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自宅が超次元宇宙戦闘母艦の場合  作者: 下書き
1. 自宅が超次元宇宙戦闘母艦の場合
23/28

1.23. 死の牽引車

 思い返せば恐ろしく濃い一日だった。

 寝起き早々の船場山(せんばやま)来襲(襲来)に始まり、続いて店長さん一味の襲来(来襲)……と、よくよく考えれば両方ともこちらが主導して連れて来ているのか。

 まぁ、その後のクラミン先輩一行による強襲がトドメ・ファイナルになったのは明白だが、そもそも厄介事(人)を家に招いてしまったのが大いなる過ちだった。

 今後は、厄介事(人)を家に招くのは控える事にしよう。妙な事はするもんじゃあない。


 さて、あの時ウォルアーグをパクリとやった入道相国は、そのまま空の彼方に飛び去っていった。

 当然だが、それによりウォルアーグが原因で巻き起こっていた暴風がピタリとやんだ。すると、砂交じりの暴風に巻かれて亀になっていたサーファー達が復活し、飛び去っていく入道相国を見て一斉に腰を抜かしていた。ひとえにご愁傷さまとしか言いようがない。

 本山とボーイさんも随分狼狽(うろた)えていたが、流石と言うべきか、すぐに落ち着きを取り戻していた。少なくとも見た目の上では、だけれども。

 そして僕とボーイさんは、本山と取引する事になった。

 取引と表現すると大げさだが、実際には僕とボーイさん達の処遇について話し合っただけだ。

 その取引は本山が持ちかけて来たのだが、恐らくは僕達に構うよりも食べられたウォルアーグの奪還を優先したのだろう。僕が本山の立場でもそうする。と言うか多分誰でもそうすると思う。

 ウォルアーグはまり子が無傷で捕獲しているはずだ。多分。恐らく。きっと。しかし、あんなものを捕獲したままなのは気が引けるので、なる早……、ほとぼりが冷めた頃に返還しようと思う。

 で、取引については問題なく完了した。

 本山はレムペーゼンで焼け焦げていたところに追加された精神ダメージで目も当てられないほど憔悴していたが、それでも滞りなく取引を進めてくれた。

 再三口にしていたが、「パトロール隊の誇りにかけて」しっかりと勤めを果たしたかったのだろう。まぁ、たまに声が裏返っていたのは敢えてスルーしておいた。


 そして、取引の結果として僕とボーイさん達は放免される事になった。

 僕については、そもそもパトロール隊に追われていた訳ではないので何を以て放免される謂れがあるのかわからないが、兎も角そういう事になった。

 と言っても、ボーイさんを捕まえようとしている所に散々横槍を入れたので、公務執行妨害的なものに抵触していたのかもしれない。が、そもそも地球人類はパトロール隊の管轄なのだろうか? (はなは)だ疑問だが、あえて詮索はしたくない。

 防壁・松などの装備類の素性についても追及されたが、そこは何とか誤魔化した。「新宿で商売している異星人から買った」など、でまかせも良いところなのだが、ひとまず何でも言ってみるものだ。

 ボーイさん達については、多少グレーな部分があった様だが、それでも放免となったのはやはり本山の精神が消耗していたせいだろうか。ウォルアーグが失われているので、単純に「それどころじゃない」のかもしれないが。

 ちなみに、多少グレーな部分というのはボーイさん達の職業に関するものだ。彼らの本業はいわゆる「トレジャーハンター」なのだという。

 「トレジャーハンター」というのは、読んで字の如くそのままの職業だ。滅亡した文明の遺産発掘を宇宙規模でやっているらしい。

 ひとまずは、危惧していた「非合法のプラネット・ハンター」ではないという事で若干安心したものだが、ボーイさんによる自己申告なので怪しくもある。

 それでも、本山が「放免」と判断したのだから、最低でも凶悪犯ではないと信じたい。


 その後、取引を終えた本山は早々に去って行った。

 流石に本山も僕と入道相国との関係については推測できなかったようで、核心に触れる事を聞かれなかったのは幸いだった。

 ここでふと「周りに大勢のサーファー達が居る中で、こんな怪しげな話をして問題なかったのか」という疑問を覚えたのだが、どうも本山とボーイさんは星間国家共同体(ユニオン)の標準語で会話していたらしく、地球人に聞かれても理解不能とのことだった。 僕が会話の内容を理解できたのは、策馬式(さくましき)の自動通訳機能によるものだろう。

