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俺は戦士だ!  作者: satomi
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ったはずなんだけど?

第一話 俺の家系は戦士~故に?


 ここサタハユは言わずと知れた魔法都市。街に出て周りを見渡せば魔法だらけ。

 なのにうちは先祖代々戦士の家系。俺は武術を物心ついたころからずっとしている。が、この街で我が家はごくつぶしのような(税金はちゃんと払ってマス)扱い。


 戦士は近接、魔法使いは後方支援という思想も古臭く、近接でも戦士要らずで戦えるような魔法が開発されて久しい。

 よって“戦士は要らない”というのが常識だ。


 まぁ、俺の母親は魔法使いだから、俺はハーフなわけだが……。

「ライガ、ごはんよ」

 うーん、俺の飯は親父に出す飯の練習か?失敗作の感じがする。何故なら至るところに炭が……。

「火加減がねー。ほら、お母さん火の魔法苦手だから」

 昔、文献で見た。そして、実践した。野宿で魔法を使わずに火をおこし、料理を俺がした方がうまくできそうだ。苦手だからと炭が許されるわけではない。

「水の魔法は得意だから、素材が上手に切れているでしょ?」

 そう言われても……、俺ならナイフでスパっと切れるからなぁ。

「じゃ、親父にうまく料理してやれよ」と俺は言い残し(食べ残しもした)、夕食後の鍛錬を庭でしていた。


 しかし、魔法というのは厄介だ。

 庭で鍛錬していたのを庭の塀を透かして俺が戦士の鍛錬をしているのを見たようだ。全裸じゃなくてよかったな。俺が全裸で鍛錬していたらどうするつもりだったのだろうか?

 “のぞき”って犯罪にできるな。あ、対策してるか。普通の家は。うちは別に恥ずべきことをしているわけではないから庭が見えてもいーよーってうちの親父がなにも対策してないんだったな。


 ただし、トラップの数は多いから不審者が入ってくるのはまず無理だろうなぁ。“戦士”がバカにされている現実に親父がムキになってトラップ作ったからなぁ。


 俺が鍛錬していると、壁の向こうから幼馴染のカナエが声をかけてきた。

「ねー、そっちに行きたいんだけどさぁ。おじさん、めっちゃトラップ仕掛けまくってていけないよ」

「魔法使いならなんとかすれば?」と俺は嘲笑交じりに言った。

「なんとかなるならライガの家、不審者だらけでしょ?」

 その不審者は俺又は俺の親父にのされる。でもトラップだらけをかいくぐったから相当の強者か。

「お前なら、正規の方法ふめば入れるだろう?」

 正規の方法=玄関から、という至極当然である。

「あ、そうか。玄関からね」と軽く答えるが、国をあげて蔑まれている俺の家に正規の方法で。となると、いくら魔法使いといえども同時に蔑まれるのでは?と俺は危惧してしまう。

「んじゃ壁越しでね。ライガって魔法使いの血だってひいてるわけでしょ?」 

 さっきほぼ炭になった夕食が俺のところに回ってきたわけだが。

「魔法使いと戦士って兼任みたいのできないの?」

「ムリ。俺は長男で、あの家を継ぐ立場。それに魔力もないし、ムリだね」

「魔力ないって魔石あるじゃん」

「そこまで魔法使いに固執してない」

 魔石よ……俺の母親の料理をなんとかしてくれ。戦士として、体作りも必要なんだよ。



第二話 王からの呼び出し~俺なんかした?


 そんなある日、俺・ライガとその幼馴染・カナエが王に呼ばれた。

「何したの?」とカナエに言われたが、それはこっちの台詞。俺は規則正しく生活し、日々鍛錬しているだけだ。


 端的に言うと、迷いケルベロス(子供)を親元に帰してほしい。という話だった。全くそんなのは王直属の騎士団(魔法使いばかり)から2名選べばいいのに。親元に戻してソッコー俺を抹殺する気じゃ?と邪推してしまう。


 それはそうと、久しぶりに生でカナエを見た。

 何だよ反則じゃねー?女くさい体形になってる。女だが。出るとこ出てるし。だいたい魔法使いの服って露出度高くないか?誰のシュミなんだよ?

 と俺は煩悩にまみれた己を呪った。


~Side カナエ

 私はそんなに魔力強くないのに、何でライガと呼び出されたんだろう?

 そう!ライガ久しぶりに生で見た。何なの男くさくなって、男だけど。肩幅広いし、胸板厚いし、背は伸びてるし、腹筋割れてる?

 戦士の正装って鎧なの?

 ってか2人で旅って大丈夫なの?……私。


 そんな俺らをよそにケルベロス(子供)と対面した。

「かわいいーっ」とカナエはケルベロスにくっついた。そして噛まれていた。そうだよな、頭3つあるもんな。

 とりあえずこの2人(?)は仲良くなったんじゃないか?

 さて、俺とケルベロスの相性は……3頭揃って唸られた。うむ、まぁいいさ。


「旅立つがよい」と王が言う。言うのは楽だよなぁ。


 と、俺とカナエ+ケルベロスは城下町から外へ出た。

 ケルベロスに街の人が驚くという理由で城から街中は馬車で移動。馬車の中もケルベロスはカナエにベッタリ。やや俺にドヤ顔なのが腹立たしい。


 俺はこの時点から何だか違和感を感じていた。俺にはできないが、カナエなら……。カナエに話したいが、ケルベロスがくっついてるなぁ。どうしたらいいものか。

 あ、タイミングよくカナエ一人と思ってもどこからかケルベロスが現れる。そうだ、手紙にしよう。カナエだけが見るように、ケルベロスは見ないように。


~To カナエ

 あのケルベロスをまず魔法で透視してみてくれないか?俺にはどうもあのケルベロスがヒトのような気がする。俺にはできない。

 透視の結果次第では、俺も本気であの魔物をしばく事になるから、連絡をくれ。


 と、手紙でカナエに渡した。

 ヒトならセクハラだよな……。始終べったりって。ちゃんとカナエだけが読めただろうか?


 あ、激怒してるカナエが近づく。

「ライガはあの子を疑っているの?」

「あぁ、カンだけどね」

「あんなに可愛いのに……」

 関係ないだろ……。

「そんなだから頼むわー。お前だってセクハラされてるかもだぜ?」

 あっ、口を噤んだ。セクハラ黙認は嫌だよなぁ。


 結果が出たようだ。カナエは下を向いている。

「あの子はヒトだった。多分王直属の騎士団の一人じゃない?」

「そうすると、王としては俺の存在自体が嫌だったんだな?で、ケルベロスの元にノコノコ行って死んだ。というのが王のシナリオだろうな。カナエは悪いが巻き添えだ」

「マジで?こんなピチピチのままで死にたくない!」

「だから、あのケルベロスを真の姿にしてふんじばるんだよ。で、城に戻る。それにはカナエの魔法が必要になる」

「なるほどね、了解。明日、外を歩いている時にしましょ。周りに迷惑かけちゃまずいでしょ」

 んー、ケルベロスの人が元に戻ったら、全裸じゃないのかなー?と俺は思うのだが、大丈夫だろうか?

 

 翌日

 街道で今日もカナエにべったりだなぁ。今後を思うと両者とも微妙だなぁ。


 俺はカナエに合図を送った。ベタつかれているのも限界そうだったし。カナエが何かを唱えながら杖を振ると、ケルベロスはみるみるうちに人の姿になった。全裸じゃなくてよかった。騎士団の服を着ていた。本当に心配した。

 カナエが何かを唱えている段階で察したんだろうなぁ。腐っても王直属の騎士団だし。カナエから距離を取っていた。


 俺に稲妻系の魔法で攻撃してきたが、俺は鎧の一部を空に投げた。

 稲妻は鎧の一部に落ち、その隙に俺は人の姿に戻ったケルベロスのふところに入った。

「魔法使いって近接でも大丈夫じゃなかったのか?」

 そう言い、鳩尾に正拳突きで終わった。


「なぁ、カナエ。王直属の騎士団だよなぁ?ちょろすぎないか?」

「ライガは自分の強さを自覚しなよ。戦闘なら負けないんじゃない?」

 ……それが親父には敵わないんだよな。中空を見てしまう。


 こうして俺とカナエはふんじばった王直属の騎士と城に戻った。


第三話 王の真意~何考えてるんだ?


「よくぞ戻った。ライガ、カナエ」と王に言われた。

 人を殺そうとしてノウノウとしてるよ……と怒りが湧いてくる。

「して、この男がお前たちを騙していたという話だな」いや、王が騙していたんだけど。

「この男を牢へ!」トカゲの尻尾切りか……。


「ライガとカナエは王直属の騎士団に入団してもらいたい」

「恐れながら、家族と相談したいと思います。カナエもいいな」

 そう言いその場は帰った。

 俺は正直自分を殺そうとした人を守るような職業に就くのは嫌だった。もしや、うちの親父も同じでは?カナエには申し訳ないなぁ。


 俺は家に帰って、親に全部伝えた。

「はぁ、あの王はまたやったのか……」と親父。

 やはり親父も同じ目に遭っているようだ。その時一緒だったのがおふくろらしい。

「賛成はしない」とうちは両親とも反対。

「でもさー、王に背くとうちに迷惑かからねー?」

「何を今更。弱っちい騎士団を抱えた王が。そんな騎士団に入ってもいいことないぞ」

 それは思う。しっかし言うなー、親父。

 そういう事で、俺は王の提案に背くことにした。カナエはどうするのか?

「カナエも巻き込んだんだけど?」

「それはカナエちゃんの家が決める事だろ」


 カナエの家にてカナエも全てを家族に言った。

「何だと?王直属の騎士団はすごいが、ケルベロスに姿を変えてたやつを鉄拳でミンチにしてしまいたい」とカナエ父。

「実際にヒトだとわかると懐かれるの気持ち悪かったなぁ」とカナエが言うと、カナエ父は怒り心頭「いくら王と言えども許されない」

 カナエの家でも反対のようだ。

「家が蔑まれると思うけど、いいの?」とカナエは心配するが、カナエ父の怒りの前ではどこ吹く風のようだ。


 次の日二人は王の間に行った。

 王の間に入る前にカナエに伝えておいた。「俺らが反対って言った後、俺らに向けて王直属の騎士団が仕掛けてくる可能性もあるから、戦う心の準備は常にしといて」と。


 王は「さて、ライガとカナエ。王直属の騎士団に入る話を家族としてきたのかな?」

 入るかどうかの相談だ。入る事が前提みたいに言うな。

「恐れながら、私もカナエも王直属の騎士団には入りません」

 あぁ、期待を裏切らないな……。続々と王直属の騎士団が湧いてくる。こんなにいるなら俺もカナエも必要ないじゃん。


 そんじゃ「カナエ、後方支援頼むわー」と言いながら、湧いてくる騎士達を片付けていく。マジで近接魔法使いってあんまり使えないんだけど。

 あ、俺は武器は何でも使える。転がる騎士の剣を使ってさばいていく。うーん、飾りだから重いなぁ。もっと軽い剣使えばいいのに。などと思っているうちに王直属はいなくなってしまった。


「カナエ、後方支援サンキュー」

「ライガはやっぱ戦闘強いねー」

 とのん気に話していると、王が口を挟んだ。

「ライガは戦士の称号を、カナエは魔法使いの称号、もちろん王直属だ。を授けるから是非王直属騎士団に……」

 と言った途中で、

「うるさいなぁ、入らないって決めてここに来た。それに2度も殺されそうになって大人しく言う事聞かないだろ?」俺は少し笑ってしまった。

「“王直属”とかキョーミないし」カナエも言う。


 つまり、“戦士”の力は認めているが国中から蔑まれていたのは、王の言う事を聞かないからか?そりゃ、殺されそうになればなぁ。2度も。

 自分より弱い。尊敬できない相手の下にはつかないな。

 親父もそうだろうな、多分先祖代々……。

 王も代々けしかけては失敗して、なんか哀れだー。

 俺はちょっくら旅に出るかなー。武者修行兼ねて。ここは弱いし、他の国も見てみたい。


「カナエー、お前はこの後どうする?」

「うーん、王の命に背いたからなぁ。国の中にいても立場が微妙だし、他の国にも行ってみたいな。サタハユって弱々じゃん。そんなとこにいたら危ないし」

 最後の砦(?)は俺の親父だな。

 などと城からの帰り道に話していた。


「俺も国を出て他の国を見てみようと思うんだ。サタハユがこんな弱くて大丈夫か?って思ったし、武者修行兼ねて。なので、一緒に出かけねー?2人だけど。戦士と魔法使いのパーティーだ」

「オッケー。私も一人だったら親が反対しただろうけど、ライガがボディガード的になるからライガが一緒なら親も反対しないでしょ」

「うちは武者修行歓迎だろうな。カナエが魔法でパパっと服をきれいにしてくれると助かる。食事とか。俺一人だったら、アナログ全開で火をおこすところからやんないとかな。服は汚れたままかも」

「うわー」とカナエは顔を顰めた。


「あら、やっぱり王が仕かけてきたの?」予想してたのかよ、おふくろよ……。

「もちろん全部しばいたんだろうな?」何故キョーハク気味なんだ親父よ。

「もちろんな。で、国に居ずらいから国を出て、武者修行も兼ねて、他の国を見ようと思う。この国の王直属とか弱々じゃん。この国じたい弱々じゃねー?」

 親父とおふくろが顔を見合わせた。

「やっと気づいたか。どうぞ武者修行に行ってください。あー、帰ってきたら弟か妹いるかもなー。あははは」

 笑えねーよ。

「あ、カナエも一緒に行く」

「それは聞いてない!」

「今言った。食事とか服きれいにしてもらうとかさー。戦闘は後方支援だけど、俺がすぐ終わらせちゃうから意味ないし」

「あらあら、カナエちゃん花嫁修業ねー」

「俺一人だったら、食事は火をおこすところから、服は汚れたままかも」

「男の理性を総動員するのもまた修行。頑張れよ」

 他人事だと思って。


 カナエのうちではあっさりと賛成されたそうだ。うちが異常なのか?


第四話 旅立ち~二人でなのね……


 ステータスがカードで表示される。


ライガ age18 HP 計測不能   体力 計測不能

 戦士      MP 0      知力 3

     戦士に珍しくオールラウンダー


カナエ age18   HP 1503   体力 5

 魔法使い      MP 25033      知力 10

     魔法使いらしく後方支援を得意とする


「なぁ、カナエ。計測不能ってなんだ?体力とか知力とか……」

 つまり、俺はこのカードの見方がわからない。

「うわ、ダサっ。計測不能ってそのままでしょ?少ないってことはないから多すぎて計測できないんでしょ。知力と体力は10段階評価なんだけどなー」

「カナエー、治癒魔法もマスターしてよー。ケガ治してくれよ」

「そうだねー、戦闘すぐ終わるもんね。ってライガ、怪我するの?」

「敵が毒吐くかもだぜ?」

「あぁ、そう考えると必要かも。少ない知力で考えてくれたんだもんねぇ」

 と俺のカードを見た。

「カナエはHP低いし体力ないだろ。HPなんて壊滅的だ」

「おっしゃる通り。でも魔法使いにはステータスをアップさせることができるのです。ま、せいぜい2倍だけどね。だから戦闘頑張ってー」

 のん気だな。つまり俺はカナエを守りつつ戦うという事か。それもハンデかな?


 やっぱ徒歩で進むんだろうなぁ。と俺はてくてく歩いていた。ふと横を見ると、カナエ!浮いてる板に座ってる。しかもお茶飲んでねー?

「カナエ……そうやって歩かないから体力はつかないし、HPは低いんだ。MPの無駄遣いだ。さぁ、歩け!」と俺は歩くように促した。

 30分も歩かないうちにカナエの口から「疲れた~」と。なんだよ、マジで弱いな体力など。


 そんな時……モンスターが現れた。

「カナエ、こいつらマジでモンスターか?またヒトが化けてたりしない?それによって全力で行くか決まるんだけど?」

 ああ、そういう判断でも魔法使い必要だな。殺人は嫌だ。

「純モンスターでーす!」という声を聞いてつい俺は「初めまして」と言ってしまった。

 カナエは呆れていたが、次の瞬間しばいたのでOK。


 なんだかモンスターを倒すと、道具と金が落ちてる……。

 俺は恐る恐る「カナエ、この落ちてるのはもらっていいのか?窃盗罪とか嫌だぞ」と言うと、

「本当に何にも知らないのねー。ドロップアイテム拾ってよし。強いモンスターはいいもの持ってるわよ。それに、モンスターを狩って生活してる人もいるのよ」

「そうなのか……」

 うちもそうなのかな?親父ならモンスターに敵はいないだろうし、まさかの実家はセレブ?


「へー、そんな生活の方法あるんだ。俺はただ家で鍛錬してたから世間知らずだな」

「世間知らずって自覚しただけまだマシになったんじゃない?」

 馬鹿にされたんだろうか?


 俺は次々とモンスターを倒し、落ちている金とアイテムを拾いまくった。

「私、疲れた~。どっかの宿に泊まるくらいお金たまってるでしょ?」

 『ほら』とカナエに見せた。カナエは目を見開いた。

「えーと、これは……。小さい街を買えるくらいかな?」

 アイテムも要らないから+αの金額を加算して……と考えると恐ろしくなって、俺はカナエにお金の管理を頼んだ。

 ひたすらモンスターを倒してただけなんだけどな。時間潰し的な。怪我無いし。


 近くの街、アキの宿屋では2部屋、普通の部屋をとった。俺が「もっとランクの高い部屋でも……」と言うと「倹約が大事なの!」と言われた。

「そんじゃ明日ねー」とカナエは隣の部屋に入りそうになった。

「ちょーっと待て!俺の服の汚れを落としてください」と、うっかり忘れるところだった。

「その魔法苦手だから、結果に文句言わないでよ」

 カナエがなにやら唱えると、汚れが落ちた。そして、同時に俺の汚れまで落ちた。

「あ、これなら風呂要らないかな。ラッキー!睡眠時間増えんじゃん!」と俺は単純に喜んだ。

なのに……いきなり頭の中でおふくろの力を借りたのか親父が「何を!風呂に浸かって全身の筋肉をほぐすのも大事なんだ!」と言ってきた。

 これは……親父もおふくろも放任で送り出したフリして、ずっと見てたんじゃねー?疑惑が!!


次の日、ステータス


ライガ age18 HP 計測不能   体力 計測不能

 戦士      MP 0      知力 4↑

     戦士に珍しくオールラウンダー


カナエ age18 HP 1504↑   体力 5

 魔法使い      MP 25033      知力 10

     魔法使いの戦闘としては後方支援、家事のようなことをする


「おっカナエHP上がってんじゃん。やっぱ徒歩にしたからだなぁ」

 備考みたいなところも変わってるけど、触れないどこう。

「ライガだって知力上がって良かったね」うーむ、キゲンが悪いようだなぁ。ここ、朝飯うまいなぁ。俺は2人前食べた。カナエは朝飯あんまり食べないし。

 俺のうちは朝飯ガッツリ型だったからなぁ。朝から豚の丸焼きとか……。


 さて、今日も出かけますか!

