第39話 妖刀は歓迎を受ける
大通りを兵士の集団が駆けていく。
俺を捜索しているのだろう。
必死な顔で指示を出し合いつつ、手分けして辺りを探している。
路地裏からその光景を眺める俺は、すれ違うように先へと進んだ。
現在、俺達は街の中にいた。
強引に門を突破したが、お世辞にも潜入したとは言えない事態となっている。
仕方がないので、このまま領主に会いにいくつもりだ。
あまり時間をかけると、逃げられてしまう恐れがある。
人目に付かない道を選びながら、俺は進んでいく。
『領主のいるところは分かるのですか?』
「適当に探せば見つかるだろうさ。権力者の家なんて限られてくる」
『とことんいい加減ですね……』
ネアに嫌味を言われたが気にしない。
彼女が生まれるずっと前から、俺はこの調子でやってきたのだ。
変えるつもりはないし、もはや変えられない。
そんなことを考えていると、前方の十字路から三人の兵士が現れた。
通りばかり気にしているかと思いきや、きちんと捜索しているようだ。
俺は刀を抜くと、鞘を投擲して叫ぼうとした兵士の額に直撃させる。
鞘は回転しながら高々と宙を舞った。
白目を剥いた兵士は、大口を開けて倒れる。
「この、外道がァッ!」
別の兵士が、激昂して斬りかかってきた。
大胆な突きを、潜り込むように躱す。
俺は間合いを詰めて、兵士の肩から腹にかけてを斬った。
その手から剣を奪い取って、すれ違いながら投擲する。
剣は逃げようとしていた兵士の背中に突き立った。
兵士は何歩かよろめいた末、手を伸ばしながら崩れ落ちる。
俺は頭上に腕を掲げる。
落下してきた鞘を掴み取り、腰に差し直した。
角度を調節しながら兵士の死体を跨いで進む。
『相変わらず、鮮やかな手際ですね』
「これだけが特技だからな……ん?」
遠方から爆発音が聞こえてきた。
森に近い門の方角だ。
ビルの率いる盗賊達が強襲を始めたのだろう。
色々と計画がずれてしまったが、状況はそれほど悪くない。
これで兵士達は、俺ばかりに構っていられなくなる。
盗賊達の対処に追われているうちに、警備は手薄になるはずだ。
ビル達はそこらの兵士より逞しい。
数の上では劣勢だが、しっかりと働いてくれるだろう。
俺達が心配することはなかった。
その後も何度か戦闘を挟みながら移動する。
やがて街の中でも貴族街の一角まで到着した。
物陰に潜む俺は、前方を見据える。
最奥に豪華な屋敷が建っていた。
他と比べても段違いの警備を誇っている。
盗賊と人斬りで騒ぎになっているにも関わらず、大量の兵士が巡回していた。
少なく見積もっても二百は下るまい。
ここから確認できない分を換算すると、数倍に膨れ上がるだろう。
(間違いない。あそこが領主の居場所だな)
分かりやすくてありがたい限りである。
下手に逃げるより、厳重な警備の敷かれた場所に引きこもる方が安全だと判断したのだろう。
こちらとしては、追いかける手間が省けて嬉しい。
屋敷を眺めていると、ネアが話しかけてくる。
『では、どうやって潜入するのですか?』
「何言ってるんだ。このまま行くぜ」
『――正気ですか』
「ああ、もちろんだとも」
頷いた俺は、物陰から飛び出した。
無数の兵士の視線を浴びる中、正面から堂々と歩み寄っていく。
これだけ豪勢な歓迎をしてくれているのだ。
遠慮なく平らげさせてもらおうか。




