第45話 超古代文明について聞いてみた(2)
『まずはレムリア大陸に生まれた文明の話だ』
前回からの続きである。
『文明の始まりは紀元前二二万九千年頃。初めの二万年はヴェガの衛星文明として存在していたが、紀元前二〇万六千年頃からは独立した文明として歩むようになったんだ』
「衛星文明って、何ですか?」
『自立できてない文明というか、外からの力添えがないと、政治・経済・軍事・産業・教育・暮らしのすべてのレベルを維持できない文明だ。今の地球でいえば、自立できる文明はアメリカ、日本、ドイツ、イギリス、ロシアの五か国だけで、それ以外の国は何かしら、その五か国に依存している衛星文明だぞ』
「食料や資源については?」
『それは文明とは関係ない。不足が起きても、それは一時的なもの。不足が起きるのは政治や領土、自然の問題であって、文明そのものである技術や知識の問題ではないだろ?』
「そう……ですかね?」
工業製品とは違って、食料や資源は神様の恵みってこと……かな?
『レムリア文明は誕生から二万年以上にわたって工業技術の多くをヴェガに依存し続けていた。科学者もヴェガに留学して学んでくるが、なかなかモノにできなかったんだろうな』
「それは高度な宇宙開発技術でしょうか?」
『インフラ技術を含めて……だ。というより、この頃は技術力の割に文明レベルが高くなりすぎたせいで、なかなか人口が増えなかった。今の地球でも先進国ほど少子化になる問題が起きてるだろ』
「宇宙からの移民は増えなかったんですか?」
『太陽系が宇宙交通の要衝に近づきつつあって訪問者も徐々に増えてたけど、初めの二万年は意外と移民する人が多くなかったようだ』
「地球は居心地が悪かったんでしょうかね?」
『レムリアに文明が生まれた頃はミンデル氷期が終わって、現在の地球より三度近く暖かなホルスタイン間氷期だ。プレアデス人には住心地の良い頃だったはずだぞ』
「じゃあ、移民が少なかったのは?」
『それはアトランタ大陸にアレモX3星人が暮らしていたせいだ。彼らは今の地球人ほど醜悪ではないが、それなりに良くない波調を出していたため、それを察して居着く人が少なかったのだろう。まあ、そのあたりに触れると話が大きく脱線するので、アトランタ文明の話は後まわしにするぞ』
「はい。お願いします」
『思うように人口が増えなかったレムリア文明だが、紀元前二一万年頃、太陽系がついに宇宙交通の要衝となる宙域に入っていったんだ。そのおかげで地球へ来てそのままレムリア大陸に居着くプレアデス人が増えたため、再び人口が増えるようになった。そして十分な数の技術者が育つようになったおかげで、レムリア文明はヴェガに頼らなくても文明を維持できるだけの科学技術力を持つようになったんだ』
「その頃の人口は、どのくらいだったんですか?」
『地球全体で、だいたい八億人だ』
「そのうちレムリアというか、プレアデス系の住民は?」
『九割以上はレムリアに住んでたな。同じ頃のアトランタは二千万人ほど。他に日本列島周辺に数百万人のリラ人が住み着き始めた』
「人口にアヌンナキに遺伝子操作された原人は含みますか?」
『含まない。この頃は人ではなく獣だ』
「つまり宇宙からの移民だけが人だったんですか?」
『そうだな。一応、アボリジニなども残ってるが……』
「バカラティーニも宇宙からの移民ですもんね」
『さて、独立した文明となったレムリアだが、紀元前一八万年頃から最初の試練が始まる。地球が急速に寒冷化して、氷河期に突入したんだ。それも恐竜がいた時代以降でもっとも寒くなったリズ氷期だ』
「もちろん文明の力で乗り切ったんですよね?」
『当然だ。氷河期が始まると、まずレムリアは首都を大陸の北西にある半島の最北端に遷した。レムリア情報の中でも有名な、首都サバナサの誕生だ』
