第26話 良心的なサイコパスについて聞いてみた
「守護神様。サイコパスも魂の縛りプレイだったんですか?」
『全員ではないぞ。ある程度以上の霊格を持った人に限った話だ』
ということで、前回からの続きである。
『それを話す前に、きみはサイコパスについて、どのくらい知ってるかな?』
「アメリカの犯罪者研究で見つかった人格障害の一つ……ですよね? 高い知能を持ちながら道徳心や他人との協調性とか共感能力に欠ける人がいて、そういう人が詐欺師や連続猟奇殺人犯のような知能犯になるって……」
『それは研究に関する話だな。世の中での認識はどんな感じだ?』
「世間のイメージで言えば、映画やアニメ、ニュース・バラエティに出てくる、狡猾で冷酷な性格を持った、知能の高い利己主義者……ですかね」
『うん。そういう犯罪者予備軍という意味で浸透してしまった感があるよな』
「そうなんですよねぇ。でも、世の中で言われるサイコパスって、犯罪者研究から出てきた人格障害とは違って、いつの間にかソシオパスという反社会的なパーソナリティの意味に変わっていて……」
『まあ、そこが人間の想像力の悲しいところだ。他の犯罪者のイメージに引きずられて「頭がいい」という条件が抜け落ちて、ただ身勝手でモラルが低くて、横柄な理屈をのたまって、社会にとって好ましくない行動する連中の意味に変わっている。その極端なものが暴力的な宗教原理主義の指導者だ』
「本物のサイコパスは他人への興味や関心が薄いから、誰が何をしようが、どんな恰好をしようが、気にならないはずなんですよねぇ」
『犯罪のターゲットとして狙われたとか、利害が対立する邪魔な相手として認識されたとかがない限り、基本、無害な存在だぞ』
「ですよね。そもそもサイコパスは前提として頭が良い人たちなので、他人の気持ちがわからなくても犯罪をしたらどうなるか、それがわからないハズがないんですよ。他人の気持ちがわからないから、付き合うと苦労させられるでしょうけど……」
『まあ、それは縛りプレイでサイコパスになった人の方も同じだ。むしろ大切に思う相手に対しては、気持ちを察せられない分、必死に頭を回転させて何とか理解しようと努めてくれる。まあ、考えすぎて外すことばかりだろうけどな』
「サイコパスなのに、相手を大切に思う気持ちはあるんですか?」
『そりゃあ、あるに決まってるだろ。あくまで今生の縛りプレイで協調性や共感能力に蓋をされてるだけだ。そのせいで相手の気持ちに寄り添えなくなってるが、だからといって他人なんかどうでもいいというわけじゃない。わからないからこそ必死に考えるんだ』
「そこは、お互い様なんですね」
サイコパスに対する認識が、ちょっと変わってきた感じがする。
「守護神様。魂の世界から見たサイコパスって、どんな人たちなんですかね?」
『犯罪者になるのは霊格値が四〇〇以下の身勝手な連中だが、世の中に多いサイコパスは霊格値が六五〇以上あるストイックな努力家だぞ』
「努力家ですか?」
『そうだ。正しくは努力家になるために、今生の課題としてサイコパスという縛りプレイを選んだ魂だよ』
「努力とサイコパスって、つながるんですか?」
『簡単な話だ。努力できなくなる理由は何だと思う? 努力は才能ではなく本能だということ。ヒヨコの魂を話題にした時に出てきたぞ』
「たしか学習でしたね。あきらめたり怠けたりする気持ちは、学習によって出てくる感情だと」
『その通り。周りの悪い大人から否定的な言葉を言われてあきらめたり、怠け者の大人に感化されたりして努力できなくなっていくんだ』
「それと協調性や共感能力に蓋をすることの関連は?」
『協調性がなければ、他人から何を言われようと気にしないだろ。それに共感能力がなければ、ダメな大人をマネようともしない。それで「努力しない」を学ぶ可能性を減らしてるんだ』
「あ、そういう理由なら納得できます」
『それに魂の霊格が上がっていくと、周りに気を使いすぎて運を取り逃がす人も出てくる。間違った遠慮ってやつだ』
「そう考えると、協調性や学習能力にも良し悪しがありますね」
