第61話 妖刀は思わぬ人物と再会する
ネアは呆然と佇む。
それなりの間を経て、彼女は我に返って刀を構えた。
目を凝らすネアは聖騎士に話しかける。
「その魔力……不死者になったのですか」
「ああ、君の中に隠れる男にやられてね。本当に痛かったよ」
聖騎士は苦笑しながら応じた。
親しげな雰囲気とは裏腹に、その目は一切笑っていない。
じっとりとした視線は俺を捉えていた。
「色々と調べさせてもらったよ。世界最悪の人斬りウォルド・キーン。妖刀は長らく行方知らずだったそうだが、まさか闘技場の武器庫にあったとは予想外だ」
俺は感心する。
向こうもそれなりに調査しているらしい。
ネアが処刑されそうになったあの時、何が起こったのかを解析したのだろう。
努力を語る聖騎士は冷静だった。
彼は落ち着いた様子でネアに要求する。
「ネア、妖刀を手放してくれ。それは危険な物だ。君の手に負えるものではない」
「……っ」
そう告げられたネアに緊張が走る。
彼女は鋭い眼差しを返した。
「私を、殺すつもりですね」
「違う。今すぐにでも助けたいさ。そのために王国を乗っ取り、こうして会いに来たのだから」
俺は彼の言葉から察する。
この男が、現在の黒幕なのだ。
幼い王を傀儡にして、実権を握っているのだろう。
後継者争いにおいても活躍したに違いない。
聖騎士の実力は国内でも最強に等しかった。
並大抵の相手ではまず敵わない。
暗殺合戦となれば、不死者である彼の独壇場であった。
「王国の貴族達は、僕を蘇らせて手駒にするつもりだったようだが、その目論見は邪魔させてもらった。自我を保つ不死者になれたのは幸運だった。君との運命がそうさせたのだろう」
聖騎士は息を吐いて外套を脱ぎ捨てる。
白銀の鎧が露わになった。
生前に着ていたものと同じだ。
聖騎士はネアに向けて重ねて懇願する。
「さあ、手荒な真似はしたくない。妖刀を放して投降してくれ」
「断ります。殺気が漏れ出ていますよ」
ネアは冷徹に指摘する。
それを受けた聖騎士は、途端に無表情になった。
彼は脱力すると、喉を鳴らすように笑う。
「……ククッ」
聖騎士は剣を鞘に収めると、おもむろに顔を掻き毟る。
力の入り過ぎで、血塗れになっていた。
ところが白煙が上がって顔が再生していく。
どうやら不死者として高度な治癒力を有しているらしい。
無傷の顔になった聖騎士は、くだけた調子で笑う。
「はぁ、仕方ない。下らない演技はやめよう。面倒だ」
冷めた口調の聖騎士は、再びため息を洩らす。
彼は剣を抜きながらネアを睨み付ける。
「――僕は、君達を殺したくて堪らない。これから成功するはずだった人生をぶち壊した元凶だ。ここで復讐させてもらう」
聖騎士は盾を前に突き出して剣を構える。
これといった特徴がない構えだが、故に洗練されているのが分かった。
不死者として蘇ってからも、復讐心に任せて鍛練を積んだのだろう。
「随分と実力を付けたようだが、それは僕も同じだ。禁術で不死者に変貌したことで、人間を超越した存在となっている」
「…………」
ネアは無言で殺気を纏う。
首筋に張り付いた結晶が音を立てて成長した。
ネアの顔の半ばほどを仮面のように覆っていく。
もはや聖女の面影はない。
そこに立つのは、妖刀を携えた結晶の異形だった。
対する聖騎士も、にんまりと笑う。
彼は半身になって戦闘態勢に移った。
「生憎と加減が難しくてね。あっけなく死なないように頑張ってくれ」
何気なく言い終えた聖騎士は、地を蹴って突進してきた。




