第34話 死神について聞いてみた
「守護神様。死神って、本当にいるんですかね?」
今回は、そんな話題である。
『魂を回収するという意味の死神なら存在するぞ。まあ、俺はきみを天界に連れ帰るまで世話するつもりでいるけどな』
「守護神様は魂の回収までするんですか?」
『本来は、それが普通だ。でも、目を離したスキに亡くなってて、魂が見つからずに死神の世話になるなんて可能性はあるかもな。きみも死んだら勝手に動きまわらず、迎えに行くまで待っててくれよ』
「そんなことって、あるんですか?」
『俺は経験したことないけど、思わぬ事故死とかで担当してる魂がどこかへ行って、散々探しまわったという話は聞くな』
「そうすると、死神の捜索隊ですか?」
『いや、死神は人手不足だから、魂一人のために捜索隊なんか出せない。仕事で地上に降りた死神が、見つけたついでに拾って連れ帰ってくれるのを待つんだ』
「それって、偶然に左右されませんか?」
『まさに運だ。それに死神だって忙しいんだ。見つけたからって、必ず連れ帰るとは限らん。天界に戻れるのは、素直に回収に従った魂だけだ』
「それだと、地上には天界に戻らない魂だらけになりませんか?」
『放っておけばなるぞ。それに、そういう野良の魂が増えてくると、他に悪い霊も集まってくる。そのせいで世の中が乱れてくる。だから地域ごとに野良の魂が目立ってきたら、有志の神が集まって地上の大掃除を行うんだ。町内会のゴミ拾いって感じだな』
「ゴミ拾い……。途中まで最後の審判的なものを想像して聞いてたんですが……」
『まあ、地上に残っていたい野良の魂にとっては、容赦ない最後の審判みたいなものだろうが……。ときたま地上への未練が強くて、回収されまいと必死に抵抗する魂もいるんだ。さすがに、あれは回収をあきらめるしかない……』
「守護神様も、そのゴミ拾い的なものに参加したこと、あるんですか?」
『俺も何十年に一度ぐらいの割り合いで声をかけられて参加してるぞ。前に参加したのは二〇〇九年だ。あの頃は物騒な事件が多かったし、自殺も多かった』
「その五〜六年くらい前から、妙に街の風紀が乱れてましたもんね。あれも野良の魂が増えて、悪い霊が集まってきた影響ですか?」
『事態はその一つ先まで行ってた』
「一つ先?」
『世の中が乱れることでモラルの低い人間を引き寄せ始めたんだ。暴力団の事務所とか、新興宗教の施設とか、日本の生活習慣に合わせようとしない中国人とか……』
「たしかにありましたね。あれは勘弁して欲しかったですよ」
二〇〇〇年代後半は著者の住む市内では何かと暴力事件や殺人事件が多く、街を歩くと歩道のタイルが血に染まった光景をあちこちで見かけるなんて異常な時期だった。もちろんしばらくすると血染めのタイルは張り替えられるが、そこだけ色や模様が違っていて「いかにも何かありました」というメッセージを残している。
中国人というのは、著者も隣に住まれる被害を受けた。部屋の外にまで家具を置いて物置きにする。そこに生ゴミを置いておくから、悪臭を放って大変だった。しかも深夜まで大声で話をしてる。アパートの管理人が注意しても無視するので半年ほどでアパートを追い出されたが、次に入った中国人も夜騒がないだけで部屋の外に生ゴミを出しておくところは変わりなかった。そして大量のゴキブリを発生させてくれた。二回続けての迷惑を超えた非常識な不衛生行為である。
一応、中国人の名誉のために断っておくが、異常な人が目立ったのはこの前後の期間に限ってのできごとだ。どちらかというと留学生などは日本人よりも法律や道徳を守って暮らしている印象がある。たとえば自転車で右側の歩道は走らない。通りの右にある店に入りたかったら、日本人だったら道路を横切るか、手前の交差点までに右側の歩道に渡って走るのだが、見かける中国人たちはしっかり先の交差点まで行って、そこの横断歩道を渡ってから左側通行で店に入るという模範的なことをしている。
ちょっとした道交法違反でも、言いがかりで国外退去という事態を警戒してるのかもしれないが……。
で、話を戻して二〇〇八年にはリーマン・ショックがあり、周りでも自殺の話を多く聞いた。駅近くに並ぶ高い建物から歩道へ飛び降りる自殺者だけでも何人もいたし、その中には歩行者を巻き込んだ事件が最低でも一件あったと記憶している。
また街中でエアガンを撃ってサバイバルゲームをやる迷惑な若者も多く、そこら中に白やオレンジ、青のBB弾が転がっていた。
『それとあの時、妙にノラ猫の霊を回収した気がするぞ』
「ノラ猫? そういえば、急に見かけなくなった時期があったような……」
治安が悪くなり始める時、まず小動物から被害に遭うと言われる。まさかエアガンで市街戦をやってたんじゃなくて、ノラ猫を追いまわして殺してた……とか?