 そして、残された僕とボーイさんは、ひとまず連れ立って僕の家に帰る事になった。

 帰宅する手段は徒歩だ。

 全身ずぶ濡れなのに加えて砂まみれという不快指数マックスな状態な事もあり、まり子に言って転送して貰おうかとも考えたのだが、いろいろ考えた結果そうなった。

 次点でライトニングブレットを使う手も考えたが、あんな目立つクルマで街中を走るのは流石に(はばか)られた。先程のように切羽詰まった事態であれば、なりふり構わず使う事もあるかもしれないが、必要が無ければ使わないに越したことは無い。そもそもアレは一人乗りのうえ車検も無いのだ。

 また、通常なら電車を使うところだが、幸いな事に停電で運休の真っ最中だった。


 フラフラと町中を歩いていると風体(ふうてい)不審により怪しまれるかと思ったが、案外平気なのは意外だった。警官に職務質問されるような事もなく、非常に快適なお散歩が堪能できた。

 道中、しばしば道行く人とすれ違う事もあったが一様に暗い表情でチラチラ空を見上げていたのが印象深く、また、入道相国が世の中に与えた衝撃を改めて思い知らされた。

 入道相国が世の中に与えた影響はどれ程なのだろうか。

 入道相国は、ほんの少しの間姿を見せたに過ぎず、人類に対して何かした訳でもない。それでも、「得体のしれない圧倒的な存在が現れた」という事実が人の心に深く、強く刻まれたに違いない。

 世の中にどんな影響があるのだろう。その影響によって世の中は何か変わってしまうだろうか。

 わからない。

 入道相国が原因で世の中に悪い影響が出たらどうすれば良いだろうか。

 それもわからない。

 仮に、何か悪い影響があったとしても責任は取れそうにない。

 僕にできるのは、せいぜい何も知らないフリをして生きていく事だけだろう。

 というか、そうする事に決めた。

 あまり真面目に考えると知恵熱が出てしまう。


 そうしたネガティブな考えを振り切る意味もあり、帰宅の途上ではボーイさんといろいろな話をした。

 町中ではどこに人の耳があるかわからないので不用意な発言は出来ず、若干不自然に当たり障りの無い話をする事になったが、それでもお互いの素性について多少の情報共有ができた。

 いざ話してみれば、彼は案外気さくで話しやすい人物だった。

 聞いたところによると、普段彼はキャバクラのボーイに加えて裏方業務を一手に引き受けているそうだ。当然ながら仕事は相当な激務のようで、愚痴を大いに垂れ流してくれた。

 その愚痴の大半は店長さんとパーシャルさんに対するものだったが、要約すると「ヤツら人使いが荒すぎる」の一点に集約される。少々闇深げに思う。

 で、そもそも何故キャバクラを運営しているのか聞いたところ、理由が「里帰りするのに金が必要」とのことだった。

 どうやら不可抗力で地球に滞在しているらしく、ボーイさん的には早いところ地球からオサラバしたいようだ。

 その理由の大半はキャバクラでの仕事内容にある様な気もするが。

 そして、そんな取り留めのない会話の中で、ようやくボーイさんの名前を知ることになった。

 ボーイさんの本名は「クロウ」だそうで普段は「松本九郎」と名乗っているそうだ。本名に苗字は無いとのこと。

 後で聞いたことだが、ボーイさんと店長さんは外見が日本人に近い事から日本人名を名乗っており、パーシャルさんは外見が紫色のアレなのでテキトーな偽名を名乗っているらしい。ちなみに、店長さんが「上田まもり」で、パーシャルさんは「パーシャルチェンバレン」だという。チェンバレンとかどこの国の苗字だろうか? よくわからないがまぁそんな事はどうでもいい。


 そこそこの距離の行軍を終え、家に帰着する頃には既に夕暮れ時だった。東西に延びる幹線道路を目で追ったその果てに、真っ赤な夕日が沈んでいく。それを見て入道相国を思い出してしまうのは仕方がない事だろう。

