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第20話 マンデラ現象について聞いてみた

 マンデラ効果(エフェクト)。これは二〇一〇年頃から知られるようになった、新しい都市(とし)伝説(でんせつ)である。

 それまでは個人レベルで「記憶違い」と思われていた事実とは(こと)なる記憶を集めると、不特定多数が同じ記憶を持ってることがわかって話題となったオカルト現象だ。

「守護神様。マンデラ効果(エフェクト)って、世界線を移動した人が持つパラレルワールドの記憶なんでしょうかね?」

『ほとんどは単なる記憶違いとか、メディアの扱いからくる思い込みだな。言葉の由来となったネルソン・マンデラ氏の件も、実際には一九九〇年に(しゃく)(ほう)されてアフリカ人民会議の議長をしたり、南アフリカで初めての黒人大統領になったりと活躍(かつやく)してたのに、報道が(こっ)()(はん)(ぎゃく)(ざい)(つか)まった一九八〇年代で止まってメディアへの()(しゅつ)が減ったために、多くの人が記憶の中で勝手に(ごく)(ちゅう)()したと思い込んでただけの話だ』

「じゃあ、マンデラ氏が獄中死した世界線は?」

『存在しない』

 最近は芸能人やクリエーターの活躍が止まった時、ネット情報の関係で「業界から干された」と流されるケースが多い。だが、かつてはちょっと見かけなくなっただけで「干された」ではなく死亡説が当たり前のように流されていたように記憶している。

『他にもプロパガンダ情報による刷り込みもあるぞ』

「プロパガンダ情報?」

『よくあるだろ。典型的(てんけいてき)なのは一九八九年の天安門(てんあんもん)事件の記憶だ。多くの人がテレビで戦車に()き殺される学生の映像(えいぞう)を見た記憶を持ってる。ところが天安門事件の起きたパラレルワールドを見てまわっても、この事件では警官(けいかん)や人民解放軍の兵士が暴走(ぼうそう)したデモ隊に殺されることはあっても、デモ隊の方に死者の出た世界線は一つも存在しない』

「そうなんですか? デモ隊の学生たちが、さんざん戦車に追いまわされる映像が残ってますけど」

『反共産主義で作られたプロパガンダ映像だ。中国政府を悪人に仕立てるために、映像をつないでウソのイメージを植えつけたんだ』

「中国共産党にはあまりいいイメージはないんですけど、この事件に限っては中国がプロパガンダの被害者なんですね」

『この事件に限っては……な』

 なんか心がモヤつく話である。

『とはいえ、誰もが数日に一回は世界線を移動してるんだ。そのため自分の記憶と、その世界線の真実がズレる現象は(めずら)しくないと思うぞ』

 ここからは本当のマンデラ効果(エフェクト)の話である。

「数日ごとに世界線を移ってる割には、誰も気づきませんよね」

『そりゃあ意識が移動するのは、基本的に隣り合った世界線との間だ。世界線が違えば何か違いはあるけど、ほとんどの場合は違いに気づいても勘違(かんちが)いか思い過ごしだと思って終わるだろう。だが、それが何十回、何百回と続けば、中にはかなり離れた世界線へ行く意識も出てくるぞ』

 ランダムウォークや(すい)()などと呼ばれる現象だ。

「神様が意図的に入れ替えることはありますか?」

『上の神が意図的にやることはあると思うが、ほとんどは()(さく)()じゃないかな。(おれ)には(たましい)は見えても意識までは見えないから、意識の移動があっても知りようがない』

「守護神様も世界線を移動することがあるんですか?」

『移ってるんじゃないのか? まったく自覚してないが……』

「それでマンデラ現象といえば、私は二つ気になるものがあるんですよ。(きた)()(きょく)とアメリカの軍艦(ぐんかん)()についてで……」

 これは著者(ちょしゃ)が気づいたマンデラ効果(エフェクト)の実例である。

「特に北磁極ですけど、これがグリーンランドからヨーロッパの方へ移動していて、高校の世界地理で習った頃はノルウェーの北西海上にありました。それが今世紀に入ってスカンジナヴィア半島に上陸したところまでの記憶があるんです。でも、この世界線にある北磁極は、ずっとカナダの北の方──北極諸島から出てないんですよ」

『記憶違いの可能性は?』

「この記憶には自信があります。子供の頃から地学好きでしたし、その関係で地理も得意でした。それで高校は理系進学コースだったのに、定期テストの地理で何度も学年トップを取ってましたし……」

