第25話 人生の縛りプレイについて聞いてみた
『きみ。よく電卓を叩いてるけど、決まったパターンの計算が多いのなら、プログラムを組んだり、計算表を作っておいた方が楽でいいんじゃないか?』
メモ用紙に途中経過を書きながら電卓を叩いてる著者の脳裡に、守護神様が言葉を送ってきた。
「そうなんですよねぇ。でも、『そこまでしなくても』って気持ちが大きくて、どうしても腰が重くなるんですよ」
電卓作業を止めて、振り子を用意する。
『きみは手間のかかる家計簿や青色申告用なら簿記プログラムを組んだり、記録用の用紙フォーマットを小マメに作ったり手直ししたり。執筆用の用字メモや使い分けのメモなんかも手間をかけてサイト化して使う割に、ちょっとした手間程度のものには無頓着になって何もしない傾向があるよなあ』
「長い目で見ればプログラムを組んだり数表や計算表を作ったりした方が効率的だとはわかってるんですけどねぇ。なんか、ちょっとした手間だと腰が重くなって、『そこまでしなくても』って惰性のまま続けてる感じで……」
『まあ、仕方ないか。きみにはマメにコツコツ仕事をするように、手抜きのための知恵には考えを巡らせないために腰が重くなるような仕掛けが施されてるからな』
「それって、今生の課題のようなものですか?」
『そうとも言えるが、むしろゲームの縛りプレイのような感じかな。そのままゲームをすると簡単すぎるからって、自分なりの縛りプレイをして難易度を高めてる人っているだろう?』
「そういう人はいますね。それを私もやってるんですか?」
『やってるよ。そして、やめると生きるのが楽になるはずだけど、まだ気づいてないみたいだな』
「そのまま死ぬまで行っちゃいますかね?」
『そこはきみ次第だ』
「何をやってるんでしょうねぇ?」
『それは教えんぞ。自分で気づけよ』
振り子がピタッと止まった。著者の運命や魂の成長に直接関わる質問には、絶対に答えないというわけだ。
「守護神様。人生の縛りプレイって、どのくらいの人がやってるんですかね?」
『何を縛りプレイと呼ぶかにも依るが、霊格値が六〇〇もあれば、大半の人が何かやってるんじゃないかな?』
このあたりはケースバイケースが多いので、守護神様も説明しづらいのだろう。
「他の人は、どんな縛りプレイをやってるんですかね?」
『日本人に多いのは、「他人を頼らない」という縛りプレイだな』
「他人を頼らない? 信用できないから……ですか?」
『そうじゃない。頭のいい人ほど「何としても自分の力で解決したい」という気持ちが強くなり、そうでない人も「他人に迷惑を掛けたくない」という気持ちからSOSを出さない縛りプレイだ』
「私もその一人かも……」
『きみの場合は縛りプレイじゃなくて間違った学習だ』
「間違った学習?」
『きみは運命的に人一倍身勝手な人たちと縁を持つ人生を歩んでいる。これは将来的に邪悪な霊たちと戦ってもらうために、天界の神々からそういう魂の多い地球へ送り込まれて、手口を学んでもらうためだ』
本来、守護神様は運命に関することは教えてくれない。ただし、それは将来に影響がある場合だ。
それに著者がある程度考察して正解に近づいたため、守護神様が隠す意味がなくなったと判断した部分に関しては情報を開示してもらっている。
『そのおかげで他人には協力したのに、いざ自分が協力を求める番になったら我が身可愛さで離れたり、面倒臭がって知らんぷりを決め込んだり、中には裏切ったりする身勝手な連中が多かっただろ。それに懲りて周りを頼っても無駄と悟って必要以上なところまで学習した結果、今では新しい仲間づくりまでやめてるよな?』
「それは……。返す言葉もございません……」
うすうす感じてはいたけど、あまり触れないようにしてた問題ではある。
『まあ、今の日本人の中にはきみのような御仁は多いが、それよりも縛りプレイの人たちだな』
「そういう人は多いんですか?」
『ああ、日本でだけ……な』
「日本で……だけ?」
『日本では平成時代に入った途端、急速に公共福祉が貧弱になったんだ』
「貧弱に? 何があったんですか?」
『小さい政府と政府支出のスリム化、コストカットを目指して、公共企業と行政サービスを民営化していくという間違いだ。これは先の大戦での敗北の際、すでにGHQによって仕掛けられていた大きな罠だな』
「日本の復興を見越して、市場参入できる仕掛けを用意したってわけですね」
『あ、それはメディアの流してる大ウソだ』
「大ウソ?」
『本当の狙いは、日本の通貨発行権だ。国際金融資本家どもは、アメリカに続いて日本の通貨発行権まで狙ってきてたんだ』
