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「ところでコウさんは、何で倒れていたの?」


 皆が思っていたであろう疑問を、大姉ちゃんが率直にぶつけていた。


「それには……深いわけが……」

「え、ごめんなさい、聞いちゃいけないことだった?」


 深刻な表情を作ったコウさんに大姉ちゃんが慌てる。


「いいえ、誰かに聞いて欲しかったので……」


 一気に静まった家の中で、皆がゴクリと唾を飲み込み、次の言葉を待つ。家の中が妙な緊張感に包まれた。


「実は、草原を走破しようとして迷いました」


 先程とは対象的にあっけらかんと良い放った言葉にどっと笑いがおきる。先に聞いたときは冗談かとも思ったが、本気だったらしい。いや、嘘でしょ!?


「馬無し、荷物無し、土地勘無しでどうやって走破出来ると思ったんですか!?」


 私にとっては笑い事じゃない。一歩間違えれば生娘に身ぐるみ剥がさせるところだったのを反省して欲しい。いや、まずは命を大切にしてください。


「危うく身ぐるみ剥がすところだったんですよ!?」

「え、何それ?」


 キャーと声を出しながら体を抱くように胸の前で手を交差させる。どちらかと言えばこっちがキャーである。


「掟でそう決めているのさ。全て埋めてしまうと何も残らないだろ? たまに遺品だけでも、と探しに来るやつもいるからね」


 説明は母さんが引き継いでくれた。なるほどとコウさんは頷いている。


「もしかしてコウさんは収納魔法が使えるのかな?」

「はい、よくご存知ですね。水や食材、着替えや野営道具なんかも収納していたので、魔法が使えなくて焦りました」


 私の疑問は父さんの質問で解消された。が、新たな疑問が吹き出した。


「父さん、収納魔法ってなんなの?」

「西の大国の魔力の秀でた人だけが使える魔法だよ。調理済みの食糧以外は何でも出し入れ出来る」


 中姉ちゃんの疑問に父さんが答える。西の大国は父さんの出身地だったはずだ。詳しくは聞いたことがない、自分の事はあまり語りたがらないからだ。


「見えない荷馬車を持っていると言えば分かりやすいかな?」

「なんとなく分かったけど、なんで調理済みの食糧だけ駄目なの?」


 普通に疑問なので聞いてみた。普通の荷馬車に食料は詰め込めるので。


「その辺解明されてないんだけど、入れちゃうと何故か味が無くなるんだよね。食材なら良いんだけど。例えばりんごなんかは丸のままならセーフ、切ってあるとアウト」


 父さんが家の今日の晩御飯は全部アウトだね、と続けていた。


「切ってある生肉は?」


 調理されたお肉を見ながら大姉ちゃんが聞いた。


「大丈夫ですよ。基本食べられる状態の物がそうなるので、妖精の悪戯とか言う名前が付いています」


 すらすらとコウさんが答えた。話しながらでもコウさんはご飯の食べ方が綺麗だ、なんかこう、上品に食べている。


「あら、可愛らしい名前」

「現象は可愛らしいものじゃないけどね。まあそんな収納魔法だけど、生まれつきの器に左右される物なんだ。魔力を溜める器の大きな人だと、どれだけ荷物を詰め込んでもケロッとしている、中身の時間も止められるんだ。コウさんもその口かな?」

「凄いかどうかは分かりませんが、日常的に使っていました、まさか使えないなんて事を考えてもみなかったです」

「私にも経験が有りますから、分かります。大変でしたでしょう」


 うん?て、事は父さんも凄いほうの人なのかな?答えてくれるかは別として後で聞いてみよう。


「この辺りでたまに無茶していき倒れて居るのは、そういう奴らばかりだね、若さで無茶したくなるお年頃なんだろう」


 母さんがそうまとめると男性陣が分かりやすく縮まった。身に覚えがあると恥ずかしいらしい。


「この辺りは大国と違って魔力が薄いんだ。だから魔物も少ないし魔法が使えるやつも少ない、使っちまうと体外の魔力を取り入れるのに時間が掛かるからね、使えないんだ」


 確か、魔物は魔力の淀みから這い出てくるものと教えられた。繁殖によって増える種類も数多く居るが、最初の数匹はやはり淀みから生まれてくるのだと言う。魔力が薄いと言うことは淀み難いと言うことでもあるのだそうだ。この辺りに魔物が少ないのもそのせいだと言われている。


「大方堺の町で噂を聞いて、度胸試しにでも乗っかったんだろう、父さんもそうだったしね」


 コウさんと父さんが母さんの言葉で追加ダメージを食らっていた。どうやら図星らしい。


「噂?」


 小姉ちゃんが自分用の調味料で味付けし直したお肉を頬張りながら首をかしげる。


「草原を単独で走破出来る魔法使いは居ない、走りきったら世界で一人っきりの英雄になれるだろう、って酒場の冗談の類いだよ。真に受けた腕に自信があるバカが希に居るんだ」


 グサグサと母さんの言葉が男二人に突き刺さる。止めてあげて母さん、二人のメンタルはギブアップ寸前よ。


「で、魔力が薄いの知らないで走ってみようと挑戦して、自分の魔力が回復しないことに焦る、じっとしてりゃあ体力減らないで何とか魔法が使える位は回復するのに、動き回って消耗するヤツが倒れている。まあ下調べしないで走るヤツなんざ私は二人くらいしか見たことないけどね」


 カンカンカーンと、戦い終了の鐘が私の想像の中で鳴り響いた。コウさんも父さんも母さんの猛攻に撃沈していた。


「……コウさん、父さん、お代わりいる?」

「もらう」

「いる」


 二人が流石に可哀想になったので取り敢えずお代わりをよそってあげる。コウさんには少なめにしておいた。いきなりいっぱい食べるとお腹がびっくりするからだ。


「体調が良くなったらいっぱい食べな、その方が魔力は回復する。魔力が本調子になるまでは置いてやるよ」

「お世話になります……でも食事で魔力が回復するのは知りませんでした」


 コウさんはごくんと美味しそうに飲み込んでから、母さんに返事をする……コウさん立ち直りが早くない? 父さんまだどんよりしているけど。


「食べ物からも魔力を補えるんだよ。ただし栄養も魔力維持のために優先的にそちらに回されるから、父さんもそうだけど、ここでは高魔力持ちはどれだけ食べても肉が付かないよ」


 そうなんだと、納得しかけてちょっと引っ掛かった。父さんも? 食べても肉が付かない?


「母さん、話の腰を折って悪いんだけど、私ってもしかして」


 話の流れからある可能性が頭を掠めた。もしかして私も? と。


「調べてないから分からないけど確実に器は大きいだろうね」


 あっけらかんと明かされる事実に張り手を食らった気分になる。同時に抑えていたはずの嫌な気持ちがせり上がってきた。


「……なんで黙っていたの? 知っていたなら教えてよ!!」

「おや、言ってなかったかい? お前は父さん似だなって」

「それだけで分かるわけ無いでしょう! 私が、今まで……っ」


 どれだけ悩んでいたか知っている癖に! なんて、投げつけたかった言葉は口から出ていってくれなかった。代わりに足が外へ向かい、姉達の制止の声も聞かずに家を飛び出していた。


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