第15話 古代ローマとアメリカの歴史的チートについて聞いてみた
「守護神様。歴史の本を読んでると、時々、有り得ないぐらいに都合の良い偶然が続いて大成功することがあるじゃないですか。あれは神様が手を貸して成功に導かれた現象でしょうかね?」
『個人の話であれば、その可能性は高いだろうね』
「個人限定の話ですか? 私はむしろ国が大きくなる時に、出てくる現象みたいに思ってましたが……」
『その多くは「歴史は勝者が作る」という語り方のせいだ。歴史の勝者にとっては、自分に都合の悪い事実は知られたくないだろ。そういう部分を雑に隠すから、ご都合主義みたいな歴史が史実のように語られるんだ』
「なるほど。そういう事情なら納得できます」
腑に落ちる話だ。それなら歴史を読む時に「この偶然、本当のところは?」と考える楽しみが出てくる。
『だが、中には歴史を改変して、自分たちにとって都合の良い未来が来るようにしてきた国があるんだ』
「そんなことができるんですか?」
『できるも何も、きみには小説のネタになるように教えたことだぞ』
「夢能力の……ですか?」
著者は過去作品で、夢能力を使って未来を自分に都合の良い方向へ動かす者がいるという話を扱ったことがある。その関連で古代ローマやアメリカ合衆国の戦争期間中に起きた、あまりにも都合の良すぎる展開を『歴史上のチート行為』としたのだ。
『まあ、夢能力は半分きみの創作で実際には存在しない力だ。だけど、そこに出てきた歴史の改変は、実際に起きていたことだぞ』
「そうなんですか? 夢能力は古代ローマを調べてる時に出てきたもので……」
『まあ、それは当時の人たちにとって、通りの良かった方便だな。実際には未来の知識を過去に持ち帰って、やり直すことでパラレルワールドの分岐を潰してるんだ』
「過去に記憶を持ち帰るって、タイムリープですか?」
『タイムリープの概念は漠然としてるから、その答えは難しいな』
「何か問題があるんですか?」
『タイムリープが起きた時、意識だけが入れ替わって世界線には影響は出ないのか、タイムリープが成功した時としない時で世界線が分岐するのか、タイムリープによってそのパラレルワールド群が放棄されるのか……』
「そんなに違いがあるんですか?」
『パラレルワールドの間で意識が入れ替わる現象は、よくある自然現象だ。誰もが数日に一回は経験してるが、ほとんどは近くの世界線との入れ替わりなので滅多に気づくことはないだろう』
「そんなに多いんですか?」
『感覚的には多いだろうな。しかも目の前で入れ替わりが起きても、俺が気づけるのは稀だろう。そもそも、きみの意識が五分前のきみと同じなのか区別できない。もしかしたら俺の方が入れ替わってるのかもしれん』
「その可能性もあるんですね」
『それが何回も繰り返されて離れたパラレルワールまで来た時、記憶とその世界線の間にある微妙な食い違いに気づくわけだ』
「マンデラ効果ですね」
『まあ、ほとんどの入れ替わりは近い世界線や時間の間で起こる。だが、たまに離れた時間との間で起こるのが……』
「それがタイムリープですね。過去に意識が飛ぶっていう……」
『待て待て、自然現象で起きた場合は意識が入れ替わると言っただろう。その時は入れ替わりで未来に飛ばされた意識もあるはずなんだ』
「あ、そっちの場合を考えたことはありませんでした。急に未来に飛ばされて老人になってたら、そのパターンは考えると怖いですね」
さすがに自然現象で、そこまで時差の起こる意識の入れ替えは珍しいと思うけど。
『次にタイムリープが起きた時と起きなかった時で世界線が分岐する場合だ。と言っても分岐するのは、過去に戻った時点から……だけどな』
「ん? タイムリープしたよりも先の世界線は?」
『それはタイムリープした人が、そこで死んだあとの世界として続くだけだ。過去に戻るのは、死んで肉体から抜け出た魂だからな』
「それって『死に戻り』ですか?」
『そうだよ』
「ということは元の世界線では、死体が転がってるんですか?」
