第7話 神の器について聞いてみた
「守護神様。草や虫、動物の中にも、『神の器』はいるんでしょうか?」
今回は『神の器』に関する話である。
『それは語義によって答えが変わってくるぞ。きみが聞きたい「正規の手続きを踏んで生まれてくる魂」という意味ではイエス。だが、本来の意味ではノーだ』
「本来の意味って、どういうものなんですか?」
『そもそも「神の器」とは人間のことだ。神になれる霊格を持つ魂が宿れる器は、地球には人間と大木しかないからな』
「たしかに人間という意味だったら、『草や虫の中に人間はいますか?』という質問は変ですね」
「話に霊格が出たついでに聞きますけど、神様から見て魂の霊格はひと目でわかるものですか?」
『そりゃあ高い次元から見れば一目瞭然だ。さすがに正確な測定値までは目算では測れないけど、見た目に特徴はあるからな』
「どのような感じに見えるんですか?」
『きみには天体のような形といえば伝わりそうだけど、一般的なたとえでは宝石だな。若い魂はデコボコが多いが、成長するごとに角が取れて玉のように丸くなっていく。そして十分に成長すると光るようになるんだ』
「たしかに原石を磨いて丸い宝石に加工するたとえよりも、私には霊格を星の大きさとした説明の方がわかりやすいですね。小惑星の頃は歪でデコボコが多く、そこから大きくなるごとに重力で丸くなって、ある程度の大きさになったら自力で光り始めますもんね」
なるほど。魂は天体みたいなものと見た方がわかりやすい。
「そこにキズや汚れがあると霊格が落ちるイメージですかね?」
『キズと汚れは個性だ。それで霊格は落ちない』
「え? それは意外ですね」
『霊格が落ちるのは、曇ったり、闇のように濁ったりしていく時だ』
「だから日月神示では曇りや濁りを取るために、魂磨きって言い方をするんですね」
こちらは宝石でたとえた方がわかりやすいかな。
「中にはダイヤモンドのブリリアントカットみたいな磨き方をする人が……」
『いねーよ!』
変なことを想像した途端、速攻でツッコまれてしまった。
「ところで魂の成長は、どのような流れなんでしょうかね。ざっくりでいいんですが……」
『その前に、これから話すことは、あくまで地球ならび、オリオン腕に広がるプレアデス人系の魂における成長の話だと前置きしておくぞ。こういうことは場所によって変わる、一種の文化だからな』
「魂の成長に文化があるんですか?」
『地球にだって、国や宗教によって子育てに違いはあるだろ。たとえば日本では子供に身の回りの仕事を覚えさせる意味で家事をお手伝いさせるが、それは国によっては児童虐待だ。留守番やちょっとしたお使いを頼むのも、それを見て「子育て放棄だ」と警察が飛んでくる国もあるぐらいだからな』
「世知辛いですねぇ」
世の中には自分たちと価値観の違う風習を見ると、邪推したり嫌悪感を示す人は多いからなあ。
『で、魂の成長だが、まずは希望者には地衣類──要するに苔などで地上に生まれる感覚を体験してもらう。これで最初の霊格値を手に入れるんだ』
「ゲームで言うチュートリアルみたいなものですね」
『霊格値が五あれば草に生まれることができる。この時代は食べられることがゴールだ。美味しく育って、より霊格の高い生き物に食べられるほど得られる霊格値が多くなる。そして霊格値が二八になれば農作物に生まれることもできるから、上手く育って人間に食べられると一気に霊格値が跳ね上がるぞ』
「食べられるというのがイヤな表現ですけど、日月神示でも自分より高い存在に身を捧げるほど魂が成長すると書かれてますもんね」
『これで霊格値が四〇まで育ったら、いよいよ動物に生まれられるぞ。昆虫類なら四〇からだ。もう少し霊格値を上げると、両生類、爬虫類、魚類を選ぶこともできる』
「私は草の次は何になったんですか?」
『きみは昆虫ルートだ。その中でも最初は小さなコガネムシみたいな甲虫を選んだみたいだな。そのあとはハチ類として生まれて、虫としての最後は大きなスズメバチっぽいものになったぞ』
守護神様が『っぽい』と言ってるのは、著者の魂はずっと地球外で育ってきたからだ。だから地球の生き物の名前を出したら『っぽい』と付けざるを得ない。
「チョウとかカブトムシとか、そういう過去生は?」
『ないぞ。で、霊格値が一〇〇まで育ったら、いよいよ鳥類や哺乳類に生まれることができる。きみはスズメバチ類で高めの霊格まで育って、次にネコ類を狙ったみたいだな。しかも、そのあとは他のルートを選ばず、ネコ類だけで霊格値四〇〇まで成長したようだぞ』
地球外の星でも、近い種類の生き物がいる。それどころかウシ類、カンガルー類、イヌ類、ネコ類などの中には、異星人によって地球へ持ち込まれた品種もいるそうだ。ハチ類、チョウ類も、恐竜時代に来た異星人によって顕花植物と一緒に持ち込まれたという話である。
「ネコ類ですか。トラやライオンのような大型獣に生まれた過去はありますかね?」
『もっとも重いもので体重二二kgだ』
「あらら。ということは、大型哺乳類に生まれた過去生はなさそうですね」
大型哺乳類の定義は四五kg以上だから、その半分以下の種で転生を繰り返してたのね。
『それで……だ。人間の肉体には霊格値三二〇もあれば入ることができる。だが、地球の神というかプレアデス系の神は基本的に四〇〇未満の魂は人間として生まれさせない。四〇〇未満の魂は心の視野が狭いので、身勝手で文明を育てるよりも壊す存在になりがちだからね』
「人間になったら神様から人生の課題を出されるという話がありますけど……」