あまり意識してなかったけど、そこまで身の回りの空気が悪くなってたんだなぁ。
「二〇〇九年以降も、周りで大掃除はありましたか?」
『俺が参加してないだけで、二回はやってたぞ』
「毎回、参加を呼びかけられるわけじゃないんですね」
『そこは仕切る土地神とか、周りの守護神次第だ』
「大掃除は土地神様が決めるんですか?」
『当たり前だ。土地神は地域の魂を管理するのがお役目だぞ。産土神としてだけでなく、野良の魂や悪霊の数が増えないように、手入れする責任もある。大掃除もその一つだ』
「大掃除には死神は参加しないんですか?」
『さっきも言ったが、死神は人手不足だからな。最後に集めた魂を引き取ってもらう程度だ』
「ところで死神が人手不足というのは……?」
『というか、今の地球は人口が増えすぎて、人関係を中心に様々な神が不足しているんだ。その中でももっともシワ寄せを食らってるのが死神なんだよ』
「『獣の人民』が多くなりましたもんね」
『いやいや、その「獣の人民」自体が神不足の産物だ。地球の神に断りなく生まれてくる魂に専属の守護神がいないのは当然だが、本当なら「神の器」として生まれてくるはずの子にまで、人が増えすぎて守護神を付けてやれないんだ』
念のために補足しておくが、「神の器」というのは地上に生まれてから死ぬまでの間、最低でも一柱の守護神様からマンツーマンでお世話していただいている人のことだ。それに対して「獣の人民」は一柱の守護神様が複数人をまとめて世話してるため、神様の目が行き届かなくなる人のことである。
本来の地球では、人まで育った魂には鳥獣類までと違って、一人一人に守護神を付けて手厚く育てることを当たり前としていた。「獣の人民」は鳥獣と同じ扱いになる魂だから、そのように呼ばれてる。
「何だかんだで今では六人いれば五人が『獣の人民』ですもんね。『神の器』なら見守ってくださる守護神様が最後まで面倒を見てくださるので、滅多なことでは死神のお世話にはならないのに……ですか?」
『ついでに言えば「獣の人民」の中にも付きっきりの守護神がいないだけで、代わりに守護霊に見守られてる人がいる。だから最終的に死神のお世話になるのは七割ほどになるのだが……』
「なるのだが?」
『考えてもみろ。今や戦争や殺し合いがなくても、全世界で毎日何十万人という人が死ぬ時代だぞ。死神たちは、その七割を天界まで連れ帰らなくちゃならないんだ』
「一日に何十万?」
人口七七億を平均寿命と一年三六五日で割って……。平均寿命七〇歳だと一日三〇万人?
上つ巻に「一日に十万人死んだら神の世が近づいた」とあるけど、はるかに超えてないか?