「南半球にある大陸だから、暖かな北へ遷したんですね」
『そういう事情もあるが、それよりも海面が下がった事情が大きいな。リズ氷期は最大で二〇〇mも海面が低くなった氷河期だ』
ちなみにリズ氷期は今から二回前の氷河期で、一八万年前〜一三万年前の間にあったとされている。
余談であるが、歴史学では日本列島は氷河期になるたびに大陸と陸続きになっていたように教えているが、科学的な知見によると、そのような事実はない。日本列島はおよそ一五〇〇万年前に大陸から離れて以降、ずっと海に隔てられてきた。唯一の例外が、リズ氷期の期間中だ。朝鮮半島と陸続きになった数万年間だけ、対馬海峡の水路が途絶えている。
一方で津軽海峡に至っては、水路が途絶えたことは一度もない。そのため北海道と本州の間にはブラキストン線という、生物学では有名な動物相の分布境界線が引かれている。ここでは一千万年以上動物の行き来がなかったため、南北に別れた動物たちは別の進化をたどって固有の亜種となっているのだ。
ただしエゾシカ、ヘラジカ、キタキツネなどの一部の中型哺乳類に限れば、津軽海峡が流氷に覆われた季節に本州へやってきていたようだ。最終氷期のもっとも寒かった時期には、頻繁に氷に覆われることが多かったのだろう。
幸い、ヒグマほどの大型哺乳類となると体重を支えられるほど氷は厚くなかったのか、渡ってこられなかったらしい。
話ついでに植物に関しては陸地が近いと鳥が種を運んでしまうので、海峡の南北で大きな違いは見られないという。
「入江の奥に大きな港街が作られて、その一つが首都になることが多いですからね。だけど海面が低くなった影響で入江がすべて陸地になって、海から遠くなったので物の流れに支障が出たんですかね?」
『それもあるが、いつの時代も人口の九割以上は標高一〇〇m以下か、もっとも近い交易港から一時間以内にある土地で暮らすものだ。その条件からハズレた内陸は、穀倉地帯として利用されることが多いぞ』
「ということはレムリアの古い首都は、その条件からハズれたんですね」
『そうだ。と言っても、すぐに都を遷したわけじゃない。この時は寒冷化で海面が下がったが、反対に温暖化で海面が上がる場合もある。それでも港の位置が大きく変わらなくて済む場所を探して、そこに永遠の都を築こうとした』
「そんな都合の良い場所があるんですか?」
『あったからサバナサが生まれたんだ。目をつけた場所は大陸の北西にあった半島の岬。そこは最終氷期の時は標高三〇〇mの高台だったから、都を置いたリズ氷期の頃は四〇〇mはある高台だったろうな。そこに高さ四四〇・〇一mのピラミッドと、直径一一km、外郭水路の幅が五五五mもある三重の環状水路を持つ港を建設して、そこをレムリアの首都サバナサとしたんだ。実際、この都は一七万年も首都で在り続けたのだから、正真正銘の「永遠の都」だったと言っても言いすぎじゃないだろう』
「標高四〇〇mの高台って、かなりの高さですね。そんなに海面上昇があると考えてたんですか?」
『当時のレムリア人たちの知見だな。氷河時代が終わって世界中にある氷河がすべて溶けた場合を想定したのかもしれん』
今、世界中の氷が溶けたら、約七〇mの海面上昇があると見積もられている。ということは、そういう事態が起きても、まだ一〇〇mの余裕がある。もしかしたら地球史から海面が三〇〇mも高くなった、白亜紀大海進クラスの半分ぐらいを考慮した可能性もあるが……。
『まあ、半島にある高台に十分な高さにあっただけで、標高に深い意味はないのかもしれんぞ』
「そ、そう……ですね」
必要最低限の高さがあるなら、それ以上の理由は考えすぎ……だったかも……。
