第35話 稲荷神について聞いてみた
「守護神様。お稲荷様って何者なんでしょうね?」
今回は稲荷神に関する話題である。
『何が気になってるんだ?』
「お稲荷様って日本で二番目に数が多い神社なのに、産土神にも土地神にもなりませんよね。それにお参りすると見返りを求めるじゃないですか。他の神様とは何が違うんですかね?」
『それは女のウカノミタマに限った話だ。男のウカノミタマであれば日本の神らしく、産土神にも土地神にもなるぞ』
「男の? 男女のウカノミタマがいるんですか?」
『いるぞ。大昔は男のウカノミタマのみだったが、時代が進むと女のウカノミタマが増えて、今では圧倒的な数になってるんだ』
「性転換ですか。日本の神話には多いですよね」
『ウカノミタマは性転換ではないぞ。とはいえ日本の神話ではホンモノがニセモノに変わる時、たしかに性別が変わってるケースが多いな。アマテラス様とかな』
ニセモノになると性別が変わるのは日本神話の特徴だろうか。
天の岩屋に隠れたアマテラス様は男の神様だけど、出てきたアマテラス様は女になっていた。日月神示では、
ダマシタ岩戸からはダマシタ神がお出ましぞ(碧玉之巻 第一〇帖)
という言葉でほのめかしている場面だ。ちなみにダマシタ岩戸とは、岩屋に隠れたアマテラス様を引っ張り出すために、神々がウソの宴会を開いて誘ったことだ。それに騙されて出てきたアマテラス様は、いつの間にか女に変わっていた。
またその関連で古い神話ではアマテラス様の養父でありお師匠様であった五穀豊穣の神トヨウケが、古事記になるとアマテラス様の身の回りのお食事係であるトヨウケビメに変わっている。
ちなみに、ここまで語った三例はすべてホンモノは男でニセモノは女だが、ここに女性蔑視の意味はない。ちゃんと逆の例もある。有名な恵比寿様だ。古い神話ではワカ姫と呼ばれる歌の女神様だがヒルコとして海に流され、男になって戻ってきている。
「ところで、どうしてお稲荷様は女のウカノミタマが増えてるんですか?」
『乗っ取りだよ。元からあった稲荷神社を、女のウカノミタマの勢力がどんどん乗っ取っているんだ』
「乗っ取りですか?」
『宗教関係は多いからなあ。なんで稲荷神社が狙われたのか、そのあたりから語ってみるか』
「はい。お願いします」
『ところで、きみは「稲荷」の語源はわかるか?』
「何でしょうね? 『稲が生る』で豊作祈願ですか?」
『それも一つの見方だが、稲の荷と書いて、別の読み方はわかるか? もちろん、やまとことばでだ』
「別の読み方? それもやまとことば縛りですか?」
稲は「いね」、荷は「に」だけど、訓読みで他の読み方なんかあったかな?
