第2話 日月神示の解読サイトについて聞いてみた
振り子を使い始めた著者は、さっそく、
「日月神示の内容は、正しいと受け取っていいですか?」
と守護神様に尋ねてみた。著者は二〇一六年から日月神示にハマり、解読サイトを作って運営してるほどだ。それも全文を掲載して解釈するだけでなく、主要な言葉のインデックス一覧を作ったり、本文では意味が取りづらいので『超訳版』を全文で作ってしまったりの入れ込みようだ。
そうやって苦労して作った超訳版を、無許可でYouTubeに流してる不届き者がいるみたいだが……。
『まあ、正しいと思って、いいんじゃないのか?』
振り子は大きく時計回りで動き始めた。著者は、それを自信をもって答えてると思い込んだ。
「じゃあ、私のこれまでの解釈は正しいですか?」
『……はあ? それを、俺に聞く? 答えられんぞ』
質問と同時に、振り子の動きがピタッと止まった。それを著者は、
「なるほど。そこは自分で考えろと……」
まったく違う意味に読み取った。
『いや、それも間違いではないんだけど……。まあ、いいか』
守護神様は細かいことを気にしない人だった。
そんなやり取りから、しばらく日を置いて、
「日月神示に地球に悪さをしてる存在として悪神と邪鬼が書かれてますが、それ以外に地球に悪さをしてる存在は書かれてますか?」
著者はまた内容について、ダウジングで情報を引き出そうとしていた。
『俺が知るわけねーだろ!』
振り子は最初に大きく前後方向に揺れ、それから反時計回りに動いた。それを見た著者は、
「書いてない……ですね」
と受け取ってしまう。
『待て、待て、待て。……と言っても、伝わらんか……』
まだ著者にダウジングの知識がなく、上辺だけでやり取りしてる間は、そういうもどかしさがあった。更に二〇日ほど経った頃、
「守護神様。日月神示の地つ巻と梅の巻にオロチと九尾が出てくるんですけど、これ、悪神と邪鬼以外に地球に悪さをしてる存在なんじゃ……」
『うがぁ〜〜〜〜〜っ!』
振り子が乱雑に揺れまくり、守護神様が一瞬、怒りで心を取り乱したようになった。
『俺が守護神だからって、何でも知ってるわけじゃないぞ』
激しく動きまわった振り子が、やがて大きな時計回りを見せてくる。
このあとは著者の脳裡に浮かんだ、思考の断片を拾ったやり取りである。
『いいか。守護神といっても、元はきみと同じ人間だった身だ。全知全能じゃないぞ』
「は、はあ……」
『日月神示だってそうだ。俺がきみにとって神様だからといって、中身を知ってるわけじゃない。きみが読まなければ、俺も読めない。読んでも黙読じゃあ俺には聞こえん。日月神示の中にもあったぞ。「声に出して読め、神様にも聞かせろ」と』
「ちょっと違うけど、下つ巻の第八帖ですね。しまった……」
声に出さなくても心で読め。たしか、そんな感じだった。
『だから日月神示に何が書かれてるかという質問は勘弁してくれ。意味を尋ねる質問なら、いくらでも付き合ってやるから……』
「はい。すみませんでした」
なるほど。尋ねる対象や尋ね方、いろいろ考え直す必要があるようだ。
「ところで守護神様は、いろいろな質問に答えてくださってますけど、その知識はどこから来るんですか?」
『一つ一つ調べて答えてるだけだ。だから、調べものに時間がかかる時は、振り子を左右に振るから待ってろと言ってあるだろ』
「なるほど。左右に揺れる『待て』は、『今、調べてる』って意味だったんですね」
だから時おり、いつまでも左右に揺れ続けてたことがあったのね。あれは守護神様が調べものに手間取っていたから……だったんだ。
「神様の世界にもインターネットのようなものがあるんですか?」
『そうだ。それもこの世界線だけじゃなく、近くの世界線にある情報も調べられるぞ』
「守護神様がモニターの前で、キーボードをパチパチやってる姿を想像してしまいました」
著者の脳裡に、背中を丸めて人差し指でパチパチやっている戦国武将の姿が浮かんでくる。
守護神様は戦国時代を生きた武将で、仕える大将の下で土木工事の測量や道路設計、記録管理のようなことをやっていたそうだ。最期は豊臣秀吉の時代の戦で、鉄砲に撃たれて亡くなったとダウジングを介して聞いている。
『キーボードなんてものはないぞ』
著者の頭の中から、猫背の戦国武将のイメージが消えた。
「すると画面にタッチですか? それとも『ヘイ、AI』的な?」
『思考すると求める情報が出てくる感じだ。たまに操作を求めてくるから、その時は表示をタッチするのだが……』
「どうしました?」
『それはそうと、俺、いつも甲冑着てるイメージなのか?』
守護神様には、著者の脳内イメージは筒抜けだった。
「戦国時代の武将って言ったら、そういうイメージですよね?」
『たしかに生きてた時はそういう恰好をしてたが、神だって時代に合わせて服装を変えるぞ』
「そうなんですか? じゃあ、普段は……?」
『きみが作家デビューした頃は、動きやすいジャージ姿が多かったな。きみはまったく着なかったが……』
「そもそも持ってませんからね。ジャージ類は……」
『そのあとジーンズを穿くようになったな。上は半袖のボタンシャツだ。神には暑さ寒さも関係ないから、一年中半袖のままだ』
「真冬でも……ですか? ちなみに髪型は……ちょんまげ?」
『少し長めだ。きみが散髪してから、半年ぐらい放置した長さだと思えばいい。ヒゲも伸ばしてるぞ。髪の毛の半分の長さに切りそろえてる』
「無精ヒゲ?」
『切りそろえてると言っただろ。俺としては、きみがヒゲを伸ばさないのは不満だぞ』
「え〜、なんか落ち着かないんですよね。ヒゲが伸びるのは……」
『不満といえば体格だ。なぜ、もっと太らん。男は歳をとったら貫禄が必要だぞ』
「貫禄って……。守護神様、戦国武将だったんですよね? その頃も太ってたんですか?」
『痩せてたぞ。周りの武将より筋肉が少なくて、細身だったのに引け目を感じていたのだが……』
「じゃあ、今も痩せて……?」
『いや、守護神を始めたら、あっという間に太った。きみが一五〇kgまで太れば、俺と似た感じになるぞ』
「あ……」
『俺としてはきみにも貫禄をつけて欲しいのだが、太るように仕向けてもなかなか……』
「ダ、ダイエットしても痩せないのは、守護神様のせいだったんですか?」
『せいとは何だ。守護神の名誉にかけて、太っても病気にならないように注意してやってるんだぞ。人間ドックの時、医者も言ってただろ。「おかしい、健康すぎる」と……』
「うん。あのお医者さんは失礼でした」
『だから、安心して太りたまえ』
「イ・ヤ・で・す」
このあとも守護神様との不毛な言い合いが続くが、ここで打ち切っておく。