『そこで本来の努力する気持ちや競争心を思い出させるために、運命を管理する神から課題としてサイコパスプレイが与えられたり、本人から望んでするケースがある。もちろん天界の神々が犯罪者にはならないだろうと認める、霊格の高い魂に限って認められる縛りプレイだ。だから知能が高いだけの身勝手なサイコパスに対して、こちらは良心的なサイコパスと呼び分けておこうか』
「そういう人は多いんですか?」
『成功した学者や実業家、職人、俳優、スポーツ選手などに多いが、その蔭には努力の甲斐なく人知れず消えていった人も多いからな。意外と多く感じるかもしれんぞ』
「でも、成功者のすべてが良心的なサイコパスじゃないですよね?」
『そりゃあ、そうだ。だが、サイコパスには大きな特徴がある。世の中が求める理想体型から極端に痩せたり肥ったりしてる人はいない。そして服装も、だらしない恰好も、派手な恰好もする人がいないんだ』
「そうなんですか?」
『理由は単純だ。サイコパスは身勝手でも良心的でも知能が高い。他人の気持ちはわからないが、聡明な頭でどのような恰好をすれば社会から信用を得られるかを理解できる。そして身勝手でも良心的でも自制心を持っているから、理想的な体型を目指してストイックに運動したり食事制限したりもできるからだ。ただし全員が均整の取れた体型なのは若い頃だ。歳を取ってくると立場によって均整よりも恰幅があった方が良いと考えて、そういう体型に変わっていく人もいる。とにかく男女とも自分を魅力的にする見せ方を研究して、体型、服装、化粧、髪型の手入れまで完璧にこなしてるんだ』
「ということは若い頃は、美男美女が多いんですかね?」
『俳優のような絶世の美男美女ではないが、その通りだ。しかもサイコパスは他人の気持ちがわからない分、人並み以上に世間の目を気にしてると思っていい。だからブランド物を持ち歩くサイコパスや、高級車を乗りまわすようなサイコパスは滅多にいないと思っていい。たとえ持ってるにしても、それは使い勝手が良いとか、誰かからもらった験担ぎとか、ちゃんとした理由があるはずだ。それに家でくつろげるリビングや自室にいても、急な来客でも困らない程度に小綺麗な服装や恰好を心がけているものだ』
「暑いからって家の中では裸で下着も付けないとか、寒いからブクブクに着膨れるとか……」
『サイコパスには、まず有り得ない恰好だな。家の中では靴下一つ脱がない。それがサイコパスだ』
「畳の上の紳士淑女ですね」
『きみのお父上が、好んで使っていたフレーズだな』
「私が子供の頃、汚れた靴下を履いたまま脱ぎも履き替えもしないでいることが多かったので、注意する意味で出てきた皮肉フレーズですけどね。あはは……」
「ところで良心的なサイコパスの人たちは、犯罪者になりやすい身勝手なサイコパスとは違って、それほど問題は起こさないんでしょうかね?」
『いや、けっこう問題は起こしているぞ』
ここからは良心的なサイコパスに関する問題である。
『問題のすべては、他人の気持ちがわからないことに端を発している。そもそも共感能力を失うことでストイックに努力できるようになったが、そのせいで努力が足りない人、休もうとする人、あきらめた人を「怠惰だ」と決めつけたり、指示を一回で憶えられない人、物覚えの悪い人、そもそも指示の意味がわからない人を「グズだ」「無能だ」と決めつけたりして見下す傾向があるんだ』
「自分が努力して成功したから……ですか?」
『残念だが、その通りだ。それにそういう人は、物覚えや勘所の押さえ方も優れている完璧超人が多いからな。そのせいで学者やスポーツ選手、芸術家、芸能人、職人のような狭い世界で成功してきた人ほど、そうなってしまいがちだ。そういう人が育てるという意識を持たないまま指導者になってみろ。教わる側にとっては、よほどモチベーションの高い人でなければ完璧主義を押しつけられるスパルタ地獄だ』
「縛りプレイだからこその弊害ですね。前世で努力できなかったからこそのサイコパスプレイなのに、その記憶も封印されてるから……」
『まあ、良心的なサイコパスの全員がそういう人間ではない。それに良心的なサイコパスは魂の知能が高いから、育てる意識さえ持ってくれれば無茶は言わないようになる』
「政治家や会社の経営者だったら、どうなりますかね?」
