第19話 戦後の歴史チートについて聞いてみた
「守護神様。アメリカは戦後、世界の覇権国になっても歴史改変を続けてるんですかね?」
アメリカの歴史チートに関する続きである。
『もちろんやってるぞ。成功の保証はなくても、失敗した記憶を持って過去に戻れば確実にその選択肢は潰せるんだ。それにペナルティを数あるリスクの一つとしか考えてないんだから、やめる気なんかないだろ』
「善悪では考えてないんですね」
『どんな悪事も、バレなきゃ犯罪にならん』
「犯罪行為だからペナルティがあるんですよね?」
『だから、そのペナルティはリスクの一つだ』
「えっと……」
堂々巡りである。
『とはいえ、アメリカは戦前から大戦中にかけて、けっこうな数の歴史改変を行ってきた。それで数多くのペナルティを喰らったから、その後は朝鮮戦争が終わるまで一度も歴史改変を行ってない』
「ルーズベルト大統領を初め政府や軍部の大物がペナルティで命を落としたり、大ケガや大病で現役を離れたから……ですか?」
『まあ、アメリカの為政者にとっては、命を懸ける価値はないってことだろうね。このあともキューバ危機まで二回だけ歴史改変が行われてるが、これは政治的なものではなく私企業が金儲けのためにやったものだ』
「企業だけでも二〇回以上やってたんでしたね。アメリカは……」
目的のためには手段を選ばない。事実やルールをねじ曲げてでも強引に自己正当化する。そのくせ他国のやることは執拗に非難するダブルスタンダード。
アメリカは、それをまったく恥ない国だからねぇ。
『そのアメリカが再び何度も歴史改変を繰り返したのがキューバ危機だ。この世界線の歴史では軍部が暴走して国際法違反をいくつも犯し、ついには不法侵入した偵察機がミサイルで撃ち落とされた。それで緊張が高まったところで、なぜか急にソ連が軍を退いて第三次世界大戦は起こらずに済んでいる』
「でも、本当は第三次世界大戦が起きたから、歴史改変で起こらない世界線にしたんですよね?」
『そこは、どのように答えればいいかな。直接戦争にかかわるもので六回。戦後の世界も合わせると、全部で三一回も歴史改変を繰り返してる』
「第二次世界大戦の二一回よりも多いじゃないですか。核戦争で世界が滅亡したんですか?」
『いや。アメリカが一方的に勝った。なんせ、その時のアメリカには三万発近い核兵器があったのに、ソ連はまだ一八発しか核兵器を完成させてなかったからな。先に手を出したのはアメリカだ。当然、すぐさまソ連が報復する。多くの基地で兵士が発射ボタンを押すのをためらったため、撃たれたのは三発だ。それがボストンとシカゴ、それと東海岸の都市に落ちる』
最後の都市は、ダウジングでは確定できなかった。
『反撃されて頭に血が昇ったアメリカは、ソ連だけでなく、ソ連が核を持ち込んだと決めつけた国への無差別核攻撃を始める。それで落とされた二千発を超える核爆弾によって、無関係な国の市民まで殺戮したんだ』
「ムチャクチャやりますね。何億人ぐらい殺されたんですか?」
『さすがに億には届かん。直接的には一六〇〇万人ぐらいだ。放射線障害となると更に何千万人が苦しむが……』
「それでも、すごい数ですね』
『アメリカは第二次世界大戦でもやってたが、地上部隊を乗り込む前に艦砲射撃や空爆で市民を含めて痛めつけておき、弱ったところで乗り込むことをしていた。それを核兵器でやったんだ』
そういう戦い方は国際法で禁じられていたが、アメリカがもっとも無視するルールだ。今でも他の国がやったら非難するくせに、自分ではためらいなくやっている。
自国の兵士を守るためなら、敵国の市民は非戦闘員であっても殺害する。アメリカの理論は『卑怯な臆病者の論理』だが、なぜかアメリカと日本、韓国でだけは通用している。
『それで第三次世界大戦に勝ってアメリカは世界帝国になったが、あまりにも核攻撃が悪質すぎて世界すべてを敵にしてしまった。アメリカとは民間レベルでも付き合おうとしない国が増えた。完全に孤立だ。それなのにアメリカの政治家たちは圧倒的な核戦力で脅して、強引にアメリカ製品を買わせるんだ。そんなことをしたら、ますます市民たちが黙って不買に走る。当たり前の話だ。それなのにアメリカ企業は「国が軍事力で脅せば輸出が増える」と思ってるから、経営努力をしなくなって品質を落としていく。ついにはアメリカ市民ですらアメリカ製を買わなくなる。それで政治的な圧力をかけてライバル社を潰すが、同業他社は何社もあるから、いつまでもアメリカ製が選ばれることはない』
「でも、アメリカのものしかなければ買うしかないんじゃ……」
『食料に関しては、そうなる。だが、加工食品までは買われない。あくまで一次農産品だけだ。肉も果物も敬遠される』
