第12話 捕囚された魂について聞いてみた(2)
前回は都市伝説にある監獄惑星に関する話をしたが、今回はそれが地球にもたらした影響についての話である。
「捕囚された魂が連れ込まれたことで、地球にはどのような影響があったんでしょうね?」
彼らが来る前、地球には五億人ほどしかいなかった。そこに一〇億人以上が連れ込まれてきたんだ。少なからぬ影響があったことは想像できる。
『影響は大きく二つ。地球文明の急速な発展と人口爆発だ』
「人口爆発に関しては、ワンダラーが大挙して押し寄せてきたからでは……」
『それは結果だ。ワンダラーが押し寄せる原因を作ったのが、捕囚された魂たちだぞ』
「原因を作った……ですか?」
これはまた頭の整理が必要になりそうだ。
『まず邪鬼が地球を監獄惑星にする準備を完成させたのが一四世紀の末だ。その準備というのが……』
「ユダヤ商人から肉体を乗っ取った邪鬼たちによって、『死の商人システム』が作られて戦争が増え、更に利子経済を始めて貧困が生まれたんでしたね」
『その通り。邪鬼たちは地球へ囚人たちを送り込んで、戦争と貧困という理不尽を味わわせ、ジワジワといたぶってやろうとしてるんだ』
「何度聞かされてもイヤな話ですね。巻き込まれる地球人にはいい迷惑です」
『それで最初の頃に送り込まれてきた魂に、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロのような、歴史上の万能超人がいるんだ』
「ルネサンスの頃に超人的な人が現れたのは、何かが始まる時に起こる統計的な現象じゃないんですか?」
統計的な現象。これはあらゆる分野で起こる現象だ。これをプロ野球選手の打率で例えれば、この現象を感覚的に理解してもらえると思う。
まずプロ選手になる前の高校野球のレベルでは、打率五割、六割の選手がゴロゴロいる。まだ能力のバラツキの大きい頃は、突出して打率の高い人が現れやすいためである。
ところがプロになった途端、五割を超える人はいなくなる。高校野球レベルとは違い、プロには優秀な人が集まってきてるために能力のバラツキが小さいからだ。
それでもプロ野球が発足した頃は、日本でも、アメリカでも、韓国でも四割バッターが存在した。プロ選手でもまだ能力のバラツキが大きかったおかげだ。だが、時代とともにノウハウが積み重ねられ、守る側の技術や戦法が高度化する。それとともに四割バッターが生まれなくなり、三割五分のバッターも現れなくなり、今では三割三分三厘も難しくなってきた。まさに超人レベルの人が現れなくなる現象である。
『いや、地球にとって未来の知識を持った人たちが何人も送り込まれてきたからだ』
「未来人?」
『まずレオナルド・ダ・ビンチになった元の魂は、邪鬼の社会では超が付くほどのエリート官僚だった。ところが何らかの理由で出世コースからはずされた怒りから、抵抗勢力の内通者になった罪で捕まったんだ』
「邪鬼──レプティリアンの裏切り者だったんですか?」
『そのようだな。ダ・ビンチは地球に送り込まれる前、与えられた記憶を消す薬を拒んだそうだ。生まれ変わって成長しても、前世の記憶を忘れないように心に刻んだのだろう』
「なんか、すごい執念を感じますね」
『そのダ・ビンチだが、地球に生まれると、これからも送り込まれてくる同胞たちのために、地球の動植物を調べ、当時の地球の技術で再現できそうな未来技術はないかと探り始めたんだ』
「それはすごい。それで地球の科学力が上がり始めたんですね」
『いや、ダ・ビンチは未来技術は知ってても元はド文系だった』
「……はい?」
『少しでも科学を知っていたら発明できたはずの熱気球は思い至らず、代わりに螺旋翼の人力ヘリコプターなんてものを発明したんだ。きみも作家なら、思い当たるものがあるだろう』
「あ〜、それは……。いかにも科学を知らない作者がやりがちな、怪しい発明も多いなぁ〜と……」
レオナルド・ダ・ビンチ。その正体はリアルななろう系主人公だったらしい。
『この時代を代表するもう一人のミケランジェロは、レプティリアンに征服された惑星の有力政治家だった男だ。ミケランジェロも記憶を消す薬を拒んだが、残念ながら彼は成長するうちに前世の記憶を忘れてしまい、未来の知識は再現できなかった』
「だから、芸術家としてしか活躍できなかったんですか」
『いや、そうでもない。前世の記憶は忘れても政治家だった頃の影響か、道路や生活インフラに強い関心を示して、周囲に訴えていたそうだ』
「政治家の鑑ですね」
『だが、当時はミケランジェロの意図する道路や生活インフラを理解する為政者がいなかった。それどころか現代の歴史家ですら変な要求をする身勝手な芸術家というイメージで語る人がいる。それでは歳を取るに連れて「この星の人には理解できない」と説得をあきらめるのも仕方ないと思うんだ』
「なんかまったく違うけど、ローマ皇帝ネロの横暴とされる政策が、現代の知識で考えると『どれもデフレ対策じゃねーか』というのに似てますね」