「このあとレムリア文明は、どのくらい高度な文明になったんですかね?」
『最盛期は半径一二〇光年以内で、ヴェガに次ぐぐらいの高度な文明になってたぞ』
「人口はどのくらいいたんですか?」
『この頃の太陽系は宇宙交通の要衝になっていたから、地球には常に大勢の宇宙人がレムリアを訪問していたんだ。そのためレムリアには一〇億人近い人が暮らしていたが、その一割は異星人だ。移民の多くはプレアデス人系ではあったが、まったく種族の異なる宇宙人たちも数千万人というレベルで地球で暮らしてたぞ』
「それはにぎやかそうですね。レムリア以外では暮らしてないんですか?」
『それは少ないな。他の大陸──中でもユーラシア大陸とアフリカ大陸にはアヌンナキに作られた凶暴な原人が住んでるんだ。危なくて住めたもんじゃない。それにオーストラリア大陸にはバカラティーニ文明の生き残りであるアボリジニ、アトランタ大陸にはアレモX3星からの難民団が住み着いていたから、地球へ来た移民者たちはここへの入植も避けている。それに当時のアメリカ大陸は氷に鎖された北極大陸なので、南極大陸共々、入植するところがない。例外的に入植されて都市が作られたのは、南米大陸の大西洋岸ぐらいなものだ』
「南米の大西洋岸ってことは、アマゾン川の河口ですか?」
『う〜ん。そのまま答えていいか悩むな。なんせ、今のアマゾン川は紀元前二万二千年頃までは大きな湖だったんだぞ。大昔は太平洋側へ流れ出る川だったのに、アンデス山脈が隆起してきたおかげで五千万年ほど前に出口を塞がれて、それから四千万年もの間、流域に水を貯め続けた淡水湖になったんだ』
「アマゾン川流域というと、かなり大きな湖になりそうですね。カスピ海よりも大きいんですか?」
『比べ物にならん。もっとも大きくなった時でカスピ海の一三倍だ』
「一三倍? カスピ海はほとんど日本と同じ面積ですから、日本一三個分の湖ですか?」
『そうなるな。その水が溢れて大西洋へ流れ始めたのが、今から一千万年ほど前。かつて都市が作られたのは、その流れ出る川の河口ってわけだ』
「でも、その湖があったのは紀元前二万二千年頃まで……ですか? 湖の水が一千万年かけて抜けきったんですか?」
『いや、ダムのように水を堰き止めていた山が決壊したんだ』
「決壊? 下流の都市は?」
『もちろん大きな被害が出た。ちなみに鉄砲水に襲われた時、アマゾンの都市はサバナサをモデルに、ピラミッドから環状水路のある港まで三分の一のスケールで再現されたような街並みだったんだ。おそらく、ここがアトランティス伝説に出てくる首都ポセイドニアのモデルにされたと思う』
「そこにあったピラミッドは、どうなったんですか?」
『もちろん水圧でバラバラだ。大勢の人たちが洪水に呑まれ、生き残りたちはまだ残っている湖の水が再び襲ってくることを恐れて、大西洋の反対側──アフリカへと逃れている。この頃になるともう凶悪な原人は絶滅していたので、世界中にプレアデス人系の入植者が散らばっていたんだな。生き残りたちはナイル川の河口──今のエジプトの地に、アマゾンの都市とそっくりそのままの都を再現したんだ』
「高さ四四〇・〇一mのピラミッドが、三分の一になると一四六・七m。まんまクフ王のピラミッドですね」
『さて、話を首都サバナサができた頃──一八万年前のレムリア文明に戻すぞ。レムリアは誕生から一〇万年以上大きな災厄には遭わず、順調に先進文明としての道を歩んでいたんだ』
「その言い方だと、そのあたりで文明が滅ぶような事件があったんですね」
『その通りだ。レムリア文明はそのあと六回もの災厄に襲われて衰退し、そのうちの三回は文明を一から作り直すような事態になってるんだ』