「出てきません。お手上げです」
『まあ、今は使わないからな。稲の荷と書いて今は「いなり」と読んでいるが、古くは「うけもち」ないし「うかもち」と読んだ。食べ物の古い呼び方だ。今は稲の荷と書いたら「いなり」としか読まれないから「うけもち」と読ませたい時には「保食」の字を当てるようになってる』
漢字の読み方って、時代と共に変わるんだよねぇ。つまり『荷』は古くは「もち」「もの」と訓読みを当ててたわけだ。でも、時代と共に「もの」に当てる漢字は『物』が使われるようになったのだろう。
『男のウカノミタマは五穀豊穣の神だ。今は万葉仮名の漢字が当てられているが、かつては稲の魂と書いてウカノミタマと読ませていたぞ』
ウカノミタマ。漢字では「宇迦之御魂」と書く。万葉仮名では何の神様かわからないよね。
『それで乗っ取りの話だが、稲の荷を「いなり」と呼び習わすようになっていた三世紀頃に、キリスト教思想の一部が入ってきた』
「三世紀。卑弥呼の時代ですか?」
『まさにその頃だな。商売繁盛の神として入ってきた。その時に一緒に入ってきたインリという言葉が、稲荷を乗っ取るキーワードになったんだ』
「インリ? どういう意味ですか?」
『ラテン語で「ユダヤの王、ナザレのイエス」を示す頭文字を並べたものだ。これはイエス・キリストが磔にされた時、十字架に掲げられた罪状書きに記された「INRI」が元になっている。とはいえ、その頃の日本語には「ん」の発音がなかったため、Nに母音を付けて「いなり」や「いぬり」と発音したんだ。それが男のウカノミタマが率いる稲荷と同じ発音であったために、乗っ取りが始まったんだよ』
「それは稲荷系神社にとって不幸の始まりですね」
「それにしてもキリスト教って、昔から入ってきてたんですね。てっきりフランシスコ・ザビエルが日本に来た戦国時代が最初だと思ってました」
『そりゃあ認識不足だな。キリスト教はいろんなものに隠れて、日本に入ってきてるぞ。そもそも日本に入ってきた仏教自身が、中身がキリスト教──日本では景教と呼んでいるネストリウス派キリスト教にすり替わってるんだ』
「え? 仏教とキリスト教はまったくの別物ですよ。無神教の仏教と一神教のキリスト教じゃ、まったく違うじゃないですか」
『見る場所が違う。本来の仏教が教えてるのは、自己責任、自助努力、自力救済という徹底的な個人主義だ。魂も修行して徳を積むことを教えているが、菩薩から悟りを開いて如来になれるのは仏門に入った僧侶だけだ。そこに庶民を救済するなんて考えはない』
「菩薩様って、けっこう偉い神様ですよね?」
『違う。元は悟りを開く前の僧侶のことだ。それを日本が勝手に位の高い僧侶の称号にしたり、神の呼び方に使ったりしたから話がおかしくなってるんだ』
「うわぁ〜。意味がまったく変わってますね」
『それに本来の仏教の教えでは、死んで魂が天に帰れば、死体は使い古された不用品だ。魂の抜けた肉体は土に埋めたり川に流したりして、自然に返すものとしている。日本神道と同じで、墓を作るなんて考えはどこにもない』
「えぇ〜? じゃあ、お墓は?」
『元はキリスト教の思想だ。キリスト教では最後の審判のあと、神に選ばれた者は生き返ると考えているからな。それまで肉体を保管する場所が必要になって墓が生まれたんだ。もちろん復活するために土葬以外にありえない。水葬なんかされたら、どこで復活できるかわからないし、火葬に至っては戻るべき肉体が無くなってしまうので非常に恐れている』
「そういう事情で必要になったんですね」
『それが中国でちょっと変わった。中国には先祖供養の思想があるが、これは日本とはまったく意味が違うぞ。中国では未練を残した先祖が、子孫の運命に害悪を与えると考えてるんだ。先祖供養は子孫を祟らないように、先祖を祀って宥めるためのものだ。そこへキリスト教と一緒に入ってきた墓は、先祖を封印する場所として重宝されたんだな』
「ご先祖様を封印しちゃうんですか?」
『大陸では家系は意識しても、家族でいるのは生きてる間だけ。死んだらもう赤の他人だ。だから墓参りは、封印が壊れてないか調べに行く大切な行事だぞ』