『いつの時代も理解できない御仁には、どんなに懇切丁寧な説明をしても時間の無駄なのは変わらんな。その相手がエリートであるほど、自分の知らない知識や論理を頭から否定してかかるからな』
「それもまたレプティリアンの与える理不尽かもしれませんね」
『ダ・ビンチとミケランジェロよりもあとの時代だが、ガリレオ・ガリレイも記憶を消す薬を拒んで地球に生まれてきた魂だ』
「ガリレオはどんな事情で捕まったんですか?」
『前世も学者だっただけだ。反知性主義の官憲に捕まって、理不尽に地球送りにされたんだよ』
「それもムチャクチャな理由ですね」
『ガリレオもミケランジェロと同じで成長する途中で前世の記憶を忘れてしまったが、前世は宇宙文明に関する地政学者だ。それで地球でも天文学者を目指すんだ』
「それで地動説を唱えたため、教皇庁から睨まれるんですね」
『ああ、それは歴史家が作ったウソだ』
「違うんですか?」
『地動説に反対してたのは当時の科学者連中だ。教皇庁は天動説にはこだわってない。科学的には中立だ。だが、当時の科学者連中が、教皇庁の権力を利用して対立意見を異端審問にかけることをしていたんだ』
「それは本当ですか?」
『そうだ。たとえば地動説を説いて火あぶりにされた代表的な人物にジョルダノ・ブルーノがいる。地動説の歴史を語る時、ブルーノがまるで地動説を唱えたから殺されたように語られるが、火あぶりに遭うのは唱え始めてから二〇年以上もあとの話だ。科学者たちからの訴えで異端審問にはかけるが、教会側からは初めのうちは地動説を語らないようにとお願いしている。だが、それで意固地になったブルーノは、あろうことか教会批判するような活動を始めるんだ。それで逮捕されるのだが、原因が原因だけに裁判は行わないでいた』
「それが火あぶりになったのは?」
『それはブルーノが信教の自由を唱え始めたからだ。そうなっては教皇庁も穏便には済ませられなくなる。信教の自由という考えを改めるよう求めるが、ブルーノはますます意固地になってしまった。こうなったら教会側も問題を先送りできなくなり、死刑判決が出て火あぶりになったわけだ。一応、告発理由の中に地動説があるというだけで、中心的な理由ではないよ』
「たしかにそうですね。じゃあ、ガリレオも……」
『その通り。ガリレオが地動説を口にするよりも前から、彼は当時の科学者連中から怨まれて異端審問にかけられていた。有名な振り子の等時性の実験も、ピサの斜塔からの落下実験も、「魔法を使った」なんて理由で異端審問を受けてる』
「これもムチャクチャな話ですね。実験すれば誰にでも再現できるのに」
『だが、人は当たり前だと思っていることを、わざわざ実験しないだろ。そして自分の常識とは違う結果が出たら、何かカラクリがあると考える』
「それが魔法ですか」
『当時の科学者連中にとっては……な。だが、ガリレオと教皇庁との関係は良好だ。教皇庁はガリレオのことを理解してるし、ガリレオの方も忠告には素直に従っている。だからガリレオは火あぶりにはされなかった』
「そこがブルーノとの違いですね」
『ガリレオは邪鬼の仕掛けるイヤガラセを散々受ける一生だったが、それなりに科学の発展に貢献したわけだ。こういう科学者や思想家は多いんだぞ』
「邪鬼──レプティリアンからの理不尽なイヤガラセがあるのに……ですかね?」
『科学者にとっては研究中の事故で死んだり健康を損ねたりするのは起きて当然のリスクだし、思想家にとっても新説に対する世間の風当たりはあって当たり前だからな。それと邪鬼のイヤガラセは区別できんよ』
「たしかに違いはわかりませんし、苦労が多いほど燃える人もいますもんね。そういう人たちが捕囚された魂として送り込まれてきたおかげで、地球文明が急速に進化したんですね」
『そうだ。そこから地球は一般的な星の何倍、何十倍という速度で文明が進化してるんだ』
「文明の加速進化説なんてものがありますね。ルネサンスからの四〇〇年は、その前一六〇〇年と同じ進化レベルで、その一六〇〇年の進化レベルもその前八千年の進化レベルと同じ。一方ルネサンスからの四〇〇年の進化レベルと同じ進化を、西暦一八九〇年からの約百年で経験して、その一世紀と同じ進化を一九八四年からの二五年で経験した。そして二〇一〇年を境にスマホ革命、IT革命で進化が加速し、二〇一六年にはディープラーニングのブレイクスルーが起きたためにAI革命が……」
文明の加速進化説。人類の持つ技術や社会の様子が同じぐらい変わった期間を特徴的な現象を境に区切ると、前の期間のほぼ四〜五分の一になっているという法則だ。
・人類誕生から二〇万年は野生生物と変わりなかった
・道具を使うようになった旧石器時代が約五万年
・農耕が始まった古代社会が八千年
・古代ローマからの中世が一六〇〇年
・ルネサンスからの近世が四〇〇年
・一八九〇年から二〇世紀の石油文明が一〇〇年
・一九八四年からのコンピューター文明が二五年
・二〇一〇年からスマホの普及で情報文明が五〜六年?