「六回のうち三回……。半分も……ですか?」
『そうだ。最初の災厄は紀元前九三、〇五〇年頃に起こった。レムリア大陸にある巨大火山が噴火したんだ。この被害はレムリア大陸全体に及び、復興までかなりの時間がかかった。ところが千年後の紀元前九二、一一〇年頃に首都サバナサを直撃する大地震が起きた。この時に最初に作られたピラミッドが崩れるほどの大きな被害が出たんだ。それでもレムリアの人たちは立ち直って、文明を最盛期に近いレベルまで立て直した』
「最盛期に近い?」
『残念ながら最初の火山被害の前が、レムリア文明にとっての最盛期だったんだ。それほどの痛手を被ったってわけだ』
「レムリア文明は、そういう天災を六回も受けたんですね」
『三回目の災厄──紀元前七一、二五〇年頃にあったトバ火山の破局噴火の被害が、六回の中では二番目に大きいぞ。この噴火では事実上、レムリア文明が滅びたというほどの被害が出ている。ホピ族の神話にもある、火の災厄で滅んだ第一の世界だ』
「レムリアで大災厄が増えたのは、地球を侵略しに来た勢力が仕掛けてきたからでしょうか?」
『まったく関係ない。レムリアが被った六つの災厄のうち五つまでが、大陸の沈没に関わるものだ』
「沈没……ですか?」
『アトランタとレムリアは一三二年前の隕石落下で生まれたラマー大陸が、海に沈んだあとに残った大陸だ。それから一二〇万年は安定していたが、元は海洋底のゆがみと、地下に残ったガスによって押し上げられていた大陸だ。そのためラマー大陸の最後がそうであったように、アトランタとレムリアも火山の噴火によって地中からガスが抜けていき、再び大陸が沈み始めた。その始まりが九万五千年前の火山であり、トバ火山の破局噴火はその中でも最大のものだ』
「ガスが抜けたら、すぐに沈んじゃいませんか?」
『アトランタ、オーストラリア、レムリアの三つの大陸を押し上げていた力は減ったが、まだ地殻のゆがみが残ってる。ガスが抜けて大地は不安定になったが、そのあとも大陸は紀元前一万年頃まで持ち堪えていたぞ』
「伝説では……そうなってますね……」
『で、トバ火山によって滅びたレムリア文明だが、この復興はヴェガからの新たな移民や、世界中に散らばっていたプレアデス人系の人たちがレムリア大陸に集まる形で行われたんだ。だけど、この時のレムリア文明は自分たちで高い技術を獲得するには技術者が足りなくて、最後までヴェガの衛星文明の立場から独り立ちできなかった』
「それは人口が少なかったからですか?」
『たしかに第二の世界の最大人口は八億人。前の世界の一〇億人には届いてない。だが、問題はそこじゃない。この世界では現在のレプティリアンとは別の経済悪魔が闇を支配して、技術者を軽視する風潮が強くなったんだ』
「経済悪魔ですか?」
『今のレプティリアンのような「金、金、金」じゃなくて、目先の経済合理性で利益を得ようとする悪魔どもだ。地球のある場所は宇宙交通の要衝だからな。その権益を狙って侵略を仕掛けてくる勢力は、その頃からいたってわけだ』
「その悪魔の作った世の中も、今の時代みたいな感じですか?」
『そうだな。レプティリアンの場合は優秀な者、特別な技術を持つ者の身分を奴隷にしてこき使おうとする傾向がある。その意味では似てるかもしれんな』
「エジプトの石工が奴隷だったとか、日本の刀鍛冶や革職人も被差別民だったとかいう話もありますもんね」
『それは共産主義プロパガンダの作った歴史観だが、当たらずも遠からずか。だが、今の日本はあまりにも異質だけどな』
「今の日本はオカシイですか?」