 灯の消えた信号を横目に道路を渡って更に数分歩く。車はほとんど走っていないので、交通事故は案外少ないかもしれない。

 この頃には服もだいぶ乾いてきて、警戒していた夜の冷え込みにも耐えられそうな塩梅になっていた。まぁ、乾いていなくとも、もうすぐ家に着くから問題ないのだが。


 と、家が見えた所で大変な事を思いだした。

 すっかり忘れていたのだが、笹原さんとクラミン先輩を放置していたのだ。

 思い出した瞬間に、スッと血が下がるのがわかった。

 慌てて家に駆け込み、リビングに直行した。しかし、そこには既に誰もおらず、ただテーブルの上に「急に押しかけてすみませんでした。帰ります」という笹原さんの字らしきメモが残されているだけだった。

 これは、結果として良かったのか? それとも悪かったのか? 判断に困るがどうしようもない。

 後から来たボーイさんにどうしたのか問われたが、説明するのもナニなのでお茶を濁しておいた。

 笹原さんと親睦を深めるチャンスをふいにして残念だったが、今はもっと優先すべきことがある。



-/-



「じゃあ、店長さん達を取り出しますね」


 そう告げると、ボーイさんは不審げな表情で「取り出し? どういう事だ?」と問うてきた。これはそのまま「店長さんとパーシャルさんを救命領域から取り出す」という意味なのだが、なんとも説明し辛い。

 あまり詳細に説明するのも憚られたので、そのまま実行に移すことにする。


「救命領域より取り出し」


 命令を発行すると、何の前触れもなく店長さんとリトルパーシャルさんが現れた。床の上に二人折り重なった状態だ。

 両名ともすやすやと眠っているようで、特にリトルパーシャルさんは店長さんの豊かな胸に顔を埋めて安らかな寝息をたてている。

 眼福……と言うか、少々うらやましくもある。


「おい、起きろっ。まもり、パーシャル」


 そんなすやすやタイムにボーイさんは容赦なく斬り込んでいった。

 店長さんの頬をバシバシ引っ叩き、リトルパーシャルさんの首根っこを持ち上げて激しく揺さぶっている。

 程なく、店長さんが薄っすらと目を開いて体を起こした。

 同時にリトルパーシャルさんも目を覚ましたが、その口から「ふげ」と間の抜けた音を出すと共に、二度寝に落ちていった。だらけ切った寝顔が何とも締まらない。


「すまんな、こいつはいつも目覚めが悪くてな。いっそこのまま寝かせておいても構わんか?」

「え? ええ、構いませんが」


 未だボーイさんの手によってぷらぷら揺さぶられているパーシャルさんは、それでもなお目を覚ます気配は無かった。


「えっ? あの、ごめんなさい。状況がわからないのですが」


 はたかれて赤くなった頬をさすりながら、寝ぼけ眼の店長さんが聞いてくる。

 それを見たボーイさんは深いため息をついて口を開いた。


「そうだな。丁度煩いヤツが寝てるからいい機会だ。腹を割ってじっくり話をするか?」


 それで、そういう事になった。


 正直なところ、僕の事についてどこまで話すべきか悩んでいた。

 当初は、少なくとも入道相国については存在を隠しておくべきと考えたのだが、結論としては、ほとんど全て話してしまう事にした。

 そもそも、今回の騒動の発端が僕に在るので、多少の誠意を見せておきたかったというのがある。僕がボーイさん達の家を入道相国に引っ張り込まなければこんな騒動は起きなかったのだ。多分。

 それに、あの時には既に彼らを入道相国内部に連れ込んでいたのだから、下手に事実を隠しても怪しまれるだけだろう。

 ボーイさん達とは、ある程度信頼関係を築いていた方が良いと直感様が告げている。もっとも、くじ引きではハズレばかり引き当てる直感様ではあるのだが。


 結論を出したところで、さっそく全員を入道相国に招待する事にした。

 まり子に勝手口と七十二番格納庫を繋げてもらい移動する。

 そこには今朝がた見た「つくね」がそのまま鎮座していた。それを見た店長さん達は、困ったような喜んでいるような複雑な表情をしている。

 それで僕も「つくねを早急に元の場所・状態に戻した方が良い」と理解したので、まり子に言ってそうして貰った。

 店長さんに達に「元に戻しました」と告げると、より一層複雑な表情をされたが、どうしたものだろうか。

 まぁ、どうにもできないので、ひとまず僕とボーイさんはシャワーを浴び、着替えを済ませてから話し合いを始める事になった。

 話し合いの場所は、例によって乗組員室三〇一号、つまり僕の部屋だ。

 一人こたつに入って待つ。

 もう四月なので、こたつなどはいい加減片付けるべきなのだが、中々踏ん切りがつかずに出しっぱなしにしている。冬の間に「自分の居場所」として定着してしまうのだから仕方がない。それになにより快適なのだ。

