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自宅が超次元宇宙戦闘母艦の場合  作者: 下書き
2. 首都に大天狗が降臨した場合
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2.4. おじいさんのアッパーカット

 日本最大の島である本州、そしてそのおよそ真ん中辺りに位置する岐阜県の、更にその隅っこにある小さな町、そこが私の住む町だ。この町はこれと言って特徴のない、ごくありふれた田舎町だ。と、思う。

 この世に生を受けてこの方、個人的な感想は抜きにしてこの町が何か特別だった覚えはないし、実際にもそうだったはずだ。

 比較するなら、例えばこの町から県をまたいで南に位置する愛知県名古屋市などは、幼い頃連れて行って貰った時に「ここは特別な町だ」と感じたし、テレビ等で見る大阪や東京などの大都市は、実際に行ったことがないにも関わらず「特別な町だ」と知っている。

 ことさら東京に至っては大天狗が空を飛ぶ程なのだ。いくら特別だと言っても常軌を逸している。いや、あんなのと比較すれば大抵の町は平凡だという事になってしまうのか。

 ともかく、ここは平凡な町なのだ。それは間違いない。

 そして、私自身も取り立てて特別な存在ではない。外見は平凡を絵に描いたようなものであり、学力も大したものではない。身体能力は平均より少々劣るかもしれないが、目に余る程ではない。良くも悪くも、飛び抜けたところはないはずだ。

 家庭環境に限って言えば、多少平均的なところから外れているかもしれないが、それでも特別という程でもないだろう。過去に「自分は世界で最も不幸な身の上だ」と思っていた事も一時期あったが、今考えてみれば……。

 しかし、そんな特別でないこの町に、なにも特別でない私の身近に、特別な……いや、「特異な存在」が現れてしまった。

 高校に入学してからひと月あまりが経ち、早くも慣れてしまった通学路の、朝の穏やかな日差しを受けながら歩むその道中。横目でそっと伺うと、背筋をスッと伸ばし、すました表情で私の横を歩く「特異な存在」が目に入る。

 その「特異な存在」は私の視線を目ざとく察知して、こちらに微笑みを返してきた。そうすると、私はどうにも耐えられなくなって目を逸らしてしまう。

 何人(なんぴと)も、一見したところでそこに特異さを見付ける事はできないだろう。私から見ても、最初に会った時と同じ単なる「スタイリッシュお菊人形」にしか見えない。しかし、今となってはその正体が見た目通りのものでない事を知っている。知ってしまったからには意識してしまう。

 ちなみに、こうして一緒に登校している状況には望んでなった訳ではなく、ごく自然にこうなっただけだ。同じ時間に同じ家から同じ学校に向かって出発すれば当然こうなるだろう。

 ではなぜこうなったのかと言えば、……昨夜私が気を失って目を覚ました後に一悶着あったのだが、その結果、しばらくの間この「特異な存在」と一緒に住む事になったからだ。

 昨日、突然現れたその「特異な存在」は、その正体は、私の曾祖伯父(そうそはくふ)、つまり「曾祖母(ひいばあちゃん)の兄」なのだという。

『信じられんと思うが、キミの先祖だ』

 昨夜耳にした言葉が今も心の中で反響している。先祖と呼ぶにはまだ世代が浅い気もするが、それでも縁遠い存在なのは確かだった。本当に血縁があるのか甚だ疑問ではあるのだが、ひとまず許容した。あの後聞かされた「宇宙人に拉致されてサイボーグに改造され、それで色々あって七十数年ぶりに帰って来た」などというヨタ話も信じはしないが許容した。何しろ世界は広くて、変な人など掃いて捨てる程居るのだから。

 ただ、許容はしたが、信用はしていない。普通に信用などできるはずがない。当然だろう。本来ならばそもそも許容するはずが無かった。あの仏間に飾ってある古ぼけた写真さえ無ければ。

 決め手になったのは、この「特異な存在」が持ってきた祖父(おじい)からの手紙だった。手紙の内容は『この「特異な存在」の事はワシが保証するから安心しろ、そして家に住まわせてやれ』というものだったが、その「保証する」根拠については微塵も書かれていないのが不満でしかない。

 正直なところ、平凡な日常に突然割り込んできた「特異な存在」(非日常)に気持ちも理解も追いついていない。事態を半ばも消化し切れずにフワフワした感覚の中で、なし崩し的に物事が進んでいる。これは良くない状況だと思う。かと言ってどう対処すれば良いのかもわからない。

 ぼんやりと先行きに思いを馳せていると頭の中がゴチャゴチャしてくる。

 それが表情に出たのかもしれない。


「どうした? 難しい顔して。昨夜よく寝れんかったか?」


 口調が明らかに女性のものではない。恐らく、あれが素なのだろうが違和感が凄い。しかし悔しい事に、その声を耳にするたびにハッとさせられる。私はモゴモゴと口ごもって、返答にならない声を返してしまう。