『有り得ないほどオカシイ。求められる技能と賃金が割に合わなかったら、日本以外の国では求人募集を無視して迷わず生活保護を申請する。それなのに日本では生活保護を受けるよりも安くても仕事に手を出す人が多い。そのせいでリストラされた技術者とか、看護師とか、保育士や介護職とかの賃金はどんどん下げられて、三〇年間で三分の一にされてるだろ』
「作家も最低原稿料が高度経済成長期の頃から据え置きなのに、その一〇分の一やボランティアで仕事を依頼してくるバカがいますからね。それどころか今や時代は求人審査から権利競売。お金を払って仕事をする権利を買う業界も出てきてますから、言われてみると今の日本は完全に狂ってます」
ちなみにマンガの最低原稿料は二〇年ほど前に三倍以上に引き上げられた。この最低相場はネットで流れてるので、具体的にモノクロ原稿は大きさに関係なく最低一万円、カラーは五割増しと言ってもいいだろう。だけど新規参入の相場を知らない経営者たちが、引き上げられるより前の最低相場三千円の一割にも満たない一枚二、三百円で依頼してるあたり。もう脳が膿んでるとしか思えない才能搾取だ。
同じように一文字〇・五円でシナリオ原稿を募集してる愚か者もいた。五円でも実質最低相場未満だというのに……。
『上に立つ無能どもは、そんなことを続けていたらマトモな能力や技術を持った人が育たなくなるとわからないのかな。だからこそ、上の神はそれをやってるバカどもを地に落とす大グレンを準備してるのだが……。まあ、それは別の話だ。レムリアの第二の世界でも技術者が軽視されるようになってきたので、多くの若者は努力してまで技術者になろうとは思わなくなった。それで上の神は、文明ごと経済悪魔どもを滅ぼしに掛かったんだ。それが紀元前三四、七六〇年の急速な寒冷化だ。これだけはレムリアが被った六回の文明衰退の中で、唯一、大地の問題とは関係のない災厄だ』
「時期的には最終氷期の寒冷化が進んだ頃ですか。まさに天罰ですね」
『うむ。まず襲ってきた大寒波と大雪で首都サバナサの都市機能が麻痺して、大勢の犠牲者が出た。更に農地が厚い氷に鎖されて収穫も見込めなくなり、多くの人たちが飢えと寒さで亡くなっていった。まさにホピ族の神話にある、氷の災厄で滅んだ第二の世界だな』
「氷の災厄で、どのくらいの人が亡くなったんですか?」
『八割以上だ。災害級の寒波が収まった頃には、地球には二億人も残ってなかった』
「レムリア文明は、またゼロからのやり直しですか?」
『さすがに人口が減ってしまえば、イヤでも文明は維持できなくなって衰退する。だが、何度も言うが地球のある場所は宇宙交通の要衝だ。宇宙から救援が来るし、それで災害級の寒波が終わって入植可能な土地が増えたという情報が伝われば、また移民がやってくる。おかげで残ったインフラを直すなどして、最低限の文明生活は一年と待たずに送れるようになった』
「じゃあ、復興できたんですか?」
『そこは考え方次第だな。インフラに必要な機材や物資をすべてヴェガに頼って、現地では農産物の生産とインフラの保守だけで済ませるなら、三〇〇人もいれば文明の維持は可能だ。だが、物資を運ぶ予算まで考えて永続できるとなると数百万人は必要になる。まして自分たちで機材や物資を作るとか、研究開発までできる人数を考えると、数億人に増えるまで待つ必要があるぞ』
「第二の世界は、そのレベルまで届かなかったんですよね?」
『そういうことだ。そこで第三の世界の話になるが、ここはアトランタ大陸に住み着いたアレモX3星からの難民たちの話ともからんでくるので、それと併せて語るぞ』
『アトランタ大陸にアレモX3星からの難民が住み着いたのは、レムリア大陸に文明が生まれた時から、ほんの二〇〇年あとのことだ。難民が生まれた時の話はすでにしてあるから、ここでは割愛するぞ』
