第55話 妖刀は聖女の判断に託す
ネアとアンデッド達は突撃を敢行する。
その直後、新王派の軍の後方から幾本もの光が放たれた。
山なりの軌道を描いて降り注ぐのは、様々な属性の魔術である。
ちょうど俺達の進路を妨げる位置に炸裂しようとしていた。
(ほう、先に仕掛けてくるか)
向こうの兵士はアンデッドの強化兵である。
禁術で製造された外道の存在だが、理性があるとは思えない。
ましてや魔術など使えないだろう。
新王派の軍の後方には、生きている魔術師がいるらしい。
連中の魂胆は分かっている。
使い捨ての強化兵は肉の盾にして、危険な前線を避けたいのだろう。
そいつらで独立派の行く手を阻みつつ、遠距離攻撃を繰り返してこちらの消耗を強いるつもりなのだ。
十分に損害を与えたところで、本命である生者の軍が突撃すればいい。
強化兵を相手に数を減らした独立派を、圧倒的な力で殲滅できる。
合理的で妥当な作戦だった。
持ち得る手札を有効活用している。
堅実に勝つための策だ。
肉弾戦を毛嫌いして遠距離攻撃を徹底しているのは、俺を警戒しているからに違いない。
こちらの戦力や情報を上手く作戦に組み込んでいる。
敵の本拠地とだけあって、戦力的な部分でも大差があった。
それだけ用意周到な敵に突撃をかますのは、完全なる愚者だ。
死に急ぐ蛮勇に等しい行為である。
しかし、独立派にはその道しか残されていない。
もはや撤退などできない段階だった。
屍の道を築き上げて、ひたすらに踏み越えるのみだ。
『大丈夫かい?』
「無論です――ッ!」
魔術が飛来する中、ネアは一気に加速した。
風魔術で自身を押し出したのだ。
彼女は紙一重で魔術の下を滑り抜けると、そのまま先へと突き進む。
背後では魔術が炸裂し、一部のアンデッドが粉砕されていた。
後続の被害もネアは気にせず、ただ前だけを見つめて疾走を続ける。
彼女はだんだんと速度を上げていた。
最終的には、ほとんど飛行しているような勢いで強化兵と衝突する。
ネアは妖刀の柄に手をかけた。
そこから流れるように居合いを打ち放つ。
風の魔術が付与された刃が、地鳴りのような振動音を発する。
横一線の斬撃は、不可視の攻撃となって放射された。
刹那、前方に立つ数十の強化兵は上下に引き裂かれる。
腐臭の漂う血飛沫が舞う中、妖刀を構える聖女は唇を舐めた。