「ライガー、相談するんだけど」何だ?それで機嫌悪かったのか?

「とりあえずこの街で冒険者登録しといて、依頼受けたりしない?」

「そんなシステムあるのか?」

「世間知らずが極まってるわね。依頼選べるし、雑魚を永遠に片づけてても修行にならないでしょ?」

「そうだな。ここらは雑魚が多いのか?修行になんなかったな。金にはなったけど。ところで、この街の住人でもないのに登録できるのか?」

 カナエは見ろと言わんばかりに昨日のお金を掲げた。買収するのか……。

「じゃ、行ってみよー!」カナエは楽天的だな。


 うーん、この街のギルドとやらはガラが悪いなぁ。

「ステータスカードを見せて下さい」と受付で言われ、俺とカナエはカードとお金を少々(

少々か?)差し出した。

「では、ギルドマスターのところまで案内しますね」と受付嬢は言う。俺は「また、仕かけてくるかもだから油断するなよ」とカナエに言った。


 案の定、イカツイ厳めしい顔した男たちがどこからか湧き出す。

「カナエ、こいつらは人間だよな?人間相手は手加減が難しいんだよなぁ。あ、後方支援などよろしくー」と話ながらも、俺に向かってくる男を山積みにしてしまった。一番下の人は大丈夫かなぁ?重さで苦しいよな?きっと。

「人間だよ。ってもう終わってるじゃん。怪我もないし、よしよし」

「モンスターと違って金になるわけじゃないから、ただなんか運動だな」


「えーと、ギルドマスターはこちらです」と受付嬢は言う。

 いたのか?!

 なんだか重い扉の向こうには猫がいた。

 ギルドマスターは呪いで猫になったらしい。

 カナエは「かわいー」と喜んでいたが、猫だぞ?元人間の。

 俺は何故呼び出したのか聞いた。登録だけなら受付で済む話だからだ。

「ステータスカードに『計測不能』ってあったから、試して悪かった」

 いや、もうすぐ猫じゃらしを使おうとしているカナエがこちら側にいると何も言えない。

「この街はお金要らないよ。カードと一緒に添えられたお金は戻すね」

 猫じゃらしで威厳がない。むしろ微笑ましい。

「それなんだけど、なんで登録?」そうだよな。俺は「より強いモンスターに会いたいんです。俺は修行の一環で旅をすることにしたけどここら辺のモンスターは弱くて……。あ、昨日一日でかなり稼ぎました。カナエ」

「ふぇ?あ、全財産?これです」とカナエは、パンパンの革袋をかかげた。

「あの9割以上が昨日1日でここらのモンスターから得たお金です」

 あー、ギルドマスター、猫じゃらしから目を離して!違うな。

「カナエ!猫じゃらしやめろよ、話ができないだろ!」

「本当なんだろうなぁ。君、嘘つかなそうだし。うん、A級冒険者にしよう」

「カナエ……A級とかって何なんだよ?」と俺はこそっと言ったが、猫の耳は強かった。「C級・B級・A級・S級ってあってA級の上はS級。上の方が難しい依頼を受けれるんだ」

「ちなみにズバリなぜ俺らがS級じゃないんだ?」

「ライガー、いきなりA級でも周りから睨まれるよ~」

「二人とも実績が無いんだよ。だから」

 なるほどな。確かに実績はないな。

「了解」と俺は言った。

 カナエは睨まれると騒いでいたが、俺は今までの生活と何ら変わらないからどうでもいいことだった。

 

 宿屋とギルドを往復するような生活になった。

 ギルドでは他の冒険者から睨まれるようだ。慣れって怖いな。A級なのもあるが、2人きりで俺がカナエを連れている事実も気に入らないようだ。

 カナエは万人に好かれるように成長していたのか……。こいつは迂闊。

 ギルドにある依頼でも俺の力とお金が割にあうような仕事がなくて困る。A級って不便だな。


第五話 俺たちの異変~カナエの異変??


 そんな中、カナエがスナキツネを拾ってきた。

「この子は正真正銘動物!ちゃんと見たんだから!」

 そうか……それはいいが、飼うのか?

 うーん、こいつとギルドにいる男が入れ替わる可能性もあるから気をつけろとカナエに言ったものの、「えー、何でー?」という返事。

 俺が自分の力を理解してなかったのと同じでカナエはギルドで人気って理解してないな。まあ、替わってるの感じたら、替わってるやつしばくけどな。


 ギルドマスターに呼び出された。何事だ?

「言いにくいんだが……、そのスナキツネの親な、討伐対象だ」

 言いにくいんじゃなかったのか?

「しかもA級で金もいいぞ」おぉ、スナキツネは強いのか。カナエが俯いてスナキツネをギュッと抱いている。そうかカナエの事を考えたんだな。

「いつか誰かがやらなきゃならないミッションだから、お前らに伝えた」

 冒険者として色々あるんだなー。このスナキツネ(子)もそのうち大きくなったら討伐対象になるんだろうな。カナエには酷だな。


 さて、「カナエ、このミッションはどうする?」と問うと、意外にも「私たちがやらなきゃっていうかね、他の人がこのミッションをやるのが気に入らない」という返事だった。

「数年後にこのスナキツネ(子)も討伐対象になることが考えられるけど、どう思う?」

「私たちはミッションをこなすのみ!それに数年後までA級のつもりはない。S級になる」

 “私たち”ねぇ。数年後も俺と組んでるんだな。ほぉーお。


「で、スナキツネって弱点とかあるの?」

「んー、最近発見されたからねー。よくわかんないんだよ」

 それ、討伐しちゃう?益になるかもしれないじゃん。

「まぁ、俺には弱点とかなくてもイケると思うけど」

「同感」

「討伐しちゃってもいいもんかねー?」

「ふえ?私なら気にしないでよ~」

「カナエを気にしてじゃなくて、最近発見だろ?益とも害ともわからないのに、討伐っておかしくねー?」

「そうなんだよね」

「依頼主は……」

 俺とカナエはカードに送られて来ているミッションの山からこのミッションを探し出し、依頼主を見た。そして同時に声を出した。

「あの馬鹿王か……」俺たちは頭を抱えた。


 確かに金払いはいいが、このミッションには裏がある。

 これもノコノコとスナキツネの所に行った俺らがやられるってのが王のシナリオなんだろうな……。

 しっかし馬鹿王、俺らを殺すよりも国民を労われよ……。


「カナエー、依頼料ムシしてこのスナキツネを親に戻すってミッションに変えようぜ。生態もわかってないのに、討伐って乱暴だし」

「わかった。明日ね」

「ラジャー」


 翌日、このスナキツネは親元覚えてるんだろうか?今やカナエに懐いているが?うーん考えすぎか。生態がわかっていないのに、親の場所がわかるとはまた矛盾のような。うーん。

「何を一人で唸ってるのよ!」とカナエに言われた。

「いや、生態わかってないのに親の場所がわかるってなんかひっかかるんだよなー」

「あー、それは思った。依頼主はサタハユの王だし」

「だろ?またやる気かねぇ?」

「そうだねぇ。なにせ馬鹿王だからね」

 呆れてものも言えない。暇なのか?と言いたいくらい俺らに固執している。


 親元とギルドで伝えられていた場所に到着した。

 子スナキツネは何も反応しない。……やはりか。

 うーむ。と考えている暇もなくまた王直属騎士団が湧いてきた。包帯したりしてるけど、大丈夫かな?治癒魔法で治してもらえよ……。

「面倒だなぁ。今度は前より加減しないでいきますか!準備運動がランニングに変わったみたいなもんだけど。カナエ、後方支援とそいつの保護をよろしく」

 カナエは思う「支援しなくても勝つじゃん……。私は保護に全力を尽くそう」


 そう言うと、続々とケガ人の騎士団の山ができてくる。「一番下の人が心配だなぁ。俺がやったんだけど」「おーい、カナエ。何か縛るものない?この人たちに罪はないけど、なんとかしたいんだけど……」

「あー、それならやっと魔法らしい魔法使えるような気がする……」そう言って俺がしばき、カナエが動けなくする。という事になった。


 そして、「この塊をどうする?」とカナエに聞いた。

「ギルドに嘘は王といえどもタブーだから、ギルドに提出する」すると、騎士たちは次々と口から血を吐いた。

「えー?私、何もしてないよ?」カナエはオロオロしている。

 どうやら騎士は奥歯に毒を仕込んでいたみたいだな。証拠は残さないのか……。で……も……俺は死んだ騎士たちの服についてる“証”をブチブチっと取って集めた。ご愁傷さま、死の意味なし。

「ずいぶんな数あるなぁ。ん?生き残りじゃん。騎士的じゃないな」

「生き証人なんだから、チョーハツしないで」

 こうして俺とカナエはスナキツネ(子)と生き証人を連れて、騎士の服から取った証を携えてギルドに行った。


 俺への目線が痛い。こんな視線は慣れてない。無視とかそういうのは慣れているんだが……。

「ギルドマスターに会いたい」とカードとチップを少々多めに渡した。

 あっさりと「お待ちしてました」とギルドマスターのところまで連れてきてくれた。


 やはり猫だ。何度会っても猫に変わりない……。

 そうでなくて、重要なサタハユの王の嘘の証拠の数々を見せた。

「サタハユの王かぁ……。常連みたいな感じなんだけどな」

 なんでもかんでもギルドに丸投げしてたのか?金で。そんなだから騎士団が弱っちい。俺は3度目か?4度目か?の抹殺の常連だけどな。

「嘘はいかんなぁ。ところで、その男は?」

「「生き証人でーす」」と俺とカナエは言った。

「名前はなんていうんだ?」「デサロ……」

「そうだなぁ、私からのミッションだ。ライガ、カナエ、デサロをパーティに加えろ。デサロが生きているとわかればサタハユの王は口止めに急ぐだろう。既に手遅れだが。だから、パーティという形でデサロの保護をしろ。いいな。拒否権はない」

 俺はカナエと2人がよかったのに、ここにきて子スナキツネとデサロが仲間に加わるとはなぁ。

 カナエは「この子スナキツネの名前はどうしよう?」「テキトーにつけたらいいんじゃないか?」

 そこ、問題なのか……。


 そして……。


ライガ age18 HP 計測不能   体力 計測不能

 戦士      MP 0      知力 4

     戦士に珍しくオールラウンダー


カナエ age18 HP 1505↑   体力 5

 魔法使い      MP 25033      知力 10

     魔法使いの戦闘としては後方支援、家事のようなことをする


デサロ age18 HP 68902   体力 7

 騎士      MP 40561      知力 5

     ジョブチェンジを考えている


テキトー age0 HP 5493   体力 9

 スナキツネ      MP 2771      知力 3


「おい!カナエ、マジでテキトーって名前にしたのかよ」

「だって、テキトーって言ったじゃん」

「デサロはジョブチェンジ考えてんのか?と、その前に。カナエ、こいつの奥歯の毒、魔法で取ってやれ」

……と同時にサタハユの王からのスパイの可能性も調べてほしいというような手紙を渡した。

「デサロは騎士から何にジョブチェンジしたいんだ?」

「俺は魔力も低くて……」カナエの顔に青筋が浮かんでいる……。カナエの倍近い魔力あるもんな。

「騎士団で馬鹿にされてたから戦士になりたい」

 俺は「ほう」と言った。内心戦士をナメるなよと思った。

「戦士ってことは俺の弟子か?」と俺は言った。

「ライガ、調子にのりすぎ!」……とカナエは言いながらメモが渡された。彼はシロ。

「戦士なら、自分を律することだな。とりあえず、毎朝剣で素振り1000回するか」と俺は言った。このパーティに戦士は2人も要らない。

「え゛?俺、戦士ムリかも……」そうだろう。戦士は甘くない。俺がここまで来るのに18年かかってる。その間、何度親父に半殺しにされたことか……。


 うーん、魔法使いでも戦士でもない職業。うーん。狩人とか?それなら良さげだけど、いいかなぁ?

 俺も弓できるんだよなぁ。特に頭がいいわけでもないし。うーん。


「狩人は?」カナエよ……。俺も弓できるんだけど。「わかりました」おい!カナエ狙いか?


デサロ age18 HP 34451   体力 7

 狩人      MP 20230      知力 5

     新人


おぉ、カードが自動で更新された。

「狩人なら弓の練習だな。弓はやったことあるだろ?」と俺は軽く言った。

「ないです」おいー、だから弱々なんだよサタハユ!

 狩人ならそこらの草木で自作の弓矢を作れるようになるといいね。

「戦闘では後方支援を期待してるよー」

「え?カナエさんは?」“さん”をつけてきたか……。

「あいつにはテキトーを守るという仕事がある。あと、服の汚れを取ってもらったり」

「だって魔法使いは後方支援じゃ……」とデサロは言う。

「あぁ、でもねー、ライガ強すぎて支援は正直必要ないくらいなの。少なくとも魔法で後方支援は必要ないかな?」

 俺はドヤ顔でデサロを見た。

「デサロー、明日から弓の練習な。的は俺が作ってやる。俺は弓もできるし」

「やっぱそうですか、ライガさんなら戦闘系を全部マスターしてるだろうなーって」

「まぁな、スパルタ親父の影響でな。ところで、俺ら同い年だし、敬語を使う必要なし」

「そうだよデサロー」カナエも言う。

「じゃ、また明日な」


 どうしよう……デサロ……壊滅的に弓が下手だ。射ると矢が足元に落ちる。うーん、基礎的な筋力がないのか?何故だろう?弓に張った弦がきつすぎるのか?ちょっと緩めるか……。お、ちょっと進んだ。 という事は、緩めるもとい調節すればいいんだな。

「ねー」カナエは言った。「一番最初の弓ってライガ仕様じゃない?体力が全っっく違うんだから」

 そういえばそうかも。うーむ、反省。

「カナエ、魔法でチョチョイと調節してくれよ」

「都合よく魔法に頼るんじゃない!」


第六話 親父現る~俺の頭の中で


「はははっ、尻に敷かれてるぞ!」と親父の声が頭の中で聞こえる。また……。

「かあさんも見てみろよー」


 全くどうでもよく人の生活を覗き見るなら弦の調節のアドバイスとかくれた方が助かるってもんだ。

 結局弦はちょっとずつ緩めていくしかないか。他には弓、売ってないしなー。魔法使いが弓みたいのを魔法で放つけど、それだけだもんなー。

 あの弓(練習しようとしてた弓)だって俺作だしなー。楽にはいかないか……。


 少しずつ調節して、デサロにぴったりの弓ができた。

「ライガ、この弓はどこで買ったんだ?売ってないだろ?サタハユ」

「俺が作った。10年位前かなぁ……。親父の指令でな」

「随分いい弓作ったな。そして弦の張りがきつい。お前は昔から強かったんだな」

「でも、親父には敵わないんだよなー」と言うと、デサロは驚いていた。


 俺はこの弓があるし、まぁ大丈夫だ。俺は武器という武器を全て自ら作り、使いこなすように育てられた。他に、ナイフ・長剣・短剣etc.普段は拳のみを使っている。自覚した。本気で人と戦うと殺してしまう。

 武器を持ち歩くのも鍛錬になるが、普段はカナエに魔法で異次元に収納してもらっている。使うのはVSモンスターの時だけだし。


 あらためて、デサロの弓の練習を始めた。

 的は近くの木から俺が作った。このこともデサロは驚いていたが、俺は魔法ができないし、力ずくって感じだけど。

「じゃ、あらためて練習。ひたすら射る。まっ、習うより慣れろみたいな?」

「俺なんかさぁ。カナエ、俺の弓矢をお願い。あとついでに長剣……」

「今日も素振りするんだ」

「戦士たるもの剣は友達!でな、デサロ。俺なんかさぁ」

 と、俺はMy弓矢で射た。もちろん的中。

「親父が命令するんだぜ?で、どっからでも的を狙えるようになった。基本的に剣とか武道だけど、弓もな」

「ライガはすごいな」とデサロに褒められた。

「そう変態的にすごいわよねー」とカナエは言う。

 カナエは今テキトーLOVEだから俺らは割とほったらかしだ。

 

「んー、とりあえず毎朝100射くらい?親父が異常だったから鍛錬の基準がわかんないんだよねー。俺はこの後素振り1000回だし……」

「ライガが素振りしてる間、ずっと射ってる」とデサロ提案。

「毎日続けなきゃ意味ないんだけど、できる?」

「できるじゃなくて、やるんだって決めた!」とデサロ。

 頼もしいなぁ、頑張れよ。

 デサロは内心「素振りをしてるライガを狙ったらどうなるのかな?」と思った。


「朝だし、やるか!俺は素振りだ」

 デサロも何10射かした所で、「ライガを狙ってみよう」とライガを狙った。が、ライガは殺気のようなものを感じ取り、即デサロの喉元に長剣を突き付けた。

「デサロ、ダメだよ~。俺はほぼ自動的に殺気を感じたら体が動くんだから、もっと強くなってからにしてね。危なくデサロを朝から殺しちゃうとこだったじゃんか~」


 さて、朝の運動が終わったところで、朝食はできているだろうか?

「カナエ……テキトーには食事を与えたが、食欲旺盛な運動後の空腹男子2人に何にもなしかよ……」

「ゴメーン!」言葉が軽い。俺とデサロは言葉を失った。

「うーん、朝食は俺とデサロでなんか狩ってきて、それをカナエに調理してもらうか?その方が実践的だし」

「そうねー、ライガが出しゃばらなければデサロにもプラスね」

「今日はしゃーないから、俺がちゃっちゃと獲物を狩ってくるかー」


 約10分後、街がザワザワ言ってる。

「おーい。カナエ、こいつを朝飯に調理してくれよー」

「嫌よ。そんな獣捌いたことないもん」

「初体験だな。俺は捌いたことあるぜ?」

「ナイフか……」デサロは言う。

 

 街の中でも生活しにくくなったな。街の外の方が生活しやすそうだ。

「なぁ、旅にでないか?で、たまにギルドに帰る。朝飯くらいで騒ぎが起きるんじゃ生活しにくい!」

「それはライガがあんな獣持ってきたから!」

 だって、空腹だったし……。

「妥当だな」デサロも言う。

「うーん、テキトーもその方がいいかなぁ?街の外で生活しようか」


 こうして俺ら3人+1匹は街の外に出た。

 およ?いつもなら、うようよいる雑魚がいなくなった。テキトーよ……強いモンスタ―なのか?