 あの声は、姿は、曾祖母(ひいばあちゃん)の若い頃を模したものらしい。曾祖母(ひいばあちゃん)の記憶は私の中にある大切なもののひとつだ。歳の割にしっかりとした人で、確か私が幼稚園の頃まで一緒に暮らしていた。西日の射しこむ部屋の中で、よく編み物をしていたのを覚えている。

 その記憶の中の姿と今隣を歩く姿を頭の中で重ねてみるが、上手に重ねる事はできなかった。というのも、そもそも年齢が違い過ぎるというのもあるが、それよりも昨夜目にした大柄な男の姿が目に焼き付いてしまった事が原因のように思う。あの姿が、この「特異な存在」の本来の姿なのだという。あの姿は、今目にしている「スタイリッシュお菊人形」とは似ても似つかなかった。言葉は悪いが、あのダース単位で人を殺めていそうな目付きを思い出すたびに、背筋に冷たいものを感じるのだ。

 あれは、一体どういう仕組みで今の姿に変化しているのだろう。一皮つるりと剥けば、あの巨体が中に納まっているとでも言うのだろうか。単純に物体として考えても体積が違い過ぎる。もしかするとあの中身はがらんどうで、風船のように空気でも入っているのだろうか。


「しかし、こうして我が子孫と共に学び舎に通う日が来るとは、何とも感慨深い。長生きとはしてみるものだな」


 ぼんやり考えていると、どうにも返答に困る事を言ってきた。確かに、私としてもある意味で感慨深いのだが、その内訳は大幅に異なるはずだ。

 それにしても「我が子孫」と呼ばれて少し引っかかるのは、聞いた続柄が正しいのであれば私はこの「特異な存在」の直系ではない。しかし、この「特異な存在」の胸の内では、そんな事は些細な問題なのだろう。恐らくは親しみを込め、物腰柔らかに接してくる。

 しかし私は、どう接すれば良いのかわからない。

 今も連れ添って登校しているが、合っているのは歩くペースだけだった。でも、それさえも恐らく、合わせられているだけだ。

 結局、色々考えたところでどうにもならず、頭の中のゴチャゴチャしたものを溜息に混ぜて吐き出してみる。

 取りあえず、近いうちに祖父(おじい)に文句を言いに行くのは決定事項だった。



-/-



 この日、私の心の平穏は失われてしまったが、それに反して校内は清々しいほどの平穏に溢れていた。

 行き交う生徒や教員は一様に朗らかで、心なしか皆いつもより和やかに見える。下駄箱の辺りで錐蘭に出くわしたのだが、目が合ったにもかかわらず嫌味を言われなかった。そういえば、昨日あの時に何があったのか「特異な存在」から聞いていたのだが、錐蘭の姿を実際目にして何事も無さそうなので安心した。

 そう、昨日あの時に何があったのか。錐蘭と「特異な存在」が揃って姿を消した件についてだが、「特異な存在」から聞いたところでは「あの(むすめ)か? 日が暮れるまで山奥で絶景を堪能してもらったわ」とのことので、一体それは何の嫌がらせなのだろう。わからないが、深く考えないでおいた。

 そして教室に入るとナツは宿題をしっかりやってきており、シロが新作を渡してくる事も無かった。昨日教室内を大賑わいさせた「特異な存在」の人気ぶりもやや落ち着いて、今日は(ちゅう)賑わい程度に収まっていた。まぁまぁこの程度ならば平常運転と言えなくもないだろう。

 それでも、何かやらかしはしないかと「特異な存在」を注意して見ていたが、立ち居振る舞いも口調も特に問題なく「見た目通りの年頃の女の子」で貫き通していた。正体を知っている私としては、そのナチュラルさ加減がむしろ不気味に感じてしまう程だった。


 私の気苦労は空回りしつつも学校生活は淀みなく進んで、昼休みには「特異な存在」に校内を案内し、それを終えて五限目の体育を迎えた。

 この日の女子の体育は、三チームに分かれてのバレーボールだった。チーム分けでは、私とシロが同じチームで、ナツと「特異な存在」は別の二チームに分かれた。個人的には、バレーボール部であるナツも同じチームが良かったのだが、分かれてしまったものは仕方がない。

 それで最初に私のチームとナツのチームが試合をして、順調に黒星をいただいた後はコート脇で見学する事になった。じっとしていると五月の体育館はまだ少し肌寒い。


「どうしました? 今日は朝から落ち着かないようですが」


 ぼんやりしながら飛び交う白球を目で追っていたところ、思いがけずシロから指摘が入った。努めて平静を装っていたが、隠しきれていなかったようだ。


「え? いや、ええと、何でもないよ?」


 一応ヘラヘラ笑って誤魔化してみるが、やはり無駄な抵抗だったようでシロは微笑を浮かべたまま言葉を重ねてくる。


「誤魔化さなくても構いませんよ、立花さんの事でしょう?」


 シロは妙に察しが良いところがあるので、こういう場合に誤魔化せた試しがない。過去にも秘密にしていたアレやコレやをほじくり返された事が何度もある。ほじくり返されると言っても執拗に聞き取りをしてくる訳ではなく、さり気ない会話の中で相手の言葉の端々や態度から色んなことを推察してしまうのだ。シロにはそういう方面の才能があるのだろう。