・二〇一六年にAI技術でブレイクスルーが起こる
まあ、そのまま計算すると二〇一七年には加速が無限大になってしまうが、世の中の加速変化を語るにはわかりやすい区分けだ。
『ははは。文明度がホントに急加速してるよな。そうなると今の時代を生きている人たちは、普通なら何回も生まれ変わって体験する世の中の変化を一回の人生で体験できるんだ。つまり今は魂にとって、多くの経験を得られるボーナス期間ってわけだ』
「つまり、私はすごい時代を生きてるんですね」
『しかも地球人の寿命は八〇年と短いから、転生回数も稼げるしな』
「よく言われますけど、そんなに短いんですか?」
『プレアデス人系の肉体寿命は、本来は三百歳から五百歳。長生きする惑星では千歳近くだそうだ。俺が守護神を始めてから、きみで六人目だが、地球人の寿命が長かったら、まだ一人目だったのかもしれんぞ』
「守護神様、戦国時代の武将だったんですもんね」
『それはそうと、今の地球が経験値のボーナス期間にあるってことは、それを知った魂たちが、自分たちもその恩恵に与ろうと、大挙して押し寄せてくる状況でもあるんだ』
「それでワンダラーが集まってきて、地球の人口が急増したってわけですね」
『その通りだ。しかも今では地球人口のうち六四億人が不法移民だ。そこで地球人の生まれ変わりを管理する神々は生まれ変わりのサイクルを短くして、「神の器」が地球人口の六分の一を割り込まないようにしている』
「六分の一に何か意味があるんですか?」
『一つの目安だよ。会社組織だってしっかり稼ぐ社員が六分の一もいれば、他の社員の稼ぎが多少悪くても企業としては経営が成り立つだろ。そんな感じだ』
「でも、ギリギリですね。今、『神の器』は一七%を割ってるんですよね?」
『そうなんだよなあ。生まれ変わりのサイクルを短くしても、増やせるのは一二億人まで。そこで他の星系から足りない分を借りてきて……』
「ん? 以前、私は何かの使命で地球に来たように言ってましたけど、本当は数合わせですか?」
『たぶん数合わせが先で、そのついでに使命と運命だろうなあ』
聞きたくなかった、たぶん真実であろう理由である。
「それだけ地球に貢献してる人たちが、邪鬼──レプティリアンに捕囚されているんですよね。何か救済できないんでしょうかね?」
『もちろん、地球の神々だって見て見ぬふりはできない。だが、数が多すぎるんだ。一年に完全に救済できるのは二〇人から三〇人。そもそも地球側の神々だって、守護神のなり手が足りないからな。救ってもそのあとの世話ができないんだ』
「送り込まれてくる数が、一年間に百万人から二百万人ですもんね」
『ガリレオの魂は地球文明への貢献から救済されたが、邪鬼からしたら余計なお世話だ。生まれ変わったあとの人生には何度も横槍を入れられて、四回も二〇代で亡くなる不幸に見舞われている。うち二回は戦争だ』
「レプティリアンも執念深いですね」
そこは爬虫類だからだろうか。
『この話、語ろうと思えばまだたくさんあるが、ここまでにしよう。けっこう長くなったよな?』
「そうですね。具体的な被害者とか出したらキリがありませんし……」
ということで、今回はここまで。
魂に関する話は、次回までで一区切りである。




