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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第64話 妖刀は力の片鱗を披露する

 俺は刀を傾けて、剣の上を滑らせるように刃を進めた。

 聖騎士は慌てて飛び退いた。

 それに合わせて俺は踏み込み、軽く前蹴りを放つ。


「ぎ、いっ……!?」


 盾で受けた聖騎士は、呻きながら後ずさった。

 踏ん張って受け止めるかと思ったが、意外と軟弱だ。


 俺はため息を吐いた。

 刀を弄びながら愚痴を洩らす。


「おいおい、もっと本気出せよ。せっかく受肉したんだ。あっさり死なれちゃ困るぜ」


「…………」


 聖騎士は憎々しげに俺を睨む。

 挑発には乗らず、こちらの出方を窺っていた。


 彼はなかなかの傑物だ。

 直前の攻防で、互いの力量を把握している。

 迂闊に突っ込めば死に直結すると理解したのだろう。


 一方、ネアは唖然として俺を見ていた。

 彼女らしくないほど驚きを露わにしている。


「あ、貴方は……」


「どうした。幽霊でも見たような顔をしているじゃないか」


 俺は冗談めかして返すも、反応は薄い。

 ネは眼前の好景に混乱していた。

 何か言い返す余裕もないらしい。

 俺は彼女に微笑んで告げる。


「まあ、後は任せときな。俺が全部喰らってやる」


 そう付け加えて前に向き直る。

 聖騎士はまだ動いていなかった。

 わざと隙を見せていたのだが、さすがに釣られなかったようだ。

 さすがにそこまで馬鹿じゃないらしい。


「ウォルド・キーン! 貴様、その肉体は何だッ!?」


「妖刀に蓄えた魂で作ったんだ。長持ちするものじゃないがね」


 この受肉こそ、俺の奥の手である。

 一時的に全盛期の肉体を再現するのだ。


 ただし、所詮は見せかけに過ぎない。

 本当に全盛期の力を発揮できるわけではなく、維持するのにも莫大な魂を消費する。

 どれだけ継続できても一晩が限度だろう。

 夜明けと同時に刀に戻ってしまい、再使用するには魂を集めねばならない。


 今の時点でも、せっかく溜めてきた魂の大半を使っていた。

 完全復活は間違いなく遠のいている。

 ただ、久々の肉体は心地がいい。

 担い手のものを借りるよりも、しっくりと来ていた。


 機嫌よく刀を振っていると、聖騎士が痺れを切らして叫ぶ。


「なぜそのようなことをした? まさか、ネアを救うつもりなのか!」


「ああ、聖女様の成長をもう少し見ていたくなった」


 俺はあっさりと肯定する。

 ほんの気まぐれだが、救おうと考えたのは事実だ。

 別に見殺しにだってできた。

 それをしなかったのは、俺の中で心境の変化があったからだ。


 あまり認めたくないが、数十年の退屈が俺の人間らしさを誘ったらしい。

 人斬りとしては望ましくないものの、己の変化から目を逸らすほど未熟でもなかった。

 俺は刀を持ち上げて、切っ先を聖騎士に向ける。


「あんたを殺したのは俺だぜ。復讐したかったのだから、ちょうどいいだろう?」


「ぐっ……」


 聖騎士は歯軋りする。

 彼は何か葛藤していた。

 やがて決心がついたのか、凶悪な笑みを見せる。


「――いいだろう。ここで、貴様を殺す。その次にネアだ」


「やってみろよ。三枚おろしにしてやるぜ」


 俺は軽快に応じる。

 せっかく受肉したのだ。

 思う存分に楽しまなければ。

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