 そうしてダラダラしていると、すぐに店長さん達がやってきた。リトルパーシャルさんの姿は無かったが、聞くと隣の部屋に寝かせているらしい。


 異星人とこたつに入って話し合う。考えてみれば、中々アナーキーな空間が構築されている。

 改めて店長さん達の内部事情を聴いたが、直近の地球上での活動については帰宅途中にボーイさんから大部分を聞いていたこともあり、特に目新しい情報は無かった。

 だが、地球に来る以前の話については随分と興味深いものがあった。

 彼らは、元々は店長さんとボーイさんの二人で活動するトレジャーハンターだそうで「そこそこ名の知れたコンビ」なのだそうだ。トレジャーハンターとしての活動は、店長さんが情報収集および後方支援全般、ボーイさんが現場作業一般を担い、これまでに百を超える惑星で遺跡を発見してきたらしい。

 パーシャルさんは、炊事など生活一般の雑務を分担する為、後になって雇った補助要員とのことだ。

 地球に至ってキャバクラを運営している理由についてだが、そもそもの原因は、金星の探索中に事故で大部分の装備や資金を失った事にあるという。

 そして、残った装備をかき集めて地球までやって来たのは良いものの、母星に帰る為の足もなく、宇宙船を修理する資金もない彼らは、一念発起して宇宙船の修理代金を稼ぐための商売をする事にした。それがキャバクラの運営だった、との事だ。


「もう最っ低な状況だったのよ! 宇宙船は火ダルマだし、大切な物を入れたコンテナはほとんどぜーんぶ落としちゃうし!」


 店長さんが目を三角にして愚痴を吐き出している。

 改めて思うが、店長さんに初見の時の様な凄味がない。今現在は、そこはかとない残念感すら漂う有様で、よもや別人かと思う程度には印象が違う。一体なんなんだろう。

 もしかすると、あのキャバクラには店長さんの凄味を増やす仕掛けがあったのかもしれない。客の記憶を曖昧にする事ができたのだから、それ位は出来そうな気がする。


「で、ホウ酸団子の件については?」


 イイ感じに緊張がほぐれてきたようなので一番聞きたかった事を聞いてみた。濃硫酸、青酸カリそしてホウ酸団子の三段攻撃についてだ。

 すると、途端に店長さんの動きが止まり、顔面が蒼白に変化した。


「ああああ、アレは……」


 もごもご言うだけで話が進まなくなったので、ボーイさんが説明を引き継いでくれた。

 聞いた内容を簡単にまとめると「僕の事を商売敵が送り込んだ刺客だと思って嫌がらせをした」との事だった。

 星間国家共同体(ユニオン)には、民俗学者や考古学者などの連合のような組織が存在しており、それが店長さん達の商売敵なのだそうだ。

 どうも店長さん達は、遺跡調査の過程で色々なものを破壊してしまう事が多いそうで、それが原因で彼らから目の敵にされているらしい。

 それにしても濃硫酸を飲ませるなど、嫌がらせにしてはやり過ぎな気もするが、星間国家共同体(ユニオン)所属の人類は大部分が細胞強化を済ませているため、濃硫酸を飲んだところで「クソ痛え! 何飲ませやがったコノヤロウ! 一週間入院するわ!」程度のケガで済むらしい。なんとも、科学が進歩すると人間はとても強くなれるようだ。恐ろしい話だと思う。

 しかし、僕は濃硫酸や青酸カリを飲んでも一切痛がる事無く平然としていた。それを見て「なにかヤバい人が来た!」と脅威を感じた店長さんは思い詰めて暴走し、結果として半空間への幽閉を画策したとの事だ。