「アトランタの文明は、どことも交流しなかったということでしたが、それはずっとですか?」
『そう、ずっとだ。生まれた時からレムリアが氷の災厄で滅びた時まで約一八万年間、ずっとだ』
「それは原始的な生活を送っていたからですか?」
『それも違う。アトランタもちゃんと独立した文明として続いていた。日本が江戸時代の鎖国を、一八万年間続けたようなものだと思ってくれ。日本が欧米の植民地にされなかったように、アトランタもやってきた船を追い返せるだけの武力を持ち続けていたからこそ鎖国状態が続いていたんだ』
「それは……すごい話ですね。じゃあ、文明はずっと成長もなく停滞してたんですか?」
『それも違う。日本の江戸時代もゆっくり進歩してたように、アトランタの文明もゆっくりと成長していた。それが驚くほどゆっくりしていたというだけだ』
「すると牧歌的で平和だったんですかねぇ?」
『それも違うぞ。アレモX3からの移民はカテゴリー二から三の社会だ。今の地球ほどじゃないが、戦争の絶えない社会だ。だからこそ外から来る船を追い返せるほどの武力を持ち続けてたってわけだ』
なんか、すべて否定されてるような感じだ。
『このアトランタが宇宙文明に成長したのは、レムリア文明にとって第二の世界の終りに近い紀元前三六、八〇〇年頃だ。だが、このアトランタは大陸内でもイザコザが絶えなかったせいか、外と交流して余計に混乱するのを嫌ったのだろうな。それに同じ地球にあったにもかかわらず、周りとの交流をほとんど絶ってきたために、わからないことだらけだ。それも神のレベルで引きこもってるのだから謎が多すぎる』
「神様のレベルで? 神様の世界でも交流がなかったんですか?」
『そっちはカテゴリーの問題だ。今の地球はカテゴリーが低いために、宇宙から地上が見づらい岩戸ができてるだろ。それと似たことがアトランタ大陸で起きてたんだ』
「なるほど。当時の神様の世界からはアトランタ大陸が泥海に見えるんですね」
『それでも外の世界と交流してくれていれば、もう少し情報が残されたと思うのだがな』
「ところでアトランタが宇宙文明まで成長したのは、レムリアで氷の災厄に遭うよりも前ですよね? アトランタではどのくらいの被害があったんですか?」
『アトランタ大陸は赤道のすぐ北にあった大陸だ。だから寒冷化の影響はないぞ』
「それなら、レムリアに救援はしなかったんですか?」
『何もしてないな』
「薄情ですね」
『それはどうかな? まったく交流がなかったんだぞ。寒波があったなんて知らなかったんじゃないか?』
「そうかもしれませんが……」
『レムリアは紀元前二四、五八〇年頃にもタウポ火山の破局噴火で大きな被害を受けている。五回目の文明衰退だ。その時だって、アトランタはまったく救援しなかった。それほど鎖国して外との交流を避けてたんだ』
「タウポ火山って、ニュージーランドの?」
『そうだ。それも当時のレムリア大陸のど真ん中にあった火山だぞ』
「そんな火山が破局噴火を起こしたら壊滅的な被害が出ますよね? でも何か支援ぐらい……」
『アトランタはずっと大陸内の小競り合いで、外へ目を向ける余裕がなかったんだ。それにカテゴリーの問題があるから宇宙文明になって地球から外へ出るようになっても、今の地球と同じように異星人の方が接触を避けてくる状態だ。余計に外の情報は入ってこない。だから彼らとの交流のやり方を知らない。知ろうともしない』
「異星人たちの方は、アトランタの存在は知ってたんですか?」
『当然、知ってた。レムリア文明と交易してる異星人は多い。その関係で隣にカテゴリーが低くて気難しい文明があるということも知られていた。だから地球を出入りする異星人たちは事情を知って、アトランタを刺激しないようになっていく』