『それは物事の見方で変わるぞ。天界の神から運命や人生の課題を与えられるのは、霊格値六〇〇を超えた「神の器」に限った話だ。六〇〇未満の魂に運命なんかない。課題と言うなら、せいぜい生まれる時の環境を神様から決められるぐらいだ。それだって六〇〇未満の魂なら人生のスタート条件をいくつか与えられるから、その中から自分の生まれる家庭を選べるぞ』
「生まれる前に家庭訪問する話ですね。霊格値六〇〇未満の『神の器』って、どのくらいいるんですか?」
『「神の器」の五〜六割だ。六〇〇未満の頃は自由に経験を積んで、自分の特性を見極める時期だ。……と言いたいところだが……』
なんか急に振り子の動きが乱れてくる。
守護神様が脳内で暴れ始めた。守護神様の言いたい断片が時間をかけて、本を開いた時の単語、テレビやYouTubeから目に飛び込んでくる文字、そこに足りない単語は空目を使い、更には夢の中でまで訴えかけてくる。
『なんで最近の人はせっかく自由が与えられてるのに、公務員や大企業なんかの安定した仕事を選ぼうとするんだよ。安定や現状維持、見栄や世間体は神の世界から見たら一番の悪なんだぞ』
と……。
すみません。その怒りは私にではなく、直接本人に言ってやってください。
それから少し日を置いたある日、
「守護神様。神様から与えられた運命や人生の課題って、占いでわかるものですかね?」
ふと湧いた疑問を守護神様に尋ねてみた。
『ある程度はわかるぞ』
振り子は小さいながらも時計回りで動いている。
『というより与える運命や課題に合わせて、天界の指導神が生まれる場所や時間を決めるんだ。世の中や人の動きにある程度の法則性を持たせてないと、運命だけを決めても必要な条件がそろう保証はないからな』
「運命に必要な条件……ですか?」
『旅行の計画を立てたのに、ホテルの予約以前に近くに泊まれる場所があるかどうかを調べてないとか、交通機関も時刻表の確認どころかどんなルートがあるかすら調べてなかったとしたら、予定した通りの旅は保証できないだろ』
「そうですね」
『ましてや旅の中で目当ての人に会うとか、途中で別行動の仲間と合流するとか、そういうことは相手にも都合があるから旅に出る前にしっかり約束しておかないと予定は台無しだ』
「ああ、いますねぇ。無計画に行き当たりばったりで動いて『今、近くまで来てるんだけど、一緒に食事でもどうだ?』とか電話してくる人……」
『でも、天界で運命を決める指導神が、それをやっちゃダメだよな。だけど運命の一つ一つに合わせて周りの人の運命を調整してたら、いくら高いところにいる神様だって非効率にも程がある。だから、生まれる場所や時間である程度の運命の形が決められ、指導神はその中から適当な肉体を選ぶんだ。その時に候補がいくつかあったら、本人に「好きなのを選んでいいよ」って選択権を与えることもある』
「ということは、占いはそれを逆算して……」
『その通り。だから生まれを生年月日だけでなく時分まで、生まれる場所も緯度経度を秒角まで使って精密に占うものだったら、かなり正確な運命が割り出されるはずだ。中でも運命や使命が与えられた人にとっては、かなり当たってると感じるだろう』
「ホロスコープとか四柱推命が代表ですね」
とまで聞いたところで、著者の脳裡に以前、その手の精密な占いで割り出された運命のことが浮かんできた。過去のできごとまで驚くほど言い当てていた百年運勢の結果だ。ただし恋愛運を除いて……だが……。
「とすると、私の運命は本当に悪いんですね。トラブルだらけで……」
『そりゃあそうだ。きみは天界の指導神から「地球で悪魔の手口を学んで来い」と言われて、地球に送り込まれた魂だからな。今生の運勢はサンドバッグだよ』
「サンドバッグ……。でも、その占いにないトラブルもありましたが……」
『それでも他の運命が予定通りなのは「運命の揺り戻し」があったおかげだ。地上で運命を見守る神たちが、予定からハズレそうな魂を見つけたら、何とか戻そうとするんだよ。きみの作家デビューも、まさにその一つ。予定にないトラブルに巻き込まれて落選させられるハズだったのに、最終選考に残ってギリギリ受賞ってな』
「じゃあ、占いでは三六歳で結婚するはずが、いまだ未婚なのは……」
『それは運命の相手が生まれる前に、肉体を別の魂に乗っ取られたからだ』
「肉体の乗っ取り?」
『きみとは三歳年下で大学を出て……の運命だったが、乗っ取った魂は勉強嫌いで大学へ行ってないな。で、二〇代で早々に結婚してるから、きみと出会う運命にあった時にはニアミスもしていない』
「結婚に関する『運命の揺り戻し』はなかったんですか?」
『あったぞ。親戚が四〇人以上のお見合い相手を見つけてきて、むりやりお見合いさせられただろう。で、ぜんぶ向こうが断ってきて、しかもその人たちは数人以外は今も結婚してない。その結婚した数人だって、東日本大震災で急に人寂しくなって、そのあとに結婚したパターンだ』
「それのどこが『運命の揺り戻し』なんですか?」
『お見合い相手は全員難あり。運命の相手以外とは結婚できない』
「イヤだ。そんな『運命の揺り戻し』は……」
ひどい話だ。
『で、トラブルの運命が完全に終わるのは二〇三九年の予定だ。この時に諸悪の根源となっている人物が判明するみたいだな』
「そこまで生きてるかなぁ? 二〇三三年にはワナにはめられるなんて運勢が予言されてて……」
『事前に知れたんだ。しっかり回避しろよ』
「回避……。できるかなぁ〜……?」