 3人+1匹で生活をしていたはずなのに……

 環境がいいから、周囲に雑魚モンスターはいない。めちゃ強いやつがいる。で、なんだか集落っぽくなってしまった。

 俺は日々素振りを続け、デサロも弓の練習を続けた。

 デサロは1矢だけを1回に射るのは慣れて、2矢1度に射る練習を始めた。どうやら『ライガにできない事』っていうのが目標でモチベーションらしい。2矢同時に射るってのは俺できる。でもデサロの成長もなかなか早いので頼れる。


 このままじゃ部族長になってしまう。というか俺の危機感で俺は久しぶりにギルドからミッションはないか~!!とカードを見た。

 カードにはたくさんのミッションがあった。うーん、デサロには初陣だからなぁ。

 俺としては、雑魚過ぎず強すぎず、楽過ぎず辛すぎず、お金が稼げるっていうミッションがいいんだけど……。

 という話をカナエにすると「都合よすぎ!」と一刀両断された。

「でも、デサロに合わせるのはいいかもね。デサロに活躍させるには敵が強くないとダメじゃない?弱かったら後方支援待たずして、ライガが倒しちゃうし。強ければお金いいよー」

 そうか。うん、そうしよう。

「じゃあ、どれがいいかカナエが選んでね」

「そう?それじゃあ、コレにしようよ!」

 難易度高いけど……。ま、いーけどさ。

「デサロの初陣がいい思い出になるように頑張ろー!」

「「おー!」」「く」

「あ、テキトーも返事した。やっぱ可愛いー!」とカナエ。


 こんな調子で俺たちはミッションへ出た。

 ミッション:翼竜を10頭討伐のうえ、ドロップアイテムをギルドまで持ち帰るように


 翼竜だから弓がいいだろうな。俺は遭遇してすぐ、翼を切り落とすけど。

 俺も弓を使うのかな?剣かな?これがA級かぁ。

 デサロにもいいだろう。俺に誤射しないでほしいな。10頭でいいのか。

 ドロップアイテムはなんだろう?とにかく行こう。……依頼主サタハユの王じゃないよな?違うみたいだからOK。


 で、てくてく歩いてると、またしてもカナエが「疲れた~」と。デサロは初めて聞いたからいいけど、俺は2度目の言葉だから呆れた。

「いい加減、体力つけよーぜ」

「カナエってこのくらいで疲れるんだな」

 と男2人からの言葉に流石のカナエも落ち込んだ。ちなみにテキトーはカナエが抱っこしている。テキトーの方がカナエより体力あるんだよなぁ。


 仕方ないなぁ。5分だけ休憩。

 休憩の間、俺は素振りをしていた。投げナイフは拾いに行くのが大変だからやめた。

 デサロは弓の弦を構える練習。矢を拾うの大変だもんな。わかるー。


 デサロは弓が上達した。2矢を1度に射れるようになった。

 翼竜かぁ、10頭くらいなら俺が秒殺で翼をとれそうだが、手加減するか……。


 よし、休憩終了ー。

 しばらく歩くと、翼竜の巣みたいな場所に出た。

 確かに大人翼竜は10頭いるが、子供翼竜ってどうなるんだろ?そういうのミッションに書いてないよなぁ。

「カナエー、ギルドマスターに連絡取れない?魔法で」と言って、すぐに連絡を取った。

「大人翼竜は討伐。だって近くに被害が出てるから。子供翼竜はここで育てればOK。良い子に育ててね」とギルドマスターに言われた。

 まさかの展開。ミッションに書いてなかったじゃーん。


第七話 カナエの変化~母性の発現?


 翼竜の巣みたいな場所が俺らの居場所になり、大人の翼竜は討伐(楽勝)。スナキツネといい、この子供翼竜といい、俺らはモンスターを育てる係だろうか?不思議だ。


 他の国を見て戦士の価値みたいなのを見たかったけど、俺だけなのかもな。

「カナエは何で他の国を見たかったんだ?」と俺は聞いた。

「うーん、広い世界を見たかっただけかもね。あの国の中だけじゃね」との回答。なるほどな。


 しかし……翼竜の子がデサロに懐かない。むしろ避ける。テキトーも同じだ。カナエ曰く「ちょっと震えてる」らしい。うーむ、なんだかなー。


 親父ー、どーよ?どーせ見てるんだろ?

「そうだなー。おめでとー。デサロは多分幹部クラスじゃないのか?モンスターの親玉の右腕みたいな。そもそも、お前の攻撃を受けても少しの怪我だったんだろ?自分で回復したか攻撃を受け流したかだなー」

 ステータスカードとかの数字も操れるのか?

「幹部クラスはなー。がんばれー」


 うーん、またカナエに手紙だな。

~カナエへ

 親父の見立てもあったんだけど、デサロはモンスターの親玉の右腕で幹部クラスじゃないかって。

 幹部クラスはステータスカード操れるらしい。

 今後、デサロを退治しなきゃだなぁ。テキトーも子翼竜もおびえてるし。ギルドからのミッションじゃないけど必要に迫られた。


~ライガへ

 わかった。テキトーも巣に置いて、なるべく広いところに行きましょう。私は本気でやるよ。後方支援できるんだから!!


 話は決まった。デサロは退治する。いい奴だと思ったんだけどなぁ。


「デサロ、弓の練習の仕上げだ!ちょっと離れてるとこまでいこーぜ!」

「カナエは……ほれ」俺は背中に乗るように促した。

「おんぶ?恥ずかしーじゃん、いい年して」

「誰も見てねーよ。お姫様抱っこよりいいだろ?」というと、カナエは俺の背に乗り、おんぶをする形になった。


 俺はなんだよ、カナエの胸ー!胸が背中に当たってる。全身柔らかい気がする。筋力はついてないのかー?というハメになった。


 かなり広い原っぱまで来て、俺の精神修養は終わった。

「デサロ、お前も裏切るのか?どうして近づいた?できるなら本当の事をデサロ、お前の口から聞きたいと思う」

「何の話?弓の仕上げでここまで来たんじゃ……?」

 俺とカナエの顔は真顔だ。

「ライガ、カナエ、どこまで知ってる?」

「それが本当の姿か……」

「デサロがヒトではなく嘘であるということ」カナエは言う。

「デサロの方から本当の事を言ってくれて嬉しいよ」

 デサロの姿は翼竜に似ているが、それよりも禍々しい感じがする。

「私に弓を指導してくれてありがとう。私の武器が増えたよ」


 と話しながらも戦いは始まる。デサロの体に俺の剣は刺さらない。切れない。ヒト型じゃないから殴る場所もどうしたもんか。

 そんな時、後方支援のカナエが俺の剣に魔法をかけた。一時的だが、そこで剣を使いデサロにダメージを与えた。

「デサロ、血が出ているのだからおとなしくしてろ」というのに間合いをとった。そして、俺に向かい矢を射かけた。が、カナエが矢にステータスダウンの魔法をかけて、矢は役に立たなかった。足元に落ちるし。

「デサロ、今度は人間として生まれて来いよ」と俺は言って、デサロの喉に剣を突き立てた。


 はぁ~、疲れた。精神的に。体力は特に平気だ。カナエも元気がない。

「おい、お姫様抱っこでテキトーの所まで行くか?」

 ノーリアクションだ。実力行使だな。

「よっこらせっと。おんぶより重くねーか?」

 うーん、ノーリアクションが続くなぁ。さっさと戻ろう。

 カナエはテキトー他に癒されるだろう。およ?カナエの手が俺の首に巻きついている……。あ、泣いてる。

「泣くのはいいが、鼻水つけるなよ」

「あとで汚れとるの私だもん」

 とりあえず戻ろう……。


「ただいまー。テキトー、その他大勢寂しかったか?」

 俺には懐かないなぁ。カナエにはべったりなんだけどなぁ。

 意志の疎通ができればな。カナエはすっと何かを差し出した。

「デサロが落としたアイテム。モンスターと会話できる魔石」

 んー、デサロの遺品になるのか?物としては助かるが。

「有難く使わせてもらう」

 そういえば、お金は落としてなかったな。手ごたえは確かにあったのに。

 うーん、考えすぎかなぁ?カナエならもっと考えてるんだろうな。


 “デサロの遺品”を使った。「カナエー、さみしかったー!またあの男といたのか」

 うーむ、こんな口が悪かったのか。世の中知らない方がいいこともあるというのは本当だな。

「カナエ、俺この魔石使わない」テキトーの口悪いし、その他にもどんなに言われることか……。

「そう?この魔石どうしよっか?特殊だし、売れないよね」

 迷惑な……。荷物か?ギルドに預けるか?

「ギルドマスターに言って預けるか?」

「それがいいかもね」

 意見が一致した。


アキにて

「ギルドマスターに会いたい」と受付で言った。以前と異なる種類の視線を感じる。うーん、A級冒険者として結構難しいミッションこなしてたしなー。

「どうぞ、こちらへ……」とあっさり通された。

 重そうな扉が開いた。やはり猫だ。

「久しぶりだな、ライガ・カナエ。ん?もう一人はどうした?」

「そのことで話が……」と俺は全てを話したうえで、魔石を預かってほしいと言った。

「それな、魔石の形になってるデサロかもしれない。石を粉砕すればよいが、元に戻っちゃうからなー」

「つまり、まだデサロは生きていると?」

「魔石の形でな。この石を粉々にすればデサロは消滅するんだけど……」

「それって、俺は砕くことはできる。あとはゴマをするみたいにやったらダメか?」

 親父もどうせ見てるんだろ?協力しろよー。

 あっ黙った。カナエ協力してくれないかな?魔石には魔力通じないんだよなぁ。

「じゃ、新しいミッションとしてこの石を粉々にすること!」ってことで。


 おぉう。なんてことを。うーん。一時実家に戻るかー。石については。

 カナエにはその旨を告げて俺は一人でサタハユに戻った。

 懐かしいな。この蔑む視線。

「親父、この魔石は……」と全てを話した。魔法じゃどうにもならないってのも伝えた。

「粉々にしなきゃいけないんだけど、俺じゃ砕くのが精いっぱい。親父、粉々にする方法わかる?」

「はははは、若いなぁ。まだまだケツが青い!」笑えないから実家に戻って来たのに。

「まぁ、この石をすりつぶすとか考えてたみたいだけど、もしこの石の上に岩を落としたらどうなるんだ?」石がなんか汗かいてる……。

 意外とカンタン。俺の親父は「ちょっくら岩を拾ってくる」と家を出て行った。


 石が傷だらけのデサロの姿に戻った。

「ライガの親父なんだよ!危ねーな」

 同感。

「あ、俺より強いからね」

 と言うが早いか親父はデサロの頭と胴を切り離した。虫かよ……。「手と足も取ろうか?一応」と親父が言っているうちにさらさらとデサロは消滅した。やっぱ親父は強いなぁ。

 幹部クラスになると頭と胴を切り離さないとマズいらしい。そして多額のお金がもたらされた。

「岩、拾いに行ったんじゃなかったのかよ」

「そんなのポーズだよ、若いねぇ」


「俺らはミッションの成功費用もあるから一部でいい」と俺が言うと、「当たり前だろ?俺がほとんどやったんだから。うちにも貢献しろよ、息子よ」

 ガメツイな。まぁ、いいか。


 その後、また俺はアキのギルドマスターに石を粉々にした事を伝え、ミッションの成功報酬を受け取り、カナエとテキトーとその他のいるところへ戻った。ら、カナエとテキトーがいなくなっていた。

 休めないなぁ。俺はその他の子翼竜に囲まれたが、何を訴えているのかわからない。うーん……カナエがいない?それはわかる。見れば。

 はぁ、またギルドマスターに相談か……。


 アキにて、「ギルドマスターに会いたい」と受付に言った。

 これまた妙な視線だな。カナエを連れていないから、不満なんだろうか?

 ギルドマスターは一言。「ライガの親父さんに頼め」とな。


第八話 カナエが行方不明~理由も不明


 実家へGO。事情を親父に話した。

「うーん、そのスナキツネが成長してカナエちゃんを誘拐したんじゃねー?」

 親父曰く「テキトーはまだちっちゃかったけど、でも生態がまだはっきりしてないんだからちっちゃいと思ってたらいきなり成長したのかもなー。それとお前の外出が重なって、テキトー?誰が名前つけたんだ?が連れ去ったんだろう」

「名づけって、テキトーに連れていくってカナエに話してたら名前がテキトーになったんだよ!ギルドマスターが親父に頼めってさー。だから協力してください」

「えー、それってお金出るの?」

 子供にたかってる……。でもま、カナエとテキトーがかかってるしな。

「俺のパーティーの金の管理は全部カナエが……」

「それは大変だ。すぐに助けよう!」ゲンキンだな……。


 まずは翼竜の巣。

「お前……カナエちゃんに翼竜産ませたのか?」本気か?

「……というのは冗談で。ここからカナエちゃんとスナキツネとなー」

 こころなしか翼竜の子が怯えてる。人見知りか?

「おい、お前。カナエちゃんは頭いいなぁ。足跡残してるぞ」

 え?マジ?俺、気づかなかった。

「香水とかは動物が気づくからなぁ」

 さて、辿っていくか……。

 ん?「おい、親父。俺の足跡辿ったんじゃないのか?」

 実家にたどり着いてた。「いやぁ、おかしいねぇ」おかしいのは親父だ。カナエの足は俺の足よりもずっと小さいのによく気づかなかったもんだ。

「子翼竜がカナエちゃんの匂い辿れるんじゃないか?」

 子翼竜とコミュニケーションとれないけど、できるのか?

「親父できるんだろ?」

「できないよ?」なんで得意気?

「子翼竜1匹連れていくかー?」うーん、そうなるのかなぁ?

「でもさぁ、スナキツネって強いんじゃないの?それならおふくろが居場所を特定できるんじゃねー?」と俺は言う。

「そうなのか……。でも母さんは巻き込まない。絶対に。こんな時に発表ー!ライガに弟か妹ができるよ♡」おい!

「TPOのTとかもうぐちゃぐちゃだな。おふくろじゃなくても魔法使いならできるんじゃねー?」と俺は言った。

「うーん。でもサタハユの魔法使いなんて弱々のヘボだぞ。どうする?」

 自国の魔法使いをそこまで言うか……。

「ギルドマスターがなんとかしてくれないかなー?」と俺と親父はギルドに行った。


 親父、ギルドマスターと初対面。まさか猫とは思うまい。

 事情を伝え、魔法使いで何とかならないか聞いた。

「そっか、それなら私が探すよ。信用できる人の方がいいだろ?」

 猫だけど……。

「強いモンスタ―の居場所は手あたりしだいこの地図に書いた。2人で取り組んでほしい。ライガの親父さんはギルドに所属してないのに働いてもらうのだから、特別手当を支給する」

 親父がやる気をだした。

「いやぁ、この後もう一人子育てでお金がかかるところだったんで助かります」

 もう適応したのか。しかも発言が揉み手っぽい。仕草もだけど。


 親父、手を抜くなよ。あ゛、俺の武器はほぼカナエが持ってたな。

「お前は武器作りからだなぁ、ははは」笑えねーよ。

「俺はちょいと家で武器を取ってくる。母さんに事情を説明しなきゃだしな」

 その間に武器を作ろう。ナイフ・短剣・長剣・弓・矢……数が多いなぁ。長剣だけでいいかなぁ?ついでにナイフ。


「えー、マジで?俺と全く同じ武器じゃん」不満を親父から言われた。

 ナイフと長剣はダメなのか?

「だって大型の獣には長剣しか急所に届かないだろ?ナイフは急に襲われた時に投げナイフに使えると思った。小さいなら武術でいけるなーと」俺が言うと、「考えてたことまで同じだし」と不満げだった。

 何が不満なんだろう?弓使い系が良かったんだろうか?矢を作るの面倒だったんだもん。


 さ、サクサクと行こう。

 俺と親父はサクサクと進んでいった。どうして地図の当たりではカナエに当たらないのか?スナキツネはそこまで強くないのか?

 そんな疑念を抱きながらもサクサクと親父と俺は勝ち進む。

「なかなかカナエちゃんには当たらないもんだなー」親父はのん気だ。

 そういえばカナエは連れ去られた後、自ら戻ろうとはしていないな。戻ろうとしないのか?できないのか?おふくろみたいに頭の中に話をぶちこんでくることはできないのか?うーん、難しいな。

 そう考えながら、俺と親父は進んでいく。

 ラストの一つでやっとぶち当たった。運悪いな。

「カナエ、久しぶり。戻れなかったのか?戻りたくなかったのか?」答えようとしたのに、テキトーが尻尾でカナエの口をふさいでしまった。

「テキトー。カナエを独り占めしたいのはわかったけど、やりすぎだからお仕置き」

「討伐?」親父が言う。

「違う、お仕置き」俺は言った。


 そう言って、俺と親父はテキトーをまずふんじばった。

 テキトーは尾で攻撃してくるが、親父は尾をつかんだ(抱きしめた)。「モフモフー♡」と親父ちょっと楽しそうだけど、放っておこう。テキトーにはこれは嫌がらせだ。『お仕置き』だからなぁ。

 しつけ的にはどうすればいいかな?

 ん?カナエがなんか言ってる。「甘やかさないで」。はぁ、甘やかすからこんな騒ぎになったんだ。

「しつけはするぞー」と俺は言った。テキトーはずっと俺の事下に見てたからなぁ。ここはひとつ4分の1殺しくらいにするか。

 まずはテキトーを睨んだ。動物相手ではまずコレ。目を逸らさずに適当な間合いを詰めて、一気に全急所に拳を叩き込んだ。

 テキトーは倒れこんだ。やりすぎたかなぁ?

「しっぽに俺がついてるんだから、その事も考えろ!」と親父に言われた。忘れてたけど、親父だし無事だろ?どうせ、俺の攻撃くらい……。

「カナエ、甘やかすなよ。しつけだ」俺はカナエに言った。そして親父は帰っていった。


 これ、子翼竜に全部やるのかな?しつけは大事だ。


 あぁ、カナエがテキトーに治癒魔法使いそうだ。

「そうやって甘やかすからダメなんだ!」と俺は言うが、カナエは聞かない。

 ぼそっと親父が頭の中で「育児に似てるな……」と言うが、幼少期の俺は親父に半殺しにされているが?考えないでおこう。


 俺とカナエとテキトーと子翼竜は巣に戻った。

「カナエ、テキトーの事なんだけど……」まだ機嫌が悪い。

「テキトーが大きくなったから討伐対象になったんじゃないか?」

「え?」

 うーん、やっぱ名前を付けると情が移るよなぁ。カナエを攫ったって前科もあるし。マザコンみたいな感じだけど。

 これもギルドマスターに聞かなきゃダメかなぁ?子翼竜の事も。


 ギルドマスター曰く「ちゃんとしつけなきゃダメじゃーん」と猫に言われてもなぁ。しつけミスったら討伐って事か?