『しかも一人一人が予定通りに死ぬとは限らん。時間通りに行ったら、もう死んでて魂は行方知れずなんてこともあるし、自分が死んだことを認められずに暴れて抵抗することもある。反対に、いつまで待っても死なずに持ち堪えることもあるだろう。そうなったら待つしかない。時には持ち堪えて死なない場合もある』
「死神が行ったのに死なない場合があるんですか?」
『運命は絶対じゃない。まして「獣の人民」の運命は予定程度のものだ。空振りなんて事態は珍しくないんだ』
「それは死神からしたら、堪ったもんじゃありませんね」
『そういう手間がかかるから、死神は大勢必要なんだ』
「あのぅ、ふと気になったのですが、死ぬ予定の時間がすぎたら、魂を刈り取っちゃうことってあるんですか? 死神って、そんなイメージなんですけど……」
『まあ、人間からしたら、そうだろうな。たしかに痺れを切らして魂を持ち帰ってしまう死神もいる。だが、本来は禁止されてるんだ。最初、死神のことを聞かれた時、魂の回収と断って答え始めただろ。命を奪うのは悪霊だ。死神が命を奪うことは絶対にない。ここは言い切れるし、そこが人間のイメージにある大きな勘違いだ』
「え? でも、痺れを切らして魂を持ち帰る死神がいるって……」
『こらこら。ヒヨコの魂の話をした時に、「魂」と「命」は別物だと説明しただろ』
「あ、一応は理解したつもりですけど、イメージでは混同したままですね。刈っちゃうのは命じゃなくて魂……」
『そうだ。だから魂を刈る死神はいるが、命まで取る死神はいない。まあ、魂を刈り取るのも、本当はやっちゃいけないんだけどな』
「やはり運命を変えるから……ですか?」
『違う。低級霊に肉体を与えかねないんだ』
「肉体?」
『魂が抜けただけで、まだ生きている肉体がある。それを低級霊が見つけたら、どうなると思う?』
「肉体を手に入れる……ですか?」
『そうだ。霊格によっては肉体に宿れるとは限らないが、奪えそうなら手に入れようとする』
「でも、死にかけ……ですよね?」
『そんなの、ダメ元承知で潜り込むんだ。障害が残ってても、動けたらラッキーってな』
「そんな肉体を手に入れても、しょうがないように思いますが……」
『それが地方の名士や、著名人の体だったらどうだ?』
「世の中への影響力が、ハンパないですね?」
『だろ。だから禁止されてるんだが、魂がなかなか肉体から抜け出てこないから、痺れを切らして引っ張り出てしまう新人が多いんだよなあ。仕事に慣れてきた時にありがちな、「これくらいなら大丈夫だろ」って失敗だ』
「そういえば人物ダウジングで、何人か魂がいつの間にかレプティリアンに変わってた人がいましたね。あれ……ですか?」
『まさにソレだ。世の中にとっては害悪でしかない、魂の入れ替わりだな』
とんでもない話である。
「ところで気になったのですが、死神って、よくイメージにあるような黒装束を着てるんですか?」
『フードのある黒い外套に、大鎌を持った姿を聞いてるのか?』
「はい。あと顔がドクロみたいな……」
『そんなコテコテの姿をした死神は……。まあ、いるにはいるな。わざわざ人間のイメージに合わせたコスプレで仕事をしてる死神なら、俺も何度か見かけたことがある』
「それ、コスプレなんですか?」
『死神に決まった衣装というか、制服みたいなものはないからな。上の方もちゃんと仕事をしてくれるのなら、どんな恰好で仕事をしようと自由にさせている。だから仕事柄陰気な気分になりがちだから服装だけでも派手にしようと、真っ黄色とか、どピンクとか、全身花柄のスーツとか、そんな服装で飛びまわってる死神もいるぞ』
「それは、かなりシュールな光景ですね」
『他にも女神や天使のコスプレをして魂を迎えに行く死神もいるぞ。老人や重い病気の人は、もう死を覚悟してるからな。そういう姿で優しく接した方が、相手も幸せに往生できるってわけだ』
「状況に合わせるんですね」
『厄介なのは、事件や事故などで突然死した魂の回収だ。こういう時は魂が自分の死を自覚できないとか、認められずに暴れることが多い。そのために魂を回収する小道具や、閉じ込める箱や袋を用意することもある。こういう時は刺股を持ってくることも多いかな。日本の刺股は先がU字型だが、死神の使う刺股はS字を横に倒したような形だ。股の一方に返しのフックが付いてて、これで魂を引っかけることもできる。これを目撃した人が、死神の大鎌と見間違えたかもしれんな』
