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 それから目覚めた小姉ちゃんも、大姉ちゃんと同じく二度見して腕をつねっていた。こんな反応は似ていて、やはり姉妹なんだなと思った。


「詳しい話を聞きたいけど簡潔に今の状況を教えてくれる?」


 そう切り出したのは大姉ちゃんだ。ええっと今の状況は。


『あ、私も聞きたいです!』


 リボンの人からもそう言われたので、中姉ちゃんが客観的に説明してくれる内容を心の中でなぞった。


 コウさんと父さんが外に出て少ない魔力でなんとか戦っていること、一階のドアが破られそうになったため、母さんを筆頭に集落の年長者の人達が外に出て戦っていること、怪我して運ばれた人達は魔法で回復したこと。


「マリカ、なぜ魔法を使えるの?」

「このリボンのおかげ」


 大姉ちゃんの問いに私も簡潔に答えようとしたが、ええっと、なんて説明すればいいのだろうか?


『はいはい出番ですね、私の代わりにお喋りお願いします』

『「これは色々な呪文が縫い付けてあって、説明すると長くなるので止めときますが、今これを通して会話と魔力をやりとりしています。魔法が使えるのはリボンを通して魔力を供給しているからです」』


 リボンの人の言葉をそのまま話す、中姉ちゃんと小姉ちゃんはポカンとしていたが大姉ちゃんは頷いていた。


「そのままアテにしても構わないかしら?」

『「構いません」』

「魔力をあと二人に届けることは可能なの?」

『「魔力は基本接触で受け渡しします、特殊な例を除くと、離れれば離れるほど効率が落ちるからです。ですのでこのリボン1つで、と言うのは少々難しいですね、こちらからもお聞きしても?」』

「ええ」


 大姉ちゃんが頷くと中姉ちゃんと小姉ちゃんも頷いていた。……二人共さっきからシャベッテナイヨ。


『「皆さん口は固いでしょうか? ちょろっと最近作ってみた秘密の魔法を使いたいのですが、ちょっと便利すぎて公表禁止となっておりまして」』


 沈黙が流れた。真っ先に動いたのは小姉ちゃんだ。


「私、状況確認してくる!」

「私も情報確認してくる!」


 続いて中姉ちゃんも部屋から出ていった。叶うなら私も逃げたい。


「口は固いのが残ったわ大丈夫よ」

『あはは、一番下の妹さんが大丈夫じゃなさそうですが、逃げたら困りますよ! 床は板の間でしょうか?』

「何て?」

「私は残って、だって。あと『床焦がすから証拠隠滅してくれると助かる』って」

「ええ、約束しますと伝えて。なにかあっても責任は私がとるわ」

『おおう、いい女! それじゃあお言葉に甘えて。ええっと細かい作業になるのでまた身体をお借りして魔法を使います、よろしいですか?』

(はい)

『では手を床に向けてください』


 ブツブツと詠唱が聞こえてきて、私の手から幾筋もの光が(あふ)れ、それがジリジリと床を焦がす。光が終息した後に書かれていたのは――


「魔方陣?」


 床を焦がして浮かび上がったのは丸い円に幾何学模様と細かい文字が書かれているものだった。


 似たようなのを家に置いてある、もともとは父さんの物だった本で見た気がする。


『正解です! これが、一番安定して魔力さえあれば誰にも魔法が使える方法です。ただ一度書いてしまうと応用が効かないネックな代物でもあります。まあ、これ以上は魔法の講義になってしまいますから、止めておきますが』


 ちょっと聞いてみたいと思ったから残念だ。


『後で時間が出来たらゆっくりお話しましょう、それでは魔方陣に両手を当てて魔力を流しつつ、せーので強く引っ張るイメージでお願いします』


 言われたとおり両手を付け、魔力を流す。


『行きますよ! せー』

『「の!」』


 スポン、と蕪かなにかを引き抜く感覚に近かったと思う。魔方陣の上に二つの輪が転がっていた。


『無事に届いたみたいですね』

(今のは)

『対になる魔方陣の上に物を送る魔法です』

「これは?」


 え、凄い便利! と思っていると興味深々と言った雰囲気で大姉ちゃんが聞いてくる。


 送られてきたのは木で出来ている太めの輪に透明な石の付いた素朴な、腕輪、だろうか?


『「このリボン廉価版、ええーっとジェネリック? の試作です、親分の方と通信、魔力の授受が出来る子分の方の腕輪です』だって」

「これも秘密だったりする?」

『「はい、こちらは出来れば、で構いません』だそうだよ」

『こちらも勢いとテンションで作って忘れていたんですよねぇ日の目を見て良かったです』


 この人の勢いとテンションはどうなっているのだろうか?


「これを使えば私にも魔法が使えるのかしら?」

『「試してみなければ何とも言えませんが、今は使える人に渡したほうが懸命です」』

「そうね。なら、私が届ける。おかげさまで走れるようになったからね」


 足を曲げたり伸ばしたりしながら大姉ちゃんがそう言う。だめだ、と反射的に思った。


 大姉ちゃんだって怪我は酷かった。きっと本調子ではない。


『……このリボンがあれば大抵の攻撃は防げるハズです、まあ守れるのは生身だけですが。しかし魔力の器が小さければ効果は薄い。これは持ち主の魔力を使うからです。私は確実に届けられる方に任せたいのですが、あなたは走れますか?』


 つまり大姉ちゃんには効果は薄い可能性が高い。私に魔物の中を走れ、と言うことだろうか? ぐっと手を握りしめた。


「……大姉ちゃん、私が行く」

「ダメよ危ない!」

「大姉ちゃんの方が危ないの! 私ならこのリボンが守ってくれる、コウさんからこのリボンを預かったのは私だから私に行かせて」


 まだ、何か言いたそうな大姉ちゃんに啖呵を切った。


「私だって草原の女! お腹は括る物である!!」


 これは怖くて馬に乗れなかった頃、母さんに言わされた言葉だ。代々怖がりにはコレを言わせてきたらしい。

 怖くて仕方がないけど、不思議とこれを言うと、馬へ乗れるようになる。


 これを言ったらきっと怖くても魔物を突っ切って進めると思うから。


 あきらめたように首を振ったあと、大姉ちゃんは泣き笑いみたいな顔をして私の手に、リボンに触れた。


「どうか、妹を御願いします、大事な家族なの。みんな、ここの人達、皆大切なのよ。私じゃ駄目みたいだから、どうか」


 リボンを額に付け、まるで祈るように呟いた。


『承りました、必ず守ります』

「ありがとう、よろしく御願いします」


 力強く言われた言葉はどうやらリボンに触れていた大姉ちゃんにも届いたらしい。


「マリカ気を付けて、無事で必ず帰ってきてね」



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