「そのスナキツネ、討伐かなぁ?」「ヤダー!」とカナエは言う。

 が、猫、もとい、ギルドマスターを抱っこして言ってもなぁ。

「カナエ、覚悟できてるみたいに言ってたじゃんか」

「えーでも、やなんだもん」

 ワガママだな。

「俺は切り捨てなきゃキリがないと思ってる。今回みたいのがあると面倒だし。そもそも何で帰ってこなかった?」

「テキトーを捨てて帰れない」

「一緒に帰ってくればよかっただろ?」

「テキトーが成長してるから、問答無用でライガが討伐するかと思った」

 信用ねーな、俺。

「話してくれれば俺はいきなり討伐しない。そんなに信用できないか?」

「……」あ、黙ってしまった。

「おかげでテキトーに『カナエを誘拐』って前科がついたじゃねーか!テキトー、次はないからな。しっかりしつけろよ。とりあえず、テキトーの中で俺の順位は上がっただろうな。ははは。じゃ、帰るか」


 と、こんな調子で2人の旅は続いた。

 俺には妹ができ、親父がメロメロなので俺らを見ることもなくなった。カナエは前科は困るしと子翼竜をきっちりと育てた。

 

第九話 俺たちの生活~食費が……


巣は……大きな翼竜とスナキツネと俺とカナエでビチビチ。だが、まぁいいだろう。

 翼竜は巣離れ(親離れ)するんじゃないのか?とも思うが、いる。この巣はヒジョーに食費がかかる。

 俺は今日も翼竜の背に乗り、テキトーも乗ってるかな?、狩りに勤しんでいる。食費のためだ。

 カナエは子翼竜を育て、食事を各々に作っている。そんな生活をしている。

 なんかあったらギルドのほうから言ってくるだろう。

「ライガ!お前の妹が寝返りをした!初めてだよー!」と親父。こういう連絡はどうでもいいからやめてほしいもんだ。


 久しぶりにギルドから連絡があった。呼び出された。俺だけ。

「まーた誘拐騒ぎを起こさせないようにしろよ!」とカナエに伝えた。

 俺だけって不審だな。とりあえず行くか。

「ライガ、久しぶり」ギルドマスターがフランクになってないか?

「で、要件だが。これまた面倒でな……」この時点で俺は断りたかった。

「サタハユの王が……」あぁ、もうやだ。帰りたい。

「街のギルド対抗で試合をって。その街のギルドで一番強い選手を代表に街対抗でやりたいんだと。それで、このギルドだとライガが該当するんだけど……」

 あの馬鹿王はまーだ姑息な事考えてるのか。そして、親父はこういうのがあるからギルドとかに所属してないんだな。拒否権ないし。

「わかりました。武器は?」

「使用不可」

「え?マジ?」

「ほとんど魔法使いだからね」

「でも魔法使いだって杖持ってるじゃんか」

「杖は武器に相当しないらしい」

 はぁ、余程俺の息の根を止めたいんだな。

「相手を殺すのはNGで半殺しくらいまでOKかな?」

 まーた難しいことを。人間相手で手加減難しいのに。各ギルド代表だから強いんだろうし。修行にいいかな?


 俺はついでに実家に行った。

 ほう、この子が俺の妹とな。うむ。

「親父ー。この子も俺みたく戦士として育てるのか?」

「馬鹿を言うな!こんなに可愛いのに。そうそう、魔法使いの才能があってだなぁ。ちっちゃいけど、魔法の弓をこの子は射る」

 恐ろしい子だ。一刻も早くヒトとして成長してほしい。

「そう、馬鹿と言えば。この国の馬鹿王がギルドの対抗戦をするんだとさ。で、俺がアキの代表。武器の使用不可。殺すのはNG半殺しまでOKだったかな?人間相手で手加減て難しいから大変そうだけど、修行にはいいかなー。各ギルドの代表ってことは強いだろうし。あぁ、悲しいかな、王命だから拒否権ないんだよね。馬鹿王の命令を聞かなきゃなんだけど」

「それなぁ、結構気をつけろよ。いきなり動けなくなる魔法をかけてくるやついるかもだし。こっちは知らなくても、何故だろう、各ギルドにライガの情報が流れているって可能性大だぞ」

 あり得る。なにせ、馬鹿王だから。

「そんじゃ帰って、カナエ達にも連絡。その後はカナエがうまくしつけてるよ。じゃーな」


 巣にて、カナエに事情を説明。

「拒否権ないしだから、ちょっくら参加してくる」

「まぁ大丈夫だろうけど。それより、今日の夕飯の食材の調達をお願いします!」

 あ、それがあった。翼竜も大きいし、みんなかなり食べるんだよな。下手すると街の料理屋にある食材はなくなる。

「では、行ってきます」と俺は翼竜の背に乗り、狩りに出かける。

 大会期間中の食材、どうしよう?大会の優勝賞金てどのくらいだ?商品?換金できるのか?各々の背中に獣の死体を乗せて帰還する。

「血抜きはしてある。カナエも調理できるようになっただろ?」

「まあね。でも、少なくない?」

「俺が節約すれば大丈夫だろ」おふくろの炭になった料理を胃に……って時あったんだから大丈夫だろう。

「そうそう、俺が大会期間中の食材はどうする?」

「どうしよっか?」

 俺の頭の中で親父の声がする。「ははは。俺の出番か?俺がライガの代わりをしてやろうか?」申し出は助かるけど、懐いてないんだよなぁ。「そんなの力ずくだ」力業ですか……。

「カナエ、親父がな大会期間中に俺の代わりに食材調達してくれるって」

「えー、申し訳ないけど有難い!是非お願いします!」

 俺の頭の中で親父が「カナエちゃんの手料理食べてみたい……」と、そうか毎日炭と戦ってたのか。俺は保存食とか考えたんだけどな。買うにしても、1食で街中の食物がなくなる。「親父、頼むなー」


 大会当日、

 武器の使用不可だから、俺は鎧装備だけであとはナシ。手ぶらで楽と言えば楽だな。

「君はアキのライガ君かい?」何故名前を?

「あぁ、各ギルドに君の情報は流れてるよ。このご時世に戦士を生業にしているとか。アキのレベルもしれてるね。ではまた会場で」

 何が言いたかったんだ?戦士を貶めたかった?アキのレベルを貶めたかった?それにしても自分は名乗らないとは、無礼だなぁ。


 開会式にて久しぶりに馬鹿王の顔を見た。なにやら企んでいるのか。会場がすり鉢状だから逃げられないよ的な?

 第1試合、ライガの圧勝。

 やっぱり力加減が難しい。

 第2試合、ライガの圧勝。

 ギルドの代表なんだよな?大丈夫か?

 第3試合、ライガの圧勝。

 魔法使いって何かを唱えてる間無防備すぎだろ?

 準々決勝、ライガの圧勝。

 いいのか?

 準決勝、ライガの圧勝。

 大丈夫か?サタハユ。心配になるなぁ。

 決勝にて

「やっとまた会ったね。ここまで来る前に消えてしまうんじゃないかとも思ったんだけどね」

「えーと、とりあえず名前を聞いてもいいですか?」

「すまない、名乗っていなかったか。いやぁ、あれで君とはお別れと思ったから」

 早く名乗れよ。

「イリチギ代表のロッシュだ」

 へー。

「そんじゃ、始めようぜ。ロッシュさん」

 ロッシュは何やら唱え始めた。親父の考えなら俺の動きを封じるとかか?

 でも、ライガはロッシュの喉を軽く抑えた。

「ぐっ」

「気持ち悪いよなぁ?俺、たまに親父にこれやられるんだよ」

 ライガは体が重くなったのを感じた。

「なんだよ、コレ」

「君が僕の方に近づいたときに魔法陣に入ったんですよ、さっき会話しながら地味に書いてたんです。武器は使用不可だから、君は肉弾戦でくるでしょう?ならばということですよ」

 ライガは思う。ならばこの陣から出ればいいという事だな。しっかし肉弾戦にはどうしたらいいものか?

 考えているうちに体を動けなくさせる魔法にかけられた。

「うわーっ、やってもうた」この間によく考えよう。えーと、この後の展開はおそらく、氷の矢とか炎の矢とか飛んでくるんだろうな。でもそもそも俺の筋肉にそんなの効かないし、MPが減っていくだけ。うむ。放っておこう。で、向こうが勝手にMP減らしていくのを見てよう。

 ロッシュはありとあらゆる攻撃魔法をライガにかける。が効かない。プライドに触るので、かけ続けた。そしてMPは減り自滅した。ライガは動けるようになり、ロッシュを気絶させてライガの勝利。


 ライガの優勝!だが、悉く期待を裏切らない。またしても王直属騎士団が続々と湧いてきた。

「なんだよー。俺は運動不足なの!全員のしちゃうけどいいの?」

 と、今回も山を作った。そして一番下の人を心配した。

「各ギルド代表よ!アキ代表、ライガは王に背いた。故に討伐対象としてみなす。かかれ」

 はぁ、そういうシナリオですか。こっちは優勝賞金とか期待してたんですけど。

 ライガは仕方なく、山をもう一つ作った。一番下はどこのギルドの代表だろう?ん?ロッシュか?運悪いなぁ。っていうか王に背くなんて今に始まったことじゃないのに、全く。さ、帰ろう。馬鹿王に付き合ってらんない。

「待て、ライガ」馬鹿王から呼び止められた。

「王直属とかならお断りです」

「……」おい、その話だったのか?もう何度も殺されかけてるのに王直属はないわー。

「優勝賞品とか賞金ならもらうけど」

「金で5キロ」

「それ貰ったら、帰る」金で5キロかぁ。うちの食費だと半年?くらいかな?探知機とかついててもあの巣には翼竜もスナキツネもいるし、ガード堅いんだよね。


「ただいまー。って親父お疲れ。翼竜とかと仲良くなったか?」

「狩りの途中、背中から落とされた」

 俺は笑ってしまった。内心「よくやった!」だけど、親父には「ご愁傷様」と言った。

 大会であったことを全部伝えた。

「さすが馬鹿王って感じ」とカナエ。

「こういうの嫌だから俺はギルドに所属してないんだよ」と親父。

「あ、優勝賞品。金で5キロ」

「実家にも分けろよ。ここでお前の代わりしてたんだから」

 子供にたかるなぁ。

「いいんじゃない?助かったし。翼竜に乗れないからっておじさんは徒歩で狩りしてきてくれたのよ」

 そういうんだと困るんだよね。『モンスターだけどヒトと暮らしてるから狩りしてます』っていう建前みたいのが必要だったのに。それだと、翼竜とかテキトーが暴れてるように見えちゃうからヒトが必要だったのに……。

 とりあえず、金1キロ渡して親父には帰ってもらった。


ライガ age19 HP 計測不能   体力 計測不能

 戦士      MP 0      知力 4

     戦士に珍しくオールラウンダー


 あ、年齢上がってる。忙しくて忘れて通り過ぎたけど、俺の誕生日あったな。

「カナエ……お前も忘れてたんだな」

 いや、てへぺろされてもなぁ。

「そういえば、カナエは俺の妹見る?いったんサタハユに戻らなきゃだけど。こういうのって移動魔法みたいのないの?巣と俺の家」

「あ、あるよー。それをマスターしよう。そしたら移動が楽だ」

 体力が落ちないといいね。

「俺の妹、既に攻撃魔法使おうとする危険な子だ。なんか、魔法の弓を放とうとするらしい。ちっちゃい矢だけどね。逆にあぶなくね?」

「ライガの妹って感じ。おじさんは戦士として育てる気は全くないみたいだし。魔法使い?学校でイジメに遭いそう」

 親父に100倍に返されるけどな。あの溺愛はすごい。



第十話 久しぶりの帰還~初対面


 カナエ、俺の妹に初対面。

「可愛いー♡」

「そうだろう♡」親父と何をやってるんだ?

 ま、こないだよりもヒトっぽくなったな。攻撃魔法とか、せめて首が座ってからにしてください。妹に敬語って変だけどさ。

「おじさん、この子は魔法使いに育てるの?」

「本人の資質だね。今のところ魔法使いだけど、サタハユにいたら強すぎだろう」

「恐らく」それは俺も思う。あ、ちっちゃい弓が。親父、体で受け止めんのかよ……。

「じゃあ、サタハユから引っ越しちゃうんですか?サタハユの最後の砦だと思ってたのに」

 それは俺も思う。騎士団とか弱々だし。こないだの対抗試合も屁みたいだったし。

「そうだなぁ、環境がいいところで育てたい」

 俺は?めっちゃ蔑まれたりして育ったんですけど!

「どっかいいところないかなぁ?アキのギルドマスターは知らないかな?」

「アキもサタハユの一部だからね、保証はできないけど一応聞いてみる」

「でなー♡夜泣きとかもするんだけど、矢が飛びまくって、母さん大変なんだよー」

「それは大変ですね。私のとこの巣もまた増えて、子翼竜が。夜泣きされると、ライガが気絶させるんですよねー」

「翼竜とうちの可愛いレイカちゃんを比べるな!」

 今知ったぞ。レイカという名前。まぁ、レイカが夜泣きして気絶させることは親父しないだろうし。

「あとな、すでに決定事項だが、レイカちゃんは嫁にやらん!」

 本人の意向は?あ、無視か。俺も意向を無視されてこうして毎日鍛錬してきたわけだし。

「えー?レイカちゃん、一人でおばあさんはきっと嫌ですよ。誰か側にいた方が……」

「でも、嫁にはやりたくない」

 禅問答だろうか?

「俺らも帰らないと。夕飯の食材を狩りに行かないといけないし。俺は翼竜から落ちないぜ」

 親父から一本とった気分だ。気分がいい。

「さ、帰ろー。ぐふぅ、何しやがる!親父!」

「何だか、腹が立ったから、ちょっと殴った」

 すっげえ痛い。肋骨の1本くらい折れてるかもだなぁ。俺じゃなきゃ、病院送りだ。

「帰る。じゃーな、おふくろも気を付けて」

 そして帰路についた。


「ライガ、大丈夫?」

「多分。そうだな、肋骨の1本くらい折れてるかもだけど、そんなの日常だったし。そのうちなおるんじゃね?」

「軽いなぁ。普通は家じゅう騒ぎになって、病院に行ったり、治癒魔法で治したりするもんだよ」

「日常だったからなぁ」

「治癒魔法、やってみるよ」

「助かるけど、悪化はさせないでくれよ」

「一言多い!」

 カナエが何かを唱えると、体がポカポカとして全身温泉に浸かっているようだった。

「で、どう?」

「多分、よくなった。あれは治癒魔法なのか?温泉に浸かってるみたいだったけど?」

「よくわかったわね。温泉効果で治すのよ。で、どうかな?って」

 これまた微妙だな。湯治?渋いな。

「温泉によって効果が違うんじゃないのか?」

「そうなんだよね。だから、今は治癒魔法の修行中」

 俺は実験台か……。


 そうだ、夕飯の材料を狩りに行かねば!

「カナエ、狩りに行ってくる!」

「ちょっと待ったー!」

 カナエは金4キロを掲げた。

「これで、食材を買う方が現実味がある。ついでにギルドマスターに魔法使いに優しい国を聞いてくるってのがいいな」

「それなら、俺一人で出かけるか。えーと、カナエはこいつらに前科をつけるような行動はしないように」


アキにて

「ギルドマスターに会わせてください」と受付で俺は言った。

「マスターは、今はちょっと……」と言われた。初めて?なんだろう?俺、なんかしたかな?そしてギルド内部の視線が微妙だな。

 どのくらい夕飯の食材買って帰ればいいかな?俺は胃を節約できる(過去に炭となった夕飯をあてがわれた経験より)からいいとして、あの巣は食費かかりすぎなんだよ!

「ライガ様、どうぞ、マスターがお呼びです」

 ライガ様?

「待たせたね」

「いえ、それほどでも。俺の要件です。えーと、俺の妹が魔法使いの才能があるようなんですけど、うちの家系は代々サタハユで蔑まれてきたようで、親父がサタハユではなくもっと魔法使いに理解のある国で育てたい。と言っています。がどこかいいところはご存じですか?」

「それは簡単な答えだ。私の方の要件は……非常に言いにくい。君達には世話になったんだが、前の対抗試合とかライガ大活躍だったそうで」

「恐れ入ります」

「それでなぁ、ついに一家をサタハユから追放って話が出たんだよ」

 それで、あの微妙な視線か。

「サタハユ、滅亡も近いですね。それはいいとして、うちはいいですよ」

「それで、このギルドに所属ってのもできなくなるんだよ」

 うーんどうして猫になったのかとかも知りたかった。

「わかりました。ギルドの件はカナエにも相談しますね。サタハユ追放の方は実家に伝えます。どこが適当でしょう?」

「そうだな……ここより東にいった国が魔法使いに寛容だな。ただし、入国検査のように試合をしてある程度の強さがないと入れない。乳児は……急遽のステータスカードかな?」

 全員ステータスカードにすれば楽なのに……。

「わかりました。そのように実家には伝えます。カナエは俺の巻き添えみたいな感じですか?」

「悪く言えばそうだな」

「最後に、その姿になった理由ってなんですか?」

「もういいだろう」

 猫の姿から、人の姿になった。

「私は姿を猫とヒトと自由に変えることができる。猫の姿、呪いと言ったがウソだ」

 普通に騙された。

「ただそれだけの能力だ。猫の姿でいるのは、人の姿だと筋肉の付き方とかで判断が下されるだろう?猫だとそれがない。めっちゃモフモフ可愛がられるけどな」

 カナエは来るたびに抱っこしてたな。

「わかりました。このことは内密にします」

「頼んだぞ」

「では、失礼します」


 さーて、夕飯の食材はどれだけ買えばいいんだ?肉屋かねぇ?

「お兄ちゃん、いらっしゃい!」

「えーと、今ある分全部もらえますか?あ、生肉」

「……いいよ」やっぱりひいてる。

「兄ちゃん、コレ持てるかい?」40キロくらいか?

「あ、余裕です」

 絶対足りない。どうしよう。帰る途中で運よく獣に遭ったら食材にしよう。


第十一話 王の決意~ありがたやありがたや


巣に戻った。追放の話も伝えた。

「ふーん。ついに王もそういう手に出たって感じだね」

 意外とカナエの反応が薄い。

「この子達はどうしよっか?」

 この子って十分デカいが……。

「魔物だから、国境は勝手に越えていいだろう?えーと、目的地は東の方の国って聞いたけど?」

「それなら、パンズかなー?」

 よくわからんが、とにかく追放だし行ってみよう。

 親父よ……話を聞いてるんだろ?レイカに夢中じゃないよな?「あ、パンズね。了解。明日でもこの国の国境で待ち合わせするかー?」

 国境……たくさんあるんだけど。「一番東に近いところ!カナエちゃんならきっとわかる!それじゃーな。俺は今日もレイカちゃんを愛でるぜ」はい、そうかい。

「カナエー、明日一番東に近い国境で親父たちと待ち合わせってことになった。ところで、お前は家族に何も言わなくていいのか?」

「んー?別に私は『追放』じゃないから。ライガの家だけでしょ?」

「何言ってんだ?お前もだよ」

「へっ?何で?」

「スナキツネとか翼竜とか育てまくって、愛されてるからじゃねーの?」

「嫉妬?王から。今更だけど、嫌だなぁ。あ、家族に言わなきゃ。急ぎ伝えてくる」

 翼竜に乗ってカナエの家の上空まで行き、そこから魔法でのんびりと下降した。カナエのみ。

カナエは家族に事情を説明し、今生の別れとなる。……かと思ってたのに、カナエ父は「嫌だー」と駄々をこねて、結局カナエの家族も共に移動となった。

 翼竜、3人乗せれて良かったね。大好きなカナエのためだもんね。


 翌日、俺とカナエの家族は東に最も近い国境にいた。親父たちの姿は見えない。何故だろう?わかるがわかりたくない!親父、方向音痴なんだよな……。最も近いってわかるのかな?おふくろ、なんとかしてくれよ、そこ重要だから!