『うん。その分、英語もガンバって欲しかったな』

 余計なツッコミが入った。

「それに()能忠敬(のうただたか)の日本地図も、あの時の北磁極はグリーンランドの近くにあったために、日本では北とコンパスの指す北がほぼ一致してたので補正する必要がなかったという歴史の裏話もよく(おぼ)えてて……」

『なるほど。そこまで言うなら、記憶は間違ってなさそうだな。ちなみのこの世界線のようにカナダの北極諸島に北磁極がある世界線は全体の七%だ。それに対して北磁極が、きみの記憶通りの動きをする世界線は三六%もある』

「そんなに多いんですか?」

『多いね。それに北欧(ほくおう)を含めロシアを除くヨーロッパ付近にある世界線は五二%、ロシア・シベリアにある世界線も三八%ある。そのため旅行業界がCMに使った「北磁極の町ナントカ」というフレーズに記憶のある人も多いだろう』

「それはありそうですね。北極諸島では、観光地になれそうな町はありませんけど……」

 ネットを(あさ)ってると、そういう記憶を持った人の話を目にすることがある。

『それで、もう一つのアメリカの軍艦旗というのは、何だ?』

「この世界線にある米海軍の動画や写真を見ると、(かん)()のマストではためいてるのは星条旗しかないんですよ。でも、たまにアメリカ艦艇(かんてい)のイラストの中に、赤地に青でX字にクロスした旗が(えが)かれてるものがあるんですよね」

『南軍海軍旗──サザンクロスか。たしかに、この世界線のアメリカの艦艇は、艦尾に星条旗しか(かか)げない。だが、こういう世界線は南北戦争で北軍が勝った三八%のみだ。この世界のアメリカ軍では軍艦旗を制定してないからな。だけど南軍の勝った六二%の世界線では、サザンクロスを軍艦旗として採用してるんだ』

「ということは日本のように、国旗は(にっ)(しょう)()、軍艦旗は(きょく)(じつ)()という感じで使い分けてるんですか?」

『その通りだ。だから、もしかしたら絵を描いた主は、その世界線から来たのかもしれんな』

「へぇ〜。その可能性があるんですね」

『そりゃあ、そうさ。写真を見ながら絵を描いていても、細かい部分では見慣れたもの、描き慣れたものは手癖のように済ませてしまうからね。それに旗は写真では見えなくても絵にする時には見せつけるように描くものだろ』

「たしかに……。写真では星条旗でも、よく見えなかったら記憶のままサザンクロスを描いたと……」

 有りそうな話である。

 ここでどうでもいい()(そく)ではあるが、今の日本には軍艦旗は存在しないというツッコミは「なし」の方向で。正しく自衛艦旗を使った方が、世の中には違和感を覚える人が多そうなので……。

『話ついでに、東京タワーについても()れておこう。マンデラ現象では、東京タワーの色もけっこう有名な話題だ。この世界線の東京タワーは第一展望台(てんぼうだい)より下は(しゅ)一色だが、その上は航空法に定められた通り朱色(しゅいろ)と白で()り分けられている。こういう塗り分けは八割以上の世界線で(おこな)われている。だが、だいだい九分の一の世界線では朱色一色で塗られているんだ。この一色の記憶を持つ人が、意外といるんだよな』

「その世界線では、航空法はどうなってるんですか?」

『大都市の上空は原則飛行禁止だから塗り分ける必要がない。だから青空に()える朱一色というわけだ。他に(さび)()め用の白一色の世界線もある。それと中国との戦争に(そな)えて(くら)小豆(あずき)色に塗ったままの世界線も六%ほどあるぞ。(さいわ)い、戦争は起きてないようだけどな』

「あまり良い世界線ではなさそうですね」

 最後にちょっと暗い話が出てしまった。

 マンデラ効果(エフェクト)はあまり実用性のない話ではある。だが、どのようなパラレルワールドがあるか知る上では、ちょっと興味の()く話題である。

 また興味深い話がそろったら、第二弾として触れたいと思う。

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― 新着の感想 ―
私も東京タワーは赤一色だと思ってた…… というか子供の頃に東京タワーに行った時は赤一色だったような 日本だけのマンデラ現象といえば、千と千尋の神隠しのラストが有名ですよね
[良い点]  マンデラ効果……興味深いものです。 [気になる点]  「ん、なんか変わってるな?」くらいの違和感だけが、ダウジングを除いて気付く糸口になるのでしょうか?
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