第67話 妖刀はさらに獲物を求める
聖騎士の首が、空中を回転しながら舞う。
放物線を描いた末、少し離れたところに落下した。
胴体は断面から血を噴出し、遅れて倒れる。
痙攣しているが、動き出す気配はない。
間を置かず、ネアは聖騎士の胴体に結晶の刀を刺し込む。
ちょうど心臓を抉る位置だった。
彼女は掻き混ぜるようにして刀を動かす。
傷口から結晶が溢れてきた。
それを確かめた彼女、今度は転がる頭部のもとへと赴く。
同じように刀を刺して破壊した。
一連の行動を見た俺は感心する。
ネアは別に聖騎士への恨みでこのような真似をしたわけではない。
彼の復活を警戒したのだ。
禁術で不死者になった聖騎士は、優れた再生能力を保有している。
たとえ首を刎ねたとしても、そこから蘇る恐れがあった。
だからネアは止めを刺したのだった。
不死者にも急所があり、だいたいが心臓と頭である。
それに従ってネアは二箇所を破壊したのだ。
実に的確な判断であった。
その証拠に聖騎士はぴくりとも動かない。
完全に死んだようだ。
こちらへ戻ってきたネアは、じっと俺を見る。
視線は固定されていた。
ほとんど無表情で、何を考えているか分からない。
「どうした?」
俺は彼女に歩み寄り、頬に付いた血を拭ってやる。
その途端、ネアの纏う結晶の鎧が端から剥がれ落ちて消滅した。
呆けていた彼女は、不自然に目を逸らす。
「何も、ありません」
「そうかい」
俺は軽く流した。
明らかに何かある反応だが、言及するほど野暮ではない。
どうせ人間になった俺に違和感を覚えているのだろう。
それも当然だ。
ずっと妖刀の姿だったのだから、いきなり人間になったら驚く。
もっとも、この状態も長続きしない。
夜明けには解除されて、魂で構築した肉体は霧散する。
そうすれば妖刀に逆戻りだ。
また途方もない量の魂を集めなければならない。
非常に残念だが、悲しんでいる暇はなかった。
それまでにやることは決まっている。
俺は前方を望む。
視線の先には王都があった。
新王派の本拠地であるあそこを陥落させる。
逃げた兵士達も追わなければならない。
しかし、後方ではまだ戦闘が展開されていた。
強化兵を相手に、味方が激闘を繰り広げている。
先に向こうを片付けるべきだろう。
どうせなら味方を引き連れて突撃する方が愉快だ。
そちらへ歩き出した俺はネアに手を差し出す。
「鞘だ。貸してくれ」
「……どうぞ」
投げ渡された鞘を掴み取って腰に差す。
やはりしっくりと来る。
悪くない感覚だった。
血染めの妖刀を携える俺は、聖女と共にアンデッドの兵へと赴く。




