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『中小のお姉さんには言わないんですか?』
一階の入り口を開けるのは危険、と言う判断で窓から跳ぶことになった。
(はい、絶対止められる。むしろ腕輪奪われて先に走っていかれます)
『後で烈火のごとくお怒りを受けるか、手がつけられないほど拗ねられる気もしますが、いい判断です。たぶん』
……決意が鈍るようなこと言わないで欲しい。
『そこはまあ、命あっての物種? ですよ。さあさあ、跳んでください』
言われて下を見る。……結構高さ有るんですけど、祈りを届けてもらうレベルだと、ぐきっといきそうなんですけど。
『詠唱はその時の気分とテンションで文言を使い分けるものです。成功するイメージだけ考えてください、あなたならやれます』
そう言われるとやれる気がしてくるから凄い。跳べそうな単語も思い付いた。
「援護は任せて、届く範囲なら射ち逃さないわ」
大姉ちゃんが弓を構えてそう言ってくれた。頷いて窓枠に足をかける。
「風よ、私を受け止めて!」
魔法を使いながら跳んだ、地面へ落下する直前につむじ風が身体を持ち上げ、衝撃を緩和する。
『上出来です、身体に異変は?』
(有りません)
着地したままの姿勢で答える。近くで魔物の断末魔が聞こえた。
「油断しないの!! 来てるよ!」
大姉ちゃんの声にハッとしてそちらを見れば、大姉ちゃんの矢を受けて魔物が事切れていた。
その他五から六匹だろうか? 狼のような姿の魔物がこちらに向かってくる。
(来た! ど、どうすれば!?)
ばくばくと心臓が悲鳴を上げる。どうしよう、やっぱり怖い。
『怯えないでください、あなたは強い。リボンさえ有れば怪我はしません。それでも駄目なら私が魔法を使います。だから恐れないで』
魔法はイメージが大事と言っていた、怯えていたら駄目だと言い聞かせる。
無理矢理心を落ち着かせてイメージする。魔物を切り裂く風を。
「風よ、切り裂け」
魔力が魔法となり風のように魔物へ飛んでいき、切り裂いた。でも、一匹だけだ、今度は向かってくる全部を倒すイメージで、もう一度同じ詠唱をした。
一匹二匹と、数え、辺りに動いている魔物の姿が無いことを確認する。
倒せた、かな?
『大丈夫そうですね、初陣でなかなかの立ち振舞いでしたよ!』
(ありがとうございます)
『ではでは、道中の邪魔物を屠りつつ、レッツゴーです、出来ればお父様の方から向かいましょう』
(……まさか、ダジャレ?)
『……イエソンナ、マサカ』
棒読みは突っ込まないであげることにした。緊張を和らげるために言ったくれたんだろうから……たぶん。
時々、危ない思いをしつつ、順調に集会場から離れる。怒号と魔物の唸り声が聞こえ初めた、方角的に広場だろう。出来る限り急いで近づく。
「泣き言を言うんじゃないよ!!」
大きな怒鳴り声が聞こえてきた、母さんの声だ!
すぐに姿も見えたが、魔物に囲まれている。母さんが指示を出しながら短剣を振るうが、魔物の数は減らない。
「風よ、皆を守る盾となれ!!」
背中合わせになるように、ぐるりと円を書くようにして戦っていた皆と、魔物達との間に風が吹き荒れ、魔物達の侵入を拒む。何人かは驚いて尻餅を付いている。いきなりごめんなさい。
一匹の魔物がこちらに気がついた、続けて二匹三匹……見える範囲の魔物が一斉にこちらを見る。
『ふむ、意識を統率している個体がいそうですね』
(じゃあ、それを倒せば)
『確実に戦いやすくなるでしょう、でもとりあえずは』
目の前のこいつらを倒す。
「風よ、大きなうねりを上げて切り裂け!!」
竜巻を起こして一帯の魔物を根こそぎ絡め取る。落ちてくるときにはバラバラになっている……ハズである。
そんなイメージが出来る自分のことが若干怖くなった。
『魔物に情け容赦は禁物です、特に襲ってくるやつは屠る、位でいいんですよ』
(はい)
とりあえず今は怖じけ付いたら負けてしまう、それ位の気合いの方がいいんだろう。
皆の方を確認すると、出って行って集会場に戻ってきた人達以外、怪我の大小はあるが全員無事みたいだ。ほっと胸を撫で下ろした。
「マリカ、なんで!!」
風が止んで真っ先に駆け寄ってきたのは母さんだ。
「ごめんなさい、後で説明する、今は急いで届けなきゃいけないものがあるの。だから父さんとコウさんがどっちに行ったか、知っていたら教えて」
「コウさんが西、父さんが東に別れて戦っているよ、マリカ、あんた」
「届ければ父さんとコウさんが楽に戦える様になるの。大丈夫、私は母さんと、父さんの娘だから。これでも強いんだよ」
母の顔をして心配そうにしている母さんに、そう伝える。よく見るとあちこちに細かい傷があった。
「風よ祈りを皆に届けたまえ」
風が皆に癒しを運ぶ、もちろん母さんの傷も癒えている。
「ね、大丈夫でしょ? 心配しないで」
「大丈夫なわけ有るかい、このばか娘」
コツンと軽く額に額をぶつけられた。でも痛くはない。
「どんなに強くなっても心配するさ、親だからね。私らがここに居れば魔物は別れて少しは楽だろう。気を付けてお行き」
母さんが私の背中を軽く押して続ける。
「頼んだよ!」
「うん! 母さんも気を付けて!」
母さんのほうを見ないで東へ足を向ける、見たら立ち止まってしまいそうだからだ。本当は母さん達が心配で、自惚れるわけではないが私が一緒にいたほうが安全だろうと思う。
でも後ろから聞こえてくる、皆に発破をかける声に励まされた。
大丈夫、母さん達は大丈夫だと何度も自分に言い聞かせる。
『あなたはお母様似なんですね』
ポツリと漏らされた言葉に驚く。
(……それは初めて言われました)
『どちらも誰かのために頑張れる人です』
まあ私お父様知りませんけど、と付け足された。
(ずっと似てないって思ってたから嬉しいです)
『とりあえず、急場に立たされたときの覚悟のキマリ具合は、お母様譲りかもしれませんね』
窮鼠猫を噛むってやつですねーと付け足された言葉は聞かなかったことにする。
……だってネズミ扱いは止めてほしい。