 親父ー、また『迷子』してるのか?とにかくおふくろに頼って移動すべし。

 おぉ、すぐ傍にきた。セコイぞ。おふくろの魔法使ったな。いや、使えって言ったの俺だけどさぁ、家から俺らのとこまでワープみたいなのはズルくねー?俺らは懸命に最も東の国境まできたのに。

「スナキツネとかはどうしたんだ?」

「あいつらに国境はないだろう?勝手についてくる。で、適当な場所を探すさ」と答えておいた。

 現時点で適当な場所の見当もつかない。ついてくる間に、誰かに討伐されないといいけどな。


 国境にて

「この国には強い者しか入国できません」知りません!

「えーと、俺のステータスカード……は無くなってるか、ギルドから脱退させられたもんな。どうやって、計るんだ?」

 国境警備の人が何やら機械を俺の手首にあてた。

 すると、ステータスカードのような数値が出てきた。

「ふむ。ライガさん、あなたはOKです。どうぞ」

 どれ、親父の番だ。何だか、警備の人の顔色が変わった。「どうぞー!」

 なんで?

 おふくろの番だ。「へぇ、魔力が高いですね。知力も申し分ない。どうぞ」

 妥当だな。そうだろう。常日頃から無駄に魔力を使って俺とカナエの生活を覗く余裕がある程の魔力だからな。

「えーと、カナエさんは……。魔力が低いですね。どうしてもというなら、魔法実習生という形になりますが?」

「どうしてもだ!」俺は言う。「では、カナエさん、どうぞ」

「えー、レイカちゃんは…」

「可愛いだろう♡」

 そうではないだろう?

「魔力が非常に高いです。今の年齢を考えると、逆に制御が必要かと……。体力はさすがにないんですけどね」体力を0才に求めてはいかんだろ。

「じゃ、OKだな」と俺の家族は全員OKだった。

「ではカナエさんのお父さんは……。OKです」何故?

「じゃお母さんもOKでしょ?」

「そうですね。OKでしょう」とカナエの家族もOKとなった。


 俺の家は……何故だろう?大きな屋敷に使用人があてがわれた。レイカは魔力が強すぎるからということで、両手首にブレスレットをすることになった。それで制御をするらしい。ただし、新生児だから6時間おきに違うものと交換をしなくてはならない。面倒だけど、使用人の人がやってくれる。ありがたやー。


 カナエの家は、普通の一軒家。3人で暮らすには丁度いい感じ。

 しっかし、うちの家族もカナエの家族もなーんか隠してるのか、何で国境でフリーパスみたいだったんだ?俺の実家も待遇が異常だし。


第十二話 新しいギルド~マダムがマスター


 とにかく、俺とカナエはパンズのギルドに登録しに行った。

 視線が痛いというか、変な視線。

 受付でいきなりギルドマスターに会わせてくれるという話になった。

 ここ、パンズのギルドマスターは『猫』というわけではなく、『マダム』という感じだった。

「国境警備から話は聞いてるわ、へーあなたがライガ君。で、あなたがカナエさん。そうねぇ、カナエさんには、魔法実習生をしてもらわないといけないわ」

「具体的には?」カナエは訊く。テキトーの世話とかもあるし、私は結構多忙なんだけど。

「魔法学校に入学かな?」

「「え?」」

「それって結構な時間拘束されるんじゃ……」

「最速なら、3週間で卒業できるわよ」

「カナエ、最速記録を更新しろ!」

 テキトーの世話とか俺にはムリ!

「あ、あと郊外で結構広くて誰も来ないような場所ありますか?安全な」

「難しいこと聞くわね。それは、一緒に暮らしてるスナキツネとか翼竜とかを考慮してって事?いやぁね、そんなに睨まないで!情報はアキのギルドマスターからももらってるのよ。ちょっと南の方に行ったら、湖のほとりで広くていい場所があるわよ」

「湖のほとりなのに、観光とかないんですか?」

「あら、バレちゃった。観光をしようにも湖に竜が出るっていうんで、誰も近づかないのよ~」

 ついでに、俺らにそいつの退治か?まぁいい。

「とりあえずはそこを拠点にしますよ。情報ありがとうございました」


 南の方の湖は……とここか?

「カナエ、ちょっと大声出してみろ。翼竜とテキトーを呼ぶ」

 カナエが声を出す、というか呼ぶとマジで集まった。うーん、また食費がかかる日々だな。ここはやっぱりカナエには最速で魔法学校を卒業してもらおう。

「景色いいねー。それに湖のほとりだから、水に不自由しないし。場所的にOK」

 いや、お前はここから魔法学校に通うんだ。大丈夫か?

 うーむ、レイカの余った魔力をカナエが手にできたらなぁ。そういう魔法ってないのかなぁ?魔力の共有みたいな……。


 翌日、カナエはドヤ顔で俺にある紙を見せた。

「どーよ?一日で魔法学校卒業してきた」

「お前……どうやったんだよ?魔法でズルはできなさそうだしな」

「えー、ライガが言ったように、他人の魔力を吸い取って自分の魔力にするような魔法を身に着けた!」

 それは……チートというものでは?とは内心思ったが口には出さないでおこう。

「そんじゃさあ、俺の実家に行って毎日レイカの魔力を吸い取ってくんねーか?そんだけ余ってるんだろ?」

「そうだねー、ついでに移動するやつもライガのお母さんに教えてもらおうかな?」

「あ、突然国境のとこに現れたやつか」

「そうそう、あれ便利よねー。目的の所に場所じゃなくて人物めがけていけばいいんでしょ?すごい楽じゃん」

 基本的に魔法って楽に楽にって考えたらできるんじゃないかと俺は思ってしまった。

「そんじゃ、いってらっしゃーい。俺はその間に狩りに勤しんでる」

 この辺のモンスターって旨いのか?食えるんだろうか?その前に、湖の竜(?)って大丈夫なのか?俺は大丈夫だけど。

「それじゃあ、行くぞー」

 ん?翼竜が背中に乗せてくれない。これは……反抗期だろうか?

「夕飯が食べれないぞ、カナエ特製の夕飯だぞ」と誘惑してみたが、ダメだった。

 俺……本格的に嫌われたのかな?もしくはこのあたりのモンスターはマズい。あと、湖のが気になる。あー、どうしようかなぁ?湖のは出会えたら秒殺できるとして、このあたりのモンスターがマズいってのはいただけないな。カナエが帰ってきたら相談しよう。

「今日の夕飯抜きかもだからな!」とだけ伝えておいた。


 カナエは帰ってきた。

「レイカちゃん、マズいよ~。制御装置がこの街にあってよかったね。魔力ありすぎ。私の魔力かなり上がってるよ」

「俺には全くわからないんだけどさぁ、翼竜が俺を背中に乗せてくれないんだ。反抗期か?それともこの辺のモンスターはマズいのか?あと、考えたのは湖の竜(?)が気になってる」

「反抗期はとうに過ぎてるよ(笑)。マズいのは困ったね。食事にありつけないよ。湖の竜か……。可愛いといいな」また始まった……。

 予感はあったが湖の竜まで手懐けたいとは、どうしようもないなぁ。よかった待ってて。勝手に俺が動いて秒殺してた哀れな可愛い湖の竜を見たら、俺はカナエに絶対怒られる。育てたいんだろうか?


「どうやって湖の竜と出会うんだ?なんか都市伝説みたいになってんじゃねーか?」

「そうなんだけど、うちの子たちが反応してる限りなんとかしないと、食事もできないんだよ」

 それは死活問題だ。

「どうしたらいいかなぁ?影も見たことないんだけど……俺」

「ライガ!この有り余るほどの魔力で魚群探知のように探す?」

 なんてことだ?妹の魔力が魚群探知のような使われ方をするとは……正直微妙だ。

「お願いします」

 そうして、俺らは船を借りて、湖の竜を探した。

「魚は見つかるんだけどねー」

「おい!それ、今日の夕飯にするべきだと俺は思う。あいつら狩りに出かけようとしないからさぁ。今日の夕飯抜きかと思ってたところだ」

「テキトー達、魚食べるかなぁ?」

「食べさす。嫌なら今日の夕飯はないと伝える」

「うわー、ライガ鬼みたいー」

「俺はそうして育った。親父は鬼だ」

「えー、今日もレイカちゃんにメロメロだったよ?」

「男子を育てるのとは違うらしい。戦士にもしないって言ってるし」

「そうだよね、あの魔力の量なら魔法使いが妥当だよね」

 意味は違うがまぁいい。

「あ、ライガ!魚とは違うっぽい影がうつった」

 俺にはよくわからんが、違うっぽいんだろう。

「じゃ、素潜りでちゃちゃっとしばいてくる?」

「そうじゃなくて、姿を見たい!」

 どうすればいいかなぁ?

「カナエ、お前さぁ。モンスターに懐かれやすいじゃん?だからうまいこと寄ってこないかなぁ?」

「だといいんだけどね……」


第十三話 湖の竜との対面~生き物係なんだろうか?


 俺とカナエは湖に出かけた。竜のウワサさえなければ観光地だろうな。今はウワサで俺たちの居場所になってるけど。

 マジできた。カナエに寄ってきた。カナエスゲーな。

「うーん、この子は成長しきっててあんまり可愛いーって感じじゃないなぁ」

 カナエ、感想がヒドイ!褒めて伸ばそうよ!

「で、どうする?」

「一応私らで管理かな?ここで討伐とかしちゃったらここが観光地になって住処がなくなる」

 正論だ。

「管理ってどうやって?」

「飼育?できるかなぁ?もう育っちゃってるからなぁ」

 しかしやってもらわねば、テキトーとか怯えてるし。

「頼んだぞ、俺らの生活がかかってる!」

「何食べるのかなぁ?やっぱ魚?生?うーん、困ったなぁ。でも、私に懐いてるっぽい感じはする」

「翼竜と一緒に狩りに出かけたら、みんなと仲良くできるかな?」

「この子は空飛ぶ系じゃなくて泳ぎが得意な感じだからそれはないな。みんなで水浴びしてみる?」

「まずはコミュニケーションだな。それでないと仲良くはなれない」

「だね。テキトー達連れてくるね」とカナエは魔法で移動した。

俺と二人(?)っきりだけど、この子(?)は攻撃とかしてこないよな……。カナエ抜きでも仲良くはできるよな、とりあえず攻撃とかしないでね。殺気も出さないで。俺、攻撃しちゃう。あー、早くカナエ帰ってこないかなぁ。

「なぁ、名前つけようか?」と俺は湖の竜に話しかけた。

「カナエにつけてほしい?」のかなぁ?やっぱ。そう考えるとテキトーには悪いことをした気がする。

「オスなのメスなの?それによって名前も変わるけど?雌雄同体?わっかんないなぁ、俺には。カナエー帰って来いよー」

 あ、来た。大軍を連れて。でも何だか怯えてるっていうか人見知り?隠れてないけどカナエの後ろにいるし。

「カナエ、この湖の竜にも名前つけようかと思ったんだけど、なんかない?」

「そうだねー、『ユーラ』は?」「それでいいんじゃない?」俺には名づけの才能がないから即採用。

「お前は『ユーラ』でいい?」と俺は湖の竜に聞いたが、カナエがつけたからか喜んでいた。

「さて、今日は暑いし、水浴びだよ。テキトーもみんなもユーラと一緒に湖に入って!」

 俺もか?俺は唯一遠泳が苦手だ。我が家の遠泳とは400キロは泳ぐものだ。その間、親父は攻撃をしてくる。トラウマになるよなー。

 なんだと?!カナエが用意がいい。水着を着用している。これは、成人男子には刺激がきついです。眼福と言えば眼福ですけど。俺は水着ないし。

「コラ、ライガ。水着なくても男ならどーんと服のまま入らんか!」と頭の中で久しぶりに親父の声が聞こえる。見てるんか?親父は眼福だろうよ。若い娘の水着姿。将来のレイカに思いを馳せていろ!

 そうだなぁ、服を洗濯するのはカナエだし、服のままでも俺は泳げるからいいか。

 うぉっ、ユーラよ、服を引っ張っていきなり引きずり込むとはそんなに俺からお仕置きされたいのか?水中戦もできるぞ?いいのか?やるぞ?俺は訓練で1時間くらい無呼吸で動けるようになったからな。

 さて、ユーラお尻ぺんぺんだ。尻はどこだよ?体でけーな。尻が見つからん。

「カナエー、ユーラに服引っ張られて、水中に引きずり込まれたからお尻ぺんぺんしようと思ったけど、ユーラの体がでかくて尻が見つからない!」

「ご愁傷様……。ユーラの全形がわからないんだよねー。他の場所に一撃にしとけば?ユーラ、ダメだよ、ライガを怒らせたら」

 カナエは甘いな。とりあえず、頭以外の所に一撃加えた。水中だし、陸上よりダメージはないはず。

 およ?ユーラが変。

「ライガの一撃が強すぎたんじゃないの?」

「俺のせいかよ!」

 ユーラは卵を産んだ。

「メスだったのか?俺の一撃で生まれたのか?なんか微妙な感じ」

「だから、なかなか現れなかったのかなぁ?」

 卵からはカナエが「可愛いー!」と叫ぶ小さな首長竜が生まれた。ユーラの尻は知らんが、その子供は可愛い。水生か、やっぱり。ユーラとお揃いか?で、飼うんだろうな。

 この子は『ユール』と名付けた。子供から育てるし、テキトー達もこれで大丈夫だろう。心配なのはこの集団の食費だ。水生の親子は自分たちで採るとして。俺らは狩りに出かけなきゃなんない。相変わらずの生活。


 湖の竜は増えて、危険はないけど俺たちの住処としてここがあてがわれている今、このへんが観光地になっては困る。

 というのに、この国一番の金持ちが(地獄耳だな)ここらの土地の開発に乗り出すそうだ。誰だよ、この辺の土地売ったの。え?親父かよー!また面倒な。

 金持ちはカナエ自身にも興味を持ったようで、テキトーとかうちのがみんな敵意を抱いてる。殺気は出してくれるなよ。あ、俺に向かった殺気じゃなきゃいいのか。どうぞ。

 して、親父よ。金で1キロはあったはず。もう金不足なのかよ?おかしくねーか?どういう金の使い方したらそうなるんだよ?「えー、レイカちゃんが可愛くて♡ いろんな服を着せては写真撮って、写真館で写真撮ってたらそうなった」馬鹿かよ。いや、親バカだけど。服着せるまではいいとして、そこは心のアルバムに残しておこうぜ?そして服着せすぎたんじゃねーの?「うーん、100着くらい?」どうしようもないな……。うちの住処らへんの土地を勝手に売るとかやめてくんねー?

「だって、ライガはどこの国にも成人の申請してないじゃん。だから、ライガのものは俺のもの~♪」カナエのものでもあるんだから、考えろよ!

 と、頭の中で親父と口論をしていてもあんまり成果がなかった。成人の申請?なんだそりゃ?

「カナエー、『成人の申請』ってなんだ?」

「え?それも知らないの?知ってるとばかり思ってた。18才になったらとりあえず住んでる国に成人になったよーって申請するの。そしたら、いろんな権利が自分のものになるのね。もちろん義務も発生するんだけど。私はサタハユにいたから、サタハユで申請したけど、19才のライガはまだ申請してないの?」

「それなんだよ。そのせいで、ここらの土地を親父に勝手に売却された」

「え゛、それはマズくない?一刻も早く申請しないと!」


 そういうわけで、カナエ監修のもと俺はパンズで成人の申請をした。でも土地はもう売っちゃってるんだよなぁ。親父が。

「おじさんはどうやって、お金減らしたの?だって金で1キロはあったでしょ?」そうなんだよな。

 俺はかくかくしかじかでと伝えた。「親バカが極まってる……」とカナエは呟いた。

「でもま、仕方ない。その金持ちに直接交渉しかこっちの手はないねぇ」全く。親父には困ったもんだ。

 カナエが「良い子でお留守番しててね♡」と言って、俺とカナエは金持ちの屋敷に行くことにした。


「行く前に、レイカちゃんに魔力貰っといた方がいいかな?」

「その方がいいかもな、何かの役には立つだろう」と俺は言って、結局俺の実家にも顔を出した。その際。カナエの親父への口撃がすごかった。勝手に土地を売ったこと。レイカに甘すぎる、お金の使い方がおかしい。ライガに成人の申請の事くらい教えておけなどを親父へと訥々と説教していた。親父は正座するしかなかった。おふくろは何を思ったのかその様子を録画してるし、俺は何しに来たんだかって気になりつつあった。

「カナエ、魔力の充電(?)」「あ、そうだった。おじさんの顔みたらつい……」

『つい』がスッゲー長かったけどな。おふくろは異常な行動するし、普段は見れない行動だ。目的がわからん。

「準備できたかー?そんじゃ、その金持ちのところに行くぞ」

 あらためて、俺とカナエは屋敷に向かった。


第十四話 金持ちと初対面~お金があるっていいなー


「デカい屋敷だな。維持費がかかりそうだ」

「ライガ、すごい貧乏くさい発想ね。金持ちなんでしょ?庭もきれいでいいじゃない?ん?なんで庭が荒れてるの?」

「知らん。金持ちの考えていることはわからない。これが『粋』なのかもしれないしわからん」

 確かに荒れているように見える。『粋』いうか、花とか枯れてるし、庭師がいるんだよなぁ?金持ちはわからん。『粋』なのか?

「玄関まで遠いな。お前、疲れねーの?」

「最近、体力ついたのかなぁ?毎日結構な量の獣をさばいては料理して、後片づけしてんじゃん。それでかなぁ?」

 なるほどな。確かに結構な重労働だよな、あれは。さばくのだって結構大変だし。

 俺とカナエは玄関のチャイムを鳴らした。電池切れ?音が鳴らない。

「カナエ、魔法で呼びかけてくんない?」

「それが早いかも」

 

 その後、俺とカナエは金持ちと対面した。

 容貌は……ウワサだと美丈夫を絵にかいたようだというが、目の前の男ははっきり言ってむっさい。無精ひげだし、その服は洗濯をいつしたんだ?って感じだし。あぁ、動物連れてこなくてよかった。かなり臭そうだ。清潔感とはかけ離れている。

「あの、申し訳ありませんがあなたの全身を洗濯します。もちろん魔法で」

 いや、ここで洗濯板とか使われても逆に変だ。

 男はウワサのような感じになった。清潔感よ、こんにちは。

「私の名前は、ウーエス・ジェムだ。そちらの要件は?」

「えーと、俺の名前はライガ。戦士です。で、こっちのがカナエで魔法使いです。要件は、俺の親父があなたに売った土地を返却願いたい。もちろん返金します」

 あー、なんか。俺が親父に金を与えたような感じでなんか腑に落ちないなぁ。

「あの土地かぁ。今後リゾートに開発してく予定なんだよね」

「その開発費はどこから捻出するんですか?失礼ですが、あなたは金持ちという感じではないですね」

「そのリゾートで一山あてる気なんだけど」

「残念ですが、私どもがあの辺に居座る限りはあの辺りに平和は訪れません。そして、あの辺りから移動する気はありません」

「困ったなー」

「他の土地でリゾート開発ってのはできないんですか?」

「『目玉』となるようなものがないんだよ。だから、開発してもすぐ頓挫するだろうね」

「あの土地での『目玉』は何ですか?」

「幻の湖の竜かな?それにはカナエさんあなたの協力が必要不可欠なんだよ」

「私は協力しません。竜を見世物にするという考え自体、私の生活と違います。共に生活をしている家族です。それに私だけここに残るというのは不可能です。スナキツネとか翼竜とかも一緒になります」

「素晴らしい!彼らも目玉になりましょう!」

 だから、家族だと言ってるのに。聞いてたのかこいつ?