「横に倒れたS字が先についた、大鎌っぽい道具ですか。それは興味深い話ですね」
『それでだ、事件や事故で死んだ魂の回収だが、死神の中には現場を見たくない者もいてな。離れたところで時間が来るのを待って、起きたのを確認してから現場に急行する死神も意外と多いんだ』
「死神でも、人が死ぬ瞬間は見たくないんですね」
『自分がまだ人間だった頃の記憶があるからか、悲鳴を聞くことに慣れる自分が怖いのか。これで心を病んで辞めていく死神も多いから、死神は常に人手不足になるんだ』
「ただでさえ人気がなさそうですもんね」
『それでだ、現場に急行する死神なんだが……。どういう事情かは知らんが、地上を移動する死神が多いんだよなあ』
「えっと……。霊って重力に引かれますか?」
『それはないな。重力は物質に働く力だから、霊には関係ない。そもそも霊は物質とは直接干渉しないから、空を飛べるし壁抜けもできる。望めば地下にだって潜れる』
「それなのに地上を移動してるんですか?」
『そうだ。なぜかは知らんけどな』
「それは走って? それとも低空飛行ですか?」
『低空飛行が多いと思うが、この前はキックボードっていうのか? それを使ってる死神を見た』
「はあ? もしかしてスケボに乗った死神もいるんじゃ……」
『スケートボードやローラースケートで走る死神は見たことがないが、自転車と、……あ〜、すまん。ハンドルを付けたスケートボードに乗った死神ならいたな。昔なら馬などの動物に乗った死神もいたし、たくさんの魂を運ぶ時用の箱型のトラック──昔から動物が引かない馬車のようなものに乗った死神もいたぞ。あれは空を飛んでたけど』
「動物の引かない馬車って、妖怪の火車ですか?」
『そのあたりは知らんが、たぶん目撃されたんだろうな』
意外な話である。
『それはともかく、なんで地上を移動する死神が多いんだろうな。たまに道に迷って迷子になってる死神を見かけるから、ありゃあ事前に現場を下見してないぞ』
「人手不足で、下見の時間もないんですかね?」
『それはないだろ。むしろ下見して準備した方が、ちゃんと魂を回収できて浮遊霊や地縛霊を減らせるのにな』
霊格を上げて神様にはなったけど、要領が悪くて他の仕事を任せられない出来の神様が死神に回されてくるのだろうか。
「そういえば浮遊霊とか地縛霊って、どうやって生まれるんですか?」
『そりゃあ、死神が回収し損なった場合だ。浮遊霊は死神の到着が遅れて、その前にどこかへ行って回収できなかった魂だ。地縛霊はその魂が元の場所に戻ってきたものか、暴れて回収できなかった魂ってところだな』
「捕縛用に刺股を持ってきてるんじゃ?」
『持ってるはずなんだけどねぇ。どうして捕まえられなかったのか……』
「あ、もしかして死神って、ペアで行動してないから……ですか?」
『まあ、それも正解。というより、人手不足だから単独行動が増えちまってるんだよなぁ。それじゃあ……』
「刺股では一時的には動きを止められても、確実には捕まえられない……と」
『ホント。困ったものだ』
「それは困りましたねぇ」
どこの世界も現場は大変なようだ。
「ところで、そういう時用に捕獲専門の部署は組織されてないんですかね?」
『聞いたことないなあ。死神の組織は死に方によって専門部署が分かれてるから、その中に担当がいるかどうかだろうなあ』
「死に方で分かれてるんですか? ちなみにどんな部署があるんです?」
『基本的には、事故専門、病死専門、家畜専門、野生生物専門の四つだ。国や文化によっては、他に特別な部署が用意されることがある。たとえばアメリカと中国には殺人事件専門の部署があるとかな』
「日本にも特別な部署はありますか?」
『あるぞ。子供専門の部署だ』
「子供? 他の国にはないんですか?」
『ない。日本だけにある部署だ』
「どうして日本にだけ、そんな部署が用意されてるんですか?」
『それは水子文化だ。エセ霊能者や宗教家たちが「水子の祟り」なんてウソの霊障をでっち上げてくれたせいで、必要になったと聞いてるぞ』
「水子の祟りって、ないんですか?」
『あるわけないだろ。子供の魂は少し前まであの世にいたわけだから、現世に固執することは何もないんだ。だから本当なら死神が迎えに行けば、素直に回収に応じてくれる楽な相手だぞ』
「はぁ……。それが、なんで?」
『水子供養なんてものがあるせいで、母親が何か気になるできごとがあると、死んだ我が子を思い出してしまうんだ。「成仏できなくて、今も近くにいるんじゃないか」とな』
