第42話 たまには科学技術に関することを聞いてみた
「守護神様。ダウジングで科学的な疑問には答えられますか?」
『ちゃんと調べて答えてやるぞ。ただし、俺は理系じゃないから、質問はお手柔らかに頼むぞ』
ということで、たまには科学に関することを聞いてみることにした。
「まず宇宙論の根幹になっているビッグバン宇宙論って、正しいんでしょうかね?」
宇宙人論やスピリチュアル系の情報を集めてると、すべての存在がビッグバン宇宙論を否定していた。肯定してる話は、これまで一度も遭遇したことがない。
『それはまったくの間違いだ。宇宙は広がっても縮んでもないし、始まりも終わりもないぞ』
守護神様も同じように、ビッグバン宇宙論を否定してきた。
「宇宙には始まりも終わりもないというのは、無限に続いてるということですか?」
『時間を直線で考えるのも大間違いだ。時間はだいたい四兆年で繰り返してるんだ』
「それは遠い未来と遠い過去が同じってことですか?」
『その通りだ』
「約四兆年でループしてるんですか?」
『そういうこと、らしいぞ』
「宇宙一周が約四兆光年という意味ですか?」
『長さではなくて時間の話だ。長さでの宇宙一周は一四・七兆光年だな』
「オリオン人と呼ばれてるグレイ型が宇宙征服に乗り出したのが八〇兆年前。悪狐も一〇兆年前には宇宙侵略を始めて、どちらも今も拡大してますよね。真ん中の方で植民地にされた惑星は、二重三重に侵略されてるんですか?」
『ゔ……』
「それにグレイの最長老は六〇兆歳ですよ。彼の魂も四兆年でループしてるんですかね?」
『え〜いっ! 知るかっ! そこまでは俺にはわからん。「繰り返してる」までが俺の答えられる限界だ』
「それなら、四兆年で繰り返してる時間は、時間が閉じてループしてるのか、それとも螺旋を描いてパラレルワールドにつながってるかは、わかりますか?」
『そこも、俺にはお手上げだ。それ以上聞いてくれるな……』
単純往復する振り子の動きが、徐々に小さくなっていく。
そのあたりの科学概念は、守護神様にもつかめないのだろう。
「宇宙論の大きな謎といえば、暗黒物質と暗黒エネルギーがありますね」
ビッグバン理論の話題を打ち切って、次の質問に移った。
「最新の宇宙論では現代科学が確認できるエネルギーと質量──つまり物質は宇宙の四%しかなくて、残り九六%は未知の存在が占めていると考えてます。これは事実なのでしょうか?」
『それは大間違いだ。暗黒物質も暗黒エネルギーも存在しない』
「なんで、そんな間違いが出てきたんでしょうね?」
『それはきみも気づいてるだろ。天体の動きを重力だけで語るからおかしくなるんだ。身の回りにあるものを考えてみろ。物質の最小単位であるクォークや電子の表面では、重力が一番強い。だが、少し離れると他の力の方が強くなる。それに原子の大きさで見たら、物体の中は宇宙みたいにスカスカだ。それを電磁力でくっつけて、固体になったり、流体になったりしてるじゃないか』
「だから宇宙も身の回りの物質と同じように、星よりもはるかに大きな空間レベルで考える時は、電磁的流体として捉えるプラズマ宇宙論が正しいんでしょうかね?」
『宇宙空間は静電気で満ちてるんだから、そっちで考えた方がいいだろうな。実際、恒星系は遠い天体ほど公転速度は遅くなるが、銀河ほどの大きさになると中心からの距離とは無関係に公転速度の差は小さくなっていく。重力だけで考えれば不思議な現象だが、水面にできる渦巻きで考えたら見慣れた現象にすぎないだろ』
まさにその通りである。
「謎の力といえば現在、物理学で知られている基礎相互作用には『重力』『電磁力』『強い力』『弱い力』の四つが知られてます。基礎相互作用には、第五の力はあるんでしょうか?」
『あるぞ。強い斥力だ』
「それはどのくらいの強さなんですか?」
『電磁力の一〇倍以上だ。すでに数学的に存在を予言してる学者はいるぞ』
「じゃあ、それが見つかる日も近いんですかね?」
『いや、今の地球の科学力では観測する手段がない。科学力がもっと高い次元を扱えるようにならないと、観測は難しいだろうな』
「それが第五の相互作用で、第六の相互作用は?」
『ない。基礎相互作用は五つで終わりだ』
だそうである。
「他に宇宙について気になるのは、光の速さですね。相対性理論によると、光よりも速いものはないそうですが……」
『光より速いものならゴマンとある。そもそも光の速さで移動してたら、遅すぎて星間飛行はできないじゃないか』
「じゃあ、相対性理論は間違ってるんですか?」
『間違ってるのは学者の解釈だ。相対性理論そのものは間違ってない』
「解釈の問題なんですか?」
