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「働かせてください」


 明くる朝、挨拶もそこそこにコウさんがそう言いながら頭を下げていた。


「よくよく考えたら行き倒れを助けてもらったうえにただ飯食らって魔力が回復するまで寝ているとか、申し訳が立たないので」


 言った後に、いただきますと言ってから朝御飯を食べ始めた。だよねーそうなるよねーと父さんがパンを片手に共感していた。やはり身に覚えがあるらしい。


「言われなくても仕事は押し付ける気でいたさ、若い男は貴重な労働力だからね、体調が良いならキリキリ働いてもらうよ」


 そうよねー、でしょうねー、やっぱりねー、なんて姉ちゃん達は口々に母さんを肯定しつつ朝御飯のパンを引きちぎって口に運んでいる。


 客人はもてなすものだが、草原の民は働かざる者食うべからず、がモットーである。と言うか掟である。客人に対しては、早い話が衣食住保証してやるから働け、と変換されるのだ。手厚いもてなしは初日だけだったりする。


「体調はバッチリです」

「ならしっかり働いてもらおうか。ちょうど今は忙しい時期だからね」


 母さんの言葉に続いて父さんが昨日手入れした(はさみ)をシャキンとタイミング良く鳴らした。

 そうだ、アレは今日からか。






 メェェェー


 草原に羊たちの叫びが木霊する。季節は初夏の一歩手前、羊達の毛刈りの時期だ。


 羊毛は集落の貴重な収入源に当たるので、集落中の人間が総出で何日かかけて刈る。終われば、食えや飲めやのお祭り騒ぎだ。


「コウさん上手、刈りやすい!」


 コウさんはやり方を教えただけで上手に羊を抑えてくれた。しゃきしゃきと手早く、ただし羊を傷付けない用に慎重に鋏を滑らせていく。


「おお、マリカちゃんと兄ちゃん似合いだな。どうだ兄ちゃん、そのままマリカちゃんの婿になるかい?」

「マリカ嬢が良ければ是非」

「良かったなぁマリカちゃん」


 コウさんは歩き回っていた隣の家のおじさんの冗談を軽い調子で返している。


 おじさん止めてくれないかなぁ、私が否定も肯定もしないうちに半分本気で冗談言って、豪快に笑いながらマリカちゃんに貰い手が出来たぞ! とか吹聴して歩くの。


 あ、奥さんにどつかれた、続いて娘さんにぼこぼこにされている。親しき仲にも礼儀あり、鉄拳制裁と言うヤツだ。ほっつき歩いてないで仕事しな! って怒られている。……もっと言ってやってくださいお隣さん。


「マリカ、俺は結構本気だ」

「はいはい。お上手ですね」


 キリッとした顔して言ったコウさんを適当にあしらった。


 前置きに結構と付けるヤツは本気じゃないから結構本気、とのたまうのだと大姉ちゃんが言っていたのを思い出す。口説き落としたいなら冗談めかした逃げ道作らず当たりに来い! とも言っていた。


 その時の大姉ちゃんに当たりに行ったら砕かれるどころか粉にされそうであったと付け加えておこう。


「ガードが硬いなぁ」

「警戒してって言ったのはコウさんです」

「そうでした、あー失敗したな」

「ふふ、話ばかりしていないで次の子お願いしますね」


 おどけて言っていたのでこちらも笑って返して、指示を出す。中姉ちゃんを筆頭に何人かが馬を使って羊達を柵の中に次々と追い込んで来るため、こちらもどんどん刈らなければ。


 そうして刈った毛が山になった頃、昼の休憩を取る事になった。


「うめー」


 今朝焼いたパンに葉物野菜とチーズ、昨日の残りのお肉を挟んだだけの簡単ご飯である。が、労働の後だと美味しく感じる。家の家族とコウさんもうめーウメーと言いながら食べている。


 ……駄目だ笑う。コウさんの声と羊の鳴き声が混じってる、って言うか真似してる?傍らに寄ってきた、先ほどさっぱりさせた羊と鳴き声を競っていた。


「そのまま羊になった気分で草も食べてみるかい?」

「謹んでご遠慮申し上げます!!」

「コウさん、気を付けないと野菜食われるよ」


 中姉ちゃんに注意され、コウさんがパンを持つ手を動かした瞬間に、そこの空間を目掛けて羊の歯がかすった。


「あぶねえ、ほまへにははらん」


 口いっぱいに頬張りながら言うものだから、笑ってしまった。羊と競ってどうするの。


「気さくな人だよねぇコウさん」


 大姉ちゃんがしみじみと言うのでドキリとした。そうだ、コウさんは大姉ちゃんの好みのタイプだった。


「そうだね、大姉ちゃんの好きなタイプ」

「うーん見た目はね。私はもう少しお腹は黒そうなのがタイプかな。マリカは?」

「わた、しは……」


 コウさんの事、嫌いではない。底抜けな明るさと、気さくなところ、気遣い出来る心根……でも。


「……まだ考えられないや」


 昨日出会ったばかりだ。そして出会う切欠となった、ほんのちょっとの失恋が尾を引いてじくじくと痛んでいる。


 恋だと認めて、また傷付きたく無かった。


「そっか」


 大姉ちゃんはそれ以上追及してこなかった。大姉ちゃんは大雑把だけど無神経な人ではない。それが絶妙に心地良いからモテるんだなと思っている。


「大姉ちゃんはさ」

「うん?」

「いい女だよね」

「なに? 今更気付いたの?」

「んー、今まで言ってなかっただけ」

「可愛いこと言ってくれるじゃない」


 大姉ちゃんにぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。うん心地がいい、やっぱり大姉ちゃんはいい女だ。

 

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