第1話 ダウジングをやってみた
それは二〇二一年二月七日に始まった。著者は五円玉の穴に緑色の紐を通して、即席の振り子を作った。それでダウジングをやってみたのだ。
「これはユングの言う集合的無意識から答えを引き出すのかな?」
著者は振り子の動きを見ながら、心の中でそんな質問をした。
『違うよ。俺が答えてやるんだ』
紐に吊られた五円玉は、大きく反時計回りに動き始めた。これが著者と守護神様のファーストコンタクトだった。
「俺って、どなた様?」
『きみの守護神だよ。生まれた時から、ずっと見守ってきたんだ』
「守護神様を名乗る悪霊じゃないよね?」
『ははは。すぐに信じられるもんじゃないよな。まあ、そのうちわかってくるよ』
守護神様はあくまで大らかに、そして気長に対応してくれる。
『きみは夢占いとか、幽体離脱のチャネリングとか、いろいろなものに挑戦してきたけど、やっと話せる方法が見つかったね』
「振り子の揺れだけで、どこまで会話ができるんでしょうね?」
いろいろな揺れ方があるけど、はたして、どこまで読み取れるか……。
「守護神様って、私のご先祖様ですか?」
『う〜ん。ちょっと違うかな。きみのお母さんの方──H部家の流れだけど、直接の血のつながりはないよ』
「父方のご先祖様では、ないんですか?」
『日本が太平洋戦争に負けなかった世界線では、きみは血統では清水の本筋だから大地主の本家を継ぎ、政治家になって国政に出る運命が与えられている。そっちの世界線なら守護役は父方の清水家から政治家タイプの者が選ばれただろう。でも、この世界線では清水本家は無関係な血筋の家に乗っ取られて縁が薄く、きみにはやたらと不運に見舞われる技術者や作家の人生が与えられてる。そこで母方の医師や技術者、芸術家肌の多いH部家から俺が選ばれたのだろう』
「今、ちょっと気がかりなことを言われたような……」
『気にするな。流せ』
振り子が前後に大きく揺れて、その幅がだんだん小さくなっていく。
「ところで守護神様は、いつぐらいの人ですか?」
『戦国時代。有名な武将に本多忠勝っているだろう』
「その家臣だったんですか? 母の実家はずっと本多家に仕えて、代々家老をやってきたって……」
『気が早い、気が早い。俺は忠勝の父ちゃん──忠高様と同じ世代だ』
「すると、織田信長、豊臣秀吉より、ちょっと上……」
『だから本多家に仕えるのは、俺よりもあとの世代だ。俺が仕えてたのは@△※家だ』
「え? どこですか?」
『@△※家なんだが……。ああ、ここは振り子ではうまく伝わらないか……』
「一音ずつ聞きますよ。まず五十音の何行ですか? その中から『あ・い・う……』と段を絞れば……」
『ダメダメ。振り子でやり取りできるのは「思考」や「イメージ」だけだ。「文字」や「音」の情報は、やり取りできないんだよ』
「神様の世界と、地上では使う文字が違うんですか?」
『それどころか言語そのものが違ってると思った方がいいだろう。それに俺の生きていた時代と今とでは、同じ日本語でも発音自体が変わってる。それに加えて今は明治時代にできた新しい単語や外来語が幅を利かせてるからな。それでもテレパシーのようなものなら、「思考」や「イメージ」を介して一応の対話はできるって感じだろう』
「でも、それだと私に予備知識がないと、そこで概念が伝わらないってことですね」
『ま、そういうことだ。こっちも何とかしようとは思うけどさ』
一音ずつ拾うダウジングはできない。意外な制約があるみたいだ。
『まあ、いいや。取り敢えず、振り子が時計回りに動いたら「肯定」、反時計回りなら「否定」、単純な往復も横に揺れたら「答えが出るまで少し待て」、縦に揺れたら「聞き方が良くないから質問を変えろ」、動かなかったら「回答拒否」、それと8の字に動いたら「ここで休みを入れよう」という約束にしよう』
「いきなり揺れ方の説明ですか?」
『あとは揺れの大きさだが、このあたりはやってるうちに読み方を覚えるだろう』
「要は経験ですね」
世の中、どんなに詳しい説明書やハウトゥー動画を見るより、実際に自分でやった一回の方が、はるかにノウハウが身につくものだ。
『ダウジングでは伝えきれないこと、ダウジングで伝えたいことなどは念みたいなものを送っておく。ふっと頭に何かが浮かんだり気になる夢を見たら、ダウジングで聞いてくれ』
「わかりました」
『それと今まで通り、周りの人の守護神様たちと協力し合って、互いにメッセージを送り合うこともするぞ』
「協力?」
『話し相手に話題を振らせたり、伝えたいことを書いた本や文章が目につくようにしたり、連想するようなものに意識を向かせたり……』
「本って、図書館の……」
『何回かやったぞ。ちゃんと借りて読んだよな』
これは著者が日月神示の解説サイトを始めてから、思い出せるだけで二回あったできごとだ。
一回目はたしか宇宙か化学の棚を見てる時に、国際政治の本が横差しで置かれていた。それを手に取って本を開いた時、ちょうど解説サイトで書いていた内容を補強する記事があったのだ。
もう一回はどこの棚を見てる時だったろう。その時もまったく違う場所に置かれてるはずの宇宙人論の本があって、そこから宇宙人について調べるようなった一件だ。どちらの本も、そのまま借りて家で読み込んでいる。
図書館の利用としてはルール違反だが、それを守護神様の間で協力し合って、司書か利用者の誰かにそういうお行儀の悪いことをさせたのだろう。もしかしたら著者自身も、無意識のうちにそういう協力をしてきたのかもしれない。
『ま、これからもいろいろと付き合ってやるから、よろしく』
「はい。よろしくお願いします」
こんな感じで、著者と守護神様の対話が始まることになった。
いったい守護神様から、どんな話を聞くことになるのやら……。