 そういえば、隠していた私の両親の事も、シロにはいつの間にか見抜かれていた。しかも、その事を見抜いた上で、私を傷つけないように立ち回ってくれていた。だから、隠し事をズバズバ見抜いてくるところはちょっと恐ろしいが、基本的にはシロは「良い人」だと思う。他人の不利益になるような事はしないし、他人の隠し事を吹聴して廻るようなことも無い。

 欲を言えば、その裏にある悪癖さえなければ最高なのだが。


「私が力になれる事があったら言ってくださいね。それと、小説を書く参考になりそうな事があったら、そちらも聞かせてくださいね」

「ア……アハハハ! うん、何かあったらお願いします」


 シロのこの「何かあると小説の元ネタとして吸収してしまう」という悪癖はちょっと気になる。まぁ、実際に小説でネタにされる時もネタ元がわからないように配慮してくれる……と言うかあの文体なので、多くの人にはそもそも解読不可能なのか。

 そんなやり取りをしていると、コートの方から「おおー!」という歓声があがった。

 見ると、誇らしげな笑みを浮かべた「特異な存在」が全員の注目を集めていた。


「要領はわかったわ。ここから勝ちに行くわよ」


 点数表を見ると十三対二でナツのチームが優勢だが「特異な存在」はここから巻き返すつもりのようだ。

 サーブ件が「特異な存在」のチームに移り、ラリーが始まる。


「押し切るよ!」


 サーブは難なくレシーブされ、トスが上げられてそこにナツが駆け込んでくる。そして全身を低く沈みこませて一気に踏み切ると、ネットの上を漂うボールに鋭く食らいついた。その跳躍が高い。そして、その跳躍がもたらす頂点から一拍タイミングをずらした後、渾身のスパイクが放たれる。

 流石ナツだ、と思う。伊達にバレーボール部に所属していない。

 ナツは小学生の頃からバレーボール一筋だったそうで、そうなったきっかけは母親にママさんバレーに連れて行かれた事だという。そこでバレーボールを知ったナツは一気にその世界にのめり込んでいったのだそうだ。

 それから今に至るまで、プロを目指して頑張っているそうだが、残念な事にナツは体格に恵まれなかった。本人は「まだ伸びる」と言って牛乳を飲んだりしているのだが、その結果はどう見ても(かんば)しくない。成長しているのは身長よりもむしろ胸部ばかりなのは明らかなのだが、それについては本人としても壮絶な思いがあるようで、体格・体形については触れてはいけない地雷と化している。

 しかし、長年の鍛錬から来る身体能力は正しく修められているのだろう。今見た鋭い跳躍も、そこから繰り出すスパイクも見事なものだと思う。


「シッ!」


 目を疑った。

 その時見たものは、バレーボールのコートにあって異質なものだった。

 端的に表現するなら「アッパーカット」だ。

 足を肩幅よりもやや広く構え、踵を外側に開き膝をやや曲げてゆったりと立つ。そこから右腕を肩ごと後ろに、左腕を肩ごと前にねじ込むように体を捻り、捻り切った力を右腕に込めて一気に頭上に振り上げる。多分そんな動作だったと思う。「特異な存在」が繰り出したアッパーカットは、ナツの放ったスパイクを正面から捉えて弾き返した。……本当は速過ぎて見えなかったのだが、多分綺麗に真ん中を捕らえていたんだと思う。

 そして、弾き返されたそのボールは異常な軌道を描いた。

 鋭く弾き返されたボールは、まだ地に足のつかないナツの方に飛んでいく。そしてそのままナツの脇を抜け、そのままコート外まで飛んでいくかと思われた。しかしボールは突然進行方向を真下に変えて、ナツの後方数センチの所に急角度で突き刺さった。当然コート内だ。


「……トップスピン?」


 思考停止した私の耳に、いぶかし気なシロの声が入ってきた。


お読みいただきありがとうございました。


ブックマーク、感想および評価などいただけると慶びますが、投稿頻度には影響しない可能性が中です。

生来の筆の遅さに加え、生活上の都合により、今後も細々と続けていく事になると思われます。

拙作は総合的に見て需要が極度に少ない気がしておりますが、投稿は極々細々と続けていくつもりです。

お読みいただいている皆様におかれましては「たまに見て更新されていたらラッキー」程度に考えていただけますと幸いです。


また、どうでも良いですがタイトルを変更する予定があります。

「自宅が超次元宇宙戦闘母艦の場合」は一章のタイトルになりましたので、妥当なものを思いつき次第変更します。思いつかなければ永遠にこのままです。


なお、ほったらかしているもう一作の事は忘れてください(いつか再開させたいですね)。

2021/12/24(金曜日)

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