。これはいつものお母さんの声です。ああ、なんだ。お母さんが台所で何かをしてるのか。そう気づくと途端に安心しました。お母さんは彼氏に会いに行った訳ではなかったのでした。
私はお母さんに会いに行こうと、台所の方へ廊下を進んで行きました。廊下の先にリビング、その先に台所があります。全ての扉は空いていて、電気がそこだけ点いていたので廊下からでも台所はよく見えました。
お母さんはお湯を沸かして何かを手に持ってお湯に入れる所でした。お母さん、と呼ぼうと口を開けたとき、それが何か気づきました。腕です。これは完全に幼児の腕でした。視力が一・五ある私は多少遠くても、それが小さくてもよく見えました。目を凝らすと側には脚もありました
私は口をつぐんで、お母さん、と呼びかけるのをやめました。そうっと、寝室に戻り、何事も無かったかのように寝たのです。
次の日の朝、お母さんの朝食のおかずは鶏ハムでした。でも私にはこれがなんだかわかります。よく見ると切ってあっても形はそのままです。
私のおかずは目玉焼きでした。さすがに私には食べさせないようでした。一安心し、目玉焼きを食べました。
でもこの食べられた幼児はどこから来たのだろう、と疑問に思いました。考えても考えてもわかりませんでした。でも誰にも言わない方が良いというのはなんとなくわかっていたので、誰にも言いませんでした。