第66話 妖刀は聖女と共闘する
「ようやく、捉えました……」
息も絶え絶えにネアは呟く。
彼女は後ろから聖騎士を刺している。
武器は結晶の刀だ。
鎧と同じ要領で生み出したのだろう。
その形状は、まさしく妖刀と同じであった。
担い手となってから、彼女は刀を肌身離さず持ち歩いてきた。
咄嗟に思い浮かぶほどに印象深くなったらしい。
「はは、引っかかったな」
聖騎士を嘲りながら微笑む。
攻防の最中、俺はネアの動きに気付いていた。
彼女は息を殺して行動し、不意打ちを狙っていたのだ。
目論見を察した俺は、聖騎士の注意を引くことにした。
それとなく立ち回りを調整し、彼がネアの存在に気付かないように工夫したのである。
さらにはわざと防御に失敗することで、聖騎士の油断を誘った。
結果、ネアの攻撃が決まったのであった。
「ガ、ハ……ッァ!」
硬直する聖騎士が吐血した。
彼は咳き込みながら歯を食い縛り、刺突を打つ腕を伸ばそうとする。
剣の切っ先は、俺の胸に触れたところで停止していた。
あと少し進めば、皮膚を破って心臓に達する。
無論、そのようなことはさせない。
俺は見せつけるように一歩だけ後ろに下がった。
舌打ちした聖騎士は、さらに血を吐いて剣と盾を取り落とす。
「終わりだよ。諦めな」
俺は聖騎士にそう告げて、ネアに目配せする。
頷いた彼女は、結晶の刀を捻りながら下ろしていった。
刀は肉と臓腑と骨を断ちながら、聖騎士の脇腹から抜け出ていく。
「……ッ」
聖騎士は膝をつく。
傷口から多量の血がこぼれていた。
再生が上手く働いていないようだが、魔力不足などが原因ではない。
張り付いた結晶が常に形を変えて、傷口を抉り続けているのだ。
そのせいで再生が阻害されて、絶えず出血する羽目に陥っていた。
もちろんネアの仕業である。
刀で刺した際、聖騎士の体内に結晶を残したのだろう。
それを操作することで攻撃している。
彼女は、新たに習得した結晶の能力を見事に使いこなしていた。
「――くそォッ!」
聖騎士は震える手で剣を取ると、振り向きざまにネアに襲いかかった。
しかし、攻撃を予期していたネアは素早く反応する。
振り上げられた剣を防ぐと、体内の魔力を活性化させた。
その瞬間、聖騎士の脇腹が爆発する。
正確には傷口の結晶が破裂したのだった。
聖騎士の魔力を吸うことで膨張したらしい。
「ぐ、あ……っ」
決死の攻撃に失敗した聖騎士は再び崩れ落ちた。
今の破裂で、脇腹に大きな穴が開いている。
力の大部分を治癒に注いでも、そう簡単には治らないだろう。
おまけに俺との戦いで消耗しているせいで、彼にはもう打つ手が無くなった。
「さて……」
俺は聖騎士を見下ろす。
彼の顔に怯えが走った――走ってしまった。
死に物狂いで人斬りに挑んできた者は、もういない。
跪いて恐怖するのは、ただの獲物に過ぎなかった。
興味を失った俺は、静かに妖刀を掲げる。
聖騎士は慌てて盾で庇おうとした。
俺は構わず妖刀を振り下ろす。
渾身の斬撃は盾を真っ二つに切断し、その勢いで聖騎士の首を刎ねた。




