【6】
先週、国道沿いの雑木林で発見された白骨遺体の続報が入ってきました。
警察によりますと、当初1人分とみられていた人骨には、少なくとも大人2人分の骨が混ざっていたということです。
頭蓋骨や骨盤などの大部分は男性の骨で、肋骨の一部が女性のものと確認されました。
未だ身元の特定には至っていません。
これを受け、警察では連続遺体遺棄事件の可能性も視野に入れ、捜査しています。
~1年と8カ月前~
振り向いた男性と目が合った。
「こちらが君の絵を買いたいと言ってる崇臣くん」
瞬時、声を上げそうになり、両手で口を覆った。
「彼は画材道具の専門店を経営していてね」
相手の見開かれた目に、狼狽が見える。
「俺が君に渡してる額縁は、その店で購入してるんだよ」
歪んだ口元から息が漏れた。
「ああ…絵とそっくりで驚きました」
彼が絞り出した言葉に、私はすべてを悟り理解した。
「はじめまして。イラストレーターをしています。周防律加と申します」
手作りの名刺を差し出す。
「どうも。奥原崇臣です」
彼も名乗り、『画材専門店・okuhara』と印字された名刺を渡してきた。
渡良井さんが君も飲むでしょ?と、カップにコーヒーを注ぎ、テーブルに置いた。
「崇臣くんとはもう10年以上のつきあいになるかなぁ」
この絵のモデルが私だと気づいた?
でもまさか、私自身が描いているとは思っていなかったみたい。
私は樹里と会った成人式以降、先生とは連絡を絶っていた。
もう2度と、会うつもりはなかった。
先生も無理に連絡をとろうとはしていなかったし、とうの昔に私の存在なんて忘れていると思っていた。
先生は私の絵を見て、懐かしいと感じてくれたのだろうか…。
生意気な中学生の私を思い出しただろうか。
「あの…絵を依頼しても大丈夫ですか?」
「あ…はい。どんな絵を?私は人物画は苦手なんですが…」
奥原先生は知っているはずだ。
あの美術室での樹里の一件で、私が人間を描くのが嫌いになったことを。
「そうですか。店に飾りたいと思っているんです。お客さんを楽しませるような明るい絵をお願いしたい」
私はほっとしていた。
てっきり、渡良井さんに描いた私の自画像を頼まれると思っていたから。
「わかりました。和ませられるような絵を描かせていただきます」
「よろしくお願いします」
奥原先生は渡良井さんが淹れたコーヒーを飲み干すと、ではこれで…と言って帰っていった。
扉が閉まると、こわばっていた体の力が抜け、私は小さくため息をついた。
「律加…怒った?」
「いえ、怒ってません。お仕事に繋がったし、感謝してます。でももう2度と、あの絵だけは誰にも見せないでください」
「わかった。本当にごめん!俺の不注意だ。でもさ、言い訳じゃないけど、崇臣くんも悪いんだよ」
「どういう意味ですか?」
「律加の裸を俺だって他のやつには見せたくなかった。だから、裏返して置いておいたんだ。それを彼は手に取って見た。断りもなく」
「そうだったんですか…」
「かなり気に入ったんだろうね。珍しく興奮していた。この絵は誰が描いたものかって聞いてきて。できたら譲ってほしいって」
背中がぞわっとした。
やはり先生はモデルが私だとわかったからこの絵に執着したのだ。
そうとしか考えられなかった。
「譲るのだけは絶対に無理だって言ったら、作者を紹介してくれと懇願されて。もう断り切れなくてね」
「額縁を用意してもらってる方ですし。渡良井さんの気持ちもわかります」
「でも崇臣くん、律加をモデルにとは言わなかったな…あそこまで君の自画像に魅せられていたのに。変だよね」
「さすがに渡良井さんの目の前で裸婦を、とは言いにくかったんじゃないですか」
「そうだったのかな…でも俺と君の関係を彼は知らないんだよ?」
「私には奥原さんの真意はわかりません。では私も失礼します」
「どうして?君は帰らなくてもいいだろ?」
「ごめんなさい。奥原さんに頼まれた絵だけじゃなくて、デジタルのイラストの仕上げも残ってるんです」
「忙しいんだね」
「ありがたいことです」