「彼らは意志を持っています。自分が見世物になる事を嫌がるでしょう。そして暴れる……」

「カナエさんならセーブできるのでは?」

「彼らの意志を尊重します」

「暴れるならば、討伐ですね」

「だから、家族だって言ってんじゃないか。石頭だなぁ。カナエも協力しない。俺らもここに居座る。さぁ、ウーエスさんはどうしますか?」

「カナエさん、結婚してください!」

「「はぁ?」」なんでそうなるんだ?理論が破綻してないか?

「夫婦ならば、協力は惜しまないでしょう。一蓮托生です」

「お断りします。ビジネスの関係って嫌なんですよね。それに、私にはスナキツネやらがついてきます。食費がとんでもないですよ?とてもじゃないけどリゾートが完成してうまくいっても、生活がうまくいくかはわかりませんね」

「カナエさん自身に興味があるんですが、ここは身を引かざるを得ませんね。食費って大きいですね。あなたたちはどうやって?」

「俺が翼竜の背に乗って、狩りしてくる。で、その獣を食べる」

「なるほど」本当に納得したのかよ。

「これはあの土地のお金です。いったいいくらであの土地を買ったんですか?」馬鹿親父から。

「金で500グラム」

「それなら、迷惑料も含めて金で600グラムあれば十分だろ。それと、屋敷に固執しないで、ここを売って狭い家でも虎視眈々と一山狙えばいいじゃないか?」

「ビジネスにはハッタリも必要なんですよ」

 庭が荒れてたりしたんじゃハッタリもクソもないと俺は思うけどな。むしろマイナスイメージ?

「そんじゃ、そういうことで」

「カナエさん、また今度」カナエだけかい!

 そして俺らは住処に戻った。


「あの、金持ちもどきは何だったんだ?」

「さぁ?今度街に行ったら図書館で家名がジェムだっけ?で調べてみるよ。有名人ならわかるでしょ」

 カナエに好意を持っていることはわかった。あと、投資が下手なんじゃないか?あの家のあれ具合。

 とにかく、夕飯の狩りに行ってくる。翼竜も背中に乗せてくれるようになったし、上々。ユーラとユールともなかよくしてるんじゃないかな?


第十五話 親父からの要求~問題あるんじゃない?


 翌日、カナエに俺の実家へと連れていかれた。もう連行された。

「おじさん、あの金持ちもどきは何ですか?」

「あぁ、彼はクッションの役割をしてもらった」

「そうですよね、彼を挟んでこの家にお金が流れています。何者かなのかは図書館で調べます。不審なこと、もしくはところがあったら、またおじさんを問い詰めますよ!」

「んー、わかったわかった。落ち着いて。レイカちゃんの魔力で充電(?)にも来てるんだろ?」

「はい。レイカちゃんは会う度に可愛くなっていく感じー♡」

「そうだろう、そうだろう。俺なんか、毎日そんな感じー♡」

 なんだ?この会話……。レイカは確かに可愛いが、それはなくねー?

「じゃ、図書館に行ってきますね。ライガ、置いてきます。図書館でライガ使えないし」

「そうだなぁ。ライガは知力がないもんなー」

 ある。少ないけど。

「では、行ってきまーす」

 と、カナエは図書館へ行った。

「ライガよ。精神修養もいいが、テキトーとかに取られてるのはまだかわいいとして、そのうち他の男に取られるぞ」

 こないだ実際に金持ちもどきウーエスが宣戦布告みたいにしてったしなー。俺はどうしようもないなぁ。

「お前はヘタレか!そんな子に育てた覚えはありません!」

 親父に言われても。そんなこと言ったって、今更男女の関係にはならない感じだし、周りは耳がいい連中ばかりだし?俺は本当にどうしようもないんだけど。

「お前もいい年だしさー。俺も孫の顔が見たいなーとか思うわけだよ」

 レイカの顔でデレデレじゃねーか。

「レイカでいいんじゃねーの?」

「バカ!そうじゃなくて、孫だよ孫!それにお前の年齢を考えろ。お前、もうすぐハタチってやつじゃないのか?それにカナエちゃんだって19才だろ?いーじゃん、子供の一人や二人」

 あんたはな。

「俺の所はテキトーも翼竜も首長竜もいて大所帯なんだよ!首長竜はこないだ卵からヒナが孵った。カナエがご執心だ。可愛いーって」

「ライガ君、女心も考えなさいな。その金持ちもどきの申し出を断ったのだってライガ君がいたからでしょう?」

 女心はわかりません。

「ただいまー」はやいな。

「で、何か収穫あったか?」

「お・じ・さ・ま?金持ちって微妙なこと言って、没落した貴族ですね?それにちょっとお金を持たせて今回の事件を起こした。みたいな?」

「はい、ごめんなさい」カナエには素直だよな。

「で、肝心のウーエスについてだけど、没落後の家を再興したいみたいなのよねー。昔はそれはそれは栄華を誇ってたけど、経営が恐ろしく下手くそみたい」

 やはりか。

「ウーエス本人についての記述はまださすがになかったわ」

 まぁ、生きてるし、偉人でもないし。

「カナエちゃーん、おばさんと二人きりでちょっとお話しましょー」

 とカナエが連行された。


「ふぇっ?ライガ?幼馴染としか思ってなかったですけど」

「そうなの?ざんねーん。おばさんね。孫の顔が早く見たくって」

「レイカちゃんじゃダメなんですか?」

「ふふふっ、ライガと同じことを言うのね。孫よ孫!ライガもカナエちゃんもいい年だし、そういうのないのかなぁ?って思ってたんだけど」

「ありません!」

「そこまできっぱり言われちゃうとなぁ。ちょっとおばさん凹む」

「まぁ、出会いはないですけど。あの旅に」

「それなら、早いとこライガ君で手を打って欲しいな。っていうおばさんの願い」


 カナエが戻ってきた。

「住処に戻るぞー。飯の狩りにも行かないと飯抜きになっちまう。おい、戻るぞ」

「うーん、ライガかぁ……。多分モテモテなんだろうな。だとするとアリか?そういう尺度で見るのはいけないか……うーん」

「何唸ってんだ?住処に戻るぞ。お前の魔法が大事なんだよ!」

 あのなぁ、唸ってる以外の部分も聞こえてるんですけど。そういうのは心の声でお願いします。

「おい、魔法何間違ってるんだ?ここは翼竜の巣じゃねーか!ちゃんと集中しろよ!」お願いします。

 その後、既に更地になったサタハユのカナエの家の跡地とかを経由してやっとこさ住処に戻った。


「せっかくレイカで魔力を充電(?)したのに、また使いまくりじゃねーかよ。仕方ねーな。ま、俺は狩りに勤しむ」

 しっかし、親父も無茶言うよなぁ。ムリじゃん。この大所帯でいい雰囲気とか!そんなんなるかよ。ほとんど聴覚が発達してるやつばかりだし。で、もし雰囲気がなっても外部からぶち壊されそうだ。この環境下でどうしろというんだ?

 俺は思いながらもイライラして狩りの成果は上々だった。悪い、翼竜よ。荷物重いだろう。食べ物だから、我慢してくれ。俺も少しは翼竜とコミュニケーションが取れるようになった。本当に少しだけど。


「何?こんなに狩りして大丈夫?明日から「いませんでした」とかないよね?」

 それは悲しい。まだまだ獲物はいるから大丈夫だろう。

「なんかあったの?」

 むしろ、カナエと何もないからイライラしたんです!とは言えないな。

「何にもないけど、そこに獲物がいたから楽しくなって狩ってたら、こうなった」

「きちんと計画的に狩りをしましょう」ご利用は計画的に。という言葉が浮かんだ。何を利用するんだろう?なんか利用したらカナエと2人きりになれるかな?なったとしていい雰囲気になるだろうか?カナエはすぐテキトーの心配とかするからなぁ。今のままでいいと言えばウソになるか。そのうち何とかなるかなぁ。というのは楽観的過ぎるか?


 何?ライガは。何でいつもと違う感じなの?なーんか変なのよね。まさか、ライガの家での話を真に受けてる?私にだって心の準備ってものが!!っていうかここじゃ無理でしょう。この動物だらけの住処。色気もなにもないよ。でもなぁ、このままでずーっといるってのは不可能だろうなぁ。いつかそのうちってのは楽観的かなぁ?年も取るしね。さてどうしたらいいんだろ?


「今日、めっちゃ狩ってきたから、一部燻製にしようと思うんだけど、いいですか?」

「異議なし」テキトーとか燻製食べるのか?

「あー、俺も獣さばくの手伝うよ。俺の責任だし」

「いいよ。魔法でサクッといけるから」

 あぁ、おふくろがやってたやつか。

「ユーラとユールは食糧取れてるかな?ユールはまだ乳飲子かな?」

 哺乳類なのか?爬虫類っぽいけどな。

「湖、今まで観光に使ってなかっただけあって、魚が多い。俺は泳いだ時に見た!」

「あー、ユーラに引きずり込まれた時?泳ぐの得意だし、呼吸止めて活動できて、便利と言えば便利だね。で、その時に見たと?それなら、その時に狩ってきてよ!」

「はい。申し訳ありません」

 俺の頭の中で声が聞こえる。「母さん見てみろよ。ライガのやつすっかりカナエちゃんの尻に敷かれてやんの!」こ、これは……。もしカナエといい感じになったとしても、親父&おふくろに見られるという羞恥プレイ?スッゲー嫌だ。「ヤダなぁ。そんな無粋なことはしないよ」信用できない……。絶対覗き見る。そんな暇があるならレイカの寝顔でも鑑賞して心のアルバムに載せてください。

「魚かぁ、そういえばずっと肉食だね。たまには魚も食べたいかも。この中で水中で狩りできるのって……。ライガだけじゃん。ユーラはユールの子育て中だし」

 俺がソロでか……。でも魚を食べるのは多分俺とカナエだけだろうし。

「何匹くらい採ってくればいい?」

「私とライガが食べる分でしょ?私は1匹で十分。あとはライガが食べる分」

「少食だな」

「ライガがよく食べるのよ!何をここの翼竜と張り合ったりしてるのよ!体格が違うじゃない。絶対に中年になったら太るわよ。基礎代謝が下がるんだから」

「マジか?」

「大マジ。今から、胃の大きさを考えないとマズいわよ。そんじゃ、水中の狩りもがんばってねー」

 うーん、親父は何故に太らないんだ?「はははっ、羨ましいか?若人よ!それはな、母さんのような美しい人に嫌われないように陰ながらの努力をしているからだよ」多分、今後は『パパ嫌い』って言われないようにも努力するんだろうな。とやっぱり勝手に頭の中に話しかけてくるし。暇なのか?レイカを愛でろと言ってるのに。

 おっと、俺はカナエからのミッションを達成しないとまた怒られるな。えーと、カナエは魚1匹でいいとな。俺が2匹だから、3匹でいいのか。超余裕。うーんモリを作らないと面倒だな。今回は簡易的に長めの棒の先にナイフを括り付けてっと。さて、潜ろう。

 くそ、親父が頭の中にAVを流してくる。どういう嫌がらせだよ。こっちは命がけ水中だっていうのに。しかも、女優さんがカナエに似てるし。なんか嫌な感じ。後でカナエに告げ口するからな!今度会ったときに怒られろ!あ、AVが止まった。親父もカナエの説教は嫌いなのか。今のうちにさっさと3匹採ってしまおう。

 

「魚も調達した。俺の分は2匹。で、カナエが1匹だから3匹!」

 足し算間違ってないよな?そんな間違えしたら呆れられる。

「ご苦労様」

「これ、採るの大変だったんだぜ?親父がさぁ、俺の頭の中にAVを流しやがって。こっちは水中だってのに。しかもその女優さんカナエにちょっと似てた」

「今度会ったら、制裁!私もさばいてるときに頭の中にAV流された。AV男優さんがライガに似てるの。微妙よね。どこで見つけるんだか……。さばいてる時だから、魔法がどっか行ったりしたら危ないし、そもそも動揺して発動しなかったらってなるでしょ!マジで危ないから。ほんと制裁!」

 親父の危機。

「なぁ、テキトー達は魚食わないのか?『多分』で魚は余分に採ってきてないけど、足りなかったら俺の分を分けてやれ。俺は肉食だし」

「そうかぁ?ちっともカナエちゃんに手を出さないじゃん肉食か?どっちかというと草食男子?」頭の中の親父は煩悩だらけだな。親父のとこは使用人さんが食事を作ってくれるのか?楽してるよな。太るぞ。そのうちレイカに「パパ嫌い」って言われるんだからな。「ぐっ」おっ、思わぬダメージを与えたようだ。やったな俺。


第十六話 親父の要求と現実~人間の価値


 人間、やればできるもんで……色んなイミで……。こないだカナエから妊娠を告げられた。父親は俺だろう。っていうか俺しかいないし。街中じゃあるまいし、人間の男は俺しかいない。

「へぇで、性別は?もちろん女だよな?」男がいいだろ?家系的に。うちの家系は戦士だろ?男じゃないとだろ?「えー、女の子の方が可愛いよー」そしたら俺の存在が微妙なんですけど……。カナエは秘密主義なのか教えてくれないしなー。

 ライガが真顔で突っ立てる……。まーたおじさんと頭の中で討論してるんだろうけど、大変だなぁ。妊婦の私も大変なんですけどね!!

「そうだ!カナエ、言ってなかったな。ちゃんと。結婚して、ずっと一緒にいてください!」

「はい。でさー」

 うわっ、切りさえはやっ。

「今後の事なんだけど、やっぱテキトー達はそれぞれ群れに返した方がいいと思うのよね」

 すでに群れじゃないのか?

「テキトーは子供の頃からみてるけど、実はスナキツネって生態がハーレムなんだって。テキトーから聞いた」

「あいつ、人語が話せるのか?全くできないフリしてたのか?俺の前で」

「そうみたいだね。で、テキトーからそう聞いたよ。テキトーもいい年だし、繁殖期になるんじゃない?それなら、群れ?に仲間入りさせてあげた方がいいと思うの」

 それが自然か…。

「ユーラとユールはそのままで大丈夫でしょ?翼竜たちはあの子達だけで群れと言えば群れだし、問題はテキトーだけなんだけど。テキトーはわかるかな?他の個体がいる場所。そしてスナキツネの言葉はわかるのかな?」

 人語を理解する前にそっちだろ!全く。

「うーん、パンズのギルドマスターに問い合わせてみるか」


 パンズのギルドにて

「で、こういうわけなんですけど、スナキツネの居場所はだいたいわかりますか?」

「この国だと、最近見つかったわけじゃないから簡単。すぐにわかるわよ」

 手を叩いて合図した。使用人を呼ぶ?みたいなか?

「至急、スナキツネの居場所を地図に書いてくるように」

 そう言う。これは……マダムの風貌だけど、実はオッサンだったりするのかな?アキのギルドマスターは猫に見せかけて……ってのだったし。ここのギルドマスターもマダムに見せかけて、実はってパターンかも。ギルドマスター自体がそういうものかもなぁ。

 などと、俺が考えているうちに早々と地図が出来上がってきた。俺はスゲー、はやっとか思ったのに。マダム曰く「まあまあ早かったわね」だそうだ。

「この目印の所にスナキツネがいるわよ。あなたが育てたんだもん。あなたの所のスナキツネ、それなりに強いんでしょ?」主にカナエが育ててたけど。カナエ誘拐の時に強いモンスタ―で引っかかったからまぁ、強いんだろうな。俺にお尻ぺんぺんされるけど。

「ありがとうございます!」

 こうして、テキトーも群れに帰した。ハーレムを作る事だろう。美人のスナキツネがいるといいね。でも、あいつマザコンだから、カナエに似てるスナキツネ……。微妙だな。


「さーて、それじゃまぁ。カナエの実家に挨拶に行かせてもらいます」

「わかりました」

「魔法でサクッと頼みます」

 サクッとカナエの家の前に着いた。

「うえー、すごいキンチョーするんですけど」

「仕方ないなぁ。お母さーん、お父さーん、ただいまー」

 うわっ、強硬的に入りやがった。もうこうなりゃヤケだ。

「すいません!順序が逆になりました!娘さんと結婚させてください!あと、カナエさんのお腹に俺の子がいます。すいません。順序が逆で」

「いいのよー、ライガ君と旅に出るって時点で私はライガ君と結婚するんだなぁって思ってたし」

「でもなぁ、孫かぁ……。なぁ、ライガ君、殴っていいか?」

 うおぅ、そうきましたか。でもまぁ、親父以外の人間の攻撃はあんまり効かないし。

「どうぞ。気のすむまで」

 俺の見通しが甘かった。カナエの親父さんは強い。何でだよ?聞いてないぞ?いちいち急所を狙ってくるから俺はちょこちょこ避けなきゃヤバいじゃんか。いつになったら気が済むんですか?

「ちょっと、お父さん!やりすぎ!もう気が済んだでしょ?ライガで遊んでるんじゃない?」

「バレたか。久しぶりになー」

「あ、口外してないけどお父さんは戦士だよ。ライガのお父さんと仲良しだし」

 なるほど。それで、強くて俺で遊ぶのか……。久しぶりって前にも俺で遊んだのか?数少ない俺で遊べる人間だし。国境の時の事もなんだか納得。

「あー、あれな。そう、若かりし頃。ライガの親父と所謂魔王と戦ったんだ。バトルのつもりで二人は体をそれはもう鍛えたさ。でもな、魔王との戦いの内容は酒の飲み比べだったんだよなぁ。いつの間にやら魔王とも意気投合しちゃってさぁ。魔王曰く『必要悪』というらしい。自分の事をそう言ってたよ。懐かしいなぁ」

 魔王、軽いな。酒かぁ。俺は下戸なんだよな。

「あ、カナエね。どうぞ」

「お父さん、軽い!」

「だって、ライガ君だし。問題ないもん。殴って遊んだし気は済んだ」

 遊ばれたんだ、やっぱり。

「これからライガ君のうちに行くんだろ?気ーつけてな」


 そして俺のうちに行った。相変わらず屋敷だし。

「で、カナエと結婚する。カナエは妊娠してる」

「うん、知ってる」

 そうだよな、よく俺の生活覗いてるもんな。

「カナエなんだけど、妊婦でこの後悪阻とかヒドイんだろ?だから今日から俺もカナエもここに住む。部屋は大量にあるよな。レイカはカナエに魔力を分けてやって」

「う」

「お、返事ができるようになったのか?すごいじゃん!」

「俺に似て頭いいのかなぁ?」

 親父は自分にうっとりするようだが絶対違う。おふくろに似てるか、幼児としての正しい成長だろう。

「カナエ、いいだろ?あいつらも野に帰したし、問題ない。ここなら使用人もたくさんいるし、魔力も補給できる。環境的にいいと思う。カナエの実家にも近いし。そうだ!親父!なんで、カナエの親父さんと仲良し隠してたんだよ。他にも色々聞いたけどさ」

「隠し事がある方がカッコいい感じがするだろ?」

 それだけかい!それだけのために俺はかなり殴られたんですけど!

