第53話 妖刀は王都に至る
数の減った独立派の軍は引き続き進む。
消耗した兵士達は既にいない。
これ以上の激戦だと足手まといになるため、彼らには陽動に回ってもらうことにした。
もちろん彼らの動きも決して無駄ではない。
各地に散って暴れてもらうことで、結果的に俺達のもとへ来る敵軍の数が減る。
王都に到着するまでの時間稼ぎが狙いなので、それだけ遂行してもらえれば十分だった。
陽動に回らなかったのは、ビルの率いる盗賊と、一部の気合の入った兵士や捕虜達だ。
そこに死霊術師達と、彼らの使役するアンデッドが加わる。
数としては五千前後だろう。
そのほとんどがアンデッドで構成されており、生きている人間は一割程度しかいない。
俺達はこの戦力で王都に攻め込むつもりだった。
無謀を通り越して、ただの自殺行為に等しい。
しかし、俺は今までも不可能なことをやり通してきた。
この状況を少しも悲観していない。
むしろ戦意を漲らせている。
歴史を変える殺し合いを最前線で楽しめるのだ。
これほど幸せなことはあるまい。
その後、陽動が効いたのか敵軍に襲われることもなく、やがて夜明けが訪れた。
遠くに王都が見えてくる。
ついに戻ってきたのだ。
ネアと契約を交わした当初は消耗しており、存分に暴れることができなかった。
なんとも消化不良な印象が残っている。
しかし、今回は味方も引き連れていた。
ネアもしっかり鍛え上げている。
ここで鍛練の成果を披露しようと思う。
「おっ」
不審な予感を覚えた俺は、目を凝らす。
朝日に照らされる中、正門から軍隊が現れるところだった。
その数はどんどん増えていく。
こちらの数倍は下らないだろう。
それだけならまだいいのだが、兵士達の様子がおかしい。
遠目にも分かるほどみすぼらしい衣服で、とても正規の兵士とは思えなかった。
首を傾げていると、ネアが冷静に指摘する。
『……あの軍の大半が不死者です。魔物の因子も感じますね。痛ましいことです』
「なるほど。そう来たか」
ネアの言葉から俺は察する。
あれは禁術で合成した強化兵の軍隊だ。
人間や魔物を素体にアンデッド化して仕立て上げたのだろう。
典型的な人体実験の賜物である。
おそらくスラム街の浮浪者や犯罪者、安価な奴隷を利用している。
内戦勝利を掲げて強行したに違いない。
(やってくれるじゃないか)
連中も本気ということだ。
このままでは破滅すると理解し、ついに最後の手段に手を出した。
実に面白い。
まさかここまで粘るとは予想外である。
俺の知る限り、往生際の悪さなら一番ではないだろうか。
そう思ってしまうほどに非道の限りを尽くしている。
向こうの軍部を握る人物は、相当な策士らしい。
小物臭がするも、狡猾な頭脳の持ち主だ。
取るべき手段を弁えている。
おそらくは王位後継者の側近だろう。
上手く権力を掌握し、新王派の頂点に君臨するつもりのようだ。
独立派の進撃は、そいつにとって最初の難関というわけである。
出世欲は否定しないが、今回は相手が悪かった。
人斬りと戦争をやるなど百年早い。
それを教えてやらねば。
刀を引っ掴んだ俺は、馬車から降りようとした。
その時、静かだったネアが主張する。
『――ここから先は、私に戦わせてくれませんか?』