つまり代えの利かない穀物や油などは仕方なく買うけど、他は拒否ってわけだ。
戦前のアメリカは世界最大の『ならず者国家』だったけど、それが独善的なまま唯一の超大国になった世界……。
今の中国共産党がそうなりつつあるが、その世界線でのアメリカはそれ以上に質が悪かったようだ。
『第三次世界大戦の核戦争に勝った時点で、そこから先は何をやっても後の祭り。世界に対して権勢を誇っても、歴史改変して相手の出方を変えさせても、なかなか相手にされずに行き詰まっていくんだ』
「身勝手の末路ですね」
『それで何度も歴史改変を繰り返した結果、唯一の超大国となる未来を捨ててでも、第三次世界大戦が起こる前──キューバ危機の頃まで時間を戻さなくては八方塞がりになると気づいたのだろう』
「えっと……。ということは、第三次世界大戦を起こさないための歴史改変が六回で、あとの二五回は何とか唯一の超大国でいられるまま、自分に都合のよい世の中に変えようと悪あがきしたものだと……」
『そう解釈して間違いない』
「キューバ危機に関する歴史の改変。てっきり第三次世界大戦の核の撃ち合いで、人類が滅亡しかけたからやったと思ったのに……」
『まあ、真実なんてそんなものだ』
コメントする言葉が出てこない。
『この改変のしっぺ返しで、アメリカの政治力が少しずつ落ちていったんだ』
「アメリカの政治的な発言力って、落ちてましたっけ?」
『そういう意味じゃない。次世代を担う若手の有力議員が、暗殺や病気、事故でバタバタと亡くなったせいで、七〇年代、八〇年代には政治の質が落ちていったんだ。とにかく四〇代だけでも四人。その中にはケネディ大統領も含まれていたからな』
あの暗殺事件も、ペナルティの一つだったんだ。
『そのあとベトナム戦争に負け、ウォーターゲート事件で政治の信用が失われたが、この時は誰も歴史を改変しようとはしなかった。このあと一九八九年の日本のバブル潰しまでの四半世紀、政治的には誰も歴史改変に手を出さない時代が続くぞ』
「バブル崩壊は、アメリカの策略だったんですか?」
『そうだ。バブル経済が崩れた時の経済被害は、当たり前のように海外にも大きな爪痕を残す。だけど日本のバブル崩壊だけは歴史上唯一、経済被害が日本国内だけで終わった珍しいバブル経済だ。まあ、正しくはバブル状態になったのは株式と土地の価格だけで、日本経済はバブルどころか不況すら終わってなかったのにな』
「はあ? あの頃はとんでもない好景気でしたよ?」
『経済指標を調べてみろ。日本は大正時代──第一次世界大戦の大戦景気を最後に、ホンモノの好景気を一度も体験してない。日本がバブル景気だと思ってる好景気も、本当の好景気が始まる前にアメリカによって潰されてるんだ。ホンモノのバブル景気になったらアメリカも被害を受けるから、そうならないギリギリを狙って潰してきたんだぞ』
「バブル経済の悪影響が他国に及ばないのは、日本の文明カテゴリーが高いせい……ってことは?」
『そんな現象はない!』
きっぱり断言されてしまった。
たしかに経済指標を見ると、バブル時代の日本は不況のままだ。本当に好景気になったのなら市民の買い物は贅沢になって物価が上がるはずなのに、輸入が少し増えたぐらいで物価はまったく上がってない。ホンモノの好景気になった国は、貿易赤字にならないとおかしいのに、日本は黒字のままだ。
またバブル時代に大卒初任給やアルバイトの時給は跳ね上がってるけど、それ以外の人たちの給料は当時の政策金利──公定歩合よりも低く抑えられている。つまり実質的には目減りだ。
この時代に贅沢をした人たちの多くは土地価格の高騰で家を買うのをあきらめ、貯金を切り崩して散財しただけ。これでは経済は回らない。
こんな時代をバブル経済だと言ってるのは、目が曇ってるせいなのか、ホンモノの好景気を知らないから勘違いしてるのか……。
「アメリカは、他にもやってますか?」
『最近、また増えてきてるね。二〇二〇年に行われた大統領選の開票がらみで、五回の歴史改変が確認されてる。これらはまだ世界線の地平線に隠れて見えない場所から戻ってきてるから目的はわからない。他にも第三次世界大戦がらみで三年以上未来から戻ってきた動きが確認されてるし、コロナパンデミックで一一月から七月九日に戻った歴史改変も見つかってる』
「また多いですね」
『もちろん俺には事情はわかってても、振り子ではきみに伝えられないものもある』
「そこが、このダウジングのネックですね」
『まあ、なんだ。アメリカはこの先も歴史改変はやめないだろうね』
ということで、一連の歴史チートの話はここまで。
次回からは小ネタを扱っていきたいと思う。