「あぁ、あいつにけっこう殴られちゃって」

「それは、俺が気が済むまで殴ってくださいって言ったから」

「俺には言わないの?」

「俺を殺す気なのか?」親父が俺を気が済むまで、って一撃でも入ったらカナエが未亡人になってしまう。

「はいはい、話は済んだ?カナエちゃんが娘なのね~。嬉しい~!」

 おい、あんまり強く抱きついてお腹潰すなよ。

「で、女の子だよね?カナエちゃん?」

 確定なのか?

「うちは戦士の家系だから男の子の方がいいんじゃないのかと再三言ってるだろ!」

「言ってない私も悪いかぁ。あのね、男の子と女の子の双子の予定」

 俺は腰が抜けるかと思った。マジかよ。いきなり二人増えるのかよ。いや翼竜の場合いきなり10頭は増えたけど。

「おぉ、さっすがカナエちゃん!俺の事も考えてくれたんだー」

 いや、親父の事とか全く考えてないと思う。

「え?おじさん何を考えてたんですか?」

「んもうっ。カナエちゃんってば水臭いなぁ。おじさんじゃなくて『お義父さん』って呼んで欲しいな。で、考えてた事?そ・れ・は俺の夢のハーレム~♪」

 馬鹿親父が発動してるな。胎教に悪い。

「母さんとレイカちゃんとカナエちゃんと孫に囲まれての老後!素敵だろう?」

 俺は?消えたのか?消したのか?頭の中だよな。親父なら簡単に俺を抹殺できるからな。

「親父、そういうのは胎教に悪いからやめてくれ」と親父の暴走を止めさせた。


 親父は楽しそうだな。カナエは顔色悪くなってきてるけど。これは、どうしたら……。

「おふくろ!カナエが気持ち悪そうだけど、どうしたらいいか俺にはわかんない」

「とりあえず、寝床を確保しましょ。横になって、悪阻にしては早い気がする……。お父さんの話を聞いて気分悪くなったのかも」

 親父が凹む。凹んどけよ、鬱陶しいから。

「あとは、使用人に任せとけば大丈夫でしょう!」

 丸投げですか……。

「俺は傍にいよう。親父もさぁ、男の子も腹にいるってのに女の子の事ばかり話して空気読めよ」

 傍にいてもやることにけど、少しは落ち着くかな?普段の状態に近いほうがいいよな。いきなりこの生活は慣れないよな。元気な体でも。それなのに全く親父ときたら!


第十七話 俺の時代~だってしょうがないじゃない


 時が過ぎ、カナエは男の子と女の子を産んだ。男の子の名前はシュン。女の子の名前はユイ。

 カナエが名付けた。俺には名づけの才能がないと。前科テキトーがあるし。

 親父は待ってましたとばかりに、ユイを可愛がる。レイカはいいのかよ。レイカはシュンもユイも自分の弟と妹のように接する。お姉ちゃんやりたいのかな?二人はまだ首も座ってません。夜泣きとかで寝不足とか心配してたけど、使用人さんがいるから助かってる。カナエもかなり楽をしているようだ。おっぱいが張ると言って、授乳に起きるけど、俺にはなんのこっちゃわからない。それよりも俺としては、この壁の厚い家で夫婦の生活をしたいんだけどなぁ。なんかすぐ妊娠しちゃって、ちっとも回数はしてないから。カナエ曰く「出産後、すぐはムリ」だそうだ。いつからOKなんだよー!


 それはさておき、二人とも2歳になった。俺もハタチを越えた。それはいいとして、シュンは戦士として鍛え始める時期がきた。とりあえず、この時期から毎日素振りを1000回。頑張りましょう。俺もするし。

 ユイは不公平にならないように、おふくろが魔法使いとして鍛え始めた。それなりに才能があるらしい。カナエは鍛えないのか?

「何でおふくろ……?」

「お義母さんの方が魔法使いとして私よりもずーっとランクが上だもの」

 炭を夕飯で出してたけど?ランクが上?魔法使いの事はわからない。

「俺は何度も親父に半殺しの目にあってるし、戦士としてのランク俺より親父の方が上なんじゃないのか?」

「それはそうなんだけど、『人に教える』となるとまた違うのよね。お義父さんはあんまり教えるのには向いてないみたい」

 おい!そんな親父に戦士として鍛えられた俺はどうなるんだ?

「ライガは教えるのはOK。だからシュンを鍛えるのはライガなの」

「ところでさぁ、あのー、ライガ……」

「なんだよ、早く言えよ」

「妊娠しました」はぁ?確かに早く言ったけど、それはマジか?俺は聞いてねーぞ。

「今、初めて言ったから」

 うーん、カナエは子供製造器のようだ。妊娠しやすいのか?この際俺は性別は気にしない!

「性別気にせず、元気に産めよ!」とカナエに伝えた。


 夕飯の場で親父とおふくろにも伝えた。

 親父は「また女の子だといいなぁ」と一人夢を膨らませていた。おふくろは「若いわねー」と俺らに言った。「カナエちゃんは体を労わってね!そこのじいさんは夢から帰ってくるように!」やや親父に厳しいようだけど、うちはかかあ天下というやつだったのか?

 レイカも嬉しそうだし、俺の家族はまあいい。俺はひとりでカナエの実家に行った。

「えーと」

「えー?何でシュンとユイを連れてきてないの?」といきなり親父さんに怒られた。

「そこは事情が……。えーと、カナエさんが妊娠をしました。無理に連れてこれなかったのは体に負担をかけないようにしたつもりなんですけど」

「若いわねー。ライガ君の妹って何歳くらいなの?」

「多分5歳くらい……。お姉ちゃん気分で二人を可愛がってますよ。シュンは最近戦士として鍛え始めました。2才だし。で、不公平にならないようにと、ユイも魔法使いとして、俺のおふくろが鍛え始めました」

「ライガ君とカナエが若いのはわかるけど、あのじいさんとばあさんがまだ子供をってのはちょっと引くな」

「確か、俺が18才の時にレイカが生まれたような気がします」

「だろ?間開き過ぎだろう。ライガ君とカナエはそんなに間開いてないけど、あの夫婦……。よくわからんな」

「わが親ながら、俺もわけわかりません」

 家族計画ってものがないのか!……俺もないけど。それにしてもレイカが生まれたときはビビったなぁ。


「またしばらくはライガの実家のお世話にならなきゃね」

「そうだなぁ、シュンとユイを鍛えるってのもあるし。シュンはどこでも鍛えれるけど、ユイはおふくろが鍛えてるから、ここにいる時しか鍛えらんないんだよなー。主に何やってんの?」

「魔力の制御」

「あー、レイカが危ないからって乳児の段階でブレスレットしてたやつか。それ重要なのか?俺は魔法使いの事はさーっぱりわかんないんだよなー」

「レイカちゃんも一緒に制御を鍛えてるよ。そばで駄々洩れの魔力を吸ってるの」

 その魔力は妊娠の役に立ってるのかなぁ?

「俺だけにお腹の子の性別、教えてくんない?」

「仕方ないなぁ。×××」

「そっかぁ。わかった。じゃあ、名前考えとく」

「待て、ライガは名づけに向いてないから私が考える!おとなしく(?)シュンを鍛えててよね」

「承知しました」


 こうして結局俺らは5人家族になった。家はというと、湖のほとりに小屋を建てて居・食・住をそこでしている。俺らは迷子のモンスターの面倒を見て、それなりになったところで群れに帰すというのを繰り返している。生活資金は俺が湖で魚を採ったり、シュンも協力させるし、女手は湖のほとりに畑を作ってほぼ自給自足の生活。たまーにモンスターを狩って、アイテムやら現金を手にして……という生活をしている。

 ふっ、30代かぁ。

「コラ、ライガ!家族計画はきちんとしましょうね!」カナエに怒られた。バレたか。30代でもう一人くらい増えても……と思ったけどなぁ。

 力業で最終的に俺の家族は俺とカナエ、シュン、ユイ、ツカサ、ラックの6人になった。


Part 2. レイカ編

第一話 旅立ち……たい


レイカ age17 HP 4098   体力 8

 魔法使い      MP 計測不能      知力 7

     

シュン age15 HP 計測不能   体力 計測不能

 戦士      MP 0      知力 5

    

ユイ age15 HP 2603   体力 6

 魔法使い      MP 37043      知力 10

   

ツカサ age13 HP 1504   体力 5

 魔法使い      MP 28037      知力 10

     

ラックage10 HP 計測不能   体力 計測不能

 戦士      MP 0      知力 4

     


「あんたたち、どこのギルドに所属しちゃったのよー!!」

 カナエは叫ぶ。それもそうだ。色々『計測不能』となっている。

「まだ10才でしょ?ラックなんか。やめとけやめとけ。俺の傍で狩りでもしてるんだな」

「私はもう17才よ」とレイカは言う。

「いや、レイカはそうなんだけどな。周りがガキの寄せ集めみたいな?全員18才を越えるまでギルドに所属するなー!!」と俺は言った。

 うーんラックが18になったらレイカが25かぁ。とっくに嫁に行ってないとなぁ。親父は嫁にはやらんってずっと言ってるけど。

 ギルドに所属ってのも結構面倒ごとに巻き込まれるから、オススメはできないんだよなぁ。なまじっか強いし。『計測不能』なんてのがいるパーティーなんて。そうだなぁ、レイカとシュンとユイの3人で十分だな。

「よし、レイカとシュンとユイの3人ならいいぞ。ただし、即刻ギルドから脱退しろ!絶対に厄介ごとに巻き込まれる」

 でいいか?親父。あと3年弱待ってたら、レイカが嫁に行き遅れてしまう。「レイカちゃんは嫁にはやらない!」まだ言うかねぇ。

 レイカはそれでいいか?ツカサとラックもまだ早い。修行がまだまだだ。

「わかったわ、それじゃあ3人で」

(なーんでお兄ちゃんの言う事聞いちゃうんだろ?刷り込み?)


シュン age15 HP 計測不能   体力 計測不能

 戦士      MP 0      知力 5

    

ユイ age15 HP 2603   体力 6

 魔法使い      MP 37043      知力 10

   

レイカ age17 HP 4098   体力 8

 魔法使い      MP 計測不能      知力 7


 の旅は始まった。


「なぁ、俺らはレイカねーちゃんの甥と姪だろ?ねーちゃんじゃなくておばさんと言った方がいいのかねぇ?」シュンはからかうようにレイカに言う。

「あんた、魔法で消されたいの?」

「レイカねーちゃん、シュンに悪気はないんだよ(多分)。消さないでよ」

「はぁ、ユイもブラコンだねぇ」

「私はレイカねーちゃんも好きだよ!」

「はいはい、ありがと」

 まずはギルドに行って登録の抹消。


第二話 登録抹消~他にも抹消したいな♡


「えーっと、登録の抹消をお願いします。名前はレイカ・シュン・ユイ・ツカサ・ラックと同時に登録を願い出ていると思いますけど……」

「ギルドマスターにお会いください」

 なんか面倒だな。これがお兄ちゃんが言ってた『面倒な事』なのかな?

 初めて会ったギルドマスターはマダムの容貌だった。

「へぇ、あのライガの妹とその子供達か……。なるほどね、それで何か知らないけど計測不能とかカードに表記されるんだ」

 地味にお兄ちゃん有名人なんだ。本当に地味だ。

「で、登録を抹消したいというのね?」

「兄のアドバイスです」

「全く、余計な事といえば、余計な事を。でも、ギルドにいると面倒な事もやらざるを得なかったりするからそういうのを考慮してかしらね。わかったわ、抹消する」

 はぁ、よかった。

「で、抹消するんだけど。その直前に依頼があなたたちにあったのよご指名。パンズの王もサタハユのギルドの親善試合みたいにギルドの親善試合をしたらどうだろう?ってその代表にレイカちゃんが指名されちゃったのよー」

 お父さんもお兄ちゃんも怒りそう。これが『面倒な事』か。確かに面倒だなぁ。拒否権がないところがまた嫌だ。

「仕方ありませんね。その試合に出て最後ですよ。抹消してくださいね」

「わかったわよ。大事な妹さんと子供達だもんライガ君が飛んでくるわ」

 お父さんも来ることになるけど。


「ねー、お兄ちゃん。昔サタハユの王主催のギルドの親善試合に出たの?」

「あれは親善試合だったのか?出場したのは事実だな。サタハユの王はな、うちの家系が嫌いで滅べばいいくらいに思ってたんだよ。それで、その時に滞在していた街の代表として試合に出た。余裕で優勝。その後、闘技場に続々と王直属の騎士団が俺の命を狙って湧いてきてだなぁ」

「それも、蹴散らした。と?」

「イエス。サタハユにいた頃は4・5回王に殺されかけた。というか、王が殺そうとした。あっさり返り討ちにしてたけど」

 へぇー。

「そういう面倒があるんだよ。だから、ギルドの脱退を勧めたんだけど?」

「今回、パンズの王がサタハユの王がギルドの親善試合をしたのを聞いて、自分もやりたい。ってその代表に私がなっちゃった」

「「何―!!!!!!!」」

 お兄ちゃんとお父さんが同時に叫んだ。

「なんか、抹消の手続きに行くギリギリちょっと前だったってギルドマスターのマダムは言ってたよ」

「レイカちゃんに何かあったら……。王だろうと殺す」

「おいー、レイカに限ってそれはないだろ?今じゃ魔力の制御も完璧だし。たまーにカナエに魔力分けてるくらいじゃん」

「お父さん、大丈夫だよ!」


 試合当日

「えーと、私は王都のギルド代表かぁ……。肩書はすごいわね」

「レイカちゃん!パパは気合いを入れてレイカちゃんを応援する横断幕作ったからね!」

「ありがとう。それ、試合会場で掲げたら、口聞いてあげないから」

 あんなのめっちゃ恥ずかしい。どこの名門校だよ?!って感じ。

 あぁ、視線が刺さる。なんか慣れたと言えば慣れたけど。

「そうだなぁ、レイカは昔は可愛い系だったけど、今は美人系に進化って感じだなぁ。その視線か?」

「何?そのような視線を俺のレイカちゃんに向けるやつには制裁を!」

「いつ私がお父さんのものになったのよ!」

「ほーら、言われた」とお兄ちゃんはお父さんに言う。


 第1試合、レイカの圧勝。

 相手は魔法使いだったのかしら?遠くに飛ばしちゃったからなぁ。

「異議あり!」

「相手を殺さないのがルールのはず、しかしながら相手はどこぞに消えてしまいました。これは違反ではないでしょうか?」

「はぁ、レイカ、久しぶりにあれをやったのか。審判!相手ならこの国のどっかで元気にしてる。レイカの魔法は相手を場外、国内のどっかにやっただけだ」

「シュン、よくわかるなぁ」

「あぁ、あれな。昔一緒に遊んでるじゃん。で、鬼ごっことかで捕まえようとすると、飛ばされるんだよなぁ。俺は修行みたいに野営して戻って来たけど。ギルドの代表でしょ?放っておいても強いから生きて戻ってくるでしょ」


 第2試合、レイカの圧勝。

 第3試合、レイカの圧勝。

「確実に相手を飛ばしてんな。飛ばした場所が分かればいいんだけどね」

 準決勝、レイカの圧勝。

「ズルーい、レイカねーちゃん。魔法を跳ね返すようにして、相手が自滅するようにしてるし」

「それも遊んでるときにレイカにやられたのか?」

「うん、そうだよ」

「レイカ、大人げないなぁ」

 決勝

「あら、戦士が相手なんだ。今までは魔法使いだったけど。戦い方変えなきゃね」とレイカ。

「ご愁傷様、私のような騎士が相手なんて。それにしてもお美しい。強くて美しいなど、罪な人だ」

 うわーっ気持ち悪い。自分に酔うタイプだ。ナルシストか?

「残念、私はあなたがタイプじゃないわ。むしろ、避けたい」

「なぁ、レイカって対戦士はできるのか?」

「「お父さん!」」

「うおっ!」

「いつもっていうか昔から俺と遊んでるんだから、戦士の動きとかわかるでしょ?」

「そうだな、シュンが言うならそうなんだろう。それを見てきたユイも同意見なんだろ?」

「お父さん、わかってるー」とユイはライガに飛びついた。

 レイカは何かを唱えながら、相手の攻撃をひらりとかわす。その様子が舞いのようなので、レイカに『舞姫』の二つ名がついた。めったに使われないけど。

 哀れ、戦士の男。嵌められたというか、誘導されたように落とし穴に落ちた。レイカは自身を空中に浮かせて移動していたが、戦士の男は気づかずにレイカを狙い続け、落ちた。

「どうします?降参しますか?しなければ、私がここから、攻撃しますが?」

「投げナイフ、って手もあるけど。躱されたら、真っ逆さまに俺に向かってくるもんな。あー、参った。降参」

「審判。降参だそうです。」

「優勝、レイカ!」

「「はぁ、よかった~」」

「おい!お前らは信じてたんだと思ってたけど、違ったのかよ?」

「万が一を考えてたんだよ」

「そうなの。怒んないでよ、お父さん」

「レイカー、大丈夫かー?ケガとかしてたら、親父が怖い」

「怪我なんてしてないわよ。それにしても、各ギルドの代表でしょ?弱すぎじゃない?」

「うん、お前も俺と同じだな。自分の強さを自覚しよう」

 私とお兄ちゃんとシュンとユイが闘技場の真ん中で話していると、王直属の騎士団が湧いてきた。

「そこはマネしなくていいところじゃないの?」

「それは俺も思うんだけど、かかってくるならやるよ?シュンもユイも。あ、人間相手だから手加減に気を付けてな」

 湧いてきた騎士団の真意がわからない。とりあえず、4人で全員を倒した。

 騎士団長は言う、「レイカ・ライガ・シュン・ユイを王直属の騎士団に所属願いたい」

「どうする?お兄ちゃん?別に命狙われてないし、王に会ってみるだけでも……」

「そうだなぁ。会うだけ会うか。騎士団の年棒とか聞きたいし。カナエの話も聞きたいし」

「あ、優勝賞品は?」

「お納めください。金で5キロになります」そこも同じかい!