「本当ですか? 話がムチャクチャすぎます」
「ところで稲荷の話なのに、仏教の話に脱線しちゃいましたね」
『いや、まったくの脱線じゃない。日月神示が語ってる五回目の岩戸閉め──仏教伝来と同じ手口で、レプティリアンが日本に入り込んできたのが稲荷だ』
「げっ! レプティリアンに?」
『考えてもみろ。女のウカノミタマは何の神だ?』
「商売繁盛……でしたよね?」
『その通り。経済悪魔のレプティリアンらしいと思わないか?』
「そう……ですね。お稲荷様をお参りすると、けっこう高い確率で願い事が叶うとは言われますけど、それに見合うだけの見返りを求めるとも言いますもんね。それに女のウカノミタマが祀られた稲荷神社は、土地神にも産土神にもなりませんし……」
『土地神や産土神は、プレアデス系の神が魂の成長を管理するためにやってる仕事だ。だが、レプティリアンにはそういう文化はないため、いっさい協力する気はないってわけだ』
「たしかに話の筋は通ってますね」
そう考えた時、ふと頭に疑問が湧いてくる。それは、
「そういえば、お稲荷様といえばおキツネ様が付き物ですよね」
という話だ。
「どうしてお稲荷様には、おキツネ様が付き物なんですかね?」
『それは男のウカノミタマが五穀豊穣、食べ物の神だからだ。日本にネコが入ってくる前、食べ物をネズミから守る役目をキツネが担ってた名残りだ』
「へぇ〜。それは関係がわかりやすいですね。でも、今のお稲荷様は商売繁盛の神様に変わってますよね?」
ネズミから食べ物を守っていたおキツネ様たちは、上司が商売の神様に変わった今、どんな役目を与えられてるのだろう。
「しかも仕える神様が、プレアデス系からレプティリアン系に変わってますよね? 何か影響みたいなものは出てないですかね?」
『そりゃあ、影響があるに決まってるだろ。しかも理不尽なレプティリアンが上司になったブラック神社だぞ。きみの言うおキツネ様──狐霊たちには災難だ。中には金儲けや利益追求が肌に合って喜んで仕えてる狐霊もいるが、ほとんどの狐霊は仕方なく言われるままに働いている感じだな。当然、逃げて野良になった狐霊が大勢出てるし、辞める前に心を病んでドロップ・アウトした狐霊もたくさん出てるぞ』
「おキツネ様たちも大変ですね」
まるで今の日本の労働環境に似た現象が起きている。
「野良になった狐霊って、他の神社に再就職みたいなことしてるんですか?」
『いや、ほとんどの狐霊たちは野良のままだ。そのせいで暇つぶしに悪さをする狐霊が出てきてるのが残念だな』
「暇だと悪さをするんですかね?」
『その言い方は悪いが、そこは人間と同じだ。肉体を持たない神霊は、人間と違って喰うために働く必要はない。だが、それでも多くの神霊は、居場所としての仕事を求めてるんだ。それがないと暇な時間を持て余して、霊格や知能の低い連中ほど賭け事や遊びを探して時間をつぶそうとする。人間のように肉体はないから、酒や肉欲には溺れない。だが、その分だけ強い刺激を求めて、神や人間に対してイタズラをする迷惑な連中も出てくる』
「イタズラ……ですか?」
『さすがに低級霊のような悪意でやる連中は少ないと思うが、繰り返すうちに一線を越えて悪質化することもあるんだよなあ。そうなった者をハグレ狐霊と呼んでるようだが……』
「その呼び方は聞いたことあります。かなり迷惑みたいですね」
『だから、狐霊たちはそういうハグレ者を減らすように、独自のコミュニティを作ってるんだ。それが居場所になるからな』
「霊の世界でも、それぞれの居場所は必要なんですね」
『ああ、重要だ』
「そういえばスピリチュアル系のウワサで、幕末の頃から自分たちをキツネではなくネコだと主張する狐霊が増えたなんて話がありますよね?」
『そりゃあ、そうだろ。狐霊を人間が勝手に「キツネ」と呼んでるが、それは日本にネコが入ってくる前、食べ物をネズミから守る役目がキツネだったからに過ぎん。その役目がネコに替わるのが、だいたいその頃だ。自然な流れだ』
「自然な流れですか? でも、ネコが日本に入ってきたのは奈良時代よりも前ですよ。幕末まで千年以上、ネコは何もしてなかったんですか?」