「それは……、なんか寂しいですね」
『それは事情を知ってるからだ。それすら知らない当人たちには、どうでも良い話題だ』
『さて、また話をレムリア文明に戻すぞ。タウポ火山被害から復興したレムリア文明は、そこから第一の世界に迫るほどの急成長が始まった。再び近くにある恒星系の中で、ヴェガに次いで高度な科学技術を持つ文明に返り咲いたんだ。それに引きずられるように、地球の各地に枝文明が作られていく。アマゾン、南極、南シベリア、そして日本の縄文文明もその一つだ』
「日本にも枝文明が作られたんですか?」
『ヴェガから来たプレアデス人系は、まずレムリア大陸へ入植してきた。だが、この頃になると凶暴な原人は絶滅していたから、他の大陸へも入植するようになったんだ。まずは南アメリカ大陸、次に東南アジア、アフリカ、インド、そして南シベリア、ヨーロッパだ。入植者たちは先住民がいると避ける傾向があるため、アボリジニのいるオーストラリアや、アレモX3からの移民のいるアトランタへはほとんど入植しなかった』
「ん? 日本は?」
『結論を急ぐな。日本列島へ入植したのはリラ人系だ。オーストラリアやアトランタも同じリラ人系の子孫の住む土地だったから、プレアデス人系の入植者たちは感覚的に避けたのだろう。そのため日本列島、台湾、フィリピンにリラ人系の入植者が多く住むようになったんだ。そして、その一部が台湾を経由して中国へと渡っていった感じだ』
「でも、日本にその時代の遺跡はありましたかね?」
『その時代の海面は今より一二〇mも低かったぞ。それにいつの時代も人口の九割以上は標高一〇〇m以下か、もっとも近い交易港から一時間以内にある土地で暮らすものだと言っただろう。その当時の都市はすべて海の中だ。紀元前二万年以上前には最初のレムリアの都市が仙台湾の奥に作られ始めていた。縄文文明がレムリアから独立するのは紀元前一八、三〇〇年頃だ。文明の中心はやがて日本海側に移った。今の島根県にある隠岐の島よりも北──当時は大きな半島だった。そこが当時の日本というか縄文文明の経済中心地だ。そことレムリアの間はひっきりなしに多くの貨物船が行き交い、対馬と朝鮮半島の間にある狭い海峡は常に大渋滞となる海の大動脈だな。しかも縄文文明では最盛期には独自技術で星間飛行ができる宇宙船──浮舟を建造できるまでになっていたんだ。航行距離は三〇光年。一〇光年を五日ほどで飛べる宇宙船だ。それを最後に完成させたのは、紀元前一〇、八五〇年代の半ばだぞ』
「縄文時代って、もしかして今よりも進んでたんですか?」
『ホピ族の神話でいう第三の世界が滅んだあとも、縄文とエジプトの衰退はゆるやかだった。紀元前八千年頃までは今よりも進んだ科学技術を持ってたと思っていいぞ。以降は工業製品が生産できなくなり、だんだん壊れて動かなくなった。それでも都市インフラは補修すれば、まだまだ使うことはできた。しかし日本では紀元前五三〇〇年頃の鬼界ヶ島の破局噴火で西日本が広く住めなくなり、世界的にも海水面は六千年で四〇mほど上がっていたのだが、紀元前四五〇〇年頃からの一〇〇年間で、一気に八三〜四mも上がって超古代文明の遺跡はほとんど海の中へ消えていったんだ』
「問題の第三の世界は、どのように終わったんですか?」
『それは三段階に分かれて滅んでいったんだ』
「三段階?」
『その前に第三の世界の最盛期は、残念ながら第一の世界ほどの文明レベルにはならなかった。だが、地球は第一の世界の人口をはるかに超えて、一九億人が暮らす惑星になっていたんだ』
「今を基準に考えると、多いのか少ないのかわかりませんが……。一九億? バカラティーニ文明の最盛期も一九億人でしたよね?」