第三話 親に似るもんだ~あんまりお父さんには……


 家に帰って、カナエの話を聞いた。

「マジで?シュンもユイも無事でよかった~」

「「王直属の騎士団?へなちょこだったよ」

「あ、そうなの。でもスカウトの話ねぇ、正直シュンとユイは年齢的にまだまだって感じだからライガだけ行ってきて」

「了解」

「「各ギルドの代表もへなちょこでね、レイカねーちゃんの相手になんなかった。決勝戦のやつ、なんかレイカねーちゃんを口説こうって感じだったけど、レイカねーちゃんが「タイプじゃない」って一蹴して最後は落とし穴に落として。見ていて爽快だったよ」」

「何をお前ら、優勝決まった瞬間二人して『よかった~』とか言ってたクセに。でも、参ったな。レイカ、嫁の貰い手ないんじゃないか?」

「あるにはあるんだけど、私の理想ってもんがあるじゃない?そうすると、なかなか……ね?」

「レイカの理想とは?」

「私よりも強い人。それだと、お兄ちゃんとお父さんしか今のところ該当しないのよ」

「親父は小躍りしそうだな……。まぁ、俺の知り合いに当たってみるか。年上だけど、この際ゼータク言うなよ」

「年上ってどのくらい?」

「うーん、俺の1,2個下だから、レイカの15才くらい年上か?」

「強いんでしょうね?」

「俺とカナエの幼馴染。昔から小突いたりしてた。あいつは方向音痴だからなぁ。修行って出てったきり帰ってないけど、どうなったんだか?あぁ、修行の前で俺よりちょっと弱いくらいだったから、現在はどうなってんだかな?」


 カナエお姉ちゃんの魔法で、その人を家に呼んで(呼びかけても無理があるから)、事情説明をした。

「はぁ、レイカ姫の婿とはまた光栄だな」

 うちは王族じゃないから、私は姫じゃないんだけどなぁ。うーん、見た目はまぁ合格。心なしかお兄ちゃんに似せてるのは、昔憧れてたのかな?

「レイカちゃんの話は世界各国で聞かれるよ。絶世の美女。才色兼備って」

「恐れ入ります」

「何で。お兄ちゃんが話してるのよ!」

「あぁ、こいつの名前はリュート。戦士だ」

「お前、何でサタハユで迫害みたいのされてなかったんだ?」

「うちの家系は流されるままに王直属の騎士団に所属してたからなぁ。しかも、結構ほったらかし。そんで、俺は修行の旅に出ては行方不明ってわけよ」

「俺、何度も王直属の騎士団に殺されかけた。あ、カナエもな。お前が行方不明で助かった~。おかげでへなちょこだったよ」

「だよな。基本的にへなちょこなんだよな。で、今はサタハユを追放されていると」

「そう、お気楽なもんだ」

「ねぇ、私の話は?」

「「悪い、忘れてた」」

 私が忘れられた……。結構主役な話なのに、メインは『私の婿探し』じゃないの?

「で、リュートさんは強いの?」

「手合わせしてみる?あ、僻地に飛ばすのはやめてね。今度会うのが数年後とかになるよ?」

「また魔法でサクッと呼べばいいのよー」

「あ、そうか。カナエは相変わらず頭いいなぁ」

「あんたたちが頭悪いの!」

「さーて、どうやって戦うかなぁ?ま、いいや。とりあえず庭でも。このうちって言うか屋敷?庭が広いな」

 おじいさんの所だから、屋敷だし。最近はここに家族で入り浸ってるけど。使用人さんがいるから何にもしなくてよくって楽なんだよねー。

 庭か……。あんまりデカい魔法は使えないな。そういう思惑あるのかな?

「審判は俺でいいな?レイカ」

「お兄ちゃんでいいよ」視力いいし。戦闘見る目あるもんな。あ、遠くの窓から地味におじいさんが私を応援してる。後で説教だな。

「じゃあ、始め!」

 私がどうしよっかなぁ?と考えてる間に喉元に剣を突きつけられた。

「勝者、リュート。おーい、あっけなかったなぁ。リュートは随分素早くなったなぁ?」

「うーん、普段と違って重たい鎧つけてないから動きやすかったし。魔法使い相手はやっぱり先手必勝でいかないと」

「そうだよなぁ」

 と言いながら、何故だろう?二人、技を繰り出してる。お互い躱してるけど。

「レイカ、こいつ強くなってる。俺くらいか?そんくらい。お前、負けたしなぁ(笑)」

 事実は認めないといけない。とはいえ、このままノコノコとリュートさんのとこに嫁入りするのも何だか癪だ。

「リュート、俺を倒さないと俺のレイカちゃんは嫁にやらん」

 何度言えばいいんだろう?私はお父さんのものではないんだけど?でもVSお父さんも見てみたい。倒すのはお兄ちゃんでも無理があるよ~。

「では、おじさんは動かないんですか?」

「ハンデだ」

「ふーん」とリュートはお父さんのつま先を踏んで。眉間を押した。……お父さんが物理的に倒れた。

「お父さん、大丈夫?ちょっと、リュートさん何したの?」

「見てたまんまの事だけ。でも勝手に体が反応しちゃうんだよなぁ」

「お前!ズルいぞ!もう一勝負だ!」

 リュートさんは似たようなことを何回か繰り返してお父さんを“倒した”。倒したというか、転倒したって感じだけど。

「親父ー、往生際が悪い。リュートは迷子になって色んな地方の色んな技を知ってるんだから。無理あるし、親父もしつこい。ほら見ろ、レイカが鬱陶しいって視線をこっちに向けてるぞ」

 お父さんはちょっと、いやかなり過保護で過干渉だと思うけど、今回のはちょっと戦士として情けない感じ。お父さんとしての威厳も減った。

「では、おじさん。あらため、お義父さん。レイカさんと結婚しますね?」

「……」

「親父ー」

「……わかったよ。あぁ、俺のレイカちゃんが……」

 まだ言う?いつまで私はお父さんのものなの?

「レイカさん、よろしくね」

 そんなに笑顔全開で言われてもなぁ。

「はぁ、よろしくお願いします。そういえば、何才ですか?」

「気になる?この際、見た目年齢で良くない?正確な年齢はそのうちわかるよ」

 まぁ、見た目が若いからいいか。ってそれでもハタチは越えてる。20代後半に見える。私と10才は違うんですけど!

「お父さんもさぁ、子離れしてよ。愛でるなら孫にしてよ。ほらユイもツカサもいるじゃん!」

「ライガ!もう一人女の子を作れ!」

「はぁ?子作りはカナエに怒られます。もう十分ってほど子供いるし」

「可愛い子を愛でたいよー」

 お父さんはロリコンなの?お母さんとユイとツカサでいいじゃない?あの家ならカナエお姉ちゃんもいるし。

「男の子の気配が女の子の気配を相殺するんだよ~」自分の事を棚に上げて何という言い草だろう。

「別に俺はカナエも産み分けができるわけじゃないし、男の子を増やす可能性だってある」

「お兄ちゃん、子作り止めなよ……」



第四話 何でこんなことに~何で何で?


「えーと、俺とレイカさんはどこに住めばいいのかな?」

「この屋敷で楽しく暮らそうぜ?カナエもいるし。あとで子供、紹介するな」

「お義父さんの殺気を感じるんだけど?」

「親父ー。良かったなぁ。俺みたいにさっき感じたら問答無用で体が動く奴じゃなくて。そ・れ・にリュートとレイカの間に子供生まれたらまた可愛いんじゃないか?」

「レイカちゃん……」

 俺のレイカちゃんじゃなくなった。じゃなくて、リュートさんとの間に子供……。うわー、そういうことになるのか。

「きっと強い子だろうなぁ。魔法使いにしても戦士にしても」

「ライガは夢を馳せるみたいだけど、産む方はすっごい大変なんだからね!」

「はい。わかっております。度々、迷惑をかけているようで」

「いや、子供は可愛いからいいんだけど」

 おーい、お兄ちゃん。これじゃあ、また増えるぞ。大丈夫かなぁ?カナエさんがしっかりしてるから大丈夫かな?


 何で?私とリュートさん、同じ部屋。そして、ダブルベッド?

「夫婦なんだから当然です」ぴしゃりと使用人のトップに言われてしまった。

「あー、リュートさん?あのー?」やっぱり展開の速さについていかないようだ。そうだよなぁ、だって私は世界で『美女』って有名だったみたいだし。

「おい、子供達を紹介するぞー」助かった。お兄ちゃん!

「この子がシュン。戦士で15才。双子の妹がユイ。魔法使い。その下がツカサ。魔法使い。10才くらいか?」

「13だもん」

 こういうとこお父さんに似てるのよね。凹むし。

「最後、一番下がラック。戦士。お前が10才だっけ?」

「父さん、子供の年くらい覚えて下さい。10才です。初めまして」

「ライガの子にしては礼儀正しいな。ああ、カナエちゃんの子でもあるからなぁ。カナエちゃんに似たんだろう(笑)。俺はリュートって名前。今度レイカさんと結婚することになった。この家に一緒に住むからな。よろしく」

 うわー、ユイ達にも結婚するって宣言してるし。もう後戻りはできない。

「ライガとカナエちゃんの幼馴染でなぁ。俺は方向音痴だからよくカナエちゃんに魔法で家まで送ってもらってた」

「そういうば、この屋敷広いけど迷子にならないんですか?」ナイス質問。誰?ユイ?

「極力、レイカさんと行動するようにするよ。行方不明だなぁと思ったら、カナエちゃんに言ってよ。サクッとその場に呼んでくれるから」

 私の部屋(リュートさんの部屋でもあるけど)も広いけど大丈夫かな?私と行動って、ほどほどに願います。っていうか、部屋の中くらい覚えてよ!


 部屋でついに二人っきりになった。なってしまった。

「えーと、あの双子の妹の方ね軽いブラコンなのよ。仕方ないわよね。双子だし。お父さんは女性に囲まれてハーレム状態にしたかったんだって!お兄ちゃんから聞いた」

「さて、寝ようか?」

 寝る??えっ、あの、心の準備ってものが……。

「顔に丸出しで面白いね。俺はそこのなんかデカいソファで寝るから、レイカさんはベッドでゆっくりお休みください」

 それも味気ないな……。ん?気配……。リュートさんも気配がわかっているようで、部屋の戸を開けた。

 バターっといい大人が山になっている。

「俺はレイカちゃんが気になって」とお父さん。

「だって、初夜だもーん」とお母さん。

「リュートがうまいことリードできんのかと気になって」とお兄ちゃん。

「レイカちゃんが気になって、ほら赤ん坊の時から知ってるし」とカナエお姉ちゃん。

「後学のために」とシュンとユイ。

 はぁ、何か前途多難。

「聞き耳はやめて。入り口の扉にトリモチつけようか?シュンとユイはまだ早い!」

 と言ったものの。ベッドとソファで寝ることにした矢先だし、余計気まずい空気が流れる。面倒だなぁ、魔法で部屋を防音で包んでしまえ。

「レイカさん、それは心の準備OKという事でしょうか?」

「何もしない方が不自然でしょう?」


 翌日、レイカは起きれずにいた。

 ダイニングにリュートだけが姿を現す。周りは事態を察し、レイカの無事を祈った。


Part.3 リュート編

第一話

 俺の人生は波乱万丈。とりあえず孤児だ。それをカナエちゃんの叔父夫婦が引き取ってくれて、戦士として成長したわけだが。

 まさかのまさか。世界の至宝とも言えるレイカさんと結婚することになるとは思わなかった。生きててよかった。

 途中何度も死にかけた。というのも、誰に似たのかわからない。俺は極度の方向音痴だ。すぐにどこかへ行ってしまう。故に、子供の頃ライガとカナエちゃんと遊んでいた時はカナエちゃんに魔法で家まで送ってもらっていた。

 流石に成人したあとは、互いに知らずに(ライガと旅に出ていてことも、結婚していたことも、サタハユを追放されていたことも知らなかった)、俺は放浪……と言えば聞こえがいいが旅で彷徨って……というか、迷っていた。

 おかげで、いろんな国の特殊な技を習得できたりとお得な面もあった。俺はどこの国でも強いらしく、各国で権力者の令嬢との縁談が持ち上がっていたようだが、会話ができないのだ。技を習得は身振りでできるが、結婚は身振りでできない。笑って誤魔化していた。と思われる。

 久しぶりにカナエちゃんに呼び出されたら、レイカさんと結婚と言われ、ライガの親父さんに決闘を言い渡され、ちょっと大変だった。この時は特殊な技が役に立った。正攻法でライガの親父さんを倒すのはかなりの難易度だ。ギルドなら超S級だろう。倒す(転倒させる)だけでよかったので助かった。本当に助かった。

「なぁ、あの親父を転倒させるの俺にも教えてくれよ」とライガは言う。

「いやぁ、あれは俺が方向音痴だからこそ習得できたわけで、簡単には教えたくないです。ところで、ライガの事、義兄さんと呼んだ方がいい?」

「やめてくれ。今更逆に気持ち悪い。カナエの事も義姉さんとか呼ぶなよ」

 俺も呼ぶ方として気持ち悪かったから助かった。


「ところでさー、レイカが起きてっこないのって、お前の体力のせいか?」

「多分そうだと思う」俺は素直に言った。

 何?柱の陰からジーっとお義父さんがこっちを見てる。

「俺のレイカちゃんじゃなくなった……」

「しつこいなぁ、親父も。そんなんが、レイカに嫌われる要素だと思う」

 ライガは直球できついな。親父心を抉るような……。

「そのうち起きてくるでしょ?魔力で体力回復もできるんじゃない?」

「いやー、あいつだって魔力の欠乏があるかもしれないぞ」

 そうなのか、俺も自重しないとなぁ。


第二話

 そんな生活してるとレイカが妊娠をした。そうでしょうとも。だって俺だし。

「で、性別は?」

 お義父さん、そこ重要ポイントなんですね……。

「女の子なら、レイカちゃんに似てさぞかし可愛いだろうなぁ……ふふふ」

 あ、遠くの世界に行ってしまった。俺に似てたらどうするんだろう?俺だって女の子ならレイカに似ていて欲しい。

「まだ性別なんてわかるわけないでしょ!」

「レイカちゃん、落ち着いて。お腹に障るから」とカナエちゃんが宥めてくれる。ありがたい。経験者だし。というか、なんかおかしくないか?カナエちゃんも妊娠してないか?

「あ、リュートわかる?ライガには自重するように言ってたんだけどねー。レイカちゃんが生まれたのってライガが18くらいの時だから、今でも別にって感じかな?年の離れた兄妹」

 俺はジトーっとライガを見たけど、目を逸らされた。なにも逸らさなくたって……。

「俺らの気持ちわかります?」とシュンとユイとツカサとラックを代表してシュンが俺に言った。

「そうだよな。シュンとラックだって結構離れてる方だと俺は思う。でも俺は一人っ子だからなぁ。それにしても今はないわー」

 ライガは目を逸らしたままだし、カナエちゃんも気まずい感じで俯いた。カナエちゃんは悪くないな。うん。これはライガが悪い。


第十八話 そして話は元に戻る~ユイはどうする?

 

うーん、俺、ライガとしてはうちの女性陣の結婚先をさっさと片づけたい。親父は「俺のハーレムが……」と言うが、無視しよう。

 さて、今回はユイだ。俺の長女なわけだが、俺は親父のようにそんなにハーレム願望もないし、固執はしない。ただ、本人ユイがシュンに固執しているのが問題が。

 二人は双子だっていうのに、ユイはいつも「お兄ちゃんと結婚するー」と言ってるし。無理だから。子供の頃は『可愛いことを言ってるなぁ』で済んだが、もう、13か?いい加減兄離れしてほしいもんだ。

 俺の子で魔法使いをしてる子(女の子)は、ステータスが普通だ。それ以下?俺は魔法使いに関してはさっぱりわからん。見目はどこの遺伝だろう?何でだろう?いいんだよなぁ、レイカもかなりの美女だし、うちは美形の家系なんだろうか?カナエは可愛い系だと思うけどなぁ。

 ユイも「お兄ちゃんより強い人じゃなきゃ嫌!」って言うし。それに該当するのは俺か親父だから無理だっちゅーの!全く困ったもんだ。

 どうしよう?うーん、ギルドマスターに相談?こいつらギルド脱退してるんだよなぁ。俺もか。

 

 そうこうしていると、何故か王城からうちに招待状が!!

 えー、『正装の上、来城願いたい』とな。正装ってどんなのだ?それより、呼ばれたのは、俺とカナエとユイの3人だなぁ。カナエは妊娠初期だからってお断りをしよう。その辺の配慮くらいあるだろう。なくてももぎ取る!

 女の正装はドレス?そんなものはうちにはありません!と騒いでいたら、ドレス及び俺が着るタキシードも家に届けられた。「……いつ採寸したんだよ」と呟いてしまった。

 俺の体は筋肉だらけでタキシードはオートクチュールになるだろうなぁと思っていたのにちょうどいいし、ユイも同じように体に合っている。王城恐るべし。

 

 で、俺とユイが王城に行くと陛下が開口一番、「うちの皇太子と婚約をしてほしい」だった。

ユイは「見た目が良くないとお断りします。あと、強くないと」と言う。恐ろしいのは娘だ。陛下に向かってその口のきき方!皇太子の見た目?知っているのが住んでる人間の常識みたいなもんだろ?って俺も知らないんだけどさ。

「力なら権力はある。使い方次第では即刻ユイさんの隣のお父さんの首も飛ぶ」おいおい、それは例えが怖いって。まぁ、ある意味最強だよな。ユイはどうするもんか?

「見た目は?」

「まぁ、会ってみたまえ。こっちに来い」

 初めて見た皇太子は一言で美丈夫だった。ユイはどうする?頭の中でシュンと天秤にかけてるんだろうな。シュンは無理だって言ってるのに。

「皇太子さまが私との婚約を望んでいるのですか?何故?」

 そうだな。なんで?だよなぁ。

「本人たっての希望だ。いろんな貴族の令嬢との婚約も考えてたんだけどなぁ。他の令嬢は『つまらない』そうだ」と陛下は言う。ユイは『つまる』のか?

「まだ13・4ですし、婚約って形なら私は了承しますが、本人は……」

「婚約って破棄できるんだよね?それなら、しといてキープみたいな?それでいいなら私も了承する」

 おいおい、皇太子をキープとは大物だなぁ。そういうとこがいいのかな?

「陛下、それで構いませんか?うちの娘がすいません」

「いやいや面白いなぁ。将来が楽しみだよ。はっはっは」

 いやいや、笑えません! 


 2・3年後、ユイはカナエに似て可愛い系の美人になった。俺目線だから、『カナエ=美形』みたいな図式があるかもしれないが、そこらでも声かけられるし、双子のシュンも逆ナンによく遭うと嘆いている。

 その間、ユイは皇太子とそれなりに会話をしたり、お茶をしたりと交流をしていた。いちいちこっそり親父が覗いていてウザかった。

 ユイの気持ちとしては、このままアリかな?だと思う。(俺目線)

 とりあえず、シュン離れはしたかな?親離れより手強かったもんなぁ。

 皇太子も満を持してユイにプロポーズした。ユイが了承した。はぁ、片付いた。っていうかうち、半分王族みたいなもんになるのか?不思議なもんだ。


 

 俺は戦士だったはずなのに、いつの間にやらブリーダーのようなことになっていた。子供を作り・育て・嫁に出す。男は勝手にどうにかしろ!

 多分、これが正解だろう。
































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