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「中、ねぇ、ちゃん、ぐるじぃ」
バシバシと中姉ちゃんの背中をタップしてギブアップを伝える。私は今、中姉ちゃんに抱き締められている。いや、〆られている?
中姉ちゃんは、表現が体当たり(物理)だ。
「これは伝わって無かった愛情の分、そしてこれは伝えられなかった私の愛!!」
グリグリと頬擦りをされたが、高速過ぎて摩擦で火が出ないか心配した。
「そろそろ止めなさい」
ぽす、と中姉ちゃんの肩に手を置いて大姉ちゃんが止めてくれた。
た、助か……
「じゃあ、私の番ね」
って無かった! 大姉ちゃんに勢い余って押し倒されてからぎゅうぎゅうと抱き締められる。
重いし、苦しい。
「次私な!」
じたばたもがいていたら小姉ちゃんまで予約を入れてきた。……内臓<中身>出ないといいな。
結局小姉ちゃんが抱き締め終わっても再び中姉ちゃんが、次は大姉ちゃん、エンドレスで代わる代わる私を抱き締める。
「分かった、姉ちゃん達が私を嫌うことなんか無いって分かったからぁ!」
何度目かの中姉ちゃんの包容の後、骨がそろそろ限界を向かえそうだったために、ギブアップした。
そもそも、事の発端は私が姉ちゃん達に謝ろうとしたことからだ。母さんは収穫した羊の毛の事で集落の重役会議だし、父さんはコウさんに話があると言って隣の家に行ってしまった。
それでも四姉妹揃ったところで全部ぶちまけて謝ろうとした。
勝手に僻んで妬んで落ち込んで、そんな私を励まして支え続けてくれたのは姉ちゃん達、いや、母さんと父さん含めた家族皆だ。
きっと嫌われるに違いない。でもケリを付けなければ、そう思って構えて私の事を嫌いになるかも知れない、と前置きしたら冒頭のやり取りで、今に至る。
「マリカ、大体聞いたから、あなたからは一言だけ聞いてあげる、言いたいことを一言でどうぞ」
大姉ちゃんにそう言われて、困った。言いたいことは沢山有るけど一言。
「……ごめんなさい」
「うん、許す。マリカは私達を許してくれる?」
ゆるゆると顔を上げると、不安そうな顔をした姉ちゃん達がいた。同じ、なんだなと、理解した。
「知らなくて、気が付かなくて、どうにも出来なくて、ごめんね。こんな姉ちゃん達だけど許してくれる?」
「当たり前だよ、許すに決まってる! むしろ私が……」
謝る方なのにと言おうとしたら中姉ちゃんにデコピンされた。ぽかんとしてると、中姉ちゃんは大姉ちゃんと小姉ちゃんにのおでこも弾く。
「マリカ、私にもやって。もちろん手加減無し」
腕を捕まれてそう言われたので中姉ちゃんのおでこをパチンと弾いた。
「はい、両成敗したし謝り合いは終了!」
「そうね、許してくれてありがと」
「大姉ちゃん、それこっちのセリフだもん」
ぎゅっと大姉ちゃんに抱き付いた、涙腺が崩壊して顔がヒドイ事になっているけど気にせず抱き返してくれた。
「うん役得役得。マリカを慰めるのなんて何年ぶりかしら?」
大姉ちゃんが私の頭を撫でながらそう言っている。泣きたくなったときにはいつも逃げていたから皆の前で泣くのいつぶりだろうか?
「意外に泣かないんだよね、プチ家出はするけど」
「だって、ただでさえお荷物なのにべそべそしていたら嫌われるかなって……思ってて」
指を折りながら計算している中姉ちゃんにそう答えたら姉ちゃん全員が固まった。
「あーいーつーだーなぁ!」
フリーズがいち早く溶けたのは小姉ちゃんだった。床を叩き付け悔しそうにしている。
「こうやってマリカをコンプレックスの塊になるように仕向けていたんだよ! だから何かあってもマリカは私達に相談すらしなかった!!」
「今、やっと片鱗を理解した。え、これ引き摺っても良くない?」
「先に的にしてくれる……」
「いや、生肉付けて走らせる方が先」
中姉ちゃんは馬で、大姉ちゃんは弓の、小姉ちゃんは鷹のエサの、が抜けている。
「私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、相手は精神的に攻めてきたのに、物理で応戦しても良いのかな?」
集落の掟で、仕返しは認められている。ただやられたことをやり返す以上の事はしてはいけない。
「それは、まあそうなんだけれど」
「それに、私に相談出来るような友達が居なかったのも原因かなって……」
家族か友人か、思いきって相談出来ていたら違っていたのではないかと思った。狭い視野でラハラの言葉だけを信じていたから、家族の言葉を信用出来なかった。
「マリカ、それ、ええっと友達いないの仕向けたのあいつだからな」
「え?」
「よーく、考えてみろ。私が女子の輪に入れようと奮闘してたとき何て言って断ってた」
「私みたいなのが一緒に遊んだら迷惑だから……あ」
迷惑だろうと決めつけてたのは私で、その決めつけは……
「やっぱり締める! 精神的に」
「捌く、精神的に」
「開く、精神的に」
姉ちゃん達よ、ありがたいけども精神的にって付ければいいって訳じゃ無いと思う。
「まあそれにはコウさん鍛えるのが一番ね」
これは弓を取りに行く大姉ちゃんのセリフである。
「そうだね、なんならコウさんには余裕で勝ってプライドズタズタにしてもらおう」
多分馬具を磨きに行った中姉ちゃんのセリフだ。
「あ、良いこと閃いた!」
そう言って小姉ちゃんはどこかに行った。
「……私は晩御飯の支度をしよう」
誰も居なくなった我が家でぽつんと呟いた。即断即決の姉ちゃん達はやはり強い。




