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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第43話 妖刀は説得を丸投げする

 ネアは兵士の死体を跨いで越える。

 前方には鉄扉があった。

 魔術で厳重に守られている。


 あの中に領主がいる。

 移動した気配もないため、本当に閉じこもるための場所だったらしい。

 抜け道の類はなさそうだ。

 逃亡されると手間が増えていたところだった。


 ネアは真っ直ぐ進んでいく。

 俺はそんな彼女に声をかけた。


『領主との会話は任せた。適当に脅してくれればいい』


「簡単に言いますね。貴方の方が適任ではないのですか」


『そりゃそうだが、俺がやると領主の指が減ることになるぜ』


 我ながら短気な性格をしている。

 悠長に交渉できるほど穏やかな人柄ではない。

 相手から望む言葉を吐き出させるためには、多少の暴力も行使してしまう。

 正直、得意分野ではなかった。


 それを聞いたネアは、ばつの悪い表情になる。


「……やはり私が担当すべきですね」


『そういうことだ。頼んだよ』


 ネアは歴代の担い手の中でもかなりの常識人だ。

 聖女と呼ばれるだけの人格者だ。

 交渉術にも優れているはずであった。

 少なくとも俺より上手く事を運べるだろう。


 ネアは鉄扉を切断すると、室内へ踏み込んだ。

 初老の領主は、妻と幼い子を庇うように立っていた。

 怒りに燃える眼差しがネアを射抜く。


「く、狂った聖女め! 我らを殺すつもりか……ッ!」


「それは貴女達の判断次第です。独立派に下れば、穏便に済ませましょう」


 ネアは淡々と告げる。

 感情を乗せないように意識しているようだった。


 対する領主は、視線をさらに鋭くする。


「……寝返れと申すか」


「ここで命を落とすより賢明だと思いませんか?」


 ネアは平然と問い返した。

 刀を濡らす鮮血が、ぽたぽたと床に滴る。

 領主の妻と子は、青い顔で怯えていた。


「言っておきますが、私は本気です。必要とあれば、誰であろうと斬ります」


「聖女は平和を愛すると聞いていたが、とんだ嘘だったな」


「正義を振りかざすには、非情な心が必要です。理想のためには躊躇はできない。貴女達から学んだことです」


 ネアの言葉は、闘技場での処刑を指している。

 新王派は娯楽ついでに彼女を始末しようとした。

 あの時、ネアは生まれ変わった。

 寝ぼけた甘さを捨てて、終焉に向かっていた内戦を再開させたのだ。


 ネアは刀の切っ先を領主達に向けた。

 彼女は冷え切った双眸で彼らに命じる。


「これが最終警告です。妻子を目の前で殺されたくなければ、独立派につきなさい」


「く……っ」


 領主は歯噛みする。

 抵抗の術は存在しない。

 彼にできるのは、答えを返すことのみだった。


 場に静寂が訪れた。

 それなりの沈黙の末、俯いた領主は口を開く。


「……我々の領は、降伏して独立派に下る」


「懸命な判断です。後日、使者を送ります」


 ネアは即座に踵を返すと、そのまま部屋を出た。

 彼女は一階へと戻り、兵士を斬り殺しながら洋館の外に向かう。

 路地裏に飛び込んだ彼女は、追っ手を振り切るようにして疾走し始めた。


『聖女様は交渉も得意だったか。さすがだな』


「……あのような言動は極力したくありません」


『今のうちに良心は捨てた方がいい。辛くなるのは自分自身だぜ?』


「…………」


 ネアは黙り込む。

 一体、彼女は何を考えているのか。

 今回の出来事は、少なからず心境に変化を及ぼしたようだった。


 それは決して悪い傾向ではない。

 引き続き見守っていこうと思う。

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