「アメリカの通貨発行権?」
『連邦準備制度という言葉を聞いたことはないか? 一九一四年にウィルソン大統領が、アメリカの通貨発行権を民間銀行に明け渡した時にできた制度だ』
「そんなことを強欲な民間企業に渡したら、好きなだけお金を刷るじゃないですか」
『ああ、連邦準備銀行に選ばれた銀行家連中も、さっそくそれをやったよ。ただし刷りすぎたらハイパーインフレになるから、そうはならないように通貨発行権の馴らし運転をしながら、少しずつお金を刷る量を増やしていったんだ。それで好景気が一〇年以上続いたことで、やつらは永遠に続く好景気を手に入れたつもりになった』
「でも、終わりは来たんですよね?」
『それが一九二九年の世界恐慌だ』
「うわ。あれって、そういう事件だったんですか?」
『そうだ。それでフランクリン・ルーズベルト大統領が不況対策のニューディール政策を始めたが、銀行家連中は財政出動のためにお金を刷るのを嫌がって、不況を長引かせてしまったんだな』
「羹に懲りて膾を吹いたわけですか。それで、不況はどのくらい続いたんですか?」
『四年だ』
「四年? たった?」
『何を言う。アメリカは日本よりもマコトの経済で動いてるから、不況の多くは半年で回復するものだぞ。最近長引いたリーマン・ショックでも八か月で好景気に戻ってる』
「ええ〜? 本当ですか?」
『日本とアメリカは、好景気と平和の感覚が逆なんだ。日本は「武力衝突がない期間」が平和だが、アメリカでは建国して以来、そういう平和を一度も経験してない。そのため彼らの感覚では「暴力事件で千人以上の死傷者が出ない期間」が平和なんだ』
「あああ〜。だから毎年銃犯罪だけで一〇万人の死傷者が出てても、一日あたり三〇〇人未満だから世の中は平和って感覚なんですね」
『そういうことだ。その逆が日本の景気感覚だ。日本では為政者がおかしな経済政策を続けてきたために、江戸時代の田沼時代を最後にマコトの好景気を一度も経験していない。せいぜい大正時代の大戦景気がギリギリ好景気に足を突っ込んだが、何を土地狂ったか大蔵省の役人が金融を引き締めて好景気を潰してくれた。だから日本人の感覚では、不況が深刻でない期間が好景気なんだ』
「じゃあ、一九九〇年前後のバブル経済は?」
『マコトの経済から見たら、もう少しでホンモノの好景気になったはずだが、そうなる前にまたバカな政策をやらかして終わったな。……って、景気の話はどうでもいい。日本に仕掛けられた罠の話だ』
なんか、話が完全に脱線していた。
ちなみに日本でホンモノの好景気が始まったら、それが松の代であるそうだ。
それと日本のバブル経済は景気の良い話ばかりが流されているが、海外から見たら二〇二一年の韓国で起きている地価バブルとまったく同じ。バブル経済に乗ってる人には羽振りは良いが、外から冷ややかな目で見たら多くの市民は蚊帳の外で、高騰する地価や家賃に圧迫されて貧しい暮らしを強いられていたそうだ。
とはいえ日本の場合は多くの人が地価の高騰で家を持つことをあきらめ、それまで頭金にするために貯めてきた預貯金を開き直ったようにパーッと使ったそうだ。そのためバブル期間中に貧しさを感じた人は、おそらく少なかっただろう。それにそのあとに長い不況が来たため、そちらの記憶でバブル時代の安月給の記憶が上書きされたのかもしれない。
『さすがに日本の官僚はバカばかりじゃない。GHQの仕掛けた罠に気づいて、それを壊すために政治家へ転身した人が何人もいる。今の憲法が発布される一〇日前の総選挙に、改憲のために打って出た中曽根康弘などが代表だな。それに通貨発行権と造幣局の民営化などは、それをやったら日本が亡国の道をたどってしまう。だから日本が独立して主権を回復したら、さっさと廃案に持ち込んだんだ』
「一度手放してしまったら、早々取り戻せない特権ですもんね」
『だが、政治家やマスメディアの中にはどうしようもない連中が多いからな。その後は民営化の話は止まっていたのに、それが何十年も経った頃にアメリカが政治的な圧力を仕掛けてきたら、世論を動かして国立企業を思い出したようにバタバタと民営化させたんだ。それどころか一九九〇年になると、公共福祉などの行政サービスまで完全に民営化する流れになった』
「その頃の首相って、さっき罠を壊すために政治家になった中曽根さんだったんじゃ……」
『思い出してみろ。メディアが中曽根発言という失言をいくつも捏造して、彼から政治力を奪っていってただろ。それで改憲もできず、そのあと首相になった小泉の策略で「議員にも定年制を」というデタラメで政界からも追放されたんだ』