『きみが言うように、ネコは何もしてなかった。というか、何もできなかった……かな?』
「ん? ネコはネズミから経典を守るために、仏教と一緒に日本へ来たんですよね?」
『その話は事実だが、ネズミを捕る役目を与えられたネコは、ほとんどいなかったと思った方が良いぞ』
「どういうことです?」
『貴族がネコを気に入って、ペットとして可愛がり始めたせいだ。一気に高級なペットになって、馬の五倍の価格で取り引きされたほどだぞ』
「馬の五倍? 馬って、今の高級車ぐらいの価格ですよね?」
『馬は今の貨幣価値で、安いものでも一頭一千万円近い高級品だ。その五倍となったら……』
「絶対に放し飼いなんかできませんよね?」
『そうだ。ネコは紐や綱で繋いで、お座敷で飼うのが当たり前になった。もちろんネコの性格だ。逃げ出して野良になる子もいたが、その数は少なくて繁殖することはなかった。ネコの放し飼いが始まるのは、ようやく江戸時代になった頃だな』
「そこから急速に増えたんですかね?」
『いや、まだだ。日本ではようやく自由を得たが、この時代はネコにとって世界的に大虐殺された受難の時代だ』
「ネコに何があったんですか?」
『西洋の魔女狩りだよ。魔女の使い魔と思われて、バンバン殺されたんだ。しかも大航海時代だぞ。海外に出た探検家たちも、そこでネコを不気味だ不吉だと言って殺しまくった。ヨーロッパではネコを殺しすぎたせいでネズミが増えて、ペストがばらまかれたなんて話があるぐらいだ』
「時代的には……たしかに同じ頃ですね……」
『日本でようやくネコが増え始めたのは、天保の飢饉があった頃だな。ネズミを捕るネコを見た一部の狐霊たちが、「あれ? オレたち、キツネよりもネコに似てないか?」とか言い出して、ネコの守り神みたいなことを始めたんだよ。その動きが人間の社会にも表れたのが、世の中から招き狐がほとんど消えて、招き猫に置き換わった現象だ』
「もしかして稲荷神社のレプティリアンに反旗を翻したんですかね? 中には狛犬や狛狐まで狛猫に換えたところもありますし……」
『あぁ、それはまったく別の話だ。起きてるのはほとんど男のウカノミタマに関係した神社だぞ』
「そうなんですか?」
あれ? 予想とはまったく違ってた。
『とはいえ一口に狐霊と言っても、ネコになりたい狐霊グループと、キツネにプライドを持つ狐霊グループがいるからな。今はまだキツネにプライドを持つ狐霊の方が六割以上を占めてるが、この先どうなるかは誰にもわからん。それに狐霊のコミュニティは日本でもっとも大きな神霊ネットワークだ。数が多いだけに、招き猫のように人間社会への影響も無視できない』
「人間社会への影響ですか? 他にどんな影響が起きてるんですか?」
『最近……というには、もう一〇年以上前になるが、日本でマカロンが流行したことがあっただろ。狐霊たちは水気の多い果物や甘いものが好きだから、狐霊のコミュニティで流行ったものが、少し遅れて人間社会でも流行になる例があるんだ』
「ありましたね。二〇〇〇年代に入った頃でしたっけ?」
『その前、日本独自のクレープが生まれたのも狐霊たちの影響だぞ。それより前も、なんか……あったはず……。たしか大正時代で……ペンギンが流行った頃にも何か……』
守護神様が天界のインターネットみたいなもので調べ始めたらしい。
『うううぅ〜。喉まで出かかってるのに、思い出せないのが気持ち悪い……』
神様でも物忘れみたいなものはあるみたいだ。
「今回も長くなりましたので、このあたりで締めましょうか?」
『スッキリさせたいけど……。時間がかかりそうだ。悩みすぎると時間が止まってしまうし……』
「止まるんですか?」
『止まる。神の世界には時間の概念が弱いから、考えすぎると数日とか、下手したら数か月単位で時間が止まる。その間、きみを守護できなくなってるから、それは気をつけないと……』
「それは想像すると怖いですね。思い出すのはやめましょう」
『そうだな。でも、スッキリさせたいが……』
ということで、今回はここまでである。




