第63話 妖刀は決意する
(やってくれたな)
俺は素直に感心する。
聖騎士は徹底的に対策を打っていた。
俺に負けたのがよほど悔しかったのだろう。
その上で冷静さを失わず、狡猾さを発揮してきた。
不死者になっても俺に敵わない可能性を考慮して、結界を張ってきたのだ。
ネアが相手なら勝利は確実だと踏み、俺を封じてきたのである。
「諦めろッ! 僕の勝ちだ!」
聖騎士の一撃がネアの手元を狙う。
ネアはなんとか防御するも、受ける角度が悪かった。
甲高い衝突音と共に、妖刀が回転しながら吹っ飛ぶ。
そして、二人から離れたところに突き刺さった。
聖騎士はネアに剣を突き付ける。
ネアは呆然としたまま動けない。
不審な真似をすれば、すぐさま首が飛ぶだろう。
勝敗は決した。
ネアはどう足掻いても逆転できない。
聖騎士の方が何枚も上手だったのだ。
彼は国の行方など眼中にない。
俺達への復讐心だけで行動していた。
頭の回る復讐者ほど厄介な存在はない。
手段を選ばず、執念でどこまでも強くなるからだ。
それはある種の呪いである。
守るべきものが多いネアからすれば天敵だろう。
「…………」
ネアは地面に膝をつくと、両腕を垂らして脱力する。
彼女は諦めた顔をしていた。
結晶の鎧が、ぽろぽろと崩れていく。
勝ち誇る聖騎士は剣を掲げた。
ネアの首を断つつもりなのだろう。
妖刀に宿る俺は、それを遠くから眺める。
(思ったよりあっけなかったな)
ネアは面白い担い手だった。
意外性の高い人物で、この短期間で妖刀の力を引き出してみせた。
この調子ならさらなる成長が期待できたのだが、どうやらその未来は閉ざされるようだ。
やはり担い手は短命である。
残念だが仕方ない。
俺はこういった展開を何度となく目撃してきた。
別にネアだけが特別に不運なのではない。
(これからどうするかね)
まず新たな担い手を見つけなければならない。
手頃な所なら聖騎士などが最適だが、奴は俺に私怨を抱いている。
この妖刀が破壊できないと分かれば、どこかに封印するかもしれない。
それは面倒だ。
あまり嬉しいことではない。
また数十年――もしくは数百年は退屈になるかもしれなかった。
『ふむ……』
俺はふと考え込む。
前方では、聖騎士が剣を振り下ろそうとしていた。
欠伸の出るような速度だ。
高速で思考している分、周りが遅く見えているのであった。
ネアは無防備だ。
大人しく剣を受けるつもりなのだろう。
完全に諦め切っている。
その様子は、闘技場で初対面した時を彷彿とさせた。
死を受け入れた者の目だ。
俺はその姿に妙な苛立ちを覚える。
次に、自分が何をしたいのかを気付いた。
認識した事実に思わず悪態を吐く。
『……ったく、我ながら情けねぇな』
数百年前なら脳裏を過ぎりもしなかった選択だった。
いつの間にか人間臭くなってしまった。
人斬りとして、そういった類は捨て去ったつもりだったのだが、これはもう認めるしかあるまい。
俺は決心すると、秘めた能力を解放した。
妖刀に蓄えられた膨大な魂が活性化し、外界へと放出される。
魂同士が練り合わされて一つの形に変貌していった。
その際、僅かな抵抗感を覚える。
聖騎士の張る結界だ。
こちらの動きを妨害しようとしているが、そんなものは関係ない。
誤差の範囲であり、この程度の効力で阻止されるほど俺は柔じゃなかった。
妖刀に重なる俺の意識は、完成されたそこへ移る。
刹那、五感が冴え渡った。
手を伸ばして地面に刺さった刀を引き抜くと、俺は両脚を使って疾走する。
ネアと聖騎士の間に割り込み、振り下ろされる剣を妖刀で食い止めた。
「なァ……ッ!?」
予想外の光景に聖騎士は驚愕する。
つられてネアが顔を上げた。
気力を失ったその顔は、徐々に輝きを取り戻す。
彼女の瞳は、俺を見つめていた。
対する俺は吐き捨てるように叱責する。
「すぐに諦めんな。悪い癖だから直せ」
続けて聖騎士に視線を送る。
彼は肩を跳ねさせて身構えた。
怒りや恐怖によるものか、剣が小刻みに震えている。
「き、貴様……っ」
「――待たせたな。大将同士の殺し合いといこうか」
もはや我慢ならない。
受肉した俺は、舌なめずりをして笑いかけた。