『そうなる』
タイムリープが起きなかった場合を考えると、あまり触れない方が良かった話かもしれない。
というかタイムリープする話で、元の世界線の方の話を考えたら……。
「最後のパラレルワールドを放棄するというのは?」
『世界線そのものの放棄だ。国家レベルで都合の悪い歴史の流れを捨てて、過去に戻ってやり直そうとする時に起こるんだ。高次元から世界線を見てると、あるパラレルワールドの一群が、ぷっつりと切れて先がないことがあるんだ』
「切れた先の未来がないんですか?」
『都合の悪い未来は、パラレルワールドでも作りたくないんだろうな。そういう世界線を見つけたら過去の分岐したところまで戻って丹念に違いを見比べると、誰が何を目的に歴史をリセットしたかまで見えてくるんだ』
「それをやられたら、もう無敵じゃないですか」
『まさにその通り。古代ローマもアメリカ合衆国も、こういう歴史改変を積極的に使って世界帝国へとのし上がったんだ。大きくなる前の世界情勢を見たら、誰もローマやアメリカが世界帝国になるとは思わないだろうがな』
「古代ローマについては、よく言われますね」
紀元前二六四年、古代ローマは地中海の覇権を手に入れようと、カルタゴにポエニ戦争を仕掛けた。ところが背後のバルカン半島には、この二国が同盟を組んでも太刀打ちできないマケドニアという大国があった。この当時のローマの国力を一とすると、カルタゴが六から七、マケドニアが一〇以上という圧倒的な差。この状態で戦争を仕掛けた古代ローマは、常識で考えたら頭がどうかしてると思う暴挙だ。
案の定、大国のマケドニアはカルタゴと戦っている背後を狙って、古代ローマに攻め込んできた。しかも攻め込んだマケドニアは、ローマを倒すためにカルタゴと一時的な軍事同盟を結ぼうともしていた。普通に考えれば、これで古代ローマは万事休す。ここで滅びてもおかしくない状況のはずだった。
だけど、歴史はそうならなかった。ここで滅びたのは有利なはずのマケドニアとカルタゴだ。
この情勢を昨今、再認識されてきたマハンの地政学では、歴史の中で繰り返し現れる鼎立構造と語っている。巨大な大陸国家と沖合いにある強大な海洋国家、それと間に挟まれた半島国家という三国の関係だ。
まず文明も技術も成熟してない時代は、単純に強大な陸軍を持った大陸国家が陸続きの隣接国を呑み込んで強くなる。
次に沖合にある海洋国家が大陸国家の侵略に対抗するために海軍力を付けて大きな勢力へと成長する。文明や技術が成熟すると、数多くの軍艦を持った海洋国家が覇権を取りやすい。
間に挟まれた半島国家には両方の国から情報と、交易の中継地として富が集まってくる。それで海洋国家が覇権を握る前であれば、半島国家が急成長して地域の覇権国となる歴史が多くの地域で見られるのだ。
古代ローマもその法則で成長して覇権国となり、それをアシストするようにマケドニアは陸軍国なのに海軍力でローマに対抗しようとして負け、カルタゴも海軍国なのにハンニバルのアルプス越え奇襲のような陸軍力による作戦を仕掛けて破れたと考えられている。
『古代ローマはポエニ戦争とマケドニア戦争で、三九回も歴史を変えてるぞ』
「そんなに?」
『そうだ。作戦に失敗したら、過去に戻って歴史をやり直すんだ。そして持ち帰った未来の知識で戦いの準備をして、それで再戦を挑むわけだ。それでも失敗したら、また戻って準備からやり直す。だから天下分け目になる戦いでは絶対に負けないか、負けても相手にとって都合の悪いことが起こる……』
「ホントに無敵ですね。神様もそれをできるんでしょうかね?」
『技術的にはできるらしいよ。神──プレアデス人系だけでなく、悪神──オリオン人系やオロチ──アンドロメダ人系も使おうと思えば使えるらしい。だが、世界線が大きく歪むために禁忌の技術として使わないようにしてる』
「歪むってことは、悪影響が……」
『そもそも悪影響が、どんな形で出るかわからないんだ。地震や嵐のような天災として出てくることもあれば、過去へ記憶を持ち帰った関係者の不幸で返ってくることもある』
