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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第41話 妖刀は聖女の力を評する

 廊下を駆けるネアの背後から、複数の火球が飛んできた。

 かなりの速度で迫っており、一瞬で距離を詰めてくる。


『気を付けろよ。火だるまになるぜ』


 俺は淡々と忠告する。

 ネアは返答代わりに近くの扉を開け放つと、その陰に転がり込んだ。


 すぐに火球が扉に炸裂して爆発した。

 轟音と共に扉を粉砕して吹き飛ばす。


「くっ……」


 爆風に押しやられたネアは、黒煙と共に宙を舞った。

 彼女は転がりながら床に着地して、ほとんど速度を落とさずに走り続ける。

 そのまま追跡してくる魔術師達を振り切ってしまった。

 ネアは前方の兵士を勢いのままに斬り倒し、角を曲がって階段を駆け上がる。


(なかなかの成長速度だな。悪くない)


 俺は今代の担い手の立ち回りを評する。

 随所で魔術を用いて、自己強化や防御、回復と手広くこなしていた。

 刀を振りながらそれらを行使し続けられるのだから、大した器用さである。

 意外と近接戦の才能があるのかもしれない。


 屋敷を巡るネアは、元気に殺戮を繰り広げていた。

 突入からそれなりの時間が経過したが、既に犠牲者は百を超えているだろう。

 単独の戦果としては上出来と言える。


 ネアがそこまで蹂躙できた要因として、兵士の質が挙げられる。

 決して悪いとは言わないが、微妙を言わざるを得ない。

 飛び抜けた戦力はおらず、連携もできていなかった。

 少しくらい楽しめそうな相手がいるかと思っていたので期待外れである。


 それにしても、ネアはよく奮闘している。

 刀と魔術を使って、兵士達を殺しまくっていた。

 まだ覚束ない部分もあるが、及第点な立ち回りを披露している。


 俺は彼女の身体を瞬間的に操作して、死角からの攻撃を防御したり、索敵による補助に徹した。

 過度な助けは出さず、なるべくネア自身の力で切り抜けるように促している。

 今のところは非常に順調だった。

 この調子でさらなる成長をしてもらおうと思う。


 そんなことを考えていると、俺は目当ての存在を発見した。

 すぐさまネアを呼び止める。


『ちょっと待ってくれ。領主の居場所が分かった』


「どこですか」


『地下だ』


 屋敷の地下で、数人の兵士がその場に留まって誰かを守っている。

 おそらくは領主とその家族だろう。

 魔術で巧妙に隠蔽しているが、それくらいは看破できる。

 騒動を察して、俺達が殺されるのを待つ魂胆らしい。


 ネアはさっそく地下へと向かった。

 しかし、一階のどこにも階段が見当たらない。


『隠し通路があるな』


「そのようですね」


 俺の呟きに応じたネアは、いきなり近くの本棚を切断した。

 その先に隠された階段を発見する。

 視覚的に怪しい点はなかったというのに、どうやって見つけたのか。

 気になった俺はネアに尋ねる。


『隠し階段を知っていたのかい?』


「いいえ。魔術で空気の流れを知覚しただけです。この本棚の隙間から不自然に空気が漏れていたので」


 ネアは平然と言うが、僅かな違いを感知するには相当な精度が必要となる。

 この状況でそれだけの術が使えるとは、彼女の腕前が窺える。

 鮮烈な戦いの経験が、急速にネアを強くしていた。

 とても喜ばしいことである。


 ネアは隠し階段を下りていく。

 苔の生えた暗い通路を進むと、やがて警備の兵士が見えてきた。

 数は三人とかなり少数だが、他の者とは少し違う。

 威圧感が他と比べものにならない。

 最終防衛を任されるだけの実力者ということだ。


 ネアの姿を認めた兵士達は、無言で陣形を組む。

 下手に近付いてくることはなく、ただ鋭い視線をこちらに向けてくる。


 刀を構えるネアは、俺に確認する。


「入れ代わった方がいいですか?」


『いや、このままでいい。あいつらを始末してくれ』


「――分かりました」


 頷いたネアは、細い息を吐く。

 余計な力を抜いて、万全な動きを取れるように意識した。

 そこから前へ傾くように倒れながら、ついに疾走を始める。

 鮮血の滴る刀は、暗闇の中で鈍く輝いていた。

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