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白骨遺体の承認欲求  作者: 紙屋束実
6/48

【6】

先週、国道沿いの雑木林で発見された白骨遺体の続報が入ってきました。

警察によりますと、当初1人分とみられていた人骨には、少なくとも大人2人分の骨が混ざっていたということです。

頭蓋骨や骨盤などの大部分は男性の骨で、肋骨の一部が女性のものと確認されました。

未だ身元の特定には至っていません。

これを受け、警察では連続遺体遺棄事件の可能性も視野に入れ、捜査しています。


~1年と8カ月前~

振り向いた男性と目が合った。


「こちらが君の絵を買いたいと言ってる崇臣くん」


瞬時、声を上げそうになり、両手で口を覆った。


「彼は画材道具の専門店を経営していてね」


相手の見開かれた目に、狼狽が見える。


「俺が君に渡してる額縁は、その店で購入してるんだよ」


歪んだ口元から息が漏れた。


「ああ…絵とそっくりで驚きました」


彼が絞り出した言葉に、私はすべてを悟り理解した。


「はじめまして。イラストレーターをしています。周防律加と申します」


手作りの名刺を差し出す。


「どうも。奥原崇臣です」


彼も名乗り、『画材専門店・okuhara』と印字された名刺を渡してきた。

渡良井さんが君も飲むでしょ?と、カップにコーヒーを注ぎ、テーブルに置いた。


「崇臣くんとはもう10年以上のつきあいになるかなぁ」


この絵のモデルが私だと気づいた?

でもまさか、私自身が描いているとは思っていなかったみたい。

私は樹里と会った成人式以降、先生とは連絡を絶っていた。

もう2度と、会うつもりはなかった。

先生も無理に連絡をとろうとはしていなかったし、とうの昔に私の存在なんて忘れていると思っていた。

先生は私の絵を見て、懐かしいと感じてくれたのだろうか…。

生意気な中学生の私を思い出しただろうか。


「あの…絵を依頼しても大丈夫ですか?」

「あ…はい。どんな絵を?私は人物画は苦手なんですが…」


奥原先生は知っているはずだ。

あの美術室での樹里の一件で、私が人間を描くのが嫌いになったことを。


「そうですか。店に飾りたいと思っているんです。お客さんを楽しませるような明るい絵をお願いしたい」


私はほっとしていた。

てっきり、渡良井さんに描いた私の自画像を頼まれると思っていたから。


「わかりました。和ませられるような絵を描かせていただきます」

「よろしくお願いします」


奥原先生は渡良井さんが淹れたコーヒーを飲み干すと、ではこれで…と言って帰っていった。

扉が閉まると、こわばっていた体の力が抜け、私は小さくため息をついた。


「律加…怒った?」

「いえ、怒ってません。お仕事に繋がったし、感謝してます。でももう2度と、あの絵だけは誰にも見せないでください」

「わかった。本当にごめん!俺の不注意だ。でもさ、言い訳じゃないけど、崇臣くんも悪いんだよ」

「どういう意味ですか?」

「律加の裸を俺だって他のやつには見せたくなかった。だから、裏返して置いておいたんだ。それを彼は手に取って見た。断りもなく」

「そうだったんですか…」

「かなり気に入ったんだろうね。珍しく興奮していた。この絵は誰が描いたものかって聞いてきて。できたら譲ってほしいって」


背中がぞわっとした。

やはり先生はモデルが私だとわかったからこの絵に執着したのだ。

そうとしか考えられなかった。


「譲るのだけは絶対に無理だって言ったら、作者を紹介してくれと懇願されて。もう断り切れなくてね」

「額縁を用意してもらってる方ですし。渡良井さんの気持ちもわかります」

「でも崇臣くん、律加をモデルにとは言わなかったな…あそこまで君の自画像に魅せられていたのに。変だよね」

「さすがに渡良井さんの目の前で裸婦を、とは言いにくかったんじゃないですか」

「そうだったのかな…でも俺と君の関係を彼は知らないんだよ?」

「私には奥原さんの真意はわかりません。では私も失礼します」

「どうして?君は帰らなくてもいいだろ?」

「ごめんなさい。奥原さんに頼まれた絵だけじゃなくて、デジタルのイラストの仕上げも残ってるんです」

「忙しいんだね」

「ありがたいことです」

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