「ムチャクチャな話ですね」
『ムチャクチャなのは政界だけじゃない。福祉の民営化にさらされた市民生活も……だ』
守護神様の語気というか、振り子の動きが荒々しくなっている。
「民営化によって、良いサービスが受けられるという話でしたが……」
『そんなバカな話があるものか。民営化したら営利目的で参入してくる連中が増えるだけだ。金が有り余ってる人には民営化によって良いサービスを受けられるだろう。だが、本来、行政の福祉サービスを頼るのは経済的に苦しい人たちだよな?』
「それは、まあ……」
『それに日本では昭和の時代まで福祉サービスは、お役所にとっては腕の見せどころだったんだ。基本的に市民からの申請は認められてなくて、お役所が市民一人一人の生活に目を光らせて、声が上る前に助け船を出すのが優秀な公務員としての矜持だったわけだ』
「申請は認めてなかったんですか?」
『最初はな。だけど、世の中にはどうしようもない役人もいるから、申請する窓口は作られた。だけど、市民から申請が来るのを快く思わないお役所が多かったんだよ』
「そりゃあ市民から申請が来るってことは、お役所がちゃんと仕事してないって言ってるようなものですからね」
『その通り。要するにお役所としての恥だ。ところが、そんな行政の福祉サービスが、一九九〇年から市民からの申請のみに変わった』
「うまく移行できたんですかね?」
『内心は穏やかではないだろうが、法律で決まったことだ。初めの頃は粛々と申請を受理してたんだ』
「初めの頃は?」
『そもそも申請への一本化は、市民生活を見守る役人を減らすための施策だ。本当に生活に困ってる人は、すぐ対応してもらわないと困る。だから申請があったら受理を急ぐが、その裏では見守る役人がどんどん減らされていったために「本当に困っているのか」という調査が不十分になっていったんだな』
「申請が正しいかどうかを調べるだけ……ですよね?」
『無条件で受け付けるだけなら人員を減らしても問題はない。だが、普段の見守りをやめただろう。そのせいで人減らしという思惑に反して調査に余計な手間がかかるようになったんだ』
「そんなに手間がかかるようになったんですか?」
『当然だ。理由は単純。普段の見守りをやめたから、まず申請者の情報を集めるところから始めなくちゃならん。しかも世の中はプライバシーが必要以上に求めるようになった結果、国勢調査ですら回答を拒む人が出てくるなどして不完全な情報が増えてしまった。となれば時間と共に食い違う情報も増えていく』
「行政が正確な情報を持てなくなったんですか?」
『それだけじゃ済まん。世の中は情報が怪しくなれば、それを利用する腹黒い連中が出てくる。事実とは違う婚姻届や養子縁組届が出されて、身分を誤魔化す者が出てきた』
「身分を、何のために?」
『書類上でも結婚や養子入りすれば、名字を変えられるだろ。それによって指名手配犯やブラックリストに載ったお尋ね者たちが他人を装ったり、外国人が日本国籍を手に入れたりしたんだ』
「そんなことができるんですか?」
『かつてお役所が市民を見守っていた時は、そういう不正は難しかった。家が五〜六軒あれば一軒は公務員という時代は、ご近所付き合いで自然と市民の情報が集まっていたからな。市役所、教師、警察、消防、三公社五現業と働く部署が違っても、かつては横のつながりがあったから、だいたいの情報は共有できていた。だから、怪しい届け出はすぐにバレた。だが、今の公務員は二〇軒のうち一軒程度だ。それに戦後は都市部ほど近所付き合いがなくなってるし、縦割り行政に弊害が出るほど横のつながりがなくなってきた』
「ということは市民の情報は……」
『まったく共有されないから、犯罪者のやりたい放題だ。福祉サービスに限れば、生活保護の不正受給が増えた』
「どんな不正受給ですか?」
『本業でがっちり稼いでるのに無収入を装って生活保護を求めるヤツとか、受給資格のない外国人が日本人になりすまして生活保護を受けるとかな』
「それは社会問題になりましたね」
『それで、まだ福祉に関する申請を快く思ってないお役所が「生活保護を申請するのはすべてウソツキだ」と決めつけて、門前払いするようになった。ただし、そういう決めつけは後ろめたいと思ってたんだろうな。「自治体の予算不足」などのもっともらしい理由をでっち上げてきた。
というところで、やっと前置きが終わったな』
「長かったですね」
世の中の背景説明は、面倒である。
『そこで出てきたのが、「他人を頼らない」という縛りプレイの魂だな。こういう縛りプレイをするのは、当然だが因縁ミタマの人たちだ』
