第8話 妖刀は熱望を受ける
門の先には、荒れた街並みが広がっていた。
各所が激しく破損している。
黒煙は火事になった家から昇っているようだった。
消火活動は済んだようだが、まだ燻っている。
都市内で戦闘が起きたのだろう。
しかし、敵兵が見られない。
兵士達も幾分か落ち着いた雰囲気だった。
この感じからして、敵軍は追い払えたらしい。
都市内まで入られながらも撃退するとは、なかなかの奮闘ぶりである。
しかし、侵入されたのは確かだ。
戦力的にかなり追い詰められている。
次回、同様の状況になった場合、撃退は困難と思われる。
そのまま蹂躙される未来が見えていた。
俺は、長年に渡って殺し合いを経験してきた。
戦争だって数え切れないほど参加している。
一目見ただけで、おおよその戦況くらいは察することができるのだ。
この都市が窮地に立つのも肌で感じた。
馬車はそのまま通りを進んでいく。
外壁の上では、兵士達が大慌てだった。
右往左往しているが、気にしないでいいだろう。
聖女の登場に驚いているだけだ。
一方、地上で働く兵士達は瓦礫を運んだり、各所にて寄り添う人々に食べ物の配給を行っていた。
士気はさすがに低下しているが、細かな動きや体格はなかなかのものだ。
よく訓練しているのが分かった。
王都の兵士と比べると、平均的な質は良さそうである。
鍛え上げれば、さらに優秀になるだろう。
兵士達は、通りを進む俺達の馬車を不審げに一瞥する。
開門して通された以上、敵ではないと理解しているのか、こちらを気にしながらも各々の仕事に従事していた。
(馬車から聖女の顔が見えたら、どんな反応をするかね)
俺はふと興味を抱く。
今は馬車の隙間から覗いている状態だ。
彼らの前に顔を出した瞬間、大騒ぎになるのではないだろうか。
『やめてください。迷惑です。私の帰還については、すぐに周知されるでしょう』
すかさずネアが苦情を述べてくる。
本気で嫌がっている様子だった。
あまり怒らせても後が怖い。
悪戯のために、担い手との関係を壊すのは利口ではないだろう。
過去、そういった部分で失敗した経験もある。
大抵は碌な結末にならない。
ネアは真面目な性格だ。
そこに合わせるつもりはないが、時にはこちらが譲歩する姿勢を見せた方がよさそうである。
方針を定めた俺は、馬車内で座り直す。
都市は中央部へ進むほどに損傷が微小になっていく。
さらに進むと、戦闘の痕跡が消失した。
一定の防衛線を張って、そこから先を守り切ったのだ。
侵入されながらも、戦術を駆使していた証拠である。
そうしてさらに進むこと暫し。
進行方向に、整列した兵士達が展開されているのを認める。
明らかに俺達を待ち構えていた。
彼らはただの一つの声も発さず、まるで石像のように静止している。
ただし、圧倒的な熱望が膨れ上がっていた。
張り切れんばかりに馬車へと向けられている。
伝令がネアの帰還をいち早く報告したのだろう。
その異様な光景に俺は苦笑する。
「大した出迎えだな。連中はあんたを歓迎しているらしい」
『……そのよう、ですね』
ネアが歯切れの悪い返答をした。
何か詰まったような言い方だった。
その時、ふと目が熱くなる。
片目に指先を添えると濡れている。
聖女の身体は、溢れんばかりに涙を流していた。