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 両手をおじさんへ向ける。コウさんから預かったリボンが微かに光っていた。そこから流れてくるものを私は知っている。


 幻聴が何かを呟いた。とたんにおじさんに向けていた手の平から抜けていく、この感覚は。


 魔法!


 おじさんの失くなっていた右側の手足は、光の粒が集まり形成され、瞬く間に元通りとなった。


「うそ」


 自分のしたことが信じられず、思わずへたり込む。


 皆がこちらを見ていた。奇跡でも見ている、そんな顔だった。おじさんは手を動かして呆気にとられているし、娘は泣きながら抱き付いている。


『本当ですのでガンガン行きますよ! 他に重傷者は居ませんか?』


 その問いにハッとなって辺りを見回す。この幻聴が悪魔の(ささや)きだとしても構うものか。まだまだ、命に関わるような人達が居る。


 重傷者はまだたくさん居ます、どうか力を貸してください、とリボンに向けて願った。


『はい、そのお願いを聞き受けました。私はどっちかと言うと天使扱いの方が嬉しいと思う人間ですよ! まあ細かいことは後回しにするとして、サクサク治しましょう! もちろん全員を!!』


 ありがとう、リボンにそう心でお礼を言って、息を吸い込む。


「皆さん、命に関わる重傷の方から治します、皆治せますから落ち着いてください!! 中姉ちゃん、順番を決めてほしい!」

「マリカちゃんこの人からお願い!」


 中姉ちゃんが頷いていたので順番決めをまかせ、呼ばれたほうへ先に行く。こちらも酷い有り様だった。腰が抜けてしまわないように踏ん張る。


『何回かで魔力の感覚を覚えてください、操作をあなたが出来たら燃費良いので』


(魔力の感覚は掴めて居るのですが、一人で魔法を使ったことはありません)


 両手を向け、リボンから送られてきた魔力を手のひらに集めてそう答える。


『なるほど、ではあなたがイメージしやすい現象は何でしょう?』

(現象、ですか?)

『こう、炎の様に燃やす! とか水の様に流れる! とか、現象を想像出来るほうが魔力動かしやすいです』


 言っていることはなんとなくしか分からないけど、最近知った祈り方を知っている。


(風は、どうでしょうか?)

『良いですね! では、あなたの魔力は風です、貴女の身体を出ると風のように対象へ向かい、癒しを運ぶ、そうイメージしながら魔力を動かしてみてください、行きますよ!』

(はい)


 再び呟きが聞こえてきた、それに合わせて魔力を動かす。両手から魔力が抜け、手から出した魔力が風のように傷口を撫で、癒やしてゆく。


 目に見える損傷が無くなった。


(成功です!)

『おお、凄いですね! 一度目で成功させる人はなかなかいませんよ』

「マリカ……ちゃん」

「大丈夫ですか? どこか違和感はありませんか?」


 意識が戻った近所のおばさんに声をかけると、おばさんは首を横にふった。


「大丈夫だよ、どこも違和感が無い、ちょっとだるい気はするけど元通りだ」

(だるさが残るなら失敗なんでしょうか?)

『失った血までは回復出来ませんので、ダルさは仕方がないです。いっぱい食べて血を増やしてもらうしかないですね』

(なるほど、分かりました)

「血を流しすぎたからダルいみたいです、これを乗り切ったらいっぱいご飯食べてください」

「ありがとう、マリカちゃん」

「マリカ次こっち!」

「今行く!」


 中姉ちゃんに呼ばれて順番に治す。その間リボンの人は色々教えてくれた。


『今、このリボンを通じてお話出来ています。多分赤いリボンを持っていると思いますが』

(はい、コウさんからお預かりしました)

『それの持ち主はコウと、名乗って居るのですね? ふーん、二つ目の彗星のごとく現れた新進気鋭のSランク冒険者がそんな名前だった気がしますねぇ……Sランク軽すぎない? 大丈夫? 冒険ギルド』

(えーっと?)

『申し訳ありません、独り言です。えーっとですね、そのリボン、対になる青いリボンが有りまして、そのリボンを使って今、あれこれ出来ています』

(それは、はい。なんとなく理解しています)


 リボンから流れてくる魔力と、自分だけに聞こえる声のおかげで魔法が使えていることは理解している。


『いやー、テンション上がってギミック満載させた結果、何を縫い付けたか今の今まで忘れていました。先ほど青いリボンの持ち主からクレームが来まして。何か光ってるんだけど? と』

(つまりこのリボンを作ったのはあなたですか?)

『はい、青いほうを頼まれたので、ついでに赤いほうも作りました。どうせ貰う物なら使える便利グッズが一番かなぁ、と思いましてこの様な仕上がりに』

(機能の説明しなきゃ便利に使えないんじゃ……?)

『うぐっ、的確な突っ込み』


 だってこれを知っていたらコウさんは楽に戦えたし、大姉ちゃん達は苦しんでいない。


『いや、殿……コウさん? が苦戦するとは思えないのですが、後お姉さんですか?』

(ここは魔力が薄いらしいです)


 思ったことが伝わるのは少々都合が悪いな、と思った。恩人に嫌みを言っている気分になる。


『なるほど理解しました。後こちらは気にしませんので大丈夫ですし、こちらの発言? も気にしないでくだされば幸いです。これは後で要改善ですね、とりあえず聞かれたくないときは魔力を止めてみてください』


 言われたとおりうっすら流れてくる魔力を少しの間止めてみる。……本当だ、聞こえない。


『え、ええ!? 早く言えよコイツ! とか思って止めちゃいましたか? おーい!!』

(すみません試しただけです)


 このやり取りをしている間に大体の怪我人は治していた。後は姉ちゃん達だけだ。


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