「違うんですか?」
『たしかに近くにいるが、それは理由がまったく逆だ。捏造された水子文化のせいで親が死んだ我が子を思い出すから、それによってこの世に引き戻されるんだ。この思いが強すぎると、子供の魂が母親にひっついて引き剥がせなくなってしまう』
「その光景は想像するとホラーですね」
『ただ映像だけが見える霊能者だったら、まさに水子の祟りに思うだろうな。実態は逆なのに』
「うわぁ〜、それも問題ですね」
『ということで、日本では子供の魂を回収するために、まず母親の未練を断ち切る専門の死神チームが必要になったんだ。死神たちからしたら「これ以上手間を増やさないでくれ」だよな』
「話ついでに自殺者についても質問させてください」
『自殺者の魂の回収についてか?』
「もちろん、その疑問です」
『一口に自殺と言っても十把一絡げじゃない。まず運命で決められていた自殺やお役目としての自殺の場合は、必ず守護神が立ち会ってるからな。この場合は死神の手を借りることなく、守護神が責任を持って回収を済ませる』
「運命やお役の自殺ですか。なんか壮絶ですね」
『次に低級霊による精神錯乱とか、悪霊に肉体を乗っ取られた末に自殺する場合だ。これは死神にとって通報があれば、緊急出動が求められる案件だ。魂が悪霊たちに取り込まれる前に、救えるようであれば速やかに回収すべき状況だからな。中には自殺前に到着した死神が、悪霊たちを退治して自殺を防いだこともあるぞ』
「それは死神のイメージが変わりますね」
『死神だから死をもたらすっていうイメージが間違いだとわかるエピソードだろ。救える命なら救うこともあるってわけだ』
「ところで死神って、悪霊より強いんですか?」
『そんなのケースバイケースだ。それに見てられなくて必死にってこともあるだろ』
「なるほど。そういう死神は命の恩人ですね」
自分で言いながら、シュールな気分になってくる。
『ただし……だ。それ以外の自殺に関しては放置されがちだな。何かのついででしか回収されないし、回収そのものを忘れられることもある。死神の方が、そういう魂に関わりたくないって気持ちがあるのかもしれん』
「回収した死神に、堰を切ったように愚痴を聞かせてくるんでしょうかね?」
『あはは、そういう魂が多いのなら、そりゃあ関わりたくなくなるだろうな。知らんけど……』
さすがの守護神様も、そこまでの情報は知らないらしい。
『だから、そういう魂は土地神が大掃除する時に回収してもらうしかないんじゃないか?』
「それまでは無為な時間を、ボーッと過ごすしかなくなるんでしょうね」
そこまで聞いてきて、著者の頭に一つの質問が浮かんだ。
「あのぅ、最後にもう一つお尋ねします。土地神様の大掃除ですが、心霊スポットもお掃除するんですか?」
『心霊スポット? それは、たぶんやってないんじゃないか?』
「やらないんですか?」
『土地神の大掃除と言っても、それは町内会のゴミ拾いみたいなものだと言っただろ。町内会でスズメバチの巣ができて危ないところとか、手が出せないほど汚れたところまで掃除すると思うか?』
「そういう場所は、ちゃんと装備を整えた専門業者に任せるしかありませんね」
『だろ。きみの言う心霊スポットがどこを想定してるのかは知らんが、霊の世界でも似たようなものだ。その他にも土地神が手を出せない場所もある』
「危険な場所ですか?」
『いや、土地神が管轄する土地の中に、他の神の土地が点在してるんだ』
「飛び地ですか?」
『それもあるが、警察が家庭内に入れないのと同じだと思ってくれ。小さな神社や祠とか、悪霊を封印した土地や呪物とか』
「そういうものに手を出すのは越権行為になるんですね」
『その通りだ。だから掃除をしながらも「ここは手を出さないでおこう」ってところは何か所もあったぞ』
「そういう中に入り込んだ魂は回収できないんですね」
『残念だが、そうなる。そういう場所へ悪霊や低級霊に捕まって引き込まれた魂は可哀想だが、自分から隠れ込む魂もいるからなあ』
「そうなると完全に治外法権ですね」
『地上に残りたい魂にとっての駆け込み寺だ。こちらも、さすがにそういう魂までは回収しない』
「それも神様の温情ですか?」
『いや、最後は自己責任ってことだ』
「それもまた、重いお言葉ですね」
ということで今回も長くなったが、死神の話はここまでである。