「社会問題の被害者になるために、つらい役目を任された魂ですか?」
『中には初めからそういう役目を負わされた魂もいるとは思うが、この縛りプレイの本来の目的は違う。人生に自信を持った魂が、わざと逃げ道を断って自分一人の力でどこまでできるかをやってみる縛りプレイだったり、過去生で依存心が強かったと反省した魂が、思い切って誰にも頼らない人生に挑戦する意味での縛りプレイだったりもするぞ。他にも神様の指導で人と協力する大切さを知るために、敢えて誰にも頼らない人生を送らせてみる課題の縛りプレイもある』
「はぁ〜、いろいろですね」
『これは昔からある縛りプレイだが、それを今の時代にやると、何人かは貧弱な福祉の被害者役にされるんだよなあ』
それはそれで、なかなか重い役目を負わされた人たちである。
「その人たちに特徴はあるんですか?」
『これは平成不況が始まった直後から言われ始めた話だ。レベルの高い大学に通う、学内でも成績は良いけど経済的に恵まれてない学生の中に、ポイントカードやクーポン、割引券などを持ちながら、使おうとしない人がいるという話が最初だな。教授たちが「なぜ使わないの?」と聞くと、「レジで出すのが面倒」とか「使うというのが恥ずかしい」とかいうのが、そういう学生からの答えだ』
因縁ミタマになれるほどの魂だ。地頭があるために親が貧しくても高い学力を得られる人は多そうだ。その分だけ経済的に恵まれてない学生になりやすいのかもしれない。
「なんか教授の気持ちも学生の気持ちも、どっちもわかるような……」
『きみは別の意味で共感できると思ったよ』
守護神様が呆れている。たしかに腰が重くなる共通点がありそうだが……。
『で、そういう学生だが、二〇〇〇年を過ぎた頃からゼミの教授たちが苦学生の支援制度を教えてやっても、まったく手続きしようとしないという話が出てきた。それをメディアでは情報リテラシーという言葉で小バカにするように報じたんだ』
「ん? 情報リテラシーって、ネットを使えないとか、テレビのウソを鵜呑みにするとか、情報にアクセスできないとか、そういう意味じゃ……」
『そうだ。情報を持っていながら使わないのだから、まったく見当違いだよな。だけど相手はレベルの高い大学を含め、学力としては優秀な学生で起きてる現象だ。デマでも自分よりも優秀な人たちを見下せるいい材料だ』
「品性イヤらしい話ですね」
『それに福祉に情報リテラシーを持ち出す時点で話がおかしいんだ。困ったら役所の相談窓口へ行くものだ。そこで事情を話せば、どんな救済策があるのかを教えてくれる。ここで騙されないように事前に情報を持ってないとダメだという屁理屈もあるが、これはもう言いがかりだよな』
「でも、実際にやっちゃった自治体がありませんでしたっけ? いくつか……」
『あったな。市役所に養老介護も生活保護も断られて親子が餓死した事件とか……』
「日月神示には『つらい役目は因縁ミタマに任せる』という言葉がありますから犠牲者になった親子は因縁ミタマだったんですか?」
「ゔ……。それがな、九州であったケースはワンダラーで……。って、それを言い出したら、今回の主役のはずの魂たちの立場がなくなるじゃないか』
「すみません」
『とにかく……だ。「他人を頼らない」縛りプレイの魂たちは高い学歴を持った人でも、支援制度があるのを知っていても、自分から申請して利用したりしない。そうでない人も「他人に迷惑を掛けたくない」という気持ちで最後まで自分でなんとかしようとするんだ』
「それで自殺に追い込まれるんですか?」
『いや、少なくともこの縛りプレイの魂で自殺した例は見つからないなあ。住むところを失って路上生活になっても、最後まで自分で何とかしようとし続けるんだ』
「それはそれで壮絶……ですね」
『だから、路上生活まで落ちてから日常を取り戻した人の中には、自分と同じ魂を持った人を助けようと、行政に代わって救いの手を伸ばすNGOやNPOを起ち上げた人もいるぞ。自分からはSOSを出さないが、手を差し出されれば有り難く厚意に甘える人は多いからな』
「だから日本では、行政から救いに行かないとダメなんですね」
『こういう状態は日月神示にも書かれてたぞ。「頭は届いても、手が届かないと病になるぞ」と』
「天つ巻第二九帖ですね」
『で、人生の縛りプレイには他にもあるのだが……。長くなりすぎたから、ここで一端切ろう。次はサイコパスについても語ってみようか』
「それは興味深いです」
ということで、この話は次に続く。