「いわゆるペナルティですか」
『そういうものがあっても、邪鬼──レプティリアン系のやつらは目先の利益のために使ってるんだ』
「悪狐の名前が挙がってませんが……」
『たぶん悪狐も技術的には使えると思う。だが、そいつらも使うかどうかまでは知らん』
それ以前に日月神示に出てくる悪狐が何者なのか、ヒントすら見つかってないのだが……。
「とにかく古代ローマの政治家たちは自分たちに都合よく歴史を改変して、ローマを大国にしたんですね」
『その通りだ。ローマ帝国は五七回も歴史改変を行ったが、大国になったあとは西暦四三年のブリタニア遠征を最後に一度も使ってないようだ』
西暦四三年は有名な皇帝ネロの先代──クラディウス帝の時代だ。
「アメリカも同じようなことをしてきたんですか?」
『古代ローマのあと、国家ぐるみで歴史改変をした国は現れなかったんだけどな。アメリカは独立戦争の時から積極的に使い続けて、建国からわずか一〇〇年で世界に影響を与える経済大国となり、そこからわずか七〇年で世界最大の超大国へと急成長したんだ』
「古代ローマも戦争を仕掛けてから二〇〇年足らずで超大国になりましたけど、アメリカはそれ以上の急成長ですね」
『しかもアメリカの場合は今も使い続けてるんだ。二〇二一年七月の時点で、建国から二五二回も使っている』
「古代ローマの四倍以上ですか? いくらなんでも使いすぎですよ」
『歴史を改変する悪影響より、自分たちにとって利益が大きいってことなんだろうな』
「まさかとは思いますが、国ではなく企業がやってる場合は……」
『あるぞ。二四社、のべ二七社が歴史改変に手を出して、うち二〇社が世界的な大企業になってる』
「ホントにやってるんですか。世界的な企業になれなかった四社は?」
『二社はしっぺ返しで倒産だ。あとの二社は、しょーもないことになってる』
「人間、欲がからむと、もうムチャクチャですね」
ダウジングではどんなふうにしょーもないのか引き出せなかったが、おそらく碌でもない状態だろう。
「では、アメリカという国がやった歴史改変は二二五回ですか?」
『それで間違いない』
それでも大変な数だ。
『そもそも、この歴史改変に手を出さなかったら、アメリカは独立できなかっただろう』
「本国のイギリスは、そんなに強かったんですか?」
『当たり前だ。イギリスは事実上無敵の大国で、連合王国になってからの戦争で負けた戦いは二回しかない。その二回がアメリカの独立戦争と、三〇年後に起きた米英戦争だ』
米英戦争は焦土作戦で先住民の大量虐殺を始めたアメリカに対して、イギリスが始めた懲罰戦争だ。イギリスは五万人もの正規兵を送り込んできたのに対し、アメリカの正規軍は先住民の殺戮に多くの戦力を割いていた。そこで「イギリスがインディアンを煽って背後から攻撃させている」というプロパガンダを流して、初戦は集まった民兵で応じた戦争だった。しかも、戦争ついでにカナダにまで攻め込む暴挙に出ている。完全な、ならず者国家ぶりだ。
そのアメリカが歴史チートをやってるとなると……。
『そのあとの南北戦争では、最初は南部軍──アメリカ連合国が勝った。南部は綿花栽培で経済的に潤ってるし、工業力もあったからな。でも、北部は金融業が中心で独立時の一三州があるから気位は高いが、南部と比べると工業力だけでなく経済力も劣っていた。だから南部からすると、いつまでも北部州が大きな顔をするのが気に食わなかったんだ』
「でも、実際の歴史では北部にも十分な工場が……」
『それこそが歴史のやり直しだ。しかも、それを成功させたのが日本との関係だ』
「そこで日本が出てくるんですか?」
意外な話が出てきた。
『南北戦争に負けた北部連合は、作戦を練ってペリー来航の頃まで時間を戻した。そこで日本にウソの為替レートを教えて、大量の黄金を巻き上げたんだ。それを資金源にして北部州にたくさんの工場を作って、大きな製鉄会社も作って、そして大陸横断鉄道まで完成させて南北戦争に備えたわけだ』