『自然な状態であれば、一九億人が地球サイズの惑星にとっての最適な文明人口なのだろうな』
「今の地球は、いろいろ不自然ですもんね」
第八話じゃないけど、今の地球には不自然に集まって生まれてきた魂の人が多いからねぇ。
『最初に第三の世界から消え始めたのはレムリア文明だ。紀元前一一、〇五〇年頃から大陸が徐々に沈み始めたんだ。おそらく地殻のゆがみが限界を超えて元に戻り始めたのだろう。大陸は二〇〇年ほどかけて小さな島々に別れ、少しずつ海の中へ消えていったんだ。そして紀元前一〇、八九〇年頃にレムリア文明は滅びたと考えられている。その生き残りは先にアマゾン文明が逃れたエジプトや、南米のアンデス地方へと移っていった。もちろん、中には地球を捨てて宇宙へ帰っていった者たちもいたし、日本や台湾へ逃れてきた人たちもいる』
「竹内文書にも二〇〇年かけて海に沈んだと書かれてますね」
『それを追い抜くように、アトランタ大陸も海に消えた。しかもずっと続いていた小競り合いで、とうとう核地雷を使ってしまったんだ。限界に近づいていた地殻のゆがみが、その震動に刺激されて解放されて、大陸は潰れるように海の中へ消えていった。生き残った子孫はポリネシアやインドネシアに残ってるが、とんでもない終わり方だな』
「……ですね。でも、まだ二つですよ。もう一つあるんですか?」
『トドメは紀元前一〇、八四〇年頃に落ちてきたクローヴィス隕石だ。最近は二〇一八年にグリーンランドで見つかったクレーターからハイアワサ隕石と呼ぶようだが、これは事実誤認だ。この巨大隕石が当時の北極圏に落ちた影響で、地軸が一六〇〇kmもズレ動かされる大事件が起きたんだ。この反動で起きた津波は、大洋の北西側に集中している。日本列島はモロに被害を受けた地域の一つだ。沖縄や奄美諸島では、標高一五〇mの山があるかないかでハブの棲む島と棲まない島がキレイに分かれてるのも、当時、高さ二七〇mもの津波に襲われた結果だ。これによって沿海に作られた都市はことごとく破壊されてしまった』
「先ほど縄文とエジプトの衰退はゆるやかだと、おっしゃってましたが……?」
『それは地形に助けられた影響だ。縄文で残ったのは日本海側だ。エジプトも地中海の奥にある。どちらも大洋から狭い海峡によって切り離された内海の、それも津波被害の大きい北西岸とは反対の南東岸だ。そのおかげで津波による壊滅から免れ、その後も文明社会が存続できたのだろう』
「南シベリアも海に接してないので、文明が存続できたように思えますが……」
『シベリアは地軸がズレたことで北極圏へ近づき、マンモスが一気に氷漬けにされたじゃないか。文明も無事で済むはずがないだろ』
「それは、ごもっともな話で……」
言われてみれば、そうでした……。
『アトランタからの生き残りの一部は日本列島にも逃れ、富士山のふもとに街を作ったそうだ。当時の太平洋側は津波によって、ほとんど無人になってただろうからな』
「その子孫は、今も残ってるんでしょうか?」
『いや、全滅した。間の悪いことに避難した時は新富士の噴火が始まった頃だ。大量の溶岩を吐き出しながら古富士の上に新富士が積み上がっていった時代だ。流れ出る溶岩は周囲四〇kmを覆い尽くし、南に流れた溶岩は駿河湾へ流れ込むほどだ。せっかく避難してきたのに、とんだ災難だよ』
「まるで核戦争を起こしたから、大地の神様から根絶やしにされたような感じですね」
怖い話である。
『まだ歴史は続くが、超古代文明が滅んだところまで語ったので、このあたりで終わりにするか。分割しても、そのあとが長かったな』
「ですね」
ということで、これで超古代文明に関する話を終えたいと思う。
この時代の遺跡や証拠は、いつ頃海底から見つかるのだろうか。