『そっちはちゃんと最初から意識してる人が多いぞ。そもそも良心的なサイコパスが経営する会社は、社員のパフォーマンスが長く続くように労働者第一で運営されているはずだ。法律はちゃんと守るし適正な賃金も払う。残業や休日出勤は生産性が落ちるから、可能な限り発生しないように調整する。すべては合理的な経営だ。ブラック企業になる余地は小さい。政治家の場合も同じだ』
「余地は……小さい?」
『まあ、そこは良心的でも相手の気持ちがわからないサイコパスだ。合理的に考えた結果、とんでもないブラック労働をさせてしまう場合がある』
「そんなことがあるんですか?」
『企業ではないが、政治家の小沢一郎がやらかした失敗話をしてやろう』
「はい。お願いします」
『彼にとっての今生の課題は「闘争心」を思い出すことだ。そのために今生では協調性を封印するサイコパスプレイをしてるのだが、その結果が政権与党内で活躍するのを嫌い、野党を作っては大きくなると離れることを繰り返す「壊し屋」的な行動だな。それがなければ首相を一度や二度はやっててもおかしくない実力者なのにだ』
「まあ、そういう人ですね」
『政治家としては攻撃的な行動をする彼だが、周りの人には細かい心配りをするタイプだ』
「イメージとはまったく違いますね。まあ、世の中に出まわるイメージは、すべてメディアの作り上げた虚像ですけど……」
『その彼が休みなく働く秘書をねぎらうために、数日間の慰安旅行に連れていったというエピソードがある』
「なかなか粋な計らいですね」
『ところが……だ。旅行から帰ってきたあと、秘書が「そろそろ休みをいただきたいのですが」と言ってきたそうだ』
「は? 慰安旅行だったんですよね?」
『小沢一郎はそのつもりだったらしいが、秘書の方はプライベートな旅行でも急な仕事が入るかもしれないので、秘書を同行させたものだと思ってずっと仕事モードだったそうだ』
「何という擦れ違い……」
『良心的でもサイコパスの人は、どうしても物事を感情抜きで考えるからな。合理的に考えすぎた結果、周りの人には「それは発想が間違ってる」と非難したくなるトンデモ提案を出すこともあるさ』
「それが小沢氏の慰安旅行ですか」
『あれは小沢一郎自身、言われた時には唖然としただろうな。だけど悪気はないから言われれば撤回するし、文句を言われたからって根に持つことはない』
「不愉快には思わないんですか?」
『そこが良心的なサイコパスの良いところだ。他人への関心が弱いから、根に持つ以前に気にもしないって事情もある』
「良いところ……なんですかね?」
『とにかく……だ。たとえブラックな提案をしてきたとしても、問題点をきちんと指摘すれば素直に撤回してくれる。良心的なサイコパスは話し合えば良い落とし所を考えてくれる人たちだ』
「お互い、偏見や決めつけが問題になりますね」
「守護神様。話ついでにサイコパス以外にも、興味深い縛りプレイはありますか?」
『課題というより、魂の成長をテストする意味での縛りプレイはあるかな』
「テストプレイ……ですか?」
『そうだ。たとえば魂は成長すると倫理観や忍耐力が高くなる。そこで霊格相応の倫理観や忍耐力が養われてるか、金銭欲とか、性欲とか、権力欲とか、それらを抑える理性が働かないようにした人生を送ってみるんだ』
「なんか、嫌な予感がしてきたのですが……」
『大丈夫だ。ちゃんと魂が磨かれていれば、理性が利かなくても魂のレベルで欲望を暴走させたりはしない』
「ホントですか? 忍耐力を抑えたせいで飽きっぽいとか……」
『あ、それはない。忍耐力が足りなかった場合は怒りっぽくなる』
「そっちの方向ですか。じゃあ、倫理観が足りなかったら?」
『それこそ人それぞれだ。魂は金銭欲を抑えるが蒐集癖という形で出てしまうとか、性欲が女装趣味という形で出てくるとか……』
「女装って……」
『性欲の方向がズレた結果だ。性欲に関しては歳を取っても男女関係にだらしなさが直らず、一生、二股や不倫を繰り返す人も多いようだがな』
「社会的に成功してお金を持った人に、そんな感じの人が多いですね。その人たちはテストは不合格ですか?」
『修業のやり直しだな。来世でどんな課題を出されるやら……』
ということで、今回の話題はここまでである。




