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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第46話 妖刀は要求を拒む

 食後、俺は屋敷の外へと出た。

 そこから街の郊外の薄暗い裏路地に入る。

 目的はもちろんエドガーと話すためだ。


 別に待ち合わせの場所を決めたわけではないが、彼なら俺のことを監視しているだろう。

 あの雰囲気から察するに、人通りの乏しい場所の方が好都合に違いない。

 移動していれば、向こうから接触があるはずだ。


 肝心の内容については予想が付かない。

 一体、用件は何なのだろうか。

 あまり穏やかではないのは確かだが、無視するわけにもいかない。


 これからさらに楽しい戦争が待っているのだ。

 面倒事は今のうちに解決しておきたかった。


 適当に路地裏を進むうちに、やがて前方に人影が現れた。

 ひっそりと佇むのはエドガーだ。

 気を付けなければ見逃してしまうほどに存在感が薄い。

 やはりこちらの現在地を把握して先回りしていたようだ。

 彼ならば容易いことだろう。


 俺は少し離れた場所で足を止めると、気楽な調子で声をかけた。


「やあ、来たぜ」


「貴重なお時間をありがとうございます」


「構わないさ。それで何の用だい」


 俺が尋ねると、エドガーは沈黙する。

 表情は影が差してよく分からない。

 ただし鋭い眼光は、しっかりと俺を捉えていた。

 ほんの少しの動きも見逃さないように注視している。

 警戒されているらしい。


 その様子を観察していると、エドガーは口を開く。


「本題に入る前に、今からの会話は二人きりでしたいのですが可能でしょうか」


「ふむ……」


 奇妙な要求だったが、初めての経験ではない。

 歴代の担い手と行動する中で、同じようなことがあった。


 この時点で俺は、エドガーの用件を理解した。

 それを表情に出さないようにしつつ、ネアに声をかける。


「というわけだ。悪いが少し退席してもらう」


『私が見聞きしないようにすればいいのですね』


「ああ、頼むよ」


『分かりました』


 承諾したネアを、意識の奥底に沈ませる。

 これで彼女は眠っているような状態となり、この間に起きた出来事を認識できない。

 俺はエドガーに視線を送る。


「準備できたぜ。これでネアからこっちの様子は見えない」


「お気遣い感謝いたします」


 エドガーは慇懃に礼を言う。

 次の瞬間、彼の姿が霞んだ。

 壁を疾走するエドガーは、刹那の間に距離を詰めてきた。

 彼の手の内で刃が光る。


 勢いよく突き込まれたそれを、俺は刀で弾く。

 存外に重たい感触だった。

 エドガーが本気で攻撃してきたのがよく分かる。

 俺は後ろに飛び退きながら笑う。


「おいおい、何の真似だ?」


「数々の蛮行……今まで堪えてきましたが、さすがに限界です」


 短剣を携えるエドガーが俺を睨み付ける。

 そこには冷たい怒りが窺えた。


「独立派の勢力は急増し、新王派との戦力差は覆りました。向こう五年は、彼らも攻め込んでは来ないでしょう」


「つまり何が言いたいんだ」


「これ以上の戦争は必要ありません。王都への侵攻を中断してください」


 エドガーの要求は、至極真っ当なものだった。

 彼の読みは、概ね間違っていない。


 新王派は破綻しつつある。

 こちらに攻撃を仕掛けるどころではなかった。

 離反を目論む者達を引き止めるだけで精一杯だった。


 加えてまだ後継者争いも続いていると聞く。

 実際問題、独立派から攻め込む必要性はあまりなかった。


 しかし、俺は首を横に振る。

 そしてエドガーに向けて回答を投げた。


「嫌だね。俺はやりたいようにやるんだ」


「――左様ですか」


 エドガーは再び突進してきた。

 彼は目にも留まらぬ速さで短剣を振るってくる。

 俺はその連撃を刀でいなしながら文句を言った。


「危ねぇな。この身体は聖女様のものだって忘れたのか?」


「心配は無用です。この短剣は、魂だけを切り裂く代物でございます。すなわちネア様のお身体を傷付けず、厄介な人斬りだけを殺すことができる」


 エドガーは攻撃の手を止めずに言う。


 俺は短剣に注目する。

 刃には、奇妙な光沢が浮かんでいた。

 どうやら短剣は、高度な魔術武器らしい。

 この妖刀でなければ、防御できなかったろう。


 エドガーの観察眼は、俺だけを的確に狙うことができる。

 霊的な存在である俺を殺すために、特殊な短剣を調達したのだ。


 事実を把握した俺は笑みを深める。

 速度を上げる攻撃を弾きながら、エドガーに話しかけた。


「ハハ、強硬手段と来たか。悪くないな。嫌いじゃないぜ」


「…………」


 エドガーは無言だが、苛立ちが感じられた。

 攻撃はより過激な動きへと変化する。

 路地裏を占領する俺達は、静かに殺し合いを繰り広げるのであった。

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