「それで勝ったと……」
『まあ、それを一回の歴史改変でやったのではなく、三回試行錯誤して勝ちに持っていった。歴史改変と言っても、必ずしも自分に都合よく変わるわけじゃない。自分の行動が変われば、当然、相手も行動を変えてくるからな。それでも失敗する選択肢は避けられるのだから、何度かやればいつかは勝つパターンが見つかるというわけだ』
「それをやられたら、本当に無敵ですよねぇ」
『たしかに成功するまで歴史改変を続けられたら無敵だ。だけど南北戦争には途中で改変をやめて、南軍が勝った世界線があるんだ。改変をあきらめたか、最後までできなかったのかまではわからんが……』
「その世界線とこちらの世界線に大きな違いはありますか?」
『俺が意識するのは奴隷のイメージが違うぞ』
「奴隷の?」
『今のイメージは、北軍が作ったプロパガンダのイメージだ。当時の黒人奴隷は家畜扱いではあったけど、多くの主人たちはしっかり働いてもらうために黒人奴隷たちを大切にしてた。そのために管理された食事や部屋まで与えていた。大部屋で雑魚寝させる主人もいたが、未婚の者には個室を、結婚したら小屋を与える主人が多かった。それに十分な自由時間どころかお小遣いも与えていた。だから黒人奴隷たちは高い楽器を買って酒場に持ち寄り、夜な夜なジャズを楽しんでいた。職業選択の自由がないだけで、もしかしたら今の派遣労働者よりもはるかに恵まれた待遇だったかもしれんぞ』
「たしかに不思議には感じてましたね。当時の黒人たちが、高価なピアノやトランペット、サクソフォンなどをどこで手に入れたか……。しかも酒場で音楽を楽しむ時間や金が、どこから出てるのかって……」
漠然とした奴隷イメージの矛盾は感じてたけど、深く考えたことがなかった。
『あと太平洋戦争は起きてないし、第二次世界大戦は日英同盟が勝った。アメリカは第二次世界大戦に参加してないから、経済的には超大国だけど軍事大国じゃない。それと今、きみたちがディープステートと呼んでる存在は、ヨーロッパ連合で暗躍してる。ついでに大戦中に核兵器は開発されようとはしたが、完成しないままロストテクノロジーになってる』
核兵器のない世界ですか。もしかして、この世界線よりも平和なのだろうか。
「でも、この世界線では、そうならなかったんですよね」
『北軍が勝利したことで邪鬼が大統領を傀儡にして、アメリカを牛耳るようになったからだ』
邪鬼、いわゆるレプティリアンだ。
『それを成功させたリンカーンは、歴史改変のペナルティとして命の取り上げとなってる。通俗的には暗殺されたことになってるが、本当の死因は医療事故だ。衛生観念のない医者に手術されたため、体内に雑菌が入って敗血症で亡くなったんだ』
「消毒してなかったんですか?」
『そうだ。当時の西洋の医者は不潔だったんだよ。なんせアルコール消毒どころか、きれいな水で手や器具を洗うことすらしてなかったんだ。これは当時の統計からも、医者にかかると死亡率が跳ね上がる現象が知られていたほどだ。それなのに医者たちは自分たちの不衛生ぶりを認めようとしなかった』
あまりにもダメすぎる真実である。
「都市伝説にある『テカムセの呪い』はありますか? 一八四〇年以降、『〇』の付く年に当選した大統領は、在任中に亡くなるという呪い……」
『それよりも歴史改変のペナルティだろうな。アメリカでは南北戦争以降、歴史改変を更に濫用するようになって、十数年ごとに経済力が倍々になる急成長で経済大国になったんだ。ペリーが日本に来た時は、まだ日本の半分の経済力もない田舎国家だったのにな』
本当は、それほど大きな経済差があった。それをウソの為替レートでごっそり奪って、経済力を逆転させたんだ。
『そしてアメリカは第二次世界大戦でも執拗に歴史改変を繰り返して、戦後は世界の覇権国家へとのし上がるんだ』
と、太平洋戦争の話題を始めたいが、今回も話が長くなったのでここまで。続きは次回で語りたいと思う。




