第58話 妖刀は逆転の瞬間を悟る
ビルの背後から、彼の率いる盗賊団がやってくる。
馬車を操るラモンと奴隷も一緒だった。
彼らは強化兵を打ち払いながら場所を確保する。
実に鮮やかな手際だった。
素晴らしい連携である。
(間一髪だったな)
ビル達は孤立したネアを危惧し、後続から援護に来たのだろう。
思ったよりも早い到着だった。
強引に突破してきたに違いない。
ネアは支えられながら立ち上がる。
その姿を見たビルは嘆息する。
「まったく、こっちは子守りに来たんじゃないんだぞ」
「申し訳ありません……」
「ほらよ、受け取りな」
ラモンが回復薬を浴びせてきた。
すぐにネアの傷が癒えて、魔力も回復した。
ネアは髪を掻き上げながら頭を下げる。
「ありがとう、ございます」
「在庫処分ってやつさ。代金は後で請求させてもらうぜ」
そう言ってラモンは、追加でもう一本を投げ渡してきた。
ネアは片手で掴んで飲み干す。
それが終わったところで、ビルはネアの背中を叩いた。
「さあ、まだまだ戦いはこれからだ。張り切っていこうじゃないか」
「……そうですね」
頷いたネアは盗賊達と協力して進もうとする。
しかし、寸前で足を止めた。
不審に思ったビルが彼女に尋ねる。
「どうした。まだ傷が痛むのか?」
「いえ、違います。少し考えがあるので、協力してもらえませんか」
そう言ってネアはビルに要望を伝える。
内容を聞いたビルは顰め面で唸った。
「そいつはまた……ぶっ飛んでやがるなぁ。本気か?」
「無論です。冗談を言えない性質なので」
ネアが真面目な表情で言うと、ビルは肩をすくめた。
彼はため息を吐いて承諾する。
「そうかい。分かったよ、手伝ってやる」
「感謝します」
ネアの礼を受けて、ビルは戦鎚を構えるた。
後ろに引いて先端を地面につけた状態だ。
ネアはその先端に載り、風魔術を発動する。
全身を強化し、姿勢を維持できるように調整した。
彼女の目論見を知る俺は、念のために確認する。
『本当に大丈夫なのかい? また孤立することになるが』
「大丈夫です。同じ失敗は繰り返しません」
ネアは即座に答える。
何か考えがあるらしい。
俺にはそれが分からないが、ただの蛮勇ではなさそうだった。
「しっかり大将の首を取ってこい、よッ!」
間もなくビルが叫び、全力で戦鎚を振り回した。
当然、そこに載っていたネアは遠心力で吹き飛ばされる。
そこに風魔術の加速も加えて、超人的な跳躍を行ってみせた。
ネアは砲弾のように宙を突き抜ける。
軽々と強化兵の頭上を越えると、控えの本隊へと向かっていった。
これこそがネアの閃いた策だった。
強化兵の相手をしていては埒が明かないと考えた彼女は、連中を飛び越えることにしたのである。
新王派の兵士達が、こちらを指差して騒いでいた。
すぐに号令と共に魔術と矢が飛んでくる。
ネアは風の魔術で防御した。
貫通してきた分は刀で逸らす。
たまに攻撃が掠めるも、ネアは眉一つ動かさない。
細かい傷は気にしないと決めたようだ。
徐々に落下する中、俺はネアに尋ねる。
『それで、さっきの自信の根拠を教えてくれよ』
「貴方の常套手段です」
『……何だって?』
予期せぬ答えに俺は訊き返す。
その途端、落下速度が速まった。
ネアが下向きの加速を行ったらしい。
眼下の兵士達が慌てて退避しているが、おそらく間に合わないだろう。
ネアは妖刀を振り上げる。
地面に衝突する間際、彼女は呟く。
「――恐怖で場を支配します」
着地と同時に斬撃が繰り出される。
落下の衝撃を乗せたそれは、魔術に還元されて破壊現象と化した。
ネアを中心に力の波が波及する。
付近の敵兵は、まるで木の葉のように舞い上がった。