 大筋で見れば、およそ予想通りだった。


「ところで、あんたの事についても教えてくれないか?」


 そうしたところで頃合いと判断したのか、ボーイさんに促された。

 さて、僕の事情についてどう話せばいいものだろう。


「そうですね。まぁ、実は僕自身も良くわかっていない事が多いのですが……」


 結局、入道相国を手に入れた経緯(いきさつ)から今に至るまで、ほとんど全てを話す羽目になった。

 入道相国に対する店長さん達の食いつきは凄まじかった。何しろ超文明の遺産なので、トレジャーハンターの血が騒いだのだろう。

 その後、話し合いにまり子を参加させたり、船内を彼方此方(あちらこちら)案内したのだが彼らは満足せず、この後しばらくの間入道相国への滞在を求められた。

 まり子に聞くと「問題ありません」との事なので許可したのだが、キャバクラの運営はどうするのだろうか。あ、停電の影響で休業か。

 途中、目を覚ましたリトルパーシャルさんが何やらギャンギャン騒いでいたが、店長さんとボーイさんに何事か言い聞かされて大人しくなっていた。

 僕は僕で、自分の生活の事や会社の事を気にかけるべきだったのかもしれないが、店長さん達の相手をするので精一杯になってしまい、他の事はすべて後回しになった。世間では停電の影響で色々スゴい事になっていたようなのだが、まさに対岸の火事状態でしかなく、その後数日は会社も休みな事もあり、店長さん達の相手で平穏に過ぎていった。



-/-



 電力会社による渾身の突貫工事により、一週間もすると関東の各地で電気が復旧し始めた。

 しかしそれは限定的で、復旧したのは電車や病院などの重要な施設に限られており、一般家庭への送電が再開するのはもう少し先になるらしい。

 そんな中、比較的駅近のオカムラテクノロジー株式会社は早々に復旧し、通常業務へ移行した。とは言うものの、顧客の多くが休業中のため「平常通り」にはほど遠いのだが、企業としての体裁上はもう「平常通り」とされていた。

 同時期に店長さんの店も電気が復旧したようで、入道相国から引き揚げていった。ボーイさんは名残惜しそうだったが、キャバクラの運営に色々しがらみがあるそうで仕方がないとの事だ。

 僕の家も来週には復旧する見込みなので、これでやっと自分の家で生活を始める事が出来るだろう。

 しかし、入道相国での生活に慣れてしまったので、自分の家での生活は不便に感じてしまうかもしれない。

 例によってこたつに入ったままの僕は、乗組員室三〇一号をぐるりと見回した。もうすっかり馴染んでしまった風景だ。


「英治さん、相談があるのですが」


 突然まり子から呼びかけられた。

 珍しい。僕から相談する事は多いが、まり子から相談されることはほとんど無いのだ。


「この間接収した外世界の天体を整備しようと思いまして、そのために現地に行きたいのです。なので、しばらくの間お休みを貰えませんか?」


 外世界の天体、と言えば船場山(せんばやま)が居たあの星の事だろうが、いつの間に接収を済ませていたのだろうか。聞いてみると、どうやら星間国家共同体(ユニオン)は外世界に到達していなかった様で、勝手に実効支配すれば済むとの事だった。その為に現地に行って色々整備したいらしい。

 ただし、整備に要する期間については不確定との事で、しかもその間は地球に戻ってこれなくなるそうだ。

 どうしてあの星が必要なのか疑問だったが「入道相国自体を整備する拠点としてあった方が良い」そうで、それはまぁ、壊れた時に直せないのは困るだろう。

 だから「行って良いよ」と答えておいた。

 僕は地球での生活があるので同行できないが、丁度家を再建して住む所に困らくなったから特に問題ないだろう。

 しかも、


「私が不在にする間の英治さんの補佐ですが、代理で内藤千里(ないとうせんり)を置いていきますので安心してください」


 との事で、何やら安心して良いらしい。


 こうして、超次元宇宙戦闘母艦「入道相国」での生活がひとまず終わりを告げた。

 何か重要な事を忘れている気もするが、思い出すと厄介そうなので忘れておく事にしたい。


あけましておめでとうございます。

とうとう2020年も終わり、2021年がやってまいりました。

謹んで新春のお慶びを猿し上げます。


2021年6月凶日

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― 新着の感想 ―
[一言] てっきり入道相国の目撃者たちの記憶を超技術で消すのかなと思ってたんですがまさかのそのままとは SNSやTVが盛り上がりそうですね
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