『二〇年近く前に航空力学で大きな解釈ミスが見つかったし、一〇年ぐらい前にも不確定性原理の計算ミスが見つかっただろ。似たような間違いを光の速さでもやらかしてるんだ』
航空力学の解釈ミスは流体モデルの作り方が間違っていて、計算上の揚力が実際の半分になっていた間違いだ。そのせいで「昆虫は飛べないはず」なんて言ってる人たちもいた。この間違いが見つかって以降、飛行機の翼がちょっとだけスリムになってたりしている。
不確定性原理の間違いも、数学では厳密に使い分けていた微分記号の違いを、物理学者たちは「同じ微分だし」と扱ってたために出てきた思い込みだ。そのおかげで量子論などで出てくる誤差の大きさが、思っていたよりも小さいとわかって理論の見直しが迫られた事件である。
「光がすべての速さの限界値ではないのなら、宇宙人論に出てくる光の何十万倍も速く飛べる宇宙船は可能なんですか?」
『もちろん可能だ。相対性理論は「観測ではこのように見える」を理論化したものなのに、アインシュタイン自身も「光速に近づくと、こうなる」という理論だと思い込んでいたんじゃないのか?』
「でも、粒子を加速して光速に近づくと、実際に粒子が重くなったように振る舞ったり、寿命が伸びたりしてますよ」
『その前に、何の力で加速させてるかわかってるか? 電磁力で加速してたら、電磁力の速さを超えられるわけないだろ』
「それは、たしかに……」
光は電磁波の一種だから、電磁力の速さそのものだ。
「ノズルを絞って超音速を成功させたジェットエンジンのように、電磁力でも走査線で押し出すなら光速を超えられませんかね?」
『俺に技術的な質問は振るな。でも、思い込みを捨てて工夫すれば、今の技術でも超光速は可能みたいだぞ』
かつての航空機開発でもプロペラを前提に考えすぎて、超音速は技術的に不可能と思われてた時代があった。その理由として「音速に近づくと空気がコンクリートよりも固くなる音速の壁がある」というような、おかしな理屈もあったそうだ。
もっとも同じ時代に火薬で撃ち出される砲弾の初速が最大で音速の五倍(現代は八倍)であった事実は、都合よくなのか意図的なのか忘れられていたようだが……。
それと同じようなことを、光の速度でもやってるのだろうか。
「もう一つ、星間飛行で気になってたのですが……。宇宙人論などを調べてると、ワープや亜空間ドライブのような瞬間移動技術が出てこないんですよね。じゃあ、瞬間移動は不可能なのかというと、短距離のテレポート技術はあるんですよ」
『地球に来る宇宙人も、ほとんど数km以内のテレポートしかやってないな。まれに二〇km近く跳ばす時はあるけど……』
「瞬間移動できる距離に限界があるんですかね? 地球から火星までワープできたら便利なはずなのに……」
『その理由は、きみ自身が小説の設定で使ってたぞ。三〇〇m以内は安全。一〇kmでテレポート後の衝撃が激しくなって危険が高まり、一〇〇kmで死亡リスクが圧倒すると』
「ん? そんな設定……ありましたっけ?」
と調べたら、たしかに『すーぱー☆なちゅらる』という作品内に出てくるSNP理論という架空の物理法則で考えていた。
一〇〇kmでテレポートすると移動した先で時速五〇kmで壁にぶつかるぐらいの衝撃を受ける。一〇kmなら三〇cmの段差を踏みはずした時ぐらいの衝撃だが、これは足をくじくぐらいなら良い方で、転倒して頭の打ち所が悪かったら死ぬこともある危険な衝撃だ。三〇〇mなら大きな事故は減るだろうが、それでも平地を歩いててつまずくぐらいの衝撃を受けるだろう。
「あの設定は地球上でテレポートした時の慣性モーメントの差ですよ。宇宙空間では関係ないんじゃ?」
テレポートした先で受ける衝撃というのは、地球の自転によって生じた慣性モーメントの差だ。これは飛んだ方向とは関係なく、距離で違いが出てくる。ただし、飛んだ方向によって地面に叩きつけられたり、横方向へふっとばされたり、空へ放り出されたりと変わってくるが……。
『地球の自転程度の速さで、それだけの衝撃が出てくるんだ。それをもっと速く動いてる宇宙空間でやってみろ。想像以上に大きな衝撃に襲われるぞ』
「それは、まあ桁が違いますからね。でも、高い次元の科学技術があれば、衝撃を吸収できませんかね?」
『そのためには何次元必要だ?』
「えっと……。一二次元……かな?」
『そりゃあダメだ。宇宙人論に出てくる高い次元を操れる宇宙人だって、せいぜい八次元から九次元だろ』
「うわぁ。過去の自分に論破された気分です」
なぜと思ってた疑問の答えを、まさか過去の自分が答えを出してたとは……。
『他に疑問はあるか?』
「今、思いつくのはそのぐらいですね」
『じゃあ、今回はこれまでだ』
「はい